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俺を取り囲んだ

 財布は寂しくなったけど、行く前に感じていた重い気持ちはなくなっていた。


 部屋に帰ってから少ししてダンジョンに転移され、気分も良かったので朝まで何度かリビングアーマーと戦ってそこそこの数の大剣と大盾が手に入った。


 兎達と一緒に昼まで眠って、スケさんが作ってくれた昼ご飯を食べる。


 スマホを確認すると、娘と元嫁の両方から昨夜の事のメッセージが届いていた。


 返事を返して久しぶりに少し出掛ける、今や自分がどういう立場になっているのか知るよしもなく。


 時間は少し遡り某所高級ホテルの一室。


 「それで、フュネラルさんは実験体を捨てて逃げ帰ってきたわけだ」


 「私達の仕事は本来は死体処理ですよ、死んだ後を好きにしていいと言うから監視の仕事も引き受けたんです。


 死体が手に入らなかったのは残念ですけど、あの実験体を手に入れる為に戦闘するまでの価値はないですね」


 フュネラルと呼ばれたマスクの男が飄々と答え、隣に座っていたスーツ姿の男が話に割って入る。


 「確かに、ホスピタルが手広くやり過ぎて自分達が管理しきれなく分に、こっちが手を貸してるんだし、文句を言われる筋合いはないよね」


 「なんだと」


 言い返された大男が声を荒げて立ち上がろとしたのを、老人がひと睨みしただけで止めてみせる。


 「止せ、シュタイン、悪いなホスピタルも人手不足なんでなぁ。


 お前さんらの力も借りん立ち行かんのよ、お前さんらにも見返りはあるんじゃから文句は言いっこ無しじゃ」


 この場で一番の発言力を持っているホスピタルの代表でもある老人が、最初にフュネラルに対して文句を言ったシュタインにも苦言をもらす。


 「シュタインも、もう少し言動には気を付けよ、そこのフュネラルや庭番は大事な協力じゃ。


 いかに日本が動き易い国といっても、二つの協力がなければワシらも自由には動けん」


 「すみません、グラン様」


 「よいよい、それよりも問題はウサギの男よ、正体は分からんのか?


 本当に日本の者なのか、庭番にも情報は入っとらんのようじゃし」


 老人グランが顎の白髭を撫でながら、庭番頭のスーツ姿の男に問いかける。


 「フュネラルから聞いた話だけど、話していた日本語のイントネーションからは日本人、もしくは10年以上日本で生活してる人物だと思うって。


 音声はこっちでも確認したけど同じ意見かな、付け足すなら年齢は30後半から40前半って事くらい」


 「なるほど、日本の組織にしても海外の組織にしても、その年齢の者が今まで何の噂も聞いた事がないとはのぉ」


 庭番の男は組織としての意見を言い、グランはその意見を吟味し飲み込んだ。


 「それが正規の組織にも闇の組織にも所属してないと思うんだよね。


 ウサギの男が倉庫で暴れた事件に、誰かが手を回した形跡がないんだよ。


 だから、重要参考人から容疑者に格上げされて、捜査対象になってる」


 「ほう‥‥、個人で実験体を倒せる力を手に入れたのか、帰還者か覚醒者かもしれんのぉ」


 「それなら、何の前触れもなく現れたのも頷けるでしょう。


 何処にも所属してないなら、取り込む事が出来たら面白いと思わない?」


 「ワシらは止めとこう、話を聞く限り相容れぬ気がするでのぉ」


 「私達も止めておきます、彼はなんか得体がしれなさ過ぎるんですよね」


 「帰還者や覚醒者が得体がしれないなんて、よくある事でしょ。


 力を手にした人間が普通でいられる訳がない、味方になるのか敵になるのか、ハイリスクハイリターンなのが面白いと思う」


 「流石は寄せ集めと言われる庭番じゃな」


 「色んな人材を、適材適所で動かせるのがうちの強みだからね」


 スーツの男はケラケラと笑い席を立った。


 「じゃあ、うちがウサギの男にアポを取らせてもらうから、手に入れても恨まないでね」


 「正体も分からないのにアポを取るとか、派手に暴れるつもりですか?」


 「情報操作と揉み消しが、うちの得意分野だから」


 「上手くいくといいのぉ、ワシらに迷惑をかけんのなら好きにすればよい」


 グランとホスピタルのマスクの男に見送られて、庭番のスーツの男は部屋から出て行った。


 「いいんですか?」


 「何がじゃ、シュタイン」


 「庭番がウサギの男を手に入れても」


 「大丈夫ですよ、ウサギの男は私達の敵にはなっても味方になる事はないですから」


 「はっはっはっ、フュネラルの言う通りじゃ、それに庭番がウサギの男を手に入れても何も変わらん。


 ワシらは互いの仕事を頼み頼まれる関係じゃ、仕事さえしてくれるなら何の文句もないわい」


 「私達なんて実験体を迎えに行っただけで、物理的に潰されましたからね。


 すでに敵対してる状態ですよ、庭番がウサギの男を手に入れても会いたくないですね」


 そう言って、フュネラルのマスクの男も部屋から出て行った。


 「楽しみが出来たのぉ」


 「グラン様、お遊びはほどほどにして下さい」


 「はっはっは、老い先短い老人には楽しみが必要なんじゃて」


 ホスピタルの2人だけになった部屋、笑い声とため息が混ざった。


 俺は久しぶりに本屋に向かっていた、この前はスケさんに嵌められて、結局新作の本を買えなかった。


 あれから時間はあったけど、なんとなく買いに行ってなかった。


 その間にまた違う新作だって出ている、今日はまとめて買って好きなだけ読書に明け暮れるつもりだ。


 本屋に向かって歩いていたら、駅前がなんだか騒がしい、気になって覗きに行って驚愕した。


 『なんだあれ?』


 『模倣犯ですかね』


 『そんな事をして、なんになるって言うんだよ』


 俺の目に映ったのは、駅前で暴れてたいるウサギの被り物をした男。


 背格好も俺に似ている、それを見て俺はスケさんに疑問を口にする。


 『炙り出しでしょう、この前敵対しちゃいましたから』


 『えっ、どうすんだよ、事件を揉み消したり出来るような組織と敵対なんて嫌だぞ』


 『無視してればいいんです、そのうち諦めるでしょう』


 『でも、アレを放っておいたら、被害が増えるぞ』


 『手を出せば、相手の思う壺ですよ、アレはマスターか、兎と繋がりがある者を誘い出すつもりなんですから』


 『俺のせいで、誰かが被害を受けるのは嫌なんだけど』


 『仕方ないですね、あんなのに関わっても良い事なんてないんですが』


 そう言うと、スケさんが念動でウサギの被り物をした男の動きを止めた。


 急に動きが止まった事に戸惑いながらも、通報を受けて男を囲んでいた警察官が取り押さえる。


 男が何かを叫んでいるが、言い訳や罵詈雑言ばかりで聞くに耐えない。


 『スケさんの念動なら、目に見えないし炙り出しってのも失敗に終わったな』


 『それはどうですかね』


 スケさんの意味深な言葉を俺が実感するのはそれから少ししてから。


 あれから毎日ウサギの被り物の男が駅前で暴れていた、俺の助けがなくてと警察官は被害者を出しながらも男を拘束する。


 俺が見かけた時に暴れていたら、スケさんに頼んで被害者が増える前に動きを止めて貰う。


 『無視するのが一番なんですが』


 『大丈夫だろ、スケさんの念動は目に見えないんだから』


 『目に見えないだけで、炙り出せない訳じゃないんですよ』


 スケさんがそういうと、ウサギの被り物をした男が数人出て来て俺を取り囲んだ。

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