重い気持ちはなくなっていた。
部屋に戻ってスケさんに大剣を解析して貰ったら、大剣は自動修復付きの魔剣だった。
確かに丈夫だし切れ味も良かったけど、まさか魔剣とは思わなかった。
だったら盾もと解析して貰うと、やっぱり盾も自動修復付きの魔具だった。
思わず笑みが溢れ、スケさんに気持ち悪いと言われたけど、仕方ないじゃないか魔剣が手に入ったんだから。
しかも、使える武器がなくてどうしようと思った時に都合よく、運命としか思えない。
魔剣の価値は下がるけど、27階層を周回して予備に何本か確保したい。
28階層も出入口は荒廃した街の入口だった、ただし26、27階層と違い見上げる程高い外壁が街を囲んでいた。
中に入って見たのはサイクロプスやギカンテスなどの巨人と呼ばれる魔物が暴れている所。
まるで進○の巨人、あんなのが街で暴れていれば荒廃して当たり前だ。
巨体の魔物が暴れて回れる程広い街と、真ん中に崩壊した城を見て、ここがファンタジーによく出てくる王都という都市なんだと理解した。
28階層の確認が済んだので、魔剣集めの為に27階層に戻って教会でアンデッドプリーストとリビングアーマー3体と戦う。
リビングアーマーから今回はちゃんと盾も3枚奪う事が出来た、盾は大きい過ぎて正直いつ使うか分からないけど、手に入るなら欲しくなる。
1度倒してしまうと、次にリポップするのは何時間かかかるので、俺のダンジョン攻略の仕方だとまた明日になる。
明後日からまた休みに入るので、キャンプは止めてダンジョンで魔剣集めでもいいかもしれない。
そんな事を考えながら眠った翌朝、元嫁からメッセージが届いていた。
明後日の夜に時間がないかという誘いだった、俺の仕事は基本的に夜には終わるし、特に予定がない事は知られているので、急な誘いは珍しくない。
明後日の夜はキャンプの予定だったけど、魔剣の為に止めようと思ったくらいだし、別に大切な予定じゃない。
問題ないと返事をして、夜だから娘は大丈夫か確認すると今回は娘も一緒らしい。
この前のバスの件でまだ元気がない娘を励ます為に、何か美味しいものを食べに行こうとなって、ついでに俺を誘ってくれたという。
俺は当事者だから罪悪感が込み上げる、しかも元凶の狼男まで匿っている。
マスクの奴らの言動から、野々原も被害者だと推測出来たからスケさんの意見にも反対しなかったけど、その行動が正しかったという自信はない。
それどころか、あの時スケさんがバスを守り切れず娘が大きな怪我や、考えたくもないが死んでいたら野々原がマスクの奴ら被害者だったとしても殺していたと思う。
野々原自身の被害者の数は分からないけど、確実に1人は知っている、スケさんが興味を持つ切っ掛けとなった動画の配信者、彼にも家族はいたと思う。
その家族からすれば、野々原は殺したいほど憎い相手だろう、俺はたまたま大丈夫だっただけ。
矛盾した罪悪感のせいで、1度承諾した約束を断りたい気持ちになったけど、やっぱり行く事にした。
仕事にも、楽しみにしていた魔剣集めにも身が入らないまま、元嫁との約束の時間が来てしまった。
「お待たせ、九郎」
「お疲れ様、凛さん、美月もお疲れ様、今日も部活だったんだろ」
「ううん、今日は部活なかったから」
「そうか‥‥」
部活がなかったと答えた娘の後ろで、元嫁に睨みつけられて触れていけなかった事だったと理解する。
どうやらバスの事件のせいで、盆休み明けも部活が休みになったようだ、生徒達の心理的影響を考えての事らしく、当事者以外は狼男とかウサギ男とか気が動転してるとしか思われない。
生徒の心のケアのはずが、言った事を信じてもらえないというマイナスな状況になってしまっていた。
そんな説明を娘にバレない様に、後ろ手にスマホを操ってメッセージを送ってくる元嫁に感心しながら、俺は話を変えた。
「で、どこに食べにいくんだ?」
今日行く店を予約したのは元嫁だから、当然だけど話を変えるネタとしては丁度いいから聞いた。
「ふふふ、少し奮発してちょっとお高い中華料理を予約したのよ」
「そ、そうなのか」
俺はちょっと財布の中身を心配する、元嫁と食事をする時は割り勘と決まっている、元嫁の方が稼いでいるが、対等でいたいという俺のワガママだ。
食事代を全部奢るとは言えないのが、我ながらちっぽけなプライドだと思う。
そのルールは3人で食事をする時にも適用される、元嫁が笑いながら奮発してとか、ちょっとお高いとかいうのに怖じ気づいてしまった。
食事が進めば、値段に見合うだけの美味しい料理に少しずつ娘の機嫌も回復していく。
俺も元嫁も娘の話を気が済むまで聞いてあげる、その中では例のバスの話もあった。
「私は後ろの席に座ってたから、バスが事故にあった時は何が前にあったのか見えなかったんだけど。
前の座席に頭をぶつけちゃって、気がついた時には窓の外は崖で、反対の窓からは黒い化け物と、ウサギの被り物の変な人がいて」
座席に頭をぶつけたの辺りで野々原に対する怒りを覚えて、変な人の部分で凹む。
「それは大変だったな、美月が無事で良かったよ」
そんな感情がバレない様にそう声をかける、娘が無事で良かったという気持ちは本物だ。
「お父さんは、こんな話を信じてくれるんだ」
「ん?」
「お母さんも全部は信じてくれなかったんだよ、頭を打ったから一時的な記憶の混濁とか言って」
元嫁が苦笑いをする。
「はは、凛さんは医者だからな、話を信じる信じないの前に、頭を打った事で起こる可能性を考えたんだと思うよ。
美月を心配だから、余計に医者としての考えが出たんじゃないかな」
「それは分かってる、病院から検査して帰って来たのに、頭を打ったって話したら自分の病院で精密検査を受けさせようとするんだもん」
「む、娘を心配して何が悪いのよ、外傷が無くても頭は怖いのよ」
元嫁が娘に言われて恥ずかしそうに言い返す。
「だから、ちゃんと言う通りに検査は受けたじゃない、何もないのにあんな機械に乗せられて恥ずかしかったんだから」
結局、娘は元嫁に言われた通り検査を受けたという事実に笑いが込み上げてくる。
「ははは、医者の言う事は聞くもんだ、凛さんだって見ただけじゃ頭の中は分からないんだから」
「うん、で、お父さんはなんで信じてくれるの?
私だって自分の目で見てなかったら、絶対に信じないと思うのに」
「俺は世の中には、自分が知らなくても不思議な事はいっぱいあるって信じてるからな。
美月が見たって言うなら、どんな信じられない事でも信じるよ、逆に羨ましいくらいだ」
「九郎は昔からそういうとこあるよね、本の読み過ぎなんじゃないかって心配になるくらい、夢見がちっていうか」
「夢見がちは酷くない?」
そんな俺と元嫁のやり取りに娘がクスクスと笑っている、少しでも元気が戻ったようで良かった。
和やかに食事が終わって、元気になった娘と元嫁を見送った帰り道。
『白々しいですね、あの場にいたのに知らなくても不思議な事なんて』
「うるさい、本当の事なんて言えないんだから、あれでいいんだよ」
『そうですね、娘様も満足してたみたいですし、元奥様も嬉しそうでしたから』
「だろ」
白々しいのは分かってるいるけど、それでも娘が無事ならと思う気持ちは元嫁と同じだ。
財布は寂しくなったけど、行く前に感じていた重い気持ちはなくなっていた。




