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日帰りで戻って来るとは思わなかった

 俺は何事もなく温泉旅行が終わったと思ったのに、すでに黒い影の縄張りに手を出してしまっていた。


 緊張の運転が終わりレンタカーを返して、部屋で温泉の余韻に浸ってダラダラする。


 スケさんはゴーレムの補充をして、兎達はまだ早いけど寝床であるベッドの下に潜り込む。


 あと数時間もすればダンジョンだし、俺も仮眠を取って少しゆっくりしよう。


 予定通り24階層に進む、氷の洞窟が続き魔物が少し強くなった。


 聖魔法のバフは問題ないけど、呪魔法のデバフのかかりが悪くなって戦闘が厳しくなってきた。


 たぶん、魔力値がバフのかかった状態の俺と差がない魔物が増えて来たんだと思う。


 デバフのかかりが悪いと兎達がかなり苦戦する、階層が上がる度に魔物の強さの差が大きくなっている。


 あと何階層あるのか分からないけど、俺はどんどん人間からかけ離れていってしまう。


 ダンジョン攻略なんて止めて、適当にポイントを稼いでダンジョンを利用すればいいと思ったら、とんでもない爆弾発言をスケさんがした。


 それはリッチを倒して、サモンエッグ(召喚たまご)から兎達が産まれた後、20階層で兎達を育てていた時だった。


 「ダンジョンも慣れてきたし、このまま20階層で適当にポイントを稼いで、面白そうなスキルが取得出来れば、無理に先に進まなくてもいいかもな」


 『そうですね、今のままでも十分ポイントは稼げてますし、マスターが後悔しないならいいと思いますよ』


 「なんで俺が後悔するんだよ」


 『伝え忘れてましたが、ダンジョンを攻略出来ずにマスターが死んだ場合、ダンジョンはスタンピート(暴走)を起こします。


 マスターを機転にダンジョンの入り口が開くので、被害を受けるのはこっちの世界です。


 異世界ならなんとか出来るかもしれませんが、こっちの世界はどれくらいの被害が出るか想像が出来ませんね』


 俺はスケさんの答えに絶句した、考えてみればダンジョンがタダで何かを与えてくれる訳がないんだ。


 俺は安全第一なのでそこまで命がけじゃないけど、本来は命がけで戦う場所、ノーリスクで恩恵を受けられるはずがない。


 俺が死んだら、何も知らない人達が魔物の被害者になってしまう、その中には元嫁や娘、身近な人達も含まれている。


 ダンジョンから強制的とはいえ、恩恵を受け取っているのは俺だけだし、巻き込む訳にはいかない。


 本当は俺の代わりに兎達を戦わせて、俺はこれ以上は強くならなくてもダンジョンを攻略出来ると思ったのに。


 スケさんの兎達に対する愛情とこだわりで、親代わり兼師匠として兎達より弱い訳にはいかないらしい。


 そして最初の問題、兎達がこれからより深い階層に進む為にはステータスを上げるしかない。


 スキルを使いこなせば埋められるようなステータス差より、魔物のステータスが高くなってきている。


 スケさんも兎達に負けないようにステータスを上げたいだろうから、俺も覚悟を決めないとな。


 24階層から部屋に帰って、獲得したポイントで兎達のステータスを上げる。


 キッカのステータス、体力666、魔力1998、筋力1332、知力1998、スキル、跳躍、天駆、縮地、衝撃、超音波、波動咆哮、隠密、気配察知。


 オウカのステータス、体力1332、魔力1332、筋力1998、知力1332、スキル、跳躍、天駆、縮地、蹴撃、耳斬撃、浸透勁、隠密、気配察知。


 俺は全能力値が+2048になって、普段の生活が心配だったけど、解決するスキルは思ったよりも身近にあった。


 俺はスケさんと同じ極魔導を取得して、スケさんに使い方を教えてもらいながら、呪魔法を改良して自分にだけ重ねてかけられる様になった。


 敵への効果や確率も上げようとしたけど、それは無理だった。


 せっかく取得したら、他のスキルにも使いたくなって色々なスキルにも試して、聖魔法を改良してバフの効果が元はレベル✕10%だったのがレベル✕15%に出来た。


 色々と試してみたけど、重力の魔眼は目標だけじゃなくても、自分まで巻き込む範囲攻撃になって、なんとか元に戻せたけど、危なく使えなくなる所だったから本当に焦った。


 取りあえず目的の自分のステータスを下げる事は上手くいったから、聖魔法だけでも改良出来て良かったと思おう。


 気がついたら朝で、休み明けの仕事を寝不足で勤める事になってしまった、仕事の途中で。


 『すみません、マスター、ワタシの読みが甘かったみたいです。


 旅行先に置いて来たゴーレムの半分が壊されました、しかも、ワタシ(マスター)の魔力の匂い(・・)を覚えられたようです。


 残ったゴーレム達を見つけて壊して回っています、相手の方が移動速度が早いので逃げ切る事は無理そうです。


 残して来た全てのゴーレムを壊すのに、あと半日もかからないと思います』


 『肝心の黒い影の正体はわかったのか?正体がわかって対処が出来そうなら、勿体ないけどゴーレムは諦めるしかないんじゃないか』


 『正体はたぶん狼男(ワーウルフ)です、詳しい情報はわかりませんでしたが、ゴーレムから見た動きからは、対処は難しくないです。


 マスターやワタシなら、簡単には無力化出来ると思います。


 ただ、温泉地の近くにマスターの娘様の姿を発見しました。


 部活の合宿というのは、あの温泉近くの高地トレーニング施設だったみたいです。


 マスターの娘様はやや魔力量が多めで、マスターの魔力とよく似ています』


 ガタッ、スケさんの話を聞いて思わず立ち上がる。


 「あいつ、呪われてるんじゃないのか」


 『マスターとの因果が近いせいかもしれません』


 「結局、俺のせいかよ」


 「あの‥‥、佐藤さんどうしました?」


 しまった、焦って念話じゃなくて普通に声に出してた。


 「すみません、ちょっと急用を思い出して、施錠は佐々木さんに頼んでおくので、早退させてもらいます」


 俺は佐々木さんを探して、施錠を頼むと急いで図書館を出た。


 『まだゴーレムが残っているので、出来るだけ娘様のいる施設から離れるように誘導します。


 娘様よりもゴーレムの魔力にまだ反応しているので、狼男の意識が娘様に向くまでの時間は稼げるはずです』


 「ゴーレムが全滅するまでと、美月が見つかるまでの予測時間は?」


 『今から約9時間です。ゴーレムを倒す度に狼男の動きが良くなっています、予測よりも早いかもしれません』


 「スケさんのゴーレムで経験値みたいなのを獲得してる可能性があるのか?


 時間がないな、くそ、またこれを被る事になるなんて」


 隠密を使って、少し道を外れた所でウサギの被り物を収納から取り出して被った。


 所々破れていたり、汚れていたりを俺が洗浄して、スケさんが収納から針と糸を取り出して破れを補修していく。


 何で収納に針や糸が入ってるとか、走りながら器用に補修出来るなとか、今さら突っ込んだりしない。


 茶色の全然可愛くないウサギの被り物が綺麗に直るのに数分、俺は人混みを避け壁を駆け上がって建物を飛び移りながら、スケさんのナビに従った。


 県境までに1時間、思ったよりも早く移動出来たから残り約8時間もある。


 これなら温泉地までも1時間かからない、日帰りで戻って来るとは思わなかった。

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