手を出してしまっていた
俺が寝た後はスケさんがゴーレム片手に、兎達を見守ってくれていた。
コーヒーを飲みながら、メッセージを確認すると今日も娘達は図書館に来るらしい、佐々木さんには注意しておこう。
兎達は俺が出掛ける時にはパソコンの電源を落として、ベット下の寝床に潜って行った。
バスに乗って図書館に向かう途中で。
『昨晩、キッカとオウカとネットを見てたら、面白い情報がありましたよ。
ちょうど今度マスターが行く、温泉宿の近くなんですよね』
『スケさんが興味持つって嫌な予感しかしないんだけど』
『否定はしません、黒い影に人が襲われる動画がありました。
動画のアップ主はゲームの生配信をしていて、問題の動画も生配信中のものです。
生配信に見せかけた合成とか編集とか叩かれてましたけど、ワタシが解析をした結果では本物だと思います。
それにアップ主は、翌日にはアカンウトを削除され、ニュースにもならない不審死として処理されています』
警察署の時も思ったけど、いつの間にそんなにパソコンを使いこなせる様になったんだろう?
俺が古いパソコンを出したのは昨日だし、アカンウトを消された動画とかどうやって見つけたんだ、画像の解析もあのパソコンで出来るんだろうか?
聞いても適当に逸らかされるだけな気がするし、今は置いておこう。
『その黒い影が気になるって事か』
『そうですね、それとそれを隠す何かにも興味があります。
マスターの元に作られ、共有させてもらった記憶では、こういった話は空想のモノのはずなのに、数ヶ月で遭遇した2件と今回の動画、思ったよりも現実に溶け込んでいるんじゃないでしょうか。
それを誰かが表に出ない様にしている、だからマスターの様な一般人は気付かないだけなんです』
『俺は一般人のままでいいんだけど』
『残念ですがマスターはもうコチラ側です、気にするだけ損ですよ』
『それでも、自分から首を突っ込む必要はないと思うんだ』
『こういうのはお互いに引かれ合うものです、マスターにその気がなくても向こうからやって来ます。
それなら、こっちから関わって行った方が気が楽ですよ』
無理矢理な感じの意見だけど、ダンジョンを合わせると3件のあり得ない出来事に出会っているのは確かだ。
スケさんを止めても無駄だから、向こうで好きにさせれば納得してくれるだろう。
図書館では午後からメッセージ通り娘達が勉強に来て、佐々木さんには娘達がくる前に裏方の仕事を頼んでおいた。
娘達が帰る頃に事務所から出てきて、わけの分からない抗議をされたけどスルーする。
明日から佐々木さんは先に盆休みを取るので、休みを楽しんで下さいと伝えた。
仕事が終わって家に帰ると、兎達はパソコンを触って遊んでいた、何か趣味が見つかるといいな。
ダンジョンでは23階層の出入口を見つけて、まだ時間があったので少しだけ覗く。
23階層は氷の洞窟で足元がよく滑り、空を飛ぶ怪鳥の代わりに巨大なハリモグラが出てきた。
地中を進み氷の針を飛ばしてくるのだけど、スケさんの知覚範囲のお陰でモグラ叩きの要領で倒す事が出来たが、何回かに一回は滑って仕留め損なった。
階層の特徴もわかったから時間だし部屋に帰る、スケさんと兎達が何かを話合っているけど、俺は眠いので先に汗を流して眠る。
なんとなく洗浄じゃ物足りなくて、シャワーか湯船に浸かりたくなる、うちの兎達も桶に湯をためてくつろぐのが好きなので洗浄は時間がない時だけだ。
それから、温泉に行く前に24階層の出入口まで進んで24階層は温泉から帰ってから攻略する事にした。
宿でダンジョンに転移しても、すぐに戻ってくるつもりだ。
スケさんは例の黒い影を調べる気満々で、ゴーレムを収納にしまっている。
今のスケさんのゴーレムは、情報収集用のガラスゴーレムがスケさんが操作しなくても自律行動が出来る様になっている。
サイクロプスの瞳の結晶を使って録画機能を備えて、ヒュドラの毒牙を使って戦闘能力も少しだけある。
どちらも小さなガラスゴーレム用に加工したので、録画時間は最大10分、毒牙の毒も成人男性を少しの間麻痺させる程度になっている。
ただその数は1500体、普通に恐ろしい戦力だと思うけど、スケさんはあくまで情報収集用で毒牙も逃走の為で、捕まったら自壊するように作ったという。
スケさんの知覚範囲のどこでも収納から出し入れ出来るゴーレムが捕まる想像は出来ないけど、証拠隠滅は確かに大切だ。
空間収納があるからダミーの鞄に兎達が入り、レンタカーに乗ると鞄から出て、後部座席で跳び跳ねる。
レンタカーなので汚されると困るけど、壊しさえしなければ洗浄があるから、まぁいいかと運転に集中した。
基本はペーパーなので、兎達にかまっている余裕はない、ナビの操作もスケさんに任せている。
高速に乗る時は本当に緊張したけど、無事に目的の温泉宿に着いた、何度も切り返して駐車をして受付から案内された部屋に入った。
さっそくとばかりに兎達と部屋風呂に浸かる、露天風呂にも行きたいけどペット可なのは部屋までだ。
流石に露天風呂には連れて行けないけど、部屋のも温泉には違いないので、いつもと違う湯に兎達は泳いだり潜ったり楽しそうで良かった。
スケさんは座敷にゴーレムを並べて確認している、確認の終わったゴーレムから一度収納されて、どこかに送られている。
黒い影が見つからなくても、1泊2日の予定は変わらないからスケさんには諦めてもらおう。
温泉旅行はスケさんには悪いけど、何事もなく普通に料理を食べる、兎達は魔物だからか野菜以外も食べるので刺身を少し分けてあげたり。
予定ではダンジョンからすぐに戻るつもりだったけど、毎日の日課となっているので2時間くらい体を動かして戻った。
兎達が久しぶりに日中にはしゃいだお陰で、探索途中に眠くなってしまったのは予想出来なかった。
翌朝は寝ている兎達を置いて、露天風呂に入ってしっかりと温泉を満喫して、気合いを入れてレンタカーを運転する。
帰り際にスケさんがゴーレムを確認して。
『もう時間があれば良かったんですけどね、少しゴーレムを置いていってもいいですか、マスター?』
「本当に黒い影が見つけるつもりなのか」
『もちろんです、ゴーレムが3体壊されました、間違いなく何かがいます。
しかも、ワタシのガラスゴーレムを簡単に見つけて壊せるだけの何かです。
自律行動が裏目になりました、ワタシ共感視を使って操作していれば姿くらい見れたのに』
「本当にいたのか、ゴーレム残してどうするんだ?」
『今回は正体が確認出来ればそれで十分です、それ以上は考えていません。
身近の危険に対処出来るようにしておきたいだけです、マスターも別に黒い影と戦いたいわけじゃないでしょう』
「そうだな、そういう事ならスケさんの好きにすればいいよ。
でも、ゴーレムはいいのか?また壊されたりするんじゃないか」
『壊れた時は瞳の結晶と毒牙はただの魔力に還ります、自壊の場合も同様です。
残るのはただのガラスだけ、捜査が終われば戻って来るように指示します。
面倒があるとすれば、材料の確保に20階層に行かないといけない事くらいです』
「それくらいなら、付き合うよ」
俺は何事もなく温泉旅行が終わったと思ったのに、すでに黒い影の縄張りに手を出してしまっていた。




