見守ってくれていた
ステータスは俺の方が上だけど1対1でも全く勝てる気がしない。
兎達が強くなったので進んだ21階層、熱い階層の次はお約束とばかりに、寒い雪原階層、寒さは熱耐性によって緩和されている。
そうじゃなかったら、寝巻きを兼ねたジャージ姿では凍え死んでると思う。
吹雪いていて視界が悪い中、魔物はガラッと変わってゴリラの様な雪男イエティや、手が4本の白熊、雪の中を素早く動き回る白いオオカミ、氷を吐いてくる怪鳥が襲ってくる。
視界が悪くても知覚範囲のあるスケさんと、気配察知のある兎達には関係ない。
俺はイエティや白熊の吹雪の中でも見失わない魔物の相手をして、キッカが天駆で空を駆けて怪鳥を次々に落とし、オウカはオオカミとすれ違いながら光に変えていく。
スケさんは全体のフォローをしながら、俺と兎達の手が届かない場所の魔物を倒している。
兎達が増えて戦闘が格段に楽になって、雪原の魔物を倒して22階層に進んだ。
22階層も雪原、各魔物に一回り大きな個体が現れて、集団を統率して動きが良くなった。
でも、此方はスケさんを中心に兎達は連携の取れた動きで魔物を倒している。
俺だけ足を引っ張ってる気がする、適当に突っ込んで斧の間合いに入った魔物を、力任せに片っ端から叩き切るだけ。
時間がくるまで探索して、そこそこのポイントを稼いで部屋に帰る。
温泉までにどこまで進めるかわからないけど、無理しないでゆっくりと探索しよう。
朝に娘からのメッセージを確認すると、娘は盆休み前に合宿をするらしい、初めての合宿に緊張してるみたいだけど、楽しみなのも文面から伝わってくる。
怪我をしない様に頑張れと返事をして、兎達に留守番を頼んで出掛ける。
スケさんによると、うちの兎達は完全に昼夜が逆転して夜行性になっている、俺が家に帰る時に起きて、出掛けてから寝てると兎達が教えてくれたらしい。
スケさんは俺が寝てる間にゴーレムを使って色々とやってるみたいだけど、兎達はダンジョンから帰って来て朝まで暇なので何か趣味を探しているんだとか。
知力値はもう普通の人より高いから、そういう考えをしてもおかしくはないけど、趣味を持つ兎ってどうなんだろう。
図書館に着いて、いつも通りの仕事を黙々としていると声をかけられた。
「すみません、探してる本があるんですけど」
「どんな本をお探しですか?」
顔を上げると声をかけて来たのは娘の美月だった。
「なんだ、美月か、どうしたんだ?」
「合宿までに夏休みの課題を終わらせないといけなくて、それで部活の皆と図書館に来たの。
ついでだから、お父さんの顔も見とこうと思って」
「気にかけてくれてありがとう、でも、勉強なら図書館よりも家の方か涼しいんじゃないか?」
元嫁のマンションなら、友達数人を呼んでも十分に勉強出来る広さがあるはず、そう思ってきいたが。
「お母さん、昨日は夜勤だったからちゃんと寝かせてあげようと思って。
お母さんは大丈夫だっていうけど、起こしたら悪いしね」
「なるほど、そういう事なら仕方ないな、あんまり騒ぎ過ぎない様に勉強しろよ」
そう言って俺は娘から離れて仕事に戻った。
「あれが美月のお父さん?全然似てないね、ちょっと頼りない感じする」
「わかる、ボーッとしてそうだもんね」
「こら、人の父親を悪く言うな、あれでもなんか良い所はあるんだから」
「何?良い所って?」
「それは分かんない、お母さんが言ってただけだから」
聞こえてないと思ってるだろうけど、プラス知力値のお陰で娘達の会話が聞こえる。
娘の友達の俺への印象は、自覚もあるし仕方ないけど、フォローしてくれるのかと思った娘の言葉の方が凹む。
未だに娘に心配される様な父親だけど、良い所が1つも出て来ないで、分からないって‥‥。
普通なら聞こえない距離の会話が聞こえてしまう耳の良さを恨みながら仕事をした。
しかし、娘の会話が気になってしまうのも父親の性というもので、離れて暮らしていて、普段はメッセージでも会話でも当たり障りのない話しかしないので、つい聞き耳を立ててしまう。
会話の大部分は課題や部活の事、部活の合宿の為に課題を終わらせるのが目的なんだから、それは当たり前なんだけど。
「そういえば、美月、茂野先輩から告白されてどうなったの?」
娘の見た目は元嫁に似て、親の贔屓目を差し引いても可愛いとか思う、俺も大学時代に元嫁と付き合った時、何でお前がと影口どころか直接言われた。
そんな娘が茂野とかいう輩に告白をされたようだ、娘の友達同様に俺もその後どうなったのか気になる。
「佐藤さん、こっちの返却手続き手伝ってもらっていいですか」
肝心の所を娘が答える前に、俺は田中さんに呼ばれ返却を待っている人の相手をする事になった。
娘達が帰る時に声をかけてくれたが、もちろん盗み聞きしていた話の続きを聞けるはずもなく、軽く手を振って見送った。
娘達が帰った後で、渡辺さんと佐々木さんに。
「離婚した後も、あんな感じで接してくれるなんて良い娘さんですね」
「佐藤さんに似てなくて可愛いですね、奥さんが美人だったんですか?」
と言われた、娘が褒められるのは嬉しい、佐々木さんの疑問に答えたのは、俺じゃなくて田中さん。
「そうなのよ、すごい美人さんだったのよ、佐藤さんの奥さん。
あんな美人がなんで、佐藤さんとって職員の中で噂してたのよ。
結局、捨てられちゃったんだけど」
田中さんがふふふと笑う。
「噂というか、完全にからかってましたよね、それと捨てられてないです、お互いに話し合った結果です」
そうだったかしらと、惚けながら田中さんが仕事に戻っていく、俺も業とらしくため息をついた、話は終わったと各々が仕事に戻る。
戻る時に、佐々木さんが自分と娘の年の差を数えていたので、思わず殺気を放ってしまった。
佐々木さんが一瞬震えた後で、肩を抱いてキョロキョロと周りを見渡していたけど知らん。
仕事が終わり兎達の待つ家に帰る、俺が玄関を開ける音で起きた兎達がベットの下から出てくる。
朝、趣味を探しているとスケさんに聞いたので、押し入れから古いパソコンを引っ張り出して、ネットに繋いであげた。
取りあえず、変なサイトにはアクセスしない様に教えて、ネットで自分の興味が湧くものを探してもらおうと思う。
アパートで兎達を飼っているのがバレるわけにはいかないから普段は外に連れて行けない、だから、取りあえず家から出られない分をネットを使って補おうという、インドアな考えに辿り着いた。
今度、温泉に連れて行くのもキャンプに連れて行くのも、ダンジョン以外に兎達を連れて行く為だ、大きな鞄なら、違和感なく兎達を中に入れて連れ出せる。
いつもの様にダンジョンに転移して、22階層を探索して帰って来ると、さっそく兎達がパソコンを仲良く使っている。
器用に前足でキーボードを叩き、マウスを動かしている、俺はもう一度注意事項を確認して眠った。
翌朝起きると兎達はまだパソコンを触っていた、俺が寝た後はスケさんがゴーレム片手に、兎達を見守ってくれていた。




