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なんでそんな事に

 えっ、どういう事だ、夢じゃなかった‥‥。


 『どうかしましたか?』


 俺が呆然としていると、スケさんが訊いてくる。


 「大丈夫、ちょっと気持ちを整理してるだけだから」


 『そうですか、無理はしないで下さい、それからマスターが寝てる間に、記憶を共有させて頂きました。


 マスターと共に生活するのに、この世界の事を知らないといけませんので』


 「記憶の共有ってどういう?」


 『心配しないで下さい、ワタシはマスターの一部ですので、秘密は守りますし、共有したのは必要な記憶だけです』


 「秘密にしますって時点で、見られたくない記憶も見られた気がするんだけど」


 『そうですね、必要な記憶を検索する為に色々と覗きましたが、フッ、気にする事はありません』


 「もういいや、トイレ見てくるよ」


 俺はスケさんの事は置いておいて、トイレに向かいドアを開けた。


 目の前に階段は‥‥‥ない!、なんで?スケさんがいるのに、目の前には普通の便器。


 俺がまた呆然としてしまうと、スケさんが答えてくれる。


 『昨晩のは時限ダンジョンだったみたいですね、この世界と繋がっているのは決まった時間だけなんでしょう』


 「やっぱりダンジョンだったんだ、でも、あのまま中にいたら危なかったんだな」


 俺は時間が来たら、ダンジョンに閉じ込められていたと思うとゾッとした。


 『大丈夫だったと思いますよ、マスターが中に入っている時は、マスターがこの世界とダンジョンを繋ぐ役割を担ってましたから。


 マスターがダンジョンから出ない限り、閉じ込められて帰って来れない事はないはずです』


 何となく大丈夫とだけ理解してホッとする、俺の妄想じゃなかったと解って、厨二病再発の疑いも晴れた。


 いつもの様にポットの電源を入れようとすると、すでに机の上にコーヒーが出来ていた。


 「これ、スケさんが?」


 『はい、マスターが毎朝コーヒーを飲むのは、記憶を覗いて知ってましたので』


 コーヒーは入れたてで湯気が立っている、俺は恐る恐るコーヒーを一口飲んで驚いた。


 「俺が入れるコーヒーよりも旨いんだけど、スケさんってスキルなのにどうやって?」


 『アシストスキルに進化して手に入れた念動スキルを使ってですね。


 今はスキルレベルが1なので、見えない手が1対ある感じでしょうか、動かせる大きさや重さも大した事ありません』


 「念動スキルは便利そうだけど、そうじゃなくて、目もないのにどうやって見てるのかなって?」


 スケさんは、俺の頭の中に存在してるイメージだから、どうやって周りを見てるのか気になった。


 『そういう事ですか、ワタシはマスターから一定範囲を知覚しています。


 人の五感とは似て非なる感じですね、範囲内は全て知覚出来ますが、範囲外は逆に全く解りません』


 「よく分からんけど、俺の周りの事だけ分かる感じ?」


 『大体、その認識で問題ありません』


 取りあえず納得して、コーヒーを飲みながらスマホを確認する。


 今日も娘からのメッセージが1件だけ、今日、娘は陸上の試合がある、『頑張る』とメッセージが来ていた。


 試合の事は元嫁からの近況報告で知っていた、実は今日休みを取ったのもその為だ。


 離婚した後の方が元嫁との仲は良好かもしれない、あの時は一緒にいればいるほど、相手の嫌な部分ばかりが目についてしまった。


 それは元嫁も同じだったんじゃないだろうか、離婚を切り出したのは元嫁の方だし、離婚後に普通に連絡をくれたのも元嫁の方からだ。


 そして元嫁が今日は仕事で応援に行けないから、代わりに写真を撮って来て欲しいと頼まれた。


 さっと観てさっと帰れば大丈夫かな、何となく娘と会うのは俺の方がぎこちなくなってしまう、俺は覚悟を決めると、着替えて競技場に向かった。


 『これがバスですか、なるほど、燃料を燃やした圧力を利用した動力ですか。


 魔法に比べれば非効率ですが面白いですね、科学とは実に興味深いです』


 スケさんがどこぞの教授みたいな事を言って喜んでいる、俺の記憶で見たのと実物は別なんだろう。


 そういえば、俺はスケさんが範囲外は知覚出来ないの意味をやっと理解出来た。


 バスを待っている時に、俺が交差点で停まっているバスを見つけてもうすぐ来ると伝えたけど、スケさんにはバスは見えてなかった。


 バスが近づいて来て認識出来たのが大体20(メートル)くらい、だから、スケさんの知覚範囲は俺を中心に20mくらいだと思う。


 バスが競技場に着いて、俺はプログラムが書かれたボードを確認する。


 娘は午前中の最初の1500mに出場する、予選を通れば午後から決勝らしいけど、まだ一年生の娘が決勝に行くのは難しいだろうな。


 朝早く出て正解だった、ゆっくりしていたら娘の試合を見逃すところだった。


 俺は会場の隅に座りトラックを見下ろした、選手達が準備運動をしている中に娘を見つけた。


 「美月、緊張してるな」


 『そうなんですね、ワタシには見えないので分かりません、つまらないです』


 観客席からトラックまでは離れているから、スケさんは不満そうだ。


 だけど、トラックの一番近くは関係者や応援の生徒が占領している。


 俺も一応関係者だけど、離れて暮らす父親なんて肩身が狭くて、あの中には入っていけない、隅っこで写真を撮るので精一杯だ。


 悪いけどスケさんには我慢してもらうしかない、スケさんの愚痴を聴いている間に娘の順番が来た。


 俺は急いでカメラを構えて、娘の走る姿を写真に収めた、スケさんが曰く写真を撮りまくって、周りが引いていたらしい。


 そして、娘は俺の予想を裏切って、予選を通過して決勝に進む事になった。


 『こんな退屈な時間を午後からもですか』


 「俺は美月が決勝に進んで嬉しかったけどな。


 それと凛さんに連絡したら午後からなら観に来れるみたいだから、交代して帰るから安心していいよ」


 『マスターは応援しなくていいんですか?』


 「元から凛さんの代わりだからな、観に来れるなら俺は帰るさ」


 『マスターがそう言うならいいですが、帰って何をするんですか?』


 「特にやる事はないけど、どうしようかな?」


 『では、元夫婦で娘を応援すればいいのでは?』


 スケさんは何を言ってるんだ、そんなの恥ずかしくて出来るわけがない。


 「美月の頑張ってる姿も観れたし、帰るよ」


 『わかりました』


 昼の休憩の間に元嫁が来てたので、写真を元嫁に見せてから、後で送る約束をして帰る。


 元嫁も、午後から撮った写真を送ってくれると言っていた。


 家で今日の写真を見ながら、ニヤニヤしていたら。


 『そんなに嬉しそうに、写真を見るくらいなら、一緒に応援にしてくれば良かったのに』


 と、スケさんに言われた。


 「あの後、電気屋に寄って家電見てスケさんの方が楽しそうだったけど?」


 『それはそれです、マスターの部屋のにはろくな物がありませからね。


 冷蔵庫と電気ポットと洗濯機以外は本棚しかないってどうなんですか?やっとテレビの実物を見る事が出来ました』


 「必要を感じなかったんだよ、今日は疲れたしもう寝るから」


 『おや?ダンジョンに行く準備はしなくて大丈夫なんですか?』


 「ああ、大丈夫」


 今日はダンジョンに入るつもりはないし、夜中にトイレに行かなければ問題はない。


 『そうですか、では』


 夜中、俺は何故かダンジョンの中にいた、状況が理解出来ずに立ち尽くす。


 『マスター、どうしました?』


 「スケさん、俺はなんでダンジョンの中にいるんだろ?」


 『なんだそんな事ですか、トイレのドアに繋がっていたダンジョンが、マスターとの繋がりの方が強くなっただけですね。


 時間になるとマスターはダンジョンに強制転移されるようです、帰りは自力のようですけど』


 「え、なんでそんな事に‥‥」

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