見下ろして笑った
魔法使いがどんな奴でも、頑張るしかないんだから。
俺は権田に連絡して、魔法使いと会う倉庫の住所に向かう。
権田には危ないから来なくてもいいと伝えたのに、自ら囮をかって出てくれた。
元々は助けられて魔法使いに手を貸していたのに、恩を仇で返す様な事にならないのか聞いたら。
「もう十分恩は返したんで、これからは足を洗ってまともに生きる為に、魔法使いと決着をつけたいだけですよ」
と返された。
「『虫のいい話だがまともに生きるつもりなら、俺がつべこべ言う事はない。
巻き込まれない様に気をつけろよ』」
「わかってます、魔法使いが現れたら、俺は倉庫から離れて見てますから」
倉庫に着いて権田と少し話をした後、俺は倉庫の影に隠密を使って隠れて、魔法使いが来るのを待った。
時間が22時を過ぎた頃、権田の前に影が現れた、聞いていた通りのローブを着た男、魔法使い。
現れるまでスケさんも気がつかなかったらしい、倉庫街全体をゴーレムも使って二重に監視していたのにだ。
スケさんは冷静に、転移系の移動手段があると推測し、魔法使いの実力が中級以上は間違いないといった。
「今日は1人なんだね、新しい薬の効果はどうだったかな?」
影から枯れた声が権田にかけられる、俺は知力値のプラス補正の聴力で、スケさんは知覚範囲で決して大きくない影の声を拾う。
新しい薬というのは、権田達が最後に使ったゾンビの事だろう。
スケさんの調べた結果は、配っていた強化薬に比べて完成度は高く、依存性もなくなっていた。
ただ、身体強化の効果が高い分、理性が働かなくなり痛みを感じ難くなる副作用がある。
人間は自分の身体を守る為に、脳にはリミッターがあり痛みという形で、限界を超えない様にしてくれてるのに。
魔法使いの目的は分からないけど、どちらにしても使い過ぎれば人を死に至らせる薬だった。
「もう薬の取り引きは辞める、今日はその事を伝えに来ました」
震える声で権田が魔法使いに告げる、声が震えるのも仕方ない。
権田は自分と仲間達が敵わなかった相手を、魔法使いが瞬く間に殺す所を目の前で見ていたのだ。
恐くないはずがない、俺が薬の取り引きを辞める様に脅して、板挟みの状態になった権田は取り引きを辞める方を選んだ。
「そうか、残念だけど別にいいよ、また実験体を自分で確保しなきゃいけなくなっただけだから」
魔法使いの殺気が膨らむ、逃げるつもりだった権田は足が震えて動けない様だ。
恐怖の対象が魔法使いから、俺に移っただけだろうけど、権田が俺を信じた事に代わりない。
魔法使いから権田に伸びた腕を俺の障壁が弾いた。
「へぇ」
魔法使いが弾かれた手を見ながら、嬉しそうに周りをキョロキョロと見渡す。
「俺のお仲間がいるのか、出てきなよ」
瞬間、倉庫にあった荷物がバラバラになって散らばった。
「思ったより近くにいたんだね、なんだいその被り物は」
当然、俺が隠れていた荷物もバラバラされ、姿がまる見えになってしまう、隠密を使っていても姿を見られれば意味はない。
「う、兎さん」
腰を抜かした権田が、情けない声で俺を呼んだ。
「あはははは、ウサギの被り物だから兎さん?捻りがないね」
「『そういうお前は何?アンデットって呼べばいいのか?』」
「俺をアンデットと一緒にするなぁ」
魔法使いが急に切れて叫んだ、俺はスケさんに言われた通り喋っただけなので、突然の豹変に吃驚した。
暴れだした魔法使いから権田を抱えて離れる、さっき荷物をバラバラにした攻撃を見ていたので、攻撃の正体は分かっている。
魔法使いは影を操っていた、影は魔法使いから伸びて魔法使いに近い影ほど力が強く動きも早い。
俺は権田と一緒に倉庫から飛び出して、遅れて倉庫の扉が影によって壊された。
俺は権田に逃げるように指示して、影を避けながら魔法使いとの距離を詰める。
影の攻撃は本当に厄介だ、影自体に実体は無く、俺のスキルでも透過できず、スケさんの念動でも止められない。
障壁で止められるけど、近づく程に止められる時間は短くなっていく。
なんとか影を潜り抜けて、魔法使いの懐に入って収納から取り出した剣を振るう。
いつものミノタウロスの斧じゃなく、速度重視でリザードマンのショートソードだ。
剣が魔法使いを捉えたと思ったのに、手応えがなく切ったと思った魔法使いは影になって消える。
背後からの衝撃に押されて前に転がり、俺のいた場所に地面から影のトゲが生えていた。
俺を押してくれたのはスケさん、動印視で魔力の流れを読んで助けてくれたらしい。
『影の中を移動出来るみたいですね、ワタシの知覚に引っ掛からなかったのも影から現れたからです。
念動も効果がないので、位置は教えてますから攻撃の方はマスターにお任せします』
「俺も影なんて攻撃出来ないけど」
『何を言ってるんですか、聖魔法の破邪効果はこういう時に有効なんですよ。
なんの為に吸血鬼の時に覚えさせたと思ってるんですか、破邪はアンデット系の魔物の弱点だからですよ』
「魔法使いの正体が吸血鬼って事?」
『違います、アレの正体はリッチです、アンデットなので破邪の効果があるんです』
「リッチって、ミイラみたいなヤツか、本当にアンデットなのに、アンデットって言われて切れるとかなんなんだよ」
『全くマスターは、ワタシが折角相手に分からない様にヒントを出したのに、全然聖魔法を使わないなんて』
「バフはちゃんとかけてるんだけど‥‥」
『さっきの剣だって、聖魔法がかかっていたら少しはダメージを与えられたのに』
「じゃあ、ちゃんと教えてくれたら良かったのに』
『聖魔法をキラキラさせてたら、警戒されるでしょう、攻撃を当てる瞬間にだけ使うのが効果的なんですよ』
「な、なるほど」
『納得出来ましたか、位置を教えますからちゃんと攻撃して下さいね』
そう言って、スケさんは空中に無数の剣を収納から取り出して地面に突き刺していく。
「あはははは、何をやってるんだ、影に入っている間はそんな事をしても無駄だよ」
一通り暴れて落ち着いたのか、魔法使いじゃなくリッチが笑う。
声は影のある場所全部から聴こえて来て、俺には何処にいるのか分からない。
でも、さっきからスケさんが剣を突き刺している影にいる事だけは分かる、俺から徐々に離れている。
移動をして位置を変えてるはずなのに、的確に剣を刺されてリッチも焦っているから、あんな挑発をしてきているんだ。
挑発して余裕があるとみせかけて逃げようとしている、リッチは強かで計算高い、俺との戦いは時間の無駄なのだ。
影の攻撃にも慣れて来た、今までより速く距離を詰めれる様になって、受ける傷も少なくなっている、俺の接近にリッチの苛立ちは増していく。
「無駄だって言ってるだろうが、いい加減に気がつけよ、馬鹿野郎が」
俺が目印の剣に手が触れるくらい近づいた時に、剣の下の影が膨れ上がり、避けきれない量の影の棘が伸びて来た。
「あははは、結局は俺が勝つんだよ、お前の死体もちゃんと利用してやるから、感謝しろよ」
影からスッーと現れたリッチが、棘にだらけになった俺を見下ろして笑った。




