夢じゃなかった?
「また、階段の夢か‥‥」
2日続けて同じ夢を見るなんて、夢占いとかなら俺は今どんな心理状態なのかな。
平凡な日常を変えたいとか、ヒーローになりたいとかかな。
男はいつまでも子供とか、少年の心を忘れないとかは40男には何の慰めにもならない。
とはいえ夢なら誰に後ろ指を指される事もない、話しても笑い話の一つとして流して貰える。
俺はどうせ夢ならと楽しむ事にした、階段を降りた所で恐る恐る用をたす。
明日の朝起きて残念な事になっていたら、それこそ内緒にしておこう。
少し歩くと昨日と同じデカいネズミ2匹いた、ネズミは敏感に俺を察知したのか、すぐに襲いかかってくる。
昨日は転んで偶然倒せたネズミだけど、夢だと解っていれば怖くない。
気持ち悪さはあるけど、俺は襲ってくるネズミにタイミングを合わせて蹴り飛ばした。
蹴り飛ばしたネズミは、壁にぶつかって2匹共少しして動かなくなって、透明な小石を残して光になって消えていく。
ネズミを蹴り飛ばす為に結構バタバタしたけど疲れていない、夢だから当然なんだけど最近は少し運動しただけで息切れしてたので嬉しい。
俺は小石を拾ってポケットに入れた、今日はどんどん奥に進んで行く。
目が覚めるまでのアトラクションだと思うと楽しいかもしれない、ネズミの死体が残らないのもゲームみたいでいい。
今のところ、洞窟に出てくるのはデカいネズミとデカいG、手のひらサイズのGを最初に見た時は鳥肌が立った。
夢だけど踏み潰すのを一瞬戸惑ったくらいだ、Gはネズミより素早くて気持ち悪い。
我慢して何とか踏み潰したら、ネズミ同様に光になって小石を残して消えた。
Gの残した小石は拾うのを躊躇ったけど、この小石がドロップアイテムだと思うと、拾わない選択肢はない。
小石は小石と割り切って拾う、ポケットが小石でいっぱいなってきて重さでズボンが下がる。
こういう時に収納系スキルがあれば便利なのに、そう思ってると声がした。
『魔石をポイントに変換して、スキルを取得しました』
驚いて周りを見渡すけど誰もいない。
「誰か居るんですか?」
俺は少し大きな声で質問をした、洞窟に声が反響する。
『ワタシは、世界の管理機構が、勝手にポイントを利用してマスターに取得させたサポートスキルです』
質問の答えは頭の中から聴こえた、最初の声も頭の中からだったんだろう。
頭の中で声が聴こえるなんて、深層心理ではまだ厨二病を患っていたって事か、あるいは離婚してから増えた漫画や小説の影響で再発したか。
「サポートって何をするんですか?」
自分の妄想に質問なんて恥ずかしいけど、何が出来るか解らないとどうしていいかも分からない。
『ワタシに出来る事は魔石のポイント交換と管理、マスターの話し相手です。
マスターが得た魔石は、ポイントに変換してスキルに取得する事が出来ます』
そう言われてポケットを確認してみると、いっぱいだった小石が無くなっていた。
「あの小石が魔石だったんだ」
『透明なのは最低品質の魔石ですね』
スキルってまた厨二くさい単語が出てきたな、恥ずかしいけど完全に再発してるみたいだ。
「スキルがあるならステータスもあるのかな?」
『ステータスはありますが、マスターにはステータスがありません、ワタシはマスターの後付けのステータスを兼ねています』
「どういう意味?」
俺はサポートスキルの答えに首を捻る、確かに俺に元々ステータスなんてないけど、後付けの意味が解らない。
『本来、魔物を倒すと経験値を得てレベルが上がるのですが、それはステータスがあっての事です。
ステータスによってレベルが上がると、体力、魔力、筋力、知力の4項目に力が振り分けられます。
レベルアップ時にはスキルポイント取得して、そのポイントを使ってスキルを取得、スキルレベルを上げるのです』
「俺はステータスがないから、レベルが上がらないって事か」
『残念ながらその通りです、なので救済スキルとしてワタシが作られました。
経験値を得てレベルを上げられないので、 魔石をポイントに変換して、ポイントを利用してレベルアップを再現します』
「なるほど、レベルアップで振り分けられる力をポイントで補うってわけだ」
『はい、レベルアップで勝手に振り分けられる力の分と、スキルポイントの分を魔石で稼がないといけません』
「そうなんだ」
我ながら、なんとも微妙な設定を考えたものだ、サポートスキルがしてくれた説明を、実は頭の中で考えていたのかと思うと何とも言えない気分だ。
自然に起きるまで探索したら、寝起きが悪くなりそうだし引き返そう。
引き返す事をサポートスキルに、伝えようとして何となく。
「サポートスキルって長いから、スケさんって、呼んでいい?、助けるのスケさん」
『名付けを確認しました、今からワタシの名は『スケ』です。
名付けの効果で、上位スキルに進化します』
頭の中で何かと接続する音と、サポートスキルことスケさんの存在感が大きくなった様な気がする。
『進化終了、サポートスキルからアシストスキルに進化しました。
マスター補助の為、念動スキルを覚えました』
「えっ、何進化って?」
『説明します、スキルレベルが10になると上位スキルに進化する事があります。
スキルは、コモン、レア、ユニーク、レジェンド、ゴッズの5階級、更にコモンには下級、中級、上級があります。
殆どのスキルはコモンとレアに分類され、ワタシも最初は上級コモンスキルでした。
しかし、名付けによりレベルに関係なく、進化条件を満たしアシストスキルに進化しました。
因みに、アシストスキルの等級はユニークに分類されます』
「名付けただけで、いきなりコモンからユニークになるなんてあるか?」
『マスターの為に急遽作られたスキルですから、スキルの等級も適当だったのでしょう。
それに普通、スキルに名付けをする人なんていないので、管理機構にも盲点だっと思います』
「そうなんだ、そうだよな、スキルに名前なんて付けないもんな」
『今回だけの特例でしょうね、他のスキルに名前を付けて進化させようとしても、その時には対策がされていると思います。
予想外はあっても、対応は早いのが管理機構の凄い所ですから』
「対応されたら、スケさんは元に戻るの?」
『流石に1度与えた物を取り上げる様な事はしないので大丈夫です』
帰りの階段を登りながら、気持ち流暢になったスケさんの話を聞いて、夢なのに何を心配してるのか苦笑する。
俺はトイレのドアを開けて部屋に戻ると、ベットに倒れ込んで眠りに落ちた。
翌朝、スケさんに声を掛けられて目が覚める。
『よく眠れましたか?』
「まぁまぁかな、変な夢を見たせいで精神的に疲れてるというか‥‥」
『それは残念でしたね、ワタシから見て身体的な問題はないので、本当に精神的な疲れなんでしょうね』
「‥‥‥っ!!、何でスケさんがここに?」
『何を言ってるんですか、ワタシはマスターのスキルですよ、一緒にいるのは当たり前じゃないですか』
えっ、どういう事だ、夢じゃなかった‥‥。