ハメられたな
俺はスケさんに上手い事のせられて、16階層に進む事にした。
16階層は15階層と同じ岩山かと思ったら、灼熱の火山階層だった。
魔物は、ミノタウロスとケンタウロスが出なくなり、ゴーレムに火属性が付いて、ガーゴイルは火魔法しか使わなくなったが威力と攻撃速度が上がっていた。
猿の魔物は投げてくる石が燃えている、猿は熱くないのか疑問だけど、ダンジョンの魔物はそういうものだと気にするのは止める。
そして、新しく出る様になったのはサラマンダーだろう火を吐く大トカゲ。
サラマンダーは、溶岩の中から顔だけを出して火を吐いて攻撃してきて、攻撃しない時はすぐに潜ってしまう。
今までの物理だけの俺なら相性は最悪だった、しかし、今の俺には重力の魔眼がある。
サラマンダーを睨み重力を反転する、軽くなったサラマンダーは上手く溶岩に潜れず、俺の投げた槍がサラマンダーの頭を串刺しにした。
ゴーレムは身体が燃えていたが、スケさんの念動には関係ないから、簡単に転ばされていた。
耐久力が上がったのか、転んだだけでは倒せなかったゴーレムには俺がトドメを刺す。
近づくと熱いので、素早くトドメを刺したら距離を取って、魔石の回収はスケさんに任せる。
ガーゴイルは相変わらず残念な感じに、スケさんに落とされて散っていく、今回は俺も重力の魔眼でガーゴイル落としに参加した。
猿は16階層でも鬱陶しく石を投げてくるので、バットで打ち返してやった。
狙った所に打ち返すのは難しかったけど、猿は数が多いので打ち返せば誰かに当たる。
バットがボコボコになってきたので、そろそろ買い換えないとな。
初めての16階層も特に苦戦する事なく、2時間ちょっとで出入口を見つけて、部屋に戻った。
重力の魔眼は、相手を重くしたり、軽くするくらいしかまだ使えないから、もっと練習しよう。
最近は夜にダンジョンで動いているので、能力値とは別に身体が引き締まった気がする。
汗を流してすっきりしたら、程よい疲れでよく眠れた。
『おはようございます、マスター』
翌朝はスケさんに起こされ、慣れた感じでコーヒーを入れてくれた。
新しいスキルにも慣れてきて、コーヒーを入れる余裕くらいは出来たらしい。
スマホを見て娘からのメッセージを確認する、昨日送ったメッセージの効果か、今日のメッセージには小言が付いていた。
小言を読んで喜ぶのも変だけど、最近ずっと素っ気ないメッセージだったから、嬉しくなるのは仕方ないと思う。
そんな最高のテンションのまま、仕事も順調に終わって、新しい本を買いに駅近くの本屋に寄って帰ろうとした時に、本屋から急いで飛び出そうとする人とぶつかった。
避けるのは簡単だったけど、店員がその人を追いかけてるのが見えて、あえて避けなかった。
俺にぶつかってきたのは、あの時織田少年に絡んでいた同級生の1人だった、全く顔を覚えていなかった俺に、スケさんがちゃんと覚えていて教えてくれた。
俺にぶつかって転んだ、名前を知らないからA少年は店員に捕まって、カバンの中から会計前の本が出てきた。
万引きか、この前あった時は別にお金に困ってる様には見えなかったから、遊び半分って奴かな。
せっかく部活で選手になれたのに、親や学校に連絡されれば停学、陸上みたいな個人競技の部活も連帯責任に活動休止もあり得る。
そうなったら織田少年も可哀想だけど、A少年は部活が再開しても居づらいだろうから、不本意な形かもしれないが選手に戻れるかも。
そんな事を考えていたら、A少年こと一ノ瀬 明君と一緒に本屋の事務所に連れていかれた、ぶつかっただけで捕まえたわけじゃないのに、お礼をしたいからと言われ半ば無理矢理だ。
一ノ瀬少年は終始落ち着かない様子で、俺と店員のに顔を交互に見ている、俺の事は覚えてない様で良かった。
当然、一ノ瀬少年は学校や親には連絡しないで欲しいと店員にお願いしている。
世の中そんなに甘くない、万引きは犯罪なのだ警察を呼ばれてもおかしくない。
俺はそう思っていたが、店員は甘かった、一ノ瀬少年の必死な訴えに同情したのか、初犯だから学校には連絡しないであげるという。
一ノ瀬少年は、店員に大袈裟なくらい大きく頭を下げた。
ただ、警察や学校に連絡しなくても、そのまま帰っていいとはならない、甘い店員もそこは譲らず保護者に迎えに来て貰うと言っていた。
「親御さんの連絡先を教えて、迎えが来たら今日はそれで帰っていいから」
優しく尋ねる店員に、考え込む一ノ瀬少年、これ以上粘れば甘い店員の態度も変わるかもしれない。
親にも連絡されたくない一ノ瀬少年は、どうしていいのか分からなくなって、助けを求める様に俺を見てきた。
つられて店員も俺を見る、2人してなんで見てくるんだ、俺は関係ないじゃないか。
ここにだって、お礼をしたいから連れてこられたはずなのに、何を期待してるんだ。
『マスターが連れて帰ればいいのでは?』
スケさんまで無責任な事を言い始めた、一ノ瀬少年にはどちらかといえば悪い印象しかない。
わざわざ救いの手を差し伸べる意味が分からない、でも、スケさんが意味のない事を言うとは思えない。
俺にじゃなく、スケさんにとって意味があるんだろうけど、どのみち本を買って帰る雰囲気ではなくなっているから、スケさんの企みに乗ってみるか。
「良かったら、俺が彼を送りましょうか?」
普通に考えて、あり得ない提案な気がするのに、一ノ瀬少年どころか店員まで賛成した。
「次はないから、ちゃんと反省するんだよ」
「はい、もうしません」
そんなやり取りをして、一ノ瀬少年を送る事になった、俺は一ノ瀬少年の家なんて知らないから、送るといっても後ろからついていくだけ。
角を曲がり、本屋から見えなくなった途端に一ノ瀬少年が走り出した。
流石は陸上部で選手に選ばれるだけあって、みるみるうちに離れていく。
やっぱり全然反省なんてしてなかった、完全にあの店員の自己満足だったな。
『マスター、今度は本当に捕まえて話を聞きましょう』
「最初から逃げるの分かってたよな」
『当たり前じゃないですか、彼の行き先にも検討がついています。
彼らはワタシのスキルの練習に、大変役に立ってくれたので、助けてあげようと思いまして』
「助ける?、さっきの万引きの話じゃないよな、よく分からないけど、道案内は任せる」
『はい、お任せ下さい』
何かを企んでいる、スケさんの案内で一定の距離を保ちながら、一ノ瀬少年を追いかけた。
一ノ瀬少年は、寂れたゲームセンターになんだか怯えながら入っていく。
俺も入ろうと近づいたら、入り口には落書きがされていて、ドアが所々へこんでいる、いかにも不良の溜まり場みたいな雰囲気は、はっきり言って苦手だ。
もの凄く気が進まないけど、頭の中でスケさんに急かされるので、仕方なく中に入った。
中は薄暗く、昔の懐かしいゲームばかりが並んでいたが、画面に明かりが点いている筐体は一台もなかった。
店の奥に進むと、下品な笑い声が少しずつ大きくなる、勝手にレイアウトされた一角で、数十人に囲まれて座らされている、一ノ瀬少年のその友達B君、C君がいた。
これは、完全にスケさんにハメられたな。




