好奇心に火を着けた
「言っただろ、こう見えて力と体力はあるって」
そんな会話を織田少年としていると、駅の方から例の同級生3人が歩いて来た。
「あれ、織田の奴、思ったより早いじゃん」
「隣いるの誰?」
「知らね、織田の知り合いでしょ、歩くの無理だから送ってもらったとか?」
3人の会話は、織田少年には聞こえてないだろうけど、プラス知力値のお陰で俺にははっきりと聞こえている。
嫌な予感しかしない、あの3人からなんとも不快な視線が俺にも向けられている。
「織田、お前、歩いて帰れって言ったよな」
「そっちのおっさんに、送ってもらうのはルール違反なんじゃねーの」
案の定3人が絡んできた、言ってる意味が分からない、織田少年には悪いがたかが部活動の選手と補欠の違いで、命令したり勝手なルールを押し付けたり、どこにそんな権利が有るっていうのだろうか。
「違う、俺はちゃんと歩いて帰って来た、そうですよね、佐藤さん」
「そうだね、織田君は間違いなく歩いて来たよ」
無駄だと思ったけど、織田少年に聞かれた通りに証言した。
「織田の知り合いのおっさんじゃ、何の証拠にもならねーから」
「そうそう、歩いて来た割には学校に着くのが早いんだよなぁ」
この3人は、ただ織田少年にいちゃもんをつけたいだけ、だからこの時間に学校に帰って来たんだ。
織田少年が早く帰って来たといっても、予想より少し早かった程度、隣にいる俺の事は予定外だろうけど関係ない。
『マスター、あの3人から微かに魔力の反応があります』
と、ここでずっと静かだったスケさんが話しかけてきた。
『この世界の人も量は少ないけど魔力は持ってるんだろう、何で急に?』
俺は隣に織田少年がいるので頭の中で、スケさんに問い返した、いつまでも小声で話してると変に思われるので、念話スキルを取っておいて良かった。
『はぁ~っ、マスターも魔力くらい感知出来る様になった方がいいですよ』
『吐く息もないのに頭の中でため息つくなよ』
『一流の探索者なら、魔力の流れを感知するくらいは出来て当然なので。
マスターは、スキルを取得するのも、スキルレベルを上げるのも簡単なのに、浪漫とか言って無駄なスキルばかり取得しようとしますから』
『俺は探索者じゃないし、魔眼とかに憧れるのは仕方ないだろ。
投擲だって有能だったのはスケさんも認めてくれただろ』
『確かに投擲はワタシの想像よりも有能でした、だからといって魔眼が有能とは限りません。
石化の魔眼や、閃光の魔眼なんて何時使うつもりですか?』
『使わないけど、持っている事に意味があるのが魔眼ってものなんだよ』
『理解できません、だいたい投擲はコモンですが、魔眼はユニークです、取得20000ポイントの無駄使いは許容出来ません』
これ以上の会話は平行線だ、融通の利かないスケさんに浪漫を理解させるのは難しい、俺は話を元に戻す。
『それで、微かな魔力の反応って?』
『魔力を使用した痕跡があるんです、魔力を持っていても魔力を使える人間はこの世界では稀だと思います』
『そんな稀な人が3人も、それって普通じゃないよね?』
『確率は低いですね』
スケさんと念話をしている間に、織田少年が3人にからまれていた、念話は普通に話すよりも時間がかからなくて便利だけど、俺の場合は外に意識が回らなくなるのが欠点だ。
今も念話自体は数秒程度だったのに、その数秒の間に織田少年は3人に囲まれている。
並列思考とか、高速思考とかがあればいいんだけど、脳を刺激するようなスキルはなんだか怖い。
「ズルしたんだから、やり直しじゃね」
「だよな、もう一回競技場に戻ってやり直せよ」
聞こえてくる3人からの文句は目茶苦茶だ、これをただ「本当だ」という反論だけで耐えている織田少年も無視すればいいのに。
とはいえ、俺は織田少年とその同級生3人の間に入って話を聞く事にした。
「なんだ、おっさんまだいたのか」
「俺達は織田と話してるんで、もう帰っていいっすよ」
俺が織田少年を庇おうとすると、3人は俺を睨みながら早く帰れと文句を言ってきた。
「ちょっと落ち着いて、織田君が歩いて来たか、それ以外で来たかで、君達はなんでそんなに怒っているのかな?
どんな方法で帰って来ても、君達には何の迷惑をかけてないはずだけど?」
俺は3人に言い返す、俺からしたら3人の言う通りにする事から馬鹿げているけど、織田少年の意思を尊重する。
「そりゃ、織田がルール破ってズルしたからだよ」
「俺達は歩いて帰れって言ったんだ、それ以外はダメに決まってるだろ」
舐められてるのか大人の俺がいるのに、堂々と自分達の方が正しいと主張してくる。
「もういい、俺はちゃんと歩いて帰って来た、これ以上お前らの言う事聞くつもりはない」
いい加減に織田少年の我慢が限界だったようだ、俺からすれば気の長い方だと思う。
今まで自分も同じ様な事をしてきたとして、何でも我慢出来るわけがない。
「なんだよ、変なおっさんがいるから、強気だな」
「ノロマな織田に、せっかくトレーニングさせてやったのに、キレるとか俺らが悪いみたいじゃねーか」
「やっぱり織田は信用出来ないから、残念だけどあの話は無しだな。
ずっと補欠だろうけど、地道に頑張れよ」
不適に笑いながら帰って行く3人を、織田少年は悔しそうに見ている。
『気になりますね』
何かスケさんの興味が湧いている、でも、今は織田少年だ。
「良かったんじゃない、これ以上あの子達に無茶な事を言われなくて」
織田少年は俯いたまま黙っている、スケさんじゃないけど気になってしまう。
「あの話って?」
織田少年は一度迷った後、俺の質問に答えてくれた。
「二年に上がる時に、あいつらに記録抜かれて選手の座を奪われたのは、話したっすよね」
俺は頷く。
「あいつら、ろくに練習してないはずなのに、どんどん記録伸ばしてて、俺も負けない様に今まで以上に練習したんすけど、全然記録が伸びなくて。
無理な練習は逆効果だって、顧問にも釘刺されちゃったんです。
そしたら、あいつらが部室で話してるのを聞いたんすよ、俺の練習を馬鹿にしててもっといい方法があるのにって。
居ても立っても居られなくて、つい部室に飛び込んで話を聞こうとしたんですけど」
「教えて貰えなかった?」
「それまであいつらを見下してたんで、当然なんですけど教えて貰えなかったです。
特別な方法だから、信用出来ない奴には教えられないって、だから、何でも言う事聞くから教えてくれって頼んじゃって。
俺が必死だったのが面白かったのか、信用出来る様になったら教えるって。
結局、俺にやられてた事を仕返ししたかっただけなんでしょうね」
「自業自得って言ってたのは?」
「それも嘘じゃないっすよ、あいつらにやられてる内に、あいつらも同じ気持ちだったのかなって」
「そうなんだ、でも、特別な方法っての聞けなくなったけどいいの?」
「そりゃ気になりますよ、でも、もう限界だっんで仕方ないっす。
佐藤さんも、なんか巻き込んですみませんでした」
「別にいいよ、俺が手伝うって言い出したんだし、織田君も無理しない様に頑張って」
そう言って織田少年と別れた、俺はこのお節介がスケさんの好奇心に火を着けた事だけが心配だった。




