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こう見えて、力と体力はある

 あの日、娘と気まずい感じになったから、今日せっかく休みが取れたのに、試合を見に行きづらい。


 『どうせ遠くから覗くだけなんですから、気にしないで見に行けばいいじゃないですか』


 スケさんが辛辣な事を言う、確かに会場の隅で静かに応援して、写真を撮ったら帰るつもりだけど。


 あれから、娘からのメッセージが挨拶だけになって凹んでいるのに、冷たいと思う。


 『早く行かないと、娘様の試合を見逃しても知らないですよ』


 「もしかして、ダンジョン攻略が進んでないから、機嫌が悪いのか?」


 吸血鬼事件の後は、階層を更新していない一番効率のいい14階層で2時間程度、軽く身体を動かしてポイントを稼いだら帰っている。


 『そんな事ありませんよ、寄生蟲の時頑張ったので、少しくらいゆっくりしても問題ありません』


 「それならいいけど」


 『ただ、毎朝メッセージを確認して暗い顔をされるのと、どんなメッセージを送れば娘様の機嫌が直るのか相談されるのはウザいですね。


 ワタシは娘様に本当の事を話してもいいと思いますし、信じる信じないは娘様次第ですので。


 それを話さないと決めたのは マスターなんですから開き直ってしっかりして欲しいですね』


 「ごめん」


 スケさんに言われて謝るしかなかった、これ以上機嫌を悪くさせないように、予定通り娘の試合を見に行く事にした。


 電車とバスを乗り継いで、競技場に辿り着いた時には大会の最初の方の競技は始まっていた。


 朝ぐずぐずして出掛けるのが遅れたせいだ。騒ぎになるかもしれないけど、これなら自分で走った方が速かった。


 プログラムを確認すると、娘の出る競技はまだ始まってない、ホッと胸を撫で下ろしトラックを見渡せる隅のベンチに腰をおろした。


 『初めて試合を見ましたが、緊張感も本気度も伝わってくるのに、なんだか微妙ですね』


 「スケさんの基準は皆が化け物の異世界だから、微妙に感じるだけだよ、県大会っていったらそこそこ凄いんだぞ」


 『異世界なんて数値だけで実際はどうかワタシも知らないですよ、ワタシが比べてるのはマスターの動きとです。


 呪魔法を使っているマスターと大差ない動きです』


 「俺には後付けステータスがあるから、ドーピングみたいなもんだからな。


 努力でプラス能力値のある俺と同じ運動能力なら凄い事だろ」


 『確かにそれは素晴らしい努力ですね、その成果を披露する場だから、この緊張感と本気度に繋がっているのですね』


 納得したスケさんと俺は娘の走る姿を見て、結果は予選敗退だったけど、娘が頑張ってるのを見て俺も頑張ろうと思えた。


 競技場を出てバス停に向かうと、負けて帰る選手や応援に来た高校生が並んでいた。


 その中でも1人、荷物をやたらと多く持たされてる少年がいた、周りの子達が軽い手荷物しか持ってないのに、大きなカバンを両肩にかけて持っている。


 今でも体育会系の部活には、選手や先輩の荷物を補欠や後輩が持つような上下関係があるのか。


 試合に出ないのに、荷物持ちや場所取りの為に休日を潰さないといけないなんて俺は嫌だな。


 俺はそんな少年の後ろに並ぶ、他の子達の会話に少年は参加せず、静かに待っていた。


 バスが来て順番に乗り込んでいく、少年の番になって荷物が入口で引っ掛かりなかなか入れない、もたもたしていると、後ろに並んでいた人達からのイライラが伝わってきた。


 すると少年以外の子達から。


 「お前、邪魔になってるから歩いて学校まで帰れよ」


 「どうせ試合に出てないし、体力も余ってるだろ」


 少年は悲壮な表情になるが、上からの圧力に負けて入口から離れた。


 後ろに並んでいた人達は、蓋をしていた少年がいなくなるとバスに乗り込んでいく、俺は少年のすぐ後ろにいて、少年が入口から離れる時に一緒に入口から離れてしまっていた。


 ドアが閉まり出発するバスを見送る、少年と目が合ったがすぐに視線を反らされた、少年はバス停から離れていく。


 「本当に歩いて帰るつもりなの?」


 俺は思わず少年に声をかけてしまう、少年達の学校がどこか分からないけど、バスを使うくらいには遠いはずだ。


 「次のバスに乗ればいいんじゃない?」


 少年は振り返り、俺を見ると苦笑いをしながら答えた。


 「次のバスに乗って、駅であいつらに会っても嫌なんで」


 「その荷物持って、学校まで帰れるの?


 先輩か何か知らないけど、無理な指示は聞かなくていいんじゃないかな、イジメっていわれてもおかしくないよ」


 「あいつらは、先輩じゃないっすよ、同級生です」


 「なら、余計に言う事を聞く必要なんてないんじゃない?」


 俺がそう言うと、少年は複雑な顔で話を聞かせてくれた。


 「最近まで、立場が逆だったんすよ、俺が選手であいつらが補欠だったんす。


 そん時は、俺があいつらに似たような事をしてたっていうか、だから自業自得なんすよね。


 一年の終わりくらいからに、あいつらの成績がどんどん良くなって、二年に上がった頃についに逆転されてこの様っす」


 今までの事を考えて、自分もやった事をやり返されるのを受け入れてるのか、同じ事をやられて今までを棚に上げて切れるよりはマシだけど。


 そう言うのは、どこかで誰かが断ち切らないと、悪い風習としてずっと続いていってしまう。


 今の少年側から止めるのは、格好悪く感じるだろうけど、少年の同級生達が自分から気がついて止めてくれるようには見えなかったな。


 「本当に学校まで歩いて帰るつもりなら、半分荷物持とうか?」


 「いや、いいっすよ、カバンそこそこ重いし、学校まで結構あるんで、その‥‥」


 これは警戒されているな、当然だ、見ず知らずのおっさんの親切なんて疑わない方が無理だ。


 荷物を渡したら、持ち逃げされると思われたかもしれないし、俺みたいな普通のおっさんが、歩ける距離じゃないと思われてるかもしれない。


 「怪しいものじゃないから、っていうのも怪しいけど、とにかく意地張って歩くにしても荷物全部持って行くのは大変だろ。


 俺は佐藤っていうんだ、免許も見せるし何かあったら警察にでも何でも、通報してくれればいい」


 そう言って、俺は財布から免許証を取り出して、少年に渡そうとした。


 「そこまでしてくれなくていいっすよ、取りあえず悪い人じゃないって信用はするんで。


 でも、いいんすか?本当にカバンは重いし、学校は遠いっすよ」


 「大丈夫、大丈夫、俺こう見えて力と体力には自信があるから」


 俺は言いながら、少年のかけているカバンの片方をヒョイっと軽く持ち上げて肩に担いだ。


 「すみません、じゃあお願いします」


 少年は頭を下げて歩き出した、少年の名前は織田(オダ) 晴輝(ハルキ)というらしく、織田少年の学校は予想していたより遠かった。


 約2時間は歩いて、ようやく学校に到着した、少年の同級生達の姿はない。


 先に学校に着いて待っている訳がなく、少年は校門で俺からカバンを受け取って、これからカバンを部室に置いて明日の準備をするらしい。


 「お疲れ様、まだやる事あるなんて大変だね」


 「こちらこそ助かりました、本当は佐藤さんが学校までカバンを運べるとは思ってなかったんで、ちょっと驚いてます」


 そう思われてるのは気づいてた、道中ただ歩くだけなのも気まずいので、適当に会話をしていたけど、そういう事を素直に言えるまで、打ち解けられていたようだ。


 「言っただろ、こう見えて力と体力はあるって」

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