間に合ってくれよ
リポップが間に合わなかった時に、12階層に戻るか、15階層に進むかで揉めたのは俺とスケさんの方向性の違いだ。
『では、両方の意見を取り入れて12~15階層を回るのはどうですか?』
「リポップが間に合わなかった時に、どっちに行くかって話だろ?
ポイント獲得の効率が変わらなければ、13、14階層だけでいいんだよ」
『効率が落ちたらなんて考えるのがそもそも非効率です、最初から12~15階層を回ればいいんです』
「それもそうなのか‥‥?」
一応、俺の意見を聞いて12階層も行くって言ってるし、スケさんが行きたい15階層に行くのが平等だよな。
話し合いが終わったから14階層から15階層に進む、15階層は岩山だった。
15階層では、ミノタウロス、ケンタウロス、ゴーレム、ガーゴイルが必ず4体1組のパーティーで襲って来る。
ミノタウロスが前衛、ケンタウロスが遊撃、ゴーレムが盾役、ガーゴイルが後衛とバランスのいいパーティーの戦い方はシンプルで隙がなかった。
でも、スケさんは優しくなかった、前に出て仲間を守ろうとしたゴーレムを後ろに倒し、ミノタウロスとケンタウロスを潰すと、ガーゴイルをゴーレムに落として、両方に確実にトドメを刺した。
必ず4体1組で襲って来る彼らは、確定したハメ技で瞬殺される、俺の仕事はこの階層で魔物のパーティーに参加してない、猿の魔物を倒す事。
岩山の岩影から拳大の石を投げてくる猿は、数も多くて鬱陶しい、投擲には投擲で対抗する、但し俺は石じゃなくて斧や槍を投げる。
ミノタウロスとケンタウロスがいるので、斧も槍も補充し放題、遠慮なく投げて1投で猿をまとめて数匹倒した。
スケさんに周辺の警戒を任せて、時々食事を兼ねた休憩をして、休みを全部使った24時間のダンジョン攻略を終えて。
治癒魔法レベル3まで上げ、余ったポイントで呪魔法を取得、聖魔法と呪魔法をレベル7にした。
スケさんも自分をレベル6に、念動をレベル3に上げていた、15階層を無双していたのに、先を目指すというプレッシャーを感じる。
スケさんのプレッシャーは無視して、俺は目標を達成出来た安心感から深い眠りについた。
翌朝、すっきりと目覚めてコーヒーを飲みながら、スマホを確認する。
娘からのメッセージは挨拶と、この前の俺メッセージへの小言、近況報告。
近況報告は珍しいけど、前の大会で決勝に進んで入賞したから、次の大会に出られる事、その大会に向けて頑張ってる事が書かれていた。
元嫁からも聞いていたので知っていたけど、わざわざ娘自身が報せてくれた事が嬉しい。
『顔がニヤついてますよ』
「いいだろ別に、今日図書館に行ったら次の大会に休めるか確認しないと」
『どうせ遠くから見るだけじゃないですか、本当に捕まっても知りませんよ』
「なんで娘を見に行って捕まるんだよ」
『そろそろ出掛ける時間ですよ、くだらない話は終わりましょう』
俺はスケさんにあしらわれながら家を出て、バスに揺られて図書館に着いた。
事務所に入って作業を始める、今日は試しに呪魔法でデバフをかけている。
デバフは相手との、成功確率相手との魔力差掛けるレベル%、効果はレベル分の1になる。
相手の魔力が自分より高いと差がマイナスになる時は確率は0%になってしまう。
でも、これは敵相手に使う場合で、自分に使うと成功確率は100%で、効果も10倍になる。
スケさんも自分に使う人がいなかったので知らなかった結果で、新しい情報に喜んでいた。
俺はデバフの効果で低下したステータスに体が重いと感じながらも、それでも普通の人よりプラス値分高い能力で、テキパキと作業を進めていく。
図書館での時間は何事もなく過ぎて、犯人を探す為に事件現場に向かう。
まだ外は少し明るいので、本格的に動くのは日が暮れてから、事件現場にから円を広げる様に歩いて、スケさんが寄生蟲の魔力を探していく。
1人ローラー作戦だ、4件の事件から1件ごとの移動範囲は大体分かっている。
寄生蟲側も移動している事を考えて、予想している移動範囲よりも少し広い範囲を、寄生蟲を見逃さない様にグルグルと走り回った。
1人ローラー作戦を始めて2日目に、寄生蟲に寄生された少女を見つけた。
スケさんの見立てでは、もう殆ど血液も生命力と魔力も残っておらず、宿主を操って次の寄生先を探す為に徘徊してる状態らしい。
この状態になると、いつ次の寄生先に移ってもおかしくないみたいで、寄生蟲が移動する時に残った血液や生命力、魔力の量では宿主は助からない。
宿主の少女は、どうやら誰かの後を追っているみたいで、相手が人気のない場所で1人になるのを待っているみたいだ。
寄生蟲自体に戦闘能力はないので、騒ぎになると自分が危ない事を本能的に分かっているんだと思う。
俺としても、宿主の少女が人気のない所にいってくれるのは都合がいい。
作戦は簡単、寄生蟲は魔力の多さで獲物を決めている、だから俺が囮になれば寄生蟲は次の寄生先を俺にを選ぶはず。
俺は人気が少なくなってきた時に、自然を装い寄生蟲の標的になっている人に俺に標的が移るように近づいた。
宿主の視線が俺に向いたのを感じて、寄生蟲が罠にかかったのを喜んだ時に声をかけられた。
「お父さん、どうしたの?」
どうやら寄生蟲に狙われていたのは、娘の美月だったみたいだ、寄生蟲は一定の距離を保って此方の様子を伺っている。
「俺はその‥、たまたま散歩をしてたら、近くを通りかかって‥‥」
「お父さんのアパートから、ここまで散歩?結構距離があると思うんだけど」
「俺も40だからな、運動不足解消になるべく長い距離を歩く様にしてるんだよ。
そんな事より、美月こそこんな時間まで何してるんだ?」
「私は部活だよ、大会に向けて練習頑張ってるってメッセージ送ったじゃない」
そのメッセージは読んだ記憶がある、落ち着いてよく見渡せば、ここは元嫁のマンションの近くだ。
道は明るさに反してここの住民以外は通らないから人気は少ない、寄生蟲に意識がいっていて全然気がつかなかった。
『流石マスター、フラグの回収が上手ですね』
頭の中でスケさんの嫌みが聞こえてくるけど、相手に出来ない。
『それよりも、余りもたもたしていると寄生蟲が逃げますよ』
そうだ、スケさんの言う通り寄生蟲は自分が弱い事を知っているから、2人以上の人間を襲わない。
俺の魔力量がいくら多くても、無理して襲わずに他の獲物を探すだろう。
「悪いな美月、また連絡する、凛さんにもよろしく」
そう言って娘から離れる、一応、寄生蟲が俺を追って来るか確認しながら、娘もスケさんの知覚範囲で見守ってもらう。
娘は絶対納得していないので、明日のメッセージが怖いが、無事に寄生蟲を俺の方に誘い出す事に成功した。
後はゆっくりと寄生蟲が襲いやすい場所に誘導するだけ、俺はスケさんに周りを確認して貰いながら人のいない場所に向かった。
小さな公園には俺と宿主の少女だけ、俺はゆっくりと歩いていて、宿主の少女はその背後から近づいていている。
俺と宿主の少女の距離が、手を伸ばせば届くくらい近づいた時に、少女の首筋から寄生蟲が飛び出して俺に飛んできた。
俺は後ろを向いたまま、寄生蟲が俺の首筋に突き刺さろうとした瞬間に寄生蟲が空中で停止した。
スケさんの念動で捕らえた寄生蟲を潰して、少女から抜き取った血と生命力、魔力を少しでも回収して倒れた少女に駆け寄った。
この為に苦労したんだ、間に合ってくれよ。




