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方向性の違いだ

 「あと5分寝かせて下さい」


 俺の願いは容赦なく却下される、念動で無理矢理起こされて、熱々のコーヒーを口に入れられる。


 「起きた、起きたから、自分で飲むから」


 『マスターを寝かせつつ、遅刻も回避する完璧な手段だと思ったんですが、気に入りませんでしたか』


 「わざとだよね、二人羽織りみたいにコーヒー飲んだら火傷するから」


 『ニ、ニンバオ‥リ?』


 「何で片言なの?、俺の記憶を共有したから、知ってるよね」


 『早く着替えて出ないと本当に遅刻しますよ』


 なんで俺が聞き分けない感じになってるんだ、俺は不満に感じながら、言い返しても無駄だと諦めて、スマホのメッセージを確認した。


 挨拶と最近何かあったかを問うメッセージを見て、俺の些細な変化に気がつく娘の優しさに感動する。


 それと昨日のスケさんの言葉を思い出す、被害者を助けたい気持ちは変わらないけど、優先順位を間違えないようにしよう。


 今日も事務所に一番に着いて、作業をしながら今日の夜から明日の予定を考える。


 12階層で33455ポイント獲得した、空間収納を取得をしたから、今までの分と合わせて残りは29965ポイント。


 後440000ポイント以上、明日の休み全部使っても、今の階層のままだと無理そうだ。


 やっぱり、次の階層に進むしかないか、今のままだと厳しいよな。


 「おはようございます、なんか難しい顔してますね、悩み事ですか?」


 「おはようございます、次の推薦図書を何にするか考えてたんですよ」


 「あれってセンス問われますもんね」


 「そうなんですよ、格好つけて難しい本を選ぶと借りて貰えないですから」


 ダンジョンとポイントの事を考えていて、声を掛けられるまで気がつかなくて驚いた。


 ちょうど来週の推薦図書を何にするか、朝会で話し合うのを思い出して誤魔化せた。


 でも、思い出して本気で推薦図書について考えないといけない事に気がついて焦る。


 最終的には投票で決まるけど、幾つか候補を決めないといけない、ダンジョンに関わる様になって、俺がまともに読んだ本は吸血鬼に関係する本だけだ。


 世間で吸血鬼事件が起きてるのに、とてもじゃないけど人に薦められない。


 「田中さんは、どんな本を選んだんですか」


 参考にしようと、田中さんに選んだん本を訊いてみる。


 「私は無難に、賞レースにノミネートして受賞を逃した本を選びましたよ。


 受賞作はもう特設コーナに並んでますし、ノミネートしただけでも、面白いって保証されてる気がするじゃないですか」


 「それいいですね、俺も参考にしようかな」


 「珍しいですね、佐藤さんはいつもは自分が読んだ本から薦めていたじゃないですか」


 「今回はこれはって本がなくて、それで悩んでたんです、助かりました」


 賞レースのノミネート作品は一応全部読んだ、その中で一番面白いと思うのを薦めればいい。


 人が集まり出して朝会が始まる前に、俺は田中さんに軽く頭を下げる。


 田中さんは絵顔でサムズアッブを返してくれる。


 無事に忘れていた朝会の議題を切り抜けて、黙々と仕事をする。


 頭の中ではダンジョンをどう進むかを考えてしまっている、一番手っ取り早いのは能力値を上げる事、そうすれば、12階層より下にも通用すると思う。


 でも、俺の人間離れは進んでしまう、今でも本気を出したらF1カーと競争出来るのに、普通の生活を送れるか心配になる。


 何か対策がないか、スケさんに相談するしかないかな、スキルには詳しいって言ってたし。


 仕事が終わって、ウィ○ーインゼリーとかカロリーメ○ト、飲み物各種を買って帰る。


 たった1日で、こんなに必要ないと思うけど、備えあれば憂いなしの精神だ、ご飯と風呂を済ませて、ダンジョン転移に備えて眠る。


 「それじゃ、能力値を上げる、本当に何とかなるんだよな?」


 『はい、呪魔法でデバフをかければ問題ないです』


 「聖魔法のバフの反対か、そんな簡単な方法があったんだな」


 『普通は魔物相手にかけるもので、自分に使う人なんていないんですけどね』


 結果が望むものなら普通はいないとか関係ない、だって軽く肩を叩いただけで傷害事件になりかねない。


 皆が化け物な異世界とは違うんだ、日本ではどんなに強くても法の下に平等なんだ。


 そんなこんなで、準備も出来たのでウォーミングアップを兼ねて12階層でオーガ達と鳥の魔物、ワイバーンと戦う。


 今回は1時間少々で片付けられた、確かな手応えを感じて13階層に向かう。


 13階層から洞窟に戻って、ポイント効率が悪くなるかと思ったけど無用な心配だった。


 オーガ達と一緒に10階層で階層ボスだったミノタウロスと、ケンタウロスが出てきた。


 洞窟の高さや幅が広いと思ったら、この2体の為だったのか、ケンタウロスの上半身が人間だけど顔は馬で良かった。


 これだけ魔物を倒しておいて、今さらと思うかも知れなくても、出来れば外見は人から離れていた方がいい。


 スケさんが魔物よりも早く、探知してくれるので草原型よりも不、意打ちの先制攻撃が出来る分戦いは楽だった。


 ついでにミノタウロスから斧とケンタウロスから槍が予備も含めて沢山手に入った。


 オーガキングの大鉈をスケさんが念動で動かして、俺はミノタウロスの斧を両手に構え、洞窟の中でのサーチ&デストロイ。


 おっさんがダンジョン内で暴れる姿はシュールだろうけど、気にしない。


 13階層の魔物が、スケさんの知覚範囲に見つからなくなった頃に、出入口に辿り着いた。


 ミノタウロスとケンタウロスのポイントは美味しかった、両方300ポイントで2時間弱で100体ずつは倒したので、60000ポイントは稼いだ。


 これなら、12階層と13階層をリポップ待ち代わりに交互に攻略すれば、目標のポイントが貯められる。


 13階層が洞窟だと最初から分かっていたら、スケさんの知覚で有利になるから、能力値を上げずに済んだのに。


 後から何を言っても仕方ない、呪魔法のデバフの情報が分かって良かったと思おう。


 スケさんに、12階層と13階層を往き来しようと相談したら、『せっかく能力値を上げたのに14階層に行かないなんてヘタレですね』と、嫌みを言われた。


 俺はスケさんに煽られてるくらいが丁度いい、昨日の状態は全然俺らしくなかった。


 スケさんの煽りに負けた訳じゃないけど、14階層に様子を見に行ってみる。


 14階層も洞窟、13階層よりも高さも幅も更に広がり、オーガ種がいなくなってゴーレムと、ガーゴイルが出てきた。


 石で出来たゴーレムは動きは遅いが体は硬く力が強い、体長が10(メートル)近くあって、攻撃が当たれば大惨事だ。


 ただ、スケさんに念動で転がされ自重によって壊れる様は滑稽だった。


 悪魔の石像ガーゴイルは高くなった洞窟を縦横無尽に飛び回り、多種多様の魔法で攻撃してくる。


 だけど、スケさんの念動で叩き落とされ、ガーゴイルも石の残骸と化していた。


 どちらも硬い魔物だから、大鉈で攻撃しても効果が低いと考えたスケさんの行動だけど、何もさせて貰えないゴーレムとガーゴイルが可哀想だった。


 俺の見えてない所でも、スケさんによって始末されているんだろな。


 俺はゴーレムとガーゴイルを憐れみながら、目の前のミノタウロスとケンタウロスを光へと変えていった。


 結論からいえば、13階層と14階層を交互に回った方が攻略がいい事が分かった。


 リポップが間に合わなかった時に、12階層に戻るか、15階層に進むかで揉めたのは俺とスケさんの方向性の違いだ。

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