あと5分寝かせて下さい
俺は斧を引き抜いて軽々と肩に担ぎ、完全に人間辞めてしまった事に気がついた。
「11階層に行くか」
『なんだか元気がないですね』
「いいんだよ、順調にスケさんの手の平の上で転がされて、人間じゃなくなってる事に気がついただけだから」
『おかしな事言いますね、マスターは人間ですよ、力のあるなしで人間の定義は変わりません』
分かってて俺をからかってるスケさんを無視して、11階層への出入口に入る。
11階層に出ると一面の草原が広がっていた、遠くにオーガの集団が歩いてる。
ゴブリン種からオーク種に代わったみたいに、ここの階層はオーク種からオーガ種に代わったんだろう。
開けた草原で、スケさんに神眼を使用して階層全体を確認して貰った。
『見晴らしがいいですね、遠視を使っても次の出入口が見つからないのは、どういう事なんですかね』
「取りあえず、オーガを倒しながら探すしかないだろうな」
俺からオーガ達が見えてるなら、オーガ達からも俺の姿は丸見え、背の低い草しかないには身を隠す場所もない。
力の強そうなオーガ種と真っ向からぶつかり合う空間、数は圧倒的にオーガ達が有利、次の階層への出入口が見つかるまで戦い続けないといけない。
「戦ってたらオーガの方から向かって来てくれるから、ポイントを貯めるにはいいのかな」
『脳筋耐久ステージですね、オーガ達に囲まれて出入口が見つからなくなったら地獄ですね』
「移動しながら戦えば、オーガ達に囲まれててもスケさんなら出入口探せるでしょ」
『当然です、ただ階層が広いのでワタシもレベルを上げていいですか?
レベル5まで上げれば、知覚範囲が500mくらいになりますから』
「わかった、それじゃオーガ達に突っ込むから、レベル上げ終わったら援護宜しく」
俺は一番近くのオーガの集団に走り出した、お互いが間合いに入った瞬間に、ミノタウロスの斧を両手に持って横に一振。
4体のオーガの上半身が宙を舞う、更に斧を振れば今度は5体のオーガが真っ二つになって転がる。
戦いの音に釣られて、周りいた他のオーガ達が集まってくる。
スケさんの言う通りの脳筋耐久ステージだ、駆け引きとか技術とかは殆ど必要ない、ただひたすら戦い続ける。
一度戦い始めたら、次の階層に行くまで体力の続く限り戦い続けないといけない、止まった途端にオーガ達の波に押し潰される。
俺は斧を振り回して、スケさんの指示通りに走り続ける、スケさんが出入口を見つけるまで止まらない。
能力値をミノタウロスとの戦いの時に振っておいて良かった、お陰で1時間近く全力で斧を振り回して動き続けられる。
『マスター、1体強い個体が此方に向かって来てます、今進んでる方向からやや左前方向です』
スケさんの声に返事をする余裕はない、左前方を意識しつつ斧を振って、オーガ達を倒して一瞬出来る空いた空間に走り込む。
スケさんが見つけたって事は遠くても500m、斧を振り回して方向感覚が目茶苦茶だけど、スケさんが捕捉してくれている。
スケさんの指示に、方向とタイミングを合わせて斧を振る、金属同士がぶつかり合う音がして、強い個体と言われたオーガキングが持っていた大鉈に、俺の斧を受け止められた。
「不味い、止まったら囲まれてしまう」
『大丈夫です』
オーガキングに止められた斧が、スケさんが念動で勢いを取り戻して、オーガキングを大鉈ごと叩き切った。
オーガキングが光になって消えると、無限湧きかと思うほどのオーガ達の波も、周りにいたオーガ達を倒したら、そこに出入口が現れた。
俺も流石に疲れて出入口の前で腰を下ろし、スケさんが魔石を回収してくれるのを待った。
『朝まで後4時間ありますが次の階層に進みますか?
今の1時間と少しの時間で26385ポイント貯まりました、この階層でも5日もあれば目標のポイントは貯まりそうですよ』
「先に進む、ポイントが貯まるまで5日もかかるんだろ、その間に寄生された子は死んじゃうかもしれない。
寄生蟲を取り除けても、治癒魔法が覚えられても、その子が死んだら意味がないし」
『いつもと違ってやる気がありますね』
「からかうのは止めろ、葬儀場で遺族が泣いてるの見ただろ、同じ娘を持つ親として見過ごせないだけだよ。
明日、図書館に行ったら休みだから、2日で目標のポイントを貯める」
『ダンジョンで長い時間を過ごすなら食べ物や飲み物はあった方がいいですね。
荷物を持って戦うのは危険ですし、やはり空間収納を取得しましょう。
取得の30000ポイントくらいなら、十分に元を取れると思います』
「スケさんがそう言うなら、空間収納スキルをポイントが貯まったら取得しよう。
このデカい斧をどうするか、悩んでいたから助かった」
話してる間に疲れが取れる、これもプラス体力値のお陰だ、俺は迷う事なく12階層に進んだ。
12階層も11階層と同じ見晴らしがいい草原、脳筋耐久ステージらしい。
11階層と違うのは、オーガの集団の中にオーガキングの姿が見える事と、空に魔物が飛んでいる事。
前後左右から襲われる戦いに、上空からの攻撃が追加される、難易度上がり過ぎだと思う。
とはいえ、俺に出来る事は変わらない、突っ込んで斧を振り回すだけ、それに俺にはスケさんがいる。
「空の魔物は任せた」
『任されました、マスターはオーガ達に集中して下さい』
そこから2時間くらい戦い続けた、途中で空間収納を取得して、オーガ達の持ってた武器を消える前に収納すると、所有権が俺に移動してオーガが消えても使える事が分かった。
ミノタウロスの斧に加えて、オーガキングの大鉈を両手で振り回し、スケさんも念動で手斧や剣を動かす様になって、殲滅速度が上がる。
リョウで斧と大鉈を振り回すのにも慣れた時、ワイバーンがデカい鳥の魔物の群の中から降下して襲って来た。
勢いの乗ったワイバーンは、スケさんの念動でも動きを止められず、俺はオーガ達ごと弾き飛ばされる。
降下攻撃してくる時以外は、空中に待機する嫌らしいさで苦戦したけど、来ると分かっていれば何とでもなる。
隙をついて降下攻撃して来るのを利用して、わざと隙を見せてワイバーンの降下に合わせて斧と大鉈を振り上げた。
硬い鱗に守られたワイバーンの首に斧と大鉈を重ねて切り落とす。
ワイバーンに攻撃を回した分、オーガ達の攻撃を受ける、危険な攻撃はスケさんが防いでくれたけど、足に剣を刺され、背中も切られた。
回復魔法をかけてもすぐには治らない、止血が出来ただけで良しとして、痛みは無視して残ったオーガ達と鳥の魔物を全滅させた。
ワイバーンを倒して現れた出入口の前で一息入れ、回復魔法で回復したら出入口に向かった。
『無理をし過ぎてませんか、先程もワタシが助けなければ危なかったですよ』
「時間がないから仕方ない」
『それは分かりますが、今日はもう帰りましょう』
「どうした、いつもは先に進むように言うのに」
『今のマスターが、先に進むのは反対です、マスターが死んでしまったら意味がありません。
被害者の遺族を見て感情移入している様ですが、マスターが死んだら、同じ思いを娘様にさせるんじゃないですか?』
スキルの癖にスケさんはズルい言い方をする、お陰で冷静になれたけど釈然としない。
「わかった、帰ったら寝るから、朝になったら起こして」
『ちゃんとお風呂に入ってから寝て下さいね、汗臭いおっさんなんて嫌われますよ』
一言多いスケさんに言われた通り、部屋戻って汗を流してベットに転がって、次の瞬間には朝だった。
『マスター、早く起きないと遅刻しますよ』
「あと5分寝かせて下さい」




