表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/81

夢の階段か

 俺、佐藤九郎は混乱していた、夜中にトイレのドアを開けたら、便器じゃなくて石造りの階段がある。


 一度ドアを閉めて、深呼吸をしてからもう一度ドアを開ける。


 やっぱり階段がある、今からトイレを借りに近所のコンビニに行くのも嫌だな。


 取りあえず、玄関からサンダルを持って来て、俺は階段を降りてみる事にした。


 降りると、岩肌の洞窟で道はまだまだ続いている、岩肌自体が薄く発光してる様で、視界に困らない程度に明るい。


 便器も見つからないし先に進む、もし我慢出来なくなったら、そこら辺でしても大丈夫だろう。


 少し進むと、デカいネズミの赤く光る目と目が合った。


 「うわっ!!」


 思わず声が出てしまう、だって30センチ以上あるネズミと突然目が合えば、驚くのも仕方ない。


 でも、それが良くなかった、ネズミは声を出した俺に襲い掛かって来た。


 素早い動きで噛みつこうとしてくるネズミから、ドタバタと逃げ回り足がもつれる。


 転んだ先で偶然、膝がネズミを直撃して押し潰し嫌な感触が伝わってくる。


 「ヂュゥ」っと、血を流して苦しそうに鳴くネズミは、ピクピクと痙攣して動かなくなった。


 しばらくすると、ネズミの死体は光になって消えてしまい、透明の小石が落ちていた。


 俺は小石を拾い、面倒くさくなったので洞窟の端で用を済まして引き返す事にした。


 翌朝、寝ぼけながらトイレのドアを開けると、そこにはちゃんと便器があった。


 起きた時、ポケットに透明な小石が入っていたので、夜中の出来事が夢じゃなかったと思ったが、目の前の便器を見てやっぱり夢だったのかと思い直す。


 昨晩は小さい方だったので何とかなったけど、大きな方だったら大変だったのでホッとした。


 小石を机に置いて、ポットの電源を入れて湯を沸かし、スマホに娘からのメッセージが届いていた。


 コーヒーを飲みながら、挨拶と小言の書かれたメッセージを読んで苦笑いが溢れる。


 3年前に離婚して娘は元嫁と暮らしている、医師である元嫁の方が、司書の俺より生活能力があるとされて親権は元嫁が持っていった。


 広いマンション暮らしと、狭いアパート暮らしを比べれば、弁護士の判断は正しかったと思う。


 だらしない俺を心配して、毎朝メッセージを送って来てくれる娘の優しさに、嬉しさと寂しさを感じながら、コーヒーを飲み終え支度して仕事に出掛けた。


 図書館にいつもよりも少しだけ早く着いて、余裕が出来た時間に新しく入荷した本に軽く目を通す。


 「おはようございます、佐藤さん、いつも早いですね」


 「おはようございます、事務所の鍵は俺が持ってますからね」


 事務所に1人で居ると、同僚の渡辺さんが入って来た、事務所の鍵は正社員の俺と佐々木さんの2人が持っている。


 だから、シフトはどちらかが必ず入る様に組んであった。


 「佐藤さんがいる時はいいですけど、佐々木さんはギリギリまで来ないから、後が大変なんですよね」


 「佐々木さん、朝は苦手だって言ってたから、遅刻しないだけ頑張ってると思うよ」


 「そうやって佐藤さんが甘やかすから、佐々木さんがちゃんとしてくれないんですよ」


 「それは申し訳ない」


 俺は不満を溢す渡辺さんの相手をしながら、目を通した本にフィルムを掛けて分別していく。


 俺の働く図書館は職員12名の内、男性が3名で女性の方が多く、女性職員の機嫌を損なうと非常に肩身が狭くなる。


 只、男性が少ないからこそ妙な仲間意識みたいなものもある、だから渡辺さんの機嫌を悪くしない程度に佐々木さんのフォローをしてしまう。


 そんな感じで会話をしながら、ポツポツと人が集まりだし時間通りに朝会が始まる、佐々木さんはやっぱりギリギリだった。


 何事もなく時間は過ぎて、夕方に蔵書チェックをしながら、一緒に作業してくれている渡辺さんに昨日の夢について語る。


 「なんですか、その夢(笑)」


 「そうですよね、俺も起きてからオネショしてなくてホッとしましたよ」


 「何々、何の話ですか?」


 そこに佐々木さんが話に入ってくる、俺は佐々木さんにも同じ話をする。


 「まるでラノベみたいですね、本当だったら面白かったのに」


 「いや、突然家に階段とか洞窟とか出来たら、普通に困るから」


 「佐藤さんは夢がないですねぇ、そんなダンジョンみたいなの面白いと思いますよ」


 「俺はもう40のおっさんだしね、佐々木さんや渡辺さんなら、まだ若いから楽しめるのかな」


 「本当にダンジョンなら、強くなって宝もゲットして人生変わりますからね」


 「私は興味ないですね、強くとか宝とか、よく分かりませんし」


 どうやら女性である渡辺さんには、ピンと来なかったらしい、佐々木さん程じゃないけど俺ももう少し若ければ楽しめた気がする。


 元々本は好きで、小説も漫画も離婚してから前より読むようになった。


 その中には、佐々木さんが言ってたラノベだって数多くある、本当は朝起きて夢だったと思った時はホッとしたと同時に、少しガッカリもした。


 「どのみち夢の話ですから、そろそろ今日は上がりましょうか」


 「わかりました、残りは明日ですね、明日は佐藤さんは休みの日ですから、佐々木さんはもう少し早く来て下さいね」


 「いや~‥、努力はします」


 あの受け答えは無理そうだなと思いながら、片付けて図書館を出た。


 家に帰って、何となくトイレのドアを開けた、そこにはちゃんと便器があって。


 「何を期待してるんだろうな、ははっ」


 俺は帰りにコンビニで買った弁当を食べて、風呂に入りダラダラと過ごした。


 いつの間にか寝てしまって、夜中にトイレに起きた俺はドアを開いて固まった。


 「また、階段の夢か‥‥」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ