【File9】ココミック大作戦
「これで12人目です」
明かりを落とした会議室で、スーツ姿の中年男が言った。
室内には同じようなスーツ姿の男たちが7人、スクリーンに映し出された拉致被害者の顔写真を見ながら、腕を組んでいる。
「ココミック星人の最近の素行には目に余るものがあります。これ以上放っておくわけには行きません」
「前は大人しかったのにな。なぜ急に拉致など始めたんだろう」
「焦っているのでしょう。彼女らの星には男性がいない。ゆえに子孫を作るため、地球に子種を貰いに来た。しかし……」
「最初は俺でも立候補できるもんならしたかったよ。彼女らに子種を提供する役に、さ。とんでもない美女ばっかりだって思ってたんだもん。でも、アレを知ってしまったんじゃなぁ……」
「彼女らの秘密を知り、子種を提供しようという者がほとんどいなくなった。中にはマニアもおり、アレを知ってもココミック星人が好きだ、むしろ美女に擬態した姿よりアレのほうが大好きだという物好きもいたが、何しろココミック星人は嫉妬深い。男がとっかえひっかえココミック星人を漁って浮気するので、無理心中させられてしまった」
「その無理心中したココミック星人の遺体を解剖しようとしていた橋本助教授も拉致された。なんとか救出せねば」
「今頃、淫乱なココミック星人たちに取り囲まれて、泣いてるよ、助教授……」
「いいなぁ、それ。俺は結構羨ましいなぁ。だってココミック星人って、ツインテールなんだろ?」
「ウルトラマンシリーズに登場する怪獣のほうの、な」
「そう。ココミック星人は見た目は皆とんでもない美女だが、その実地球人に擬態しているだけのバケモノだ。本当の顔は腰の部分にあり、ちょうちんブルマーのようなズボンで隠している。美しい顔に見える部分は本当はお尻だ。陰毛が髪の毛のように豊かで、肛門から言葉を喋り、疑似眼球で物を見ることが出来る」
「詳しく説明しないでくださいよ。想像しちゃった……オエッ」
誰も気づかなかったが、会議室内には蚊よりも小さなドローンが飛び回っていた。それは『ユーコ』と呼ばれるココミック星人の偵察艇である。
◆ ◇ ◆ ◇
7人の地球の権威ある学者や軍人が集まって行われているその会議の様子を、遙か4光年離れたココミック母星で、2人の軍人が盗み見ていた。
「ひどい言われようだ……」
男装の美女が、お尻についた疑似眼球から涙を流し続けていた。
「私は生きているのが嫌になったよ、マドレーヌ」
そして金色の長いつけまつげをバサバサと音を立ててまばたきする。
マドレーヌと呼ばれた女性は軍帽の下のお尻に優しそうな柔らかい表情を浮かべ、腰についたカエルのような顔で慰める。
「気にしていては生きて行けませんわ、オスカレ将軍。私達がキモがられるのなんて、今に始まったことじゃないじゃない」
「ああ……。宇宙時代の始まりから、我らはキモがられていた……」
そう言い、オスカレ将軍はテーブルを手のような足でどん!と叩いた。
「しかし! 何が悪いと言うのだ!? 普通の宇宙人と違って、上下が逆さまだというだけで!?」
「まぁ、拉致はいけませんわよね」
「仕方がないだろう。このままでは我々ココミック星人は絶滅してしまうのだ」
「合意のないセックスはレイプと申しますわ」
「仕方がないだろう。このままでは我々ココミック星人は絶滅してしまうのだ」
「是非を問題にしている暇はないということですわよね」
「子種を残さねばならんのだ。男子を産んでくれる同胞が出現するまで、何が何でも他の星の男の子種を……くれぬというのなら奪わねばなるまい」
「エレガントではございませんわね……」
「仕方がないだろう。このままでは(略)」
◇ ◆ ◇ ◆
「戦争……ですか」
「それしかないだろう」
地球人たちの間で意見がまとまりつつあった。
「宇宙間の戦争を抑止する法律はない」
「一方的に攻め込み、侵略しても何ら問題はないのだ」
「これ以上やつらの好きにさせてはおけん」
「しかし4光年ですよ? どうやってココミック星に攻め込むんですか? 辿り着くまでに人類絶滅しちゃいませんか?」
「忘れたのか? ココミック星人が乗ってやって来たアダムスキー型の円盤艇があるだろう」
「あれに装備されていたワープ機能を解析して、偉大なる地球の権威的科学者、アイーン・シュタイン教授が指揮を取り、宇宙戦艦を完成させています」
「まさか……ヤ○トか!?」
「いいえ」
スーツの男はその名前を明らかにした。
「チ○コです」
◆ ◇ ◆ ◇
「愚かな……地球人どもめが」
オスカレ将軍は歯ぎしりしながら悔しがった。
「戦争だと? 貴様らが大人しく子種をくれていれば平和で済むものを……」
「どうするのです? オスカレ」
マドレーヌの後ろから王妃の格好をしたココミック星人が現れ、将軍に聞く。
「まだあちらは私達が盗聴していることを知りません。先手を打って地球を滅ぼしますか?」
「……まさか!」
オスカレは涙を流しながら、苦笑する。
「地球人は我々の希望なのですよ? 我々が子種を残し、存続して行くためには絶対に必要な存在だ。それを滅ぼすわけには行きません」
「では……?」
王妃の格好をしたココミック星人は威厳あるお尻の表情でオスカレを見下ろす。
「どうするのです?」
「征服するしかないでしょう」
オスカレは即答した。
「すべての地球人の男は我々ココミック星人のものにする! 地球人の女はすべて奴隷にする! それしかないでしょう」
「楽しそうね」
王妃はクスッと笑った。
「そのためには貴女のお力がどうしても必要です。女王様」
オスカレは女王の前にかしずき、請うた。
「世界一の貴女のその美貌と宇宙一の権力をもって、全同胞の士気を高めてはいただけませんか」
そして女王の名を、呼んだ。
「シーナ・ド・ココミック女王様!」
「いいわ」
シーナ女王はうふっと一声、楽しそうな笑い声を漏らすと、言った。
「地球人のうんこどもが攻めて来る前に、こちらから出向いて地球の男全員に種付けさせてやりなさい。そして男は性奴隷、女は労働力として、死ぬまでこき使ってやるのよ。これを『ココミック大作戦』と名付けましょう。すぐに実行に移すのです!」
「はっ!」
オスカレ将軍が敬礼した。
「心のままに!」
マドレーヌ副司令官が下の顔で返事をした。
シーナ女王は窓から暗い外を眺めると、唇の端を吊り上げ、呟いた。
「うふふ。楽しいことになりそう」