転生悪役令嬢は幸せで平穏な日々を望んでいますわ!
前編【転生悪役令嬢は幸せで平穏な日々のために頑張りますわ!】を読んでからおこしください。
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高等部に入学から時が経って1年半年ほど経ちましたわ。2年生になってもわたくしは四宮様、一条様と同じクラスになることも無く、シナリオもわたくしが巻き込まれずに順調に進んでいるみたいで良かったですわ。
そして、今日は集会です。新生徒会が発足するみたいですわ。確か、マンガでは神宮司様が生徒会長になられていましたわね。実際、生徒会長に当選されたのは神宮寺様ですし。他の方は特にマンガでの表記はありませんでしたが……
「会計の鈴木幸喜です。」
鈴木様は、もしかして……
いえ、考えすぎですわね。そんなはずはありませんわ。
空いている時間があると彼の事を考えてしまいます。鈴木様は彼なのでしょうか?
最近考え事をしすぎたせいでしょうか?頭痛がします。もしかしたらストレスのせいかもしれませんわね。ですが、悪寒もしてきました。ならばこれは風邪ですわね。早く帰りましょう。
あぁ、でも無理みたいですわ。
視界が次第に暗転し、最後に残っている記憶は誰かが優しく抱きしめてくれたということだけでしたわ。
目が覚めると佑人様にまさかのお姫様抱っこをしてもらっていました。さすがに驚きましたわ。
「あ、起きた。」
「えっ、あの、おろしてもらえないでしょうか?」
「駄目だよ。愛結花さん、体調悪いでしょう。僕の前で倒れた時はどうしたのかと思ったんだから。」
「それは…申し訳ございません。」
「謝ってほしいわけじゃないんだけどな。
とりあえず、ソファに寝転がってもらってもいいかな?さすがに寝室に行くのは、ね。」
どうしたのでしょうか?
「薬箱はどこ?熱を測ろう。って、愛結花さん。ここで寝るのはちょっと。」
最近の寝不足があだになったのでしょう。わたくしは寝転がった事でまた眠ってしまいました。
冷たくて気持ちいいですわ。誰かがわたくしの額に手を当ててくださっているのでしょう。ゆっくりと意識が浮上しました。
「愛結花さん。起きたんだね。」
「ゆう、とさま?」
一気に目がさめましたわ。
「え、あの、どうして。」
「愛結花さん、僕の前で倒れたでしょう。だから、部屋まで連れてきたんだけど寝ちゃったから。とりあえずソファに置いてあったブランケットをかけておいたよ。」
これは、寝顔も見られてしまったみたいですわね。恥ずかしいですわ。それに、膝枕まで…
「ありがとうございます。そして、お見苦しいものをお見せしてしまいましたわね。申し訳ありません。」
「いや、可愛い寝顔を見れて良かったよ。
それで、薬箱はどこにあるの?」
か、可愛いだなんてよくもさらりとそのようなことを仰られますわね。
「あの棚の三段目の引き出しの中に。」
動揺を隠しながら起き上がって、棚の場所を指さします。佑人様はそこから薬箱を取り出し、体温計を取って渡してくださいました。
「じゃあ、測ってね。後ろ向いているから。」
佑人様って意外と紳士なところが多いですわね。婚約して一緒に出掛けることもあったのですが、そこでもエスコートしてくださるなどとしてくださいます。あと、わたくしの意見を優先してくださっていますわね。前まではそんな事全然ありませんのに。姉君の教育のおかげでしょうか?
ピピピッ
考え事をしていたうちに測れたみたいですわ。38.7℃。思ったよりも高いですわね。これを素直に見せるのはいかがなものでしょう。
「何度だった?見せてくれる?」
笑みに圧力がかかっている気がしますわ。ここは潔く諦めましょう。そのほうがましだと、思いたいですわ。
「よし、寝ようか。ほら、僕はここにいるからパジャマに着替えて。
ベットに入るまで僕はここにいるからね。」
わたくしは大丈夫ですのに。佑人様は意外と心配性なのでしょうか?
寝室の方に行き、パジャマに大人しく着替えたので、佑人様のところに戻ります。
「着替えましたわ。」
「うん。じゃあ、ベットに入って寝てね。」
大人しく従います。多分、疲れていたのでしょう。すぐに眠れましたわ。
「愛結花さん。君のおかしな様子に僕が気づいてないとでも?
四宮さんも、二宮さんも、智也さんも、愛衣菜さんも、結城さんだって気づいて心配しているんだよ。
愛結花は何をそんなに抱えているの?少しは弱音を吐いてよ。」
「ねぇ。夕島さんのこと、自分を追い詰めるまで誰にも何も言わずに我慢していたんでしょ。
今回はどうしたの?お願いだからそこまで自分を追い詰めないでよ、愛結花。」
寝てたのですからこのようなことを佑人様が仰っていたなんて当然、わたくしは知る由もありませんでしたわ。
翌朝、久しぶりにすっきりとした目覚めになりました。少し、頭痛がしますがこのぐらいは良くあることです。大丈夫ですわね。学校に行きましょう。
制服に着替えてダイニングに向かいます。
「おはようございます。お父様、お母様、お姉様。」
どうやらお兄様はいらっしゃらないみたいですわ。ですが、お父様がいらっしゃるなんて珍しいですわね。わたくしが朝食をとる時間にはもう仕事に行かれていますのに。
「愛結花。体調は大丈夫かい?智也も出かけるまでずっと心配していたよ。」
佑人様が伝えたのでしょうか?そうでなければここまでするはずありませんわ。
「大丈夫ですわ。ご心配をおかけしました。お兄様にも後で連絡しておいたほうが良いですわね。」
「愛結花は病み上がりなんだよ?念のため熱を測ろうか。」
お姉様が怒っていらっしゃいます。なにか怒らせるようなことはした記憶はないのですけど。
「分かりましたわ。」
37.6℃でした。微熱がまだあるみたいです。
「愛結花ちゃん。今日は学校を休んでくださいね。」
「はい。」
怒っているお母様に逆らうことは出来ませんわ。
せっかく制服に着替えましたけどまたパジャマに着替えましたわ。本を読むことも勉強をすることも禁止されてしまいましたし暇ですわ。とりあえず音楽をかけておきましょう。クラシックなら怒られないでしょうし。そして、のんびりと音楽を聴いていたのですが、途中で眠ってしまったみたいですわ。起きたのはお昼時です。扉をノックする音で目覚めましたわ。そして、ちょうどお昼を食べ終わったころに凛さんから電話がかかってきました。学校の方ではその時間にお昼休みになったみたいです。
「愛結花さん、体調は大丈夫ですの?
実は今日に生徒会の方とお話しする予定なのですがずらしたほうがよろしいですの?」
鈴木様に今、関わりたくはないですわ。
「大丈夫ですわ。それと、ずらす必要もございませんわ。連絡先を交換することなどはございますか?」
「あるのです。」
「出来れば、伝えないでいただけると幸いですわ。話したことを後で教えていただけますでしょうか?」
「了解ですの。お兄様と小夜子さん、真宮様にも伝えておきますの。」
「お願いいたします。」
ここで、通話は終わりましたわ。
それからもうひと眠りしたのですが、その時に夢を見ましたわ、前世の夢を。生徒会の事を聞いて彼の事を思い出したからでしょうね。おかげで冷や汗でびっしょりになってしまいましたわ。
そして、放課後の時間になってから佑人様からお見舞いに行くとの連絡がございました。
「愛結花さん。もう体調は大丈夫?」
「えぇ。大丈夫ですわ。」
「本当に?朝はまだ微熱だったと聞いているけど。」
などと仰りながら、佑人様は互いの額を合わせられました。あまりの顔の近さに驚いてしまいます。
「うん。大丈夫そうだね。でも、無理は禁物だよ。
そうだ、お土産にゼリー持ってきたし食べようか。」
「ありがとうございます。いただきますわ。」
この状況は何なのでしょうか?確かにわたくしはゼリーをいただくとは言いましたが別に自分で食べれるのですけれども……
「食べないの?」
「いえ、その、これは?」
「食べるんだったらほら。」
食べさせてもらうだなんて恥ずかしいです。無理ですわ。ですがずっとこのままなのも嫌ですわ。
わたくしは覚悟を決めてゼリーを食べました。
「!おいしいですわ。」
「なら良かったよ。」
ゼリーを食べ終えてからずっと気になっていたことを佑人様に聞きました。色々あって心が弱ってもいましたので。
「佑人様はどうしてわたくしの事を好きになられたのですか?」
「最初はね、興味だったんだ。愛結花さん、僕と翔の事避けていたでしょ。それで気になって観察をしていたんだ。
愛結花さんを見ていくうちになんでもさらりとやっているように見えていたけど本当はたくさん努力しているって気づいたんだ。それにいろんな所作に品があってきれいだと思って。
気づいたら目で追うようになっていたんだよ。」
そう、だったのですのね。佑人様もわたくしの弱いところを知ったら離れて行ってしまうのでしょうか。佑人様だけではありませんわね。家族や友人だってそうです。皆様、彼に……
「愛結花さん、どうしたの?震えているよ。」
わたくしが、震えている?そんな事に全然気づきませんでしたわ。ですが、動揺しているところをこれ以上佑人様に見せるわけにはいきませんから動揺していることを隠しながら答えます。
「少々悪夢の内容を思い出しただけですわ。ですので大丈夫ですわ。」
大丈夫ですので、放っておいて、ください。わたくしの弱いところを、見ないで、ください。
「大丈夫じゃないでしょ。顔も血の気が引いてるよ。もともと白いのにもっと白くなっているよ。
どんな、悪夢だったの?」
放っておいてほしいのになぜか、するりと言葉が出てきて佑人様に伝えてしまいましたわ。
「…皆様が離れていく夢ですわ。わたくしの周りにいる方全てが。家族も友人も離れていくのです。」
「それは、僕も離れていくの?」
「えぇ。そうですわね。誰もかも彼によってわたくしから離れていくのですわ。前も、そうでしたもの。」
「ねぇ、愛結花。彼とか前ってどういうこと?」
佑人様の言葉で自分の失言に気が付きましたわ。余計なことまで伝えてしまうとは。
「なんでもありませんわ。気にしないでくださいまし。」
伝えても到底信じられることではありませんわ。わたくしだって本当のところ、完全に信じているわけではないのです。それに、わたくしはもう人から離れられるのが怖いのです。
「まだ僕は、愛結花の信頼を得てないのかな?」
「いいえ。」
むしろ今では誰よりも信頼しているのかもしれませんわ。佑人様ならこのことを伝えられると思えたほどには。
ですので、伝えてみることにいたしました。何事もやってみなくては分かりませんもの。それにどうせ、伝えなくても結局彼に……
「法螺話だと思って聞いてくださいますか。
わたくしには前世というものがあるのですわ。小説とかにありますでしょう、そのような話が。
わたくしは前世では中流階級の人間でしたわ。そしてわたしに兄が一人おりましたの。その兄が、わたしを学校で孤立させましたわ。わたしの事をひどく言って。別の場所で作った友人でもです。どんな人だろうと、どんな手を使ってでも一人にさせましたの。ですので、心配してくださる方も圧力をかけられて親にまで影響が行くので見て見ぬふりをなさったのですわ。
両親も兄にしか関心がいかないように兄が仕向けましたわ。教師だってそうです。
そして、最後にわたしは兄に殺されてしまいましたの。
わたくしは鈴木様がその兄に見えたのですわ。わたしからすべてを奪っていった兄に。」
今もわたくしに深く根付いているこのトラウマ。いつか、皆様、わたくしから離れて行ってしまうのではないかと思ってしまうのですわ。兄さんに洗脳されてわたくしの事を言うのをはばかられるような言葉で貶すのではないかと思ってしまいうのですわ。どれだけ頑張っても兄がわたしからすべて奪っていったのですから。ですからわたくしは完全には人を信じられませんの。わたくしの事だって信じられませんわ。だって、今も佑人様に少し、嘘をつきました。そして、今の兄がもし鈴木様だとしても身分差的に同じようなことは出来ないでしょう。それでも、あの兄ならばどんな状況でもわたくしの事を孤立させると思いますの。もともとあったわたくしの良い評価をたったの3日ですべて悪評に変えてしまった兄ならば。
「愛結花、大丈夫?すごく震えている。
確かに嘘みたいな話だけど愛結花がこんなにも震えているんだもの。僕は信じるよ。
そして、信じられないかもだけど僕は絶対に愛結花から離れないからね。」
そう仰って佑人様はわたくしを優しく、ふんわりと守るように抱きしめられました。
驚き、ました、わ。だってこのような話を信じてくださるなんて。わたくしだったら信じることができませんもの。この記憶でさえ偽物ではないかと自分を疑うことがたまにあるくらいです。
こんな佑人様ですからわたくしは佑人様の事を信頼できますし好きになったのです。ずっとこの気持ちに蓋をして自分自身でさえも誤魔化していました。佑人様は細やかな気配りをしてくださいます。どんな些細なことでもですわ。そしてわたくしのちょっとした変化にも気付いてくださいます。
わたくしは泣いてしまいましたわ。もしかしたら前世と今世、合わせて初めて人前で泣いてしまったのかもしれません。とにかく信じてもらえてうれしい気持ちやいつかやっぱり離れて行ってしまううのではないのかという恐怖などが織り交ざって泣きましたわ。
「愛結花。できる限り鈴木君と接触しないで済むように僕がしておくから。だから大丈夫だよ。」
「ありがとう、ございます。」
わたくしは泣きながら笑ってしまいましたわ。
泣いてしまってから3ヶ月ほど経ちましたが、佑人様のおかげでわたくしはまだ鈴木様に会わずに済んでいます。ですが、今日の放課後、偶然にも鈴木様と二人きりで会ってしまいましたわ。
「初めまして、天宮様。生徒会会計の鈴木幸喜です。今まで会う事が何故か出来ませんでしたが、これからよろしくお願いしますね。」
気付かれていましたか。そして、鈴木様はやはり兄さん、ですわね。弱いところを見せるわけには行けませんわ。
「初めまして鈴木様。天宮愛結花と申します。
何か御用でしょうか?」
よろしくという言葉は無視します。
そして、鈴木様とあった時点で佑人様に連絡はしております。まさか、人が少ない西階段で会うことになるとは思いもよりませんでしたわ。
……早く来てくださるでしょうか?
「ただの挨拶をですよ。これまでお会いできませんでしたから。
天宮さん。いや、由梨花久しぶりだね。」
「あの、由梨花様とはどちら様でしょうか?」
隙を見せてはいけません。それにしてもどうして分かったのでしょうか?
鈴木様が仰った、由梨花とはわたくしの前世の名前です。藍川由梨花。これが前世の名前です。
「ん?何を言っているんだい?由梨花の事なら何でも知っているからね。天宮さんは由梨花でしょう。」
い、や。気持ち悪いですわ。震えを隠しながら知らないふりを続けます。
「ですから、意味が分からないのですが。」
一昨年、監視カメラを増やしたことでここにも監視カメラが置いてあります。何か変なことをされても動かぬ証拠があるので大丈夫です。そう、大丈夫、ですわ。
「ここまで言ってもわからないんだ。なら同じことをしたらいいよね。
天宮さんを僕だけのものにしないと。後、」
近づいてきます。また、首を絞められるのでしょうか?警戒を隠さずに後ろに下がります。
「そんなに警戒しなくとも変なことはしないよ。ちょっと触るだけだから。」
「異性に触れられるなんてもってのほかですわ。」
彼はわたしに何をしたのでしょう?この男に触れられるだなんて耐えられませんわ。
そんな時、佑人様の声が聞こえましたわ。
「鈴木君、何をしているの。天宮さんから離れてくれるかな?」
「とりあえず、天宮。状況を説明してくれるか。」
一安心、ですわね。少し気が抜けました。
それにしても四宮様までいらっしゃるとは予想外ですわね。とりあえず説明いたしましょう。
「ただ、鈴木様に呼び止められて話していただけ、ですわ。ですが、話の内容がよくわかりませんの。
由梨花様とおっしゃる方とわたくしを間違えられているようで。」
「鈴木君、天宮さんに何をしようとしたの?すごく震えているみたいだけど。」
なんでばれたのですかっ⁈せっかく隠せたと思ってましたのに。それに何だか、佑人様は怒っていらっしゃるように見えます。
「ちょっと近づいただけですよ。天宮様が震えているだなんて真宮様の見間違いでは?」
「そんなことないと思うけど。
……それよりも近づいたって何をするつもりだったの?初対面の人にいきなりそんな事言われたら天宮さんだって怖がるでしょ。」
気が抜けて独り言をこぼしてしまいましたわ。
「どうして、ばれてしまったのでしょうか?」
「佑人は天宮の事が好きだから気づいたんじゃないか?僕だって気づかなかったし。」
「なら、良かったですわ。四宮様にまでばれたのかとひやひやしましたもの。」
「あれ、佑人の気持には気づいてたのか?」
「いいえ。」
気づいてはおりませんでしたわね。知ってはいますけれども。
「つまりはポーカーフェイスを保てているだけって事か。流石だな。」
流石に本当の事を今言うのは、はばかられますもの。
四宮様とわたくしが話している時も佑人様と鈴木様の対話は続いておりました。
「真宮様、天宮様の事好きなんですね。僕と同じだ。僕が好きなのは由梨花だけど。」
あり得ませんわ。わたしの事をあんなに追い詰めていたといいますのに。全てを奪っていったといいますのに。
「鈴木君、その由梨花さん?って誰なの。天宮さんではないよね。下の名前は愛結花だし。」
「僕の妹ですよ。あぁ、前のと付きますけど。」
兄さんにも前世の記憶があるの、ですのね。まぁ、わたくしにあのように話しかけてきた時点で気付いてはいましたけど。やっぱり、信じたくはありませんわね。
「鈴木様。どういう事でしょうか?わたくしの兄はずっと智也ただ一人ですわ。」
わたしには家族はいません。遺伝子的に血のつながりがあるから父さん、母さん、兄さんと呼んでいただけですもの。家族だなんて思えませんわ。思いたく、ありませんわ。
「天宮さんはそう言っているみたいだけど?」
「覚えていないだけでしょ。由梨花、すべて思い出させてあげるよ。」
嫌ですわ。もともと全てを覚えておりますしあんな恐ろしい思いもう、したくはありませんもの。
「何を仰っているのかわかりかねますわ。」
恐怖でどうしたら良いのか考えも回らなくなった時でした。
突然、凛さんの声が響きましたわ。きっと、状況を理解してどうにか変えようとしてくださっているのでしょう。
「お兄様っ!こちらにいらっしゃったのですね。一条様を認めますの。」
「一条の何を認めるんだ?」
「勿論お兄様との婚約から結婚ですの。それ以外、あり得ないのです。」
「こ、婚約?!べ、別に一条とはそんな仲じゃないぞ。」
まぁ、四宮様ったら真っ赤ですわね。無事にシナリオがわたくし抜きで進んでいるみたいで良かったですわ。わたくしも邪魔してませんし、四宮様が婚約していらっしゃらないからすんなりと決まりそうですわね。良かったですわ。
「わたくしの目はごまかせませんの。そもそもお兄様は動揺しすぎですの。
そして鈴木様。愛結花さんに近づかないで下さいな。近づいたらわたくしを敵に回すと思っておいてくださいまし。」
凛さん……!!嬉しいですわ。それにとても助かります。凛さんを敵に回すということは女子の大半が敵に回ることになりますもの。社交も凛さんはよくなさってますしほかの世代の方も敵に回すかもしれませんわね。就職が大変になりそうですわ。
「四宮さん、そこに真宮家と天宮家も入れておいてほしいな。」
真宮家を出したら婚約がばれてしまいますわ。
「天宮家はともかく真宮家はどうしてですの?」
ここはわたくしから言っておきましょうか。
「一応、わたくしと真宮様は婚約しているので。」
「聞いてませんのっ。真宮様、いつどのように決まったものか教えてくださいますか?」
あ、あら?凛さん、目が笑っていらっしゃいませんわ。
「あ、俺も気になる。それに二人が婚約しているのなら一条との婚約も変に均衡が崩れることはなさそうだな。」
「お兄様、ついに認められましたのね!それで真宮様、教えてくださいませ。」
場が少し混沌してきたところで鈴木様が声を上げられましたわ。
「え。真宮様は天宮様と婚約している?
あぁ。だからか、だからなんだね。僕だけの可愛い大事な由梨花が変わってしまったのは。」
その言葉を聞いて震えてしまいます。気づいた真宮様が抱きしめてくださいましたわ。安心できますわね、佑人様の腕の中は。すぐに震えは収まりましたわ。
「おや、変わってない部分もあって良かったよ。なんだ、覚えているじゃないか。
でも、大切なところは変わってしまったみたいだね。僕が元に戻してあげるよ。」
鈴木様―兄さんのその目に宿る狂気がとても恐ろしいですわ。また、震えてしまいます。
「大丈夫だよ、愛結花。僕が守るから。」
震えが止まることはありませんが安心はできましたわ。ダメ、ですわね。佑人様を頼りすぎてはいけませんわ。
その後、わたくしを害そうとする鈴木様の所にお姉様がいらっしゃってわたくしを逃がしてくださいました。念のために佑人様と一緒に帰ることになりました。人目につかないようにしているのでまだ、婚約がばれることはないはずですわ。
「佑人様、本日はありがとうございました。」
「気にしないで。少し、部屋によっても良いかな?」
「えぇ。勿論ですわ。」
どうしたのでしょうか?何かあるのでしょうか?
部屋についたら佑人様が話を切り出されました。確かにこの話ならわたくしの部屋のほうが良いかもしれませんわね。
「愛結花、由梨花っているのは愛結花の前世の名前なの?」
「えぇ、そうですわ。わたくしの前の名前は藍川由梨花というのですわ。」
「そうなんだ。
ねぇ、愛結花。僕は愛結花の事もっと知りたいから大丈夫な範囲でもっと教えてくれないかな?」
「いいですわよ。」
肯定の返事をすると佑人様はとても驚いた顔をなさっていましたわ。どうしてでしょう?わたくしの怪訝そうに見つめる視線に耐えかねたのか言い訳をなさいます。
「いや、だってほら。愛結花が否定すると思っていたから。愛結花はそこまで自分の事話したがらないでしょう。」
確かにあまり話していませんでしたわね。ならば、これはわたくしが悪いですわね。
「そうでしたわね。ですが佑人様ですし良いかと思ったんですの。
だってわたくしは佑人様の事をその、こ、好ましいと思っておりますし。」
顔が熱くなってしまいますわ。見られないように顔を手で隠しながらそっぽを向きます。先ほどの事もありましたし、少しわたくしからも行動を変えてみようと思えるようになりましたの。赤い顔を見られたくなくて手で顔を隠しましたのに、佑人様に手を取られてしまいましたわ。
「……嬉しいよ、愛結花。両想いだとは思ってなかった。」
佑人様の嬉しそうな蕩ける笑みに見入ってしまいましたわ。そして、その後に触れるだけのキスを。
前世含めての初恋が佑人様なのです。キスだって初めてですわ。
一度唇を離れてからもう一度キスをします。何となく、離れ難いと考えていると佑人様がわたくしから離れていってしまいました。何となく寂しいと考えてしまっている私の考えが恥ずかしくて顔を手で隠します。
「ごめん。愛結花、大丈夫?その、嬉しくて舞い上がっちゃって。余裕も無かったし……」
「だ、大丈夫ですわ。」
恥ずかしいだけですもの。
うぅ。しばらく佑人様の顔を見たくないですわ。見たら絶対、顔が熱くなってしまいますもの。
「だったら、顔見せてよ。今日はキス、もうしないから。」
「とてもお見せできるような顔ではないだけですのでお気になさらず。」
「愛結花の見れない顔なんてないからね?」
そのような事を言われたら手を顔から離すしかないじゃないですか。ずるいですわ。
ですからしぶしぶ手を離しましたわ。
ですので、手を離して佑人様を見てみると佑人様もほんのりと目元が赤くなられていらっしゃったのは驚きましたわ。
しばらく互いに顔を見れずにそっぽを向いていましたわ。その沈黙を破いたのは突然響いたノックの音でした。
「愛結花、佑人君。」
「ちょっといいかな?」
「勿論ですわ。お兄様、お姉様。どうかなさいましたか?」
助かりましたわ。あのまま時間が過ぎていたら次二人で会う時どのような顔をしたら良いのかわからなかったでしょうから。
「愛衣菜から学校でのことを聞いてね。
佑人君が愛結花の事、守ってくれたんでしょ。ありがとう。」
「いえいえ、当然のことをしたまでですから。」
わたくしを守ることが当然のこと、ですか。前世では考えられないことですわね。嬉しいですわ。ですが、今は顔を引き締めておきましょう。この事だけを話に来たのではないことぐらい察しがつきますもの。
「それでね、鈴木君が愛結花に近寄らないようにしたいの。だけど、あれでも生徒会の人だからすぐに退学にはできなくてね。だから出来る限り愛結花と一緒にいてほしいんだけど良いかな?」
「愛結花もこういう事があったから婚約を発表した方が良いとお父様たちが判断されたの。だから、婚約を発表することになるけど大丈夫かな?それと、クラスは違うから簡単にクラスのおともだちに伝えといた方がいいよね。」
「もちろんです。」
「分かりましたわ。」
わたくしの事を考えて提案して下さっている事が嬉しいですわ、その家族の優しさが。
「それじゃあ、邪魔したね。」
「佑人君、ごゆっくりどうぞ~。」
お姉様のこの生温かい目は何なのでしょうか。なんだか居心地が悪いですわ。
その後、急遽一週間後にある真宮家主催のパーティーで婚約を発表いたしましたわ。この急な発表にこの一週間のわたくしたちを見ていた学園の方やその話を聞いていた方は納得されて、そうでない方にはとても驚かれましたわ。まぁ、当然だとは思いますがね。
学園では口では祝福してもらいましたが嫉妬や妬みなどの悪意ある視線や言葉を投げかけられることもありましたわ。
ですが、佑人様を筆頭に凛さんや小夜子さんなどに助けてもらいましたわ。特に佑人様との婚約が政略ではなく恋愛だったということが広まったのが大きいのかもしれませんわね。
そして、一か月後には鈴木様が自主退学という事で学園を去られました。あの時の事は生徒に公にされていないので皆さま驚かれてましたわ。生徒会に入れるほどの方ですからね。
わたくしも一応驚いたふりをしておきましたわ。ですが、内心ではほっと息を吐きましたわ。もう、学園で怯えなくて済みますもの。外では一人ではありませんので怯えることはないのですがね。
そして、今日も佑人様と一緒に帰ります。毎回、どちらかの部屋によって話す等をしておりますわ。等の部分はあまり考えたくないですわね。恥ずかしいんですもの。
そして、急に黙り込んだわたくしを不審に思って佑人様に声をかけられましたわ。
「愛結花、どうしたの?」
「ただ、感慨深くなっているだけですわ。」
「それまたどうしたの?」
「前は不幸せで今世は悪役令嬢でも幸せになれるんだと思いましたの。」
「え、悪役令嬢って?
まあ、いいや。愛結花が話したくないのなら。」
正直、触れられたくない部分なので助かりますわ。
その後にはキスをします。わたくしの事を確かめるように求めるようにするのですわ。
とても心配をかけたことは自覚しておりますわ。ですので、甘んじて受け入れますの。他にも理由はあるのですが口に出さずに、察して頂きたいものですわ。
わたくしは今、とても幸せな日々をおくっていますわ。
ただ、もっと望んで良いのなら平穏であると嬉しいのですがね。
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m