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出会い part2

「あっ、気付いてたんだ?」

 そう言った安芸山さんの笑顔はこれまでで一番恐ろしかった。


 ☆


「気付いていたなら話は早い⋯⋯さぁ、卓也君、君と私でより深い契約を結ぼうではないか?」

 そういうところがカツカツカツカツ僕の方へ近づいてくる。  

 笑顔なのだが、完全に目がいっている。

「よ、より深い契約⋯⋯契約すらしてないのに?」 

 とりあえず、話の矛先を変えてみる。

「契約は私の手を握った時点で完了している⋯⋯」

「契約がお手軽すぎるよ!」

 悪徳業者並みの闇契約。

 しかもクーリングオフは多分不可。

「あれはただの仮契約⋯⋯今から本当の契約を行なって、私と貴方は本当の契約者となる⋯⋯」

 そう言うと、彼女はブレザーを脱ぎ、おもむろにカッターシャツの胸ポケットから小さめの果物ナイフを取り出した。 

 ⋯⋯

「え、え!? ちょ、ちょっと安芸山さん、何やってんの!? てかどこにいれてんの?」

 何してんのこの娘!?

 メンヘラなの、中二病なの?

「止めないで、卓也くん⋯⋯君が私の血を舐めることで、私とあなたの契約は完璧になる⋯⋯」


「なにわけのわかんないこと言ってるんだよ! そんな簡単に自分の身体傷つけちゃダメだよ!」

「大丈夫、君が私の血を舐めれば全ては解決する⋯⋯」

「全然解決しないよ!? いいからそれを早く離して!」

「いやだ、君と契約するんだ!」

 お互いの気持ちが交差した結果、揉み合いになってしまう。離せ離さないの押し問答。嫌な予感しかしない。


 グサッと嫌な音がした。

「あっ⋯⋯」

 揉み合いをしている間にナイフが安芸山さんの腕に刺さってしまった。しかも運悪く、カッターシャツの隙間から地肌に。

 吹き出した血が顔にもかかっている。

 真っ白な肌とのコントラストが綺麗⋯⋯じゃなくて!

「あっ、その⋯⋯ごm「あはははは!  あはっ、卓也くん! これでやっと契約が結べるね! さぁ、早く私の血を舐めて!」

 安芸山さんが唇の血をペロッと舐め、そう言った。

 さながらその姿はホラー映画の犯人のよう。

 腕からは鮮血がどくどくと流れている。

「さぁ、さぁ、さぁ、早く! 早く!」

 狂気を孕んだキラキラした目で安芸山さんは僕を見ている。ピチャピチャ血が落ちる音が耳に残る。

 ねえ、なんでそんな目ができるの? なんで楽しそうなの?

 怪我してるんだよ、血もいっぱい出てるんだよ?

「あはははは、早く舐めなよ! あはっ、アハっ、あはは!」

 安芸山さんのワイシャツが血で真っ赤に染まっていく。

「舐めてよ、ねえ、舐めてよ!」

 ダメだ、もうダメだ!

「ねえ、早「ごめん、安芸山さん、それはできない」

「ど、どうして? 血を舐めてくれるだけでいいんだよ!」

「そんな大怪我している人の血なんて舐められないよ!」

 安芸山さんの体をヒョイっと持ち上げる。

 見た目にそぐわず軽く、かんたんにもちあがった。

「ばか、ばか、離せ、離せ!」

 腕の中でジタバタ抵抗する安芸山さんを無視して()()()()()()の形で廊下に飛び出した。



 *


「ほら、もうこれで大丈夫⋯⋯もうあんなことしないでよね」

「⋯⋯」

 プイッと顔を背けられた。


 あの後、全速力で保健室に駆け込んだが、先生がいなかったので、とりあえずナイフを抜いて応急処置をした。まぁ、先生がいなかったのは逆によかったかもしれない。

 ナイフの説明をする手間が省けた。

 というより傷は浅いとはいえ、結構出血をしていたのに止血した僕を褒めて欲しい。

 それよりも⋯⋯

「⋯⋯プイッ」

 むくれた顔をしてこっちに目を向けてくれない安芸山さんのほうが問題だ。

「ねえねえ、安芸山さん、そろそろ機嫌直してくれませんか?」

「⋯⋯プイッ」

 ダメだ、こりゃ。

 でも、あの状況で血をベロベロ舐められるほど僕は人間として出来ちゃいない。 

 ていうかこれに関しては僕悪くないよね?

 でも、この状況が続くのはあんまり気が進まないのもたしか。

「⋯⋯ったく、しょうがないな」

 僕は安芸山さんから取り上げたナイフで指をちょっと切る。

「ちょ、卓也くん、何を⋯⋯」

「ほら、血出ただろ? 君がこれを舐めても契約、できたりしないかな?」

「⋯⋯うん、できる! できるよ!」

 パッと顔を明るくして僕の指にしゃぶりつく。

 やばい、自分でやっといてだけどこれめっちゃ恥ずかしい。そしてエロい。この年になって女の子に指を吸われるなんて思わなかった。

「⋯⋯よし、これで契約完了。君と私は契約者パートナー

 そう言って安芸山さんはニコッと笑った。

 その笑顔はこれまでの怖いものとは違い、とても可愛いものだった。ほんと顔はいいんだよな、顔は。


「よし、卓也君、早く掃除行こう!」

「でも、まだ血が⋯⋯」

「これくらい無問題もうまんたい。パパってやってパパっと帰ろう」

「⋯⋯そうだね」

 まぁ、本人が大丈夫そうならいいか。 

「あ、あと⋯⋯」

「ん?」

「あ、その⋯⋯ありがと」

「!?⋯⋯!!」

 赤面上目遣いでそう言う安芸山さんに思わずキュン死しそうになった。



 *


 その後、ほんとにちゃちゃっと掃除を終わらせることができた。安芸山さん、めちゃくちゃ手際がいい。先生には⋯⋯言わなくていいって言われたわ。

「よし、もう終わったし帰ろうか」

「⋯⋯待って」

 帰ろうとしたら服の裾を握られた。

 どうしたんだろう、告白か?

 もうされてたわ、ガハハ⋯⋯すいません。

「あの、私カッターシャツが血だらけになっちゃって⋯⋯ブレザーにも血がついちゃって⋯⋯」

 そういえばお姫様抱っこした時にナイフが見えないようにブレザーをかぶせたからブレザーにも血がついたんだ。

「こんな血がついていたら帰れないから、その、卓也くんのブレザー貸してほしい⋯⋯」

「⋯⋯!?」

「だ、だから、卓也くんのブレザーを⋯⋯」

「いやいや、僕のほうも血がついてるから!」

「男子のブレザー黒いから目立たない⋯⋯女子のは白いからすごく目立つ」

「いや、そうかもだけど⋯⋯その、あのね!」

「大丈夫、私は気にしない」

「僕が気にするよ!」

 ⋯⋯と言っても、たしかに血が滲んだ制服では何か事件があったかのようにしか見えない。

 でも、これを貸すのは⋯⋯単純に恥ずい。

「⋯⋯?」

 期待を込めた目で安芸山さんはこっちを見ている。

 ⋯⋯あぁ、もう!

「わかったよ、僕のブレザー貸すから着なよ!」

「⋯⋯ありがとう⋯⋯卓也くんの匂いがいっぱいする⋯⋯」

「そういうのやめて!」


 *


「じゃあね、安芸山さん、また明日」

「うん、じゃあね」

 校門で安芸山さんにまたね、と手を振り帰路に着く。

 頭の中で濃すぎる今日の一日を振り返る。

 安芸山さんに告白されて、安芸山さんに血がなんたらって迫られて⋯⋯ほんと濃密。

 そういえば、安芸山さんに地獄の底まで愛してね、とか言われてたな。

 安芸山さんの見た目だけならそこまで愛する自信があるけど、中身がね⋯⋯それに会ったばかりだし。

 いや、でも昔からなんとかとも言ってたような⋯⋯

 そんなことを考えていると背中に柔らかい感触が。

 振り返ってみると僕のブレザーに身を包んだ安芸山さんがいた。

 今度こそどうしたんだろう? 

 告白か? もうさ⋯⋯このネタはいいや。

 安芸山さんはものすごく申し訳なさそうな顔で

「あの⋯⋯鍵無くしちゃったので⋯⋯卓也君の家お邪魔してもいいですか?」

「は?」

 思わず素で問い返した。

安芸山さんの喋りかた安定しないけどこういうものです。

ポケットにナイフなんか入る訳ないやろ!って思って自分のカッターシャツで試したら入りました。(入れちゃダメだよ)

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