出会い part1
2話です
ーあの子、可愛かったな。
ー綺麗な黒髪で青い目で。
ーでもちょっと、イタイ子だったな。
ー服装はゴスロリだし、なんかちっちゃい帽子付きの変なカチューシャてるし。
ーいきなり初対面で地獄の底まで愛してなんてわけわからないよ。現実的じゃなさすぎるよ。
ーでも「いつもそばにいるから大丈夫⋯⋯今も、昔も⋯⋯」ってどういうことだろう。
ーそれより1番の問題は⋯⋯
「このせいで学校遅れそうなことだよ! 入学3日目から遅刻してたまるかー!」
僕は決死の全力ダッシュをした。
しかし無情にもHRの開始をつけるチャイムが鳴りひびいた。
僕ー田中卓也は頭を抱えた。
*
「ふぅ、なんとか間に合ったぜ」
「間に合ってねえよ、遅刻だ遅刻。3日目から早速遅刻とは前代未聞だぜ、田中くん」
クールに教室に入った僕に先生からもクールなツッコミが入る。
「いやー、すいません、先生。実は登校中に美少女に絡まれまして⋯⋯」
「んなわけあるか、もっとマシな嘘つけ」
先生とのやりとりにクラスがどっと盛り上がる。
周りから「田中君おもしろーい」や、「田中いいキャラしてんな」などの声が聞こえてくる。
ふふふ、高校デビューは成功しているようだ。
てことは遅刻も悪くないかも、なんてね。
「はいはい、みんな落ち着いて。田中も早く座れ、HRが進まんから」
「はーい」
僕が席に座ると先生は話の続きを始めた。
しかし先生の話が長い、長い。
授業の説明とか明日の身体検査の説明とか⋯⋯いや、本当に長い。
もう1時間目始まってる⋯⋯と思ったけど1時間目もHRでした。なんなら2時間目も3時間目も。泣いていいですか?
退屈しのぎに落書きをしているとガラガラとドアが開いた。
みんなの視線がそこに集中する。
そこにいたのは黒髪で⋯⋯
「おい、安芸山、もう1時間目は始まってるぞ」
吸い込まれるような青い目をしている⋯⋯
「⋯⋯ごめんなさい」
完全に、完璧にさっきの女の子だった。
⋯⋯
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
「うるさいぞ、田中!」
*
「なぁ、卓也、お前、安芸山さんに興味あんのか?」
「え、何言ってんの?」
地獄の3連HRを終えた休み時間に急にトイレで洋介がそんな話をしてきたので素で問い返してしまった。
「いや、だってさあ、さっき安芸山さんが来た時も大声だしてたし、それからもずっと見てたじゃん。もう惚れたのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど⋯⋯」
あのことを言うわけにはいかないし、口籠ってしまう。
田村洋介
席が前後というテンプレ的展開で仲良くなった、陽気で明るいやつだ。
入学式の時に知り合ったはずなんだがだが、その足で2人でカラオケに行って、ラーメンを食いに行ったりした。
要するにコミュ力の化け物。
「まぁ、あの子に惚れるきもちはよくわかる。ロリ顔小柄にすらっとスタイルの三拍子。おまけにほとんど喋らないおかげでミステリアスでクールな雰囲気も出ている。刺さる人にはばっちり刺さる、って感じの女の子だしな。ゴスロリとか似合いそう」
「お前、キモいな⋯⋯」
また素が出てしまった。
なんでこいつこんな分析しているんだ、まだ3日目だぞ。そしてゴスロリが似合うのは正解だ!
「と、に、か、く! お前が安芸山さんを狙っているなら俺は応援するぜ! なんたってお前の親友だからな!」
そう言って指をぐっと突き出してくる。
いろいろ不服だったがとりあえずノッておいた。
*
安芸山梨花ー出席番号1番、それ以外の情報は不明。
だって入学式からなーんも話してるとこ見たことないんだもん。ていうかしっかり顔を見たこと自体が初めだ。
今日も学校来てから一度も話してないから朝の出来事が嘘のように思えてくる。
でも、あんな綺麗な黒髪と青い目をした人間が他にこの街にいるとも思えない。
というか見た目だけならめっちゃ好みなんだよな。ゴスロリだって大好物だし。
僕に一目惚れしたなら直接告白してくれたらいいのに。それなら墓の中まで愛してやるのに。
「⋯⋯ほい、それじゃあ終わりのHRはこれで終わり、各自解散⋯⋯って言いたいところだったけど安芸山と田中。お前らちょっと職員室来い」
なんでキモいこと思ってたらなんか先生に呼び出された。僕たちが何したってんだ、遅刻だな!
「頑張れよ!」
小声で洋介にそう言われた。
何を頑張りゃいいんですかね⋯⋯。
*
「お前らなぁ、学校始まって3日で遅刻するとかなぁ⋯⋯学校舐めてんの? 舐めてんだろ!」
『ごめんなさい、ごめんなさい』
「反省してんのかぁ、本当に?」
やっぱり遅刻のことでお説教された。
まぁ、確かに3日で遅刻したら怒られるのは当然だろう。
隣の安芸山さんも頭をペコペコしている。多分平謝り。
「まぁ、反省してるかどうかはおいといて⋯⋯遅刻の罰として理科室の掃除、してもらうぞ」
「え、2人でですか?」
「当然だ。ほら、はよやってこい、はよ、はよ。終わったら勝手に帰っていいから」
「えーー」
こりゃ困った。貴重な放課後がなくなってしまう。
いや、それより⋯⋯
「⋯⋯」
安芸山さんと2人きりってのがやばい。
朝の件もあるし、喋ったこともないし⋯⋯気まずすぎるよ⋯⋯
*
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
気まずい。ほんと気まずい。
女の子と2人の時って何話したらいいんだろう?
いや、掃除に集中すりゃいいんだけど、無言はつらいじゃん?
だから何か話しかけたいんだけど⋯⋯
「⋯⋯安芸山さんって何か好きな物ある?」
「⋯⋯オムライス⋯⋯」
⋯⋯気まずいよ! 話してもすぐ話切れるし。
なんというか、喋りかけにくいオーラみたいなのが身体中から出ている。緊張しているのかな? そりゃねえか。
でも何か話題探さないと⋯⋯そうだ、朝のアレをちょっと濁して貰おう。
「あ、安芸山さんってゴスロリとか似合いそう⋯⋯なんてね」
そう言った途端パタン、と箒が地面に落ちる音がした。
嫌な予感がし、振り向くと安芸山さんはこっちを見て笑っていた。
しかし、
「あ、気付いていたんだ」
その笑顔は今まで見た中で一番怖かった。
昔友達から「いつもここで服買ってるんだー」ってロリータとかゴスロリとかの専門店のURLが送られてきました(作者は男)