74:毒使い、謁見めいたことをする
翌日、私たちは朝食を食べた後、早速王城へと足を運んだ。
足を運ぶと言っても歩いて行くわけではない。お出迎えの馬車だ。
「まったくお父様は……冒険者となったのですから移動は徒歩が常識だと、昨日も伝えたはずなのですが……」
「わざわざ呼び出すくらいですから、陛下も気を遣われたんじゃないですか? ボクは滅多に乗らないんで嬉しいですけど」
「きっと一刻も早くリーナさんにお会いしたかっただけですわ」
私はサフィーの意見に一票。
でもポロリンの言うとおり、なかなか王都の中で馬車に乗る機会もないし、なんか新鮮だね。
賑わう大通りを城に向かって進むと建物だらけの景色も素晴らしい。
ネルトも外の景色に釘づけだ。
「ん。初めて馬車のった」
おお、そうだったか。そういや王都までも徒歩で、冒険者になっても馬車の機会はなかったね。
どうだい? お尻痛いだろう?
まぁ大通りは整備されてるからそんなでもないんだけどね。
結局、貴族区に入る時と王城区画に入る時、それぞれ馬車を乗り継ぐ感じで王城まで馬車で来てしまった。
リーナを先頭に入場、そのまま馬車で迎えに来たセラさんに連れられ王城内を歩く。もちろんフードはとっています。
前にアロークのおっさんと来た時のように、城の入口でカードを見せて、なんてことはしない。
むしろ何も言わずに入るとメイドさん一同が「おかえりなさいませ、ダンデリーナ様」と揃って頭を下げる始末。
思わず「おお」と呟いてしまう庶民三人衆。本当にこんなことするんだと感心してしまう。あれ、練習とかしてるんだろうか。
しばらく進むと応接室のような場所に通された。
どうやら謁見の間とかではないらしい。一安心。
セラさんに給仕された紅茶を飲み始めようとした時に、急ぎ足で廊下を歩く音が聞こえた。
もうその様子だけで分かる。どんだけ急いで来たんだよ。
扉を開けて入って来たのは案の定、国王陛下。その後ろから何人か居る。
すかさず立ち上がり膝をつく我ら四人。もちろんリーナは立ったままだ。
「おお、ダンデリーナ! よくぞ帰って来た! 心配しておったぞ!」
「お父様大げさすぎます。まだ七日ほどでしょう?」
そういってリーナに速攻ハグする国王。やめてくれませんかねぇ、一般庶民の前ですよ。
顔を下げたままチラリと見ると国王の隣に、これまた超絶美人の女性。この顔まさか……。
「ダンデリーナ、陛下は確かに大げさですが、わたくしも心配しております。もう少し密に連絡くらいくれても良いでしょう?」
「お母様、そうは言いましてもわたくし達は王都に居るのです。お父様の目に届く範囲に居るのに毎日のように報告に戻るわけには参りません。わたくしは一人の冒険者なのですから」
やっぱお母さんか! すっげー美人! この人が確か第四王妃だよね。
第四王妃ってくらいだから表に出る人じゃないと思うんだけど、やっぱ一人娘が帰って来たからお出迎えか。
その後、ようやくハグに満足した国王の「楽にしてくれ」という言葉が出るまで、膝をつき続けたわけです。
本当は座らずに立っていたほうが気持ち的に楽なんだけど、言われるままに着席。リーナと並んで国王たちの向かいに座る。
おいネルト、お茶菓子食べちゃダメだからね! 我慢しなさい!
「さて、わざわざ呼び出して悪かったな。【輝く礁域】といったか。余がジオボルト王国国王、ジョバンニ・フォン・ジオボルトである」
急に威厳を出し始めた。今までの娘との絡みはなかった事にするつもりか。
パーティーを代表して喋るのは私の役目だ。
「はっ。お初にお目に掛かります。【輝く礁域】のパーティーリーダーを務めております、Dランクのピーゾンと申します。国王陛下におかれましてはお含み置き頂ければ幸いです」
「ふむ、なるほど大したものだ。ダンデリーナがリーダーに据えて置くのも頷ける。確か其方はまだ十歳とか。そのように堅苦しい言葉遣いは無用。楽にして構わん」
「……ありがとうございます」
前世が二五歳だったとしても今みたいなの使った事ないんだけど、本当に合ってたのか不安満載なんだが。
まぁとりあえず楽にしろって言うなら少しは楽させてもらいます。
正直、こんな調子だと何も喋れないんで。
「して、リーダーであるピーゾンの目から見て我が娘ダンデリーナの様子はどうだ? もちろん文武両道の天才であるからして活躍はしていると思うが」
「お父様! わたくしはまだ新人冒険者です! 先達であるピーゾン様たちの足手まといとならないよう、日々訓練を積んでいる最中なのです!」
「ほう、天才の上に努力を! なんという向上心か。それで、どうだ?」
うわぁ、なんか父娘の会話が成り立ってないんだけど……。
どうもうちの父母と似たような印象を受けますな。
「はい。ダンデリーナ殿下はパーティーでは前衛での攻撃……特に高い敏捷値を軸とした連続物理攻撃という面で助かっております。また例のスキルによる討伐後の魔物の処理という面でも重要な存在です」
「ふむふむ」
「依頼以外の面でも初めてであろうホームでの生活において、家事や装備の手入れ、街中での買い出しといったものにも触れ、その経験を貪欲に吸収し、身につけようと日々努力なさっておいでです」
「な、なんと! ダンデリーナが家事を!?」
国王だけでなく、王妃様や周りのメイド・衛兵までもが目口を開ける。
あれ? ホームで暮らすって知ってるでしょ? メイドさんとかも知ってるはずなんだけど……。
もしや私たちがリーナの世話をして、リーナ自らが家事をやるとは思わなかったとか?
「当り前ですわ、国王陛下。ワタクシやダンデリーナ様と言えども、王族・貴族である前に一人の新人冒険者ですもの。ホームに住むからにはパーティーメンバー全員で家事を分担するのが当然ですわ」
「なんと! ではダンデリーナだけではなくサフィーも家事を行っていると!」
「当然ですわ! ねぇダンデリーナ様」
「ええ、冒険者となれば自分の世話は自分で行うのが当然です。ただ食事はポロリン様、掃除はネルト様にお願いする事がほとんどではありますが、なるべくわたくし自身で行いたいと思っております」
……そういった事は事前に説明しておいてくれませんかねぇ。
今さら「うちの王女にそんな事させてんのか!」とか言われても困りますよ。
しかし王侯貴族の箱入り娘が冒険者になるという事が、即ちこういう事だぞと理解していなかった面々にはショックが大きいらしい。
「これはメイドを十人ばかり派遣した方が……」
「陛下、でしたら衛兵も十人ほど……」
「やめて下さい、お父様、お母様」
「ホームに入り切りませんわ。それに冒険者となりホームに住む意味がないでしょう」
もうそっちで会議しててくれませんかねぇ。
あ、メイド一人くらいなら面倒見れますぜ? 一階の客間空いてるし。
……とは言える空気ではないんだけど。
しばらく家族会議したところで、渋々納得したらしい。
国王や王妃様としては家から飛び出したリーナの生活を何より心配していて、冒険者どうこうよりも、むしろホームでの生活について質問が結構きた。
ついでとばかりにリバーシも売り込んでおいた。
こういうのやってるんですよ、リーナは強くてねぇ、あぁ今度里帰りの時には一緒に遊んでみたらどうです? みたいな。あとはベルドットさんに任せよう。
そして最後の方には、こんな質問が。
「それで……その……其方はポロリンというのか?」
「は、はいっ!」
「いや、すまんな、其方が男だと聞いておったから身構えていたのだ。やはり間違いであったらしい。余の杞憂であった」
「えっと、その、ボクは男ですが……」
どんだけビックリするんだよ、という目の開き方でポロリンに視線が集中する。
部屋に居る私たち以外の全員だ。
国王や王妃様はポロリンを見ても尚、親の贔屓目でリーナの方が可愛いと思うだろうが、果たしてメイドさんや衛兵さんはどうか。
リーナをも超える美少女の登場、そしてそれが男だと分かった時のなんとも言えない感情。筆舌に尽くしがたい。
「なん……だと……」
「ま、まさか……」
「そ、そんなばかな……」
そんな呟きが漏れる。
逸早く正気に戻ったのはやはりリーナが一番可愛いと思っているであろう国王夫妻。
「いやいや、其方にチ〇コがついてるわけなかろう」
「そ、そうです。まさかチ〇コがついているなどと……」
「お父様、お母様! ポロリン様にチ〇コはついております!」
「チ、チ〇コとか言わないで下さいっ!」(美少女憤慨ポーズ)
「グリッド……しかも案外大きい」
「ネルトさん!? やめて!」(美少女憤慨ポーズ)
「セクシーチ〇コですわね」
「サフィーさん!?」(美少女驚愕ポーズ)
もうなんか要件済んだみたいだから、さっさと退室しよう。うん。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




