73:毒使いの日常
ホームを手に入れたことだし、何日かに一度は休日をちゃんと入れる事にした。
これは主に、買い出しやホームの掃除を目的にしている。
一応、毎日……特に私室は掃除してるんだけどね。王侯貴族の寝床は毎日メイドさんがベッドメイクとかしてただろうし。
ホームが広いので、平日(冒険者の活動及び特訓の日)だけでは行き届かないところもあるのだ。
この日も、いつもの特訓を終えて、昼休憩。そこから依頼報酬になりそうな魔物や採取物を探す。
私たちはDランクパーティーなので、この王都近辺だとDかEランクの依頼が狙い目だ。
となると、やはりオークかファングボア、悪くてもブラックウルフが望ましい。
特訓場所から少し奥に入っての探索、もしくはポロリンの<呼び込み>を使う。ポロリンまじ使える。あと森が拓けた場所ならネルトのホークアイね。
連携の実戦訓練も含まれるので、色々と試行錯誤しながらの魔物討伐。
五人で話し合いながら成長できる環境というのは非常にありがたい。
特に王侯貴族の二人は新人ながらも年上だし、質問や反対意見などバンバン言うタイプなので助かる。ポロリンは私に口答えまずしないし、ネルトは「ん」か「ん?」だけだ。
そういう意味でもパーティーとして成長していると感じる。
狩りが終わり、まだ夕方の混雑が始まる前の冒険者ギルドへ行く。
依頼ボードをチェックして、達成できそうな依頼があればゲット。なければそのまま買い取り窓口へ。
ちなみに当然のように注目を浴びている。
ウサギと猫と狐と犬とチャイナ美少女である。慣れていない人には二度見・三度見される。私、ネルト、リーナは無視。ポロリンは諦め顔。唯一「目立ってなんぼ」とばかりに胸を張るのはサフィーだ。
「おお、相変わらずいい量だな! 助かるぜ!」
買い取り窓口や解体室のおっさんもだいぶ毒されてきたらしい。喜ばしいことだ。
魔物はリーナが<パッケージング>で血抜きし、解体したものに<タンポポ乗せ>で鮮度を保ち、それを魔法の鞄に詰めている。
魔法の鞄はリーナもサフィーも持っている。自前だ。さすが王侯貴族、魔法の鞄ごとき家にいくらでもあるのだろう。おかげで持って帰れる量が増えたのは嬉しいことだ。
オーク肉などはうちで食べる分を、これまた<パッケージング>して持ち帰る。タンポポと一緒に<パッケージング>すれば、そのまま保存が効くのだ。リーナまじ歩く冷蔵庫。
ホームに帰ると、まずは部屋着に着替えてお風呂に入る。
お風呂を沸かすのはリーナとサフィーの仕事。と言っても魔石に魔力を流すだけのお仕事だけどね。ついでに地下保冷庫や室内灯、水道やトイレの魔石に魔力注入も任せている。
お風呂に順番に入る間に、洗濯と部屋の掃除を行う。基本的にはネルトの<生活魔法>『洗浄』だ。家事はネルトの負担が一番多いので、出来る限りのところは自分たちでやろうと王侯貴族も魔力注入や自室の掃除をしているのだ。
シーツなども『洗浄』した後で自分たちにベッドメイクさせる。これも勉強。
「こう折って、こう畳むでしょ? そうすると、こんな感じで棚に仕舞いやすい。で、取る時はこっちから取ると古い順から使えるわけだよ」
「なるほど、畳み方と収納の仕方ですか。勉強になります」
「ピーゾンさん、下着の畳み方が上手くいきませんの」
『洗浄』はネルトに任せても洗濯物を畳んで仕舞って、また自分で出して使う……っていう当たり前の事が出来ない二人。
これを教えるのも私の仕事。ホントは料理の方で貢献したかったんだけどね。なぜか出来なかったんだよね……。
ポロリンは食事の支度。「ふんふ~ん」と上機嫌。リーナ以上にエプロンが似合います。
時々、私がリクエスト……というか横から指示を出すだけの前世メニューを作らせたりする。口しか出さずに非常に申し訳ない。
「絶対にピーゾンさん、触らないで下さいね!」
人を毒物扱いしおって。ぐぬぬ。あ、すいません、はい、触りません。
色々と作ってもらいたいものは多いんだが、いかんせん海産物がない。いや、あっても干物とかで超高い。
従って出汁に困るのだ。味噌汁は諦めている。買った味噌は味噌だれとかに使う感じで。
コンソメも作れそうだけど手間がかかるので休日じゃないと無理そう。
特に評価の高かったのは、やはり揚げ物。トンカツとかフライドポテトとか。
やはり油で揚げるってのは一般的ではないようだ。
あとは牛乳があればポタージュとかビシソワーズとか作りたい……あ、ごめん、作らせたいんだけど。
みんながお風呂から上がってから食事。
後片付けはみんなでやります。ここでもネルトの『洗浄』が活躍。他は棚にしまう係。
それから寝るまでは装備の手入れだったり、喋ってたり、リバーシしたりしている。
パーティー内でリバーシが強いのは、ネルト・リーナ・私・ポロリン・サフィーの順です。今のところ。
あ、あれ? 私、考案者のはずなんだけど?
リーナは分かる。この娘天才。秀才の上に天才。
しかしネルトはその上を行くという驚愕の事実。いや、頭は良いと思ってましたよ? 訓練とか見てても吸収力も応用力も判断力も高いわけで。でもろくに勉強できない環境にいた孤児が天才王女を上回るかね。どうやら無口の裏側で脳内が高速回転しているらしい。
だが、一つ言わせてほしい。じゃあ山賊なんかに捕まるなよ、と。
一方で努力家の秀才、サフィーはこういったゲームに向いていないらしい。
勢いで目先の石をひっくり返そうとする。「ほぉら御覧なさい! 黒に変えましたわ! オーーッホッホッホ! ……んなっ!?」というのがパターン。
終いには地道な凡人ポロリンにも負ける始末。見ていて面白い。
ちなみにリバーシが発売されてまだ数日ではあるが、商業ギルドのメルルさんに会ってきた。
どんなもんかなーと様子見だったが、早くもぼちぼち売れているらしい。ベルドットさんの根回しが上手くいっているのだろう。
私の口座への入金は月を跨がないと入ってこないらしいが、メルルさんの予想だと、おそらくその入金時の税金だけでEランクへの昇格となるだろうという事だ。
おいおい、どんだけ金入ってくるんだと戦々恐々している。
ともかく、そうして寝るまで和気藹々と過ごす。
こうした時間も悪くない。改めてパーティーに入ってくれたみんなに感謝だ。
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ホームに住み始めて一週間、その日も夕食後の談話室でまどろんでいると、コンコンとドアノッカーが鳴った。
こんな夜更けに……と不審に思い、ネルトにグリッドを依頼する。
扉の向こうを空間認識――つまり透視してもらう。
「んー、メイドさんと衛兵さんが二人」
怪しい人じゃなさそうだけど……メイド? と思いつつ扉を開けると、そこに立っていたのはリーナ付きのメイドさんだった。荷物の搬入の時に見た事ある。
「夜分、恐れ入ります。ダンデリーナ様に言付けがあって参りました」
という事なのでリーナを呼んだ。
「ご無沙汰しております、ダンデリーナ様」
「セラではないですか。どうしました、こんな夜分に」
「申し訳ございません。陛下から至急の言伝という事で急ぎ参りました」
「お父様から?」
おう、国王陛下か! なんかもうリーナの父親が国王って忘れそうになるんだよね。
もうすっかり私たちの仲間って感じだからさ。そういやリーナはダンデリーナ第七王女殿下だったわ、と。
「明日にでも一度顔を見せに来てほしいそうです」
「急な話しですね。わたくし一人で行けばよろしいですか?」
「いえ、パーティーの皆様でと」
うわぁ……国王からのお呼び出しとか……。
リーナ一人じゃダメなのかな。なんか私たち全員に依頼とか?
「おそらくリーナさんが居なくなって寂しいだけですわ。陛下はリーナさんを大層可愛がってらっしゃいますし、ワタクシはともかく、どんなパーティーメンバーなのかと不安に思うところもあるのでしょう」
「あー、なるほど。確かに顔見せはしておくべきだったね。失念してたよ」
お宅のお嬢さんをお預かり致します、と。
貰いうけます、と。……そこまでいくと嫁に貰う感じになるな。
「そうでしょうか? わたくし達は王都から離れて暮らしているわけではありませんし、お父様がそこまで心配するとは思えませんが……」
なお当の本人はそこまで溺愛されているとは思っていない模様。
サフィーもセラさんも「いやいやいや」って顔してる。
これはもう国王がリーナを溺愛してるのが周知の事実って事だよね。
ますます行きたくなくなってきたなぁ。
まぁそうは言えないのが一般庶民の悲しいところ。
……とりあえずネルトに少しは礼節を教えないと。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




