68:毒使い、引っ越しの買い出しをする
「パーティー資金は……金貨五〇枚くらいかな。まぁ足りるよね」
「ピーゾン様、わたくしは加入したばかりです。パーティー資金から出して頂くわけには参りません」
「そうですわ! なんでしたらこちらから幾分か援助いたします!」
「そりゃダメだよ。パーティーの活動に必要なもの……食事とか装備もパーティー資金から出す。それ以外に個人的に必要なものは分配したお小遣いから出してもらう。これがルールだからね」
そうは言ってもポロリンもネルトもお小遣いあんまり使ってないけど。
下着とか日用品とか仕送りとかに回してるっぽい。あとネルトのおやつ。
リーナもサフィーもまだ仕事していない現状で施しを受けているようで気が引けるらしく、とりあえず二人の部屋の必要品と現段階での日用品は自分で買ってもらい、装備品は応相談とした。
サフィーが冒険者デビュー用に狐マントを自前で買ったからね。今後パーティーで必要と思った装備はパーティー資金で買いましょうと。
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まずはそろそろお昼なので、大通りに出て、露店で適当に買う。
串焼きに飲み物、それとサンドイッチってとこかな。いつもこんな感じ。
当然ながらリーナとサフィーは露店で買ってそのまま食べるなんて経験ないので、そこらのベンチで食べるにしても「テーブルはありませんの?」とか「カトラリーは……」とか言い出す。そんなもんないです。これが庶民、そして冒険者の食事です。
どう食べていいものか悩んだものの、口にしてみれば美味しかったらしく、非常に楽し気だった。まぁ王城とかに住んでると経験できないだろうね。
「なるほど、とても美味しいです。この雰囲気、この食べ方もまたスパイスになるのでしょう」
「ワタクシ大変気に入りましたわ! 今度もっと露店の味を堪能いたしましょう!」
うんうんと頷くネルトの手には五本の串焼きがあった。
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というわけで買い物です。細々と買い物があるので、色々と揃う商会に行こうかと。
この広い王都でいちいちお店を探してうろつくのは時間が掛かりすぎる。
大きな商会であれば大抵のものは買えるだろうしね。店置きがなくても取り寄せできるし。
どこがいいかと考えた結果、ベルドット商会に行くことにした。
顔見知りだし、大きい商会って言うのは分かってるしね。ついでにリバーシがどうなったかも聞いておきたい。
ポロリンは「ベルドット商会で買い物!?」と早くもビビりモード。田舎の商店街で働いていた子供が日本橋〇越で買い物するようなものなのかも。
リーナとサフィーもベルドット商会は知っているらしい。貴族専門の商会じゃないらしいけどね。やはり手広い大手という事だろう。
ベルドット商会は中央区の少し北寄りの大通り沿い。つまり私たちのホームから近いんですよ。
なるほどここから商業ギルドまで走ってきたのならそんな時間掛からないなと納得した。
あの時は可哀想だったなぁ……。
「でかっ」「うわぁ~!」「おお」「わたくしも来たのは初めてです」「ワタクシもですわ!」
着いてみれば、まさしくデパートである。今までのこの世界の常識が覆る。
冒険者ギルドと同じくらい大きいんじゃないだろうか。市役所まで行かなくとも町役場くらいはある。
自前の警備員だろうか、入口に二人立っており、そこから店内に入れば所狭しと商品が陳列されている。
どうやら三階建てで一、二階が売り場らしい。一階が生活雑貨、二階が衣類や生地などを扱ってるらしい。
とりあえず一階の近場から順に見て行くが、どれも目移りする。
五人ともテンションが高い。ネルトを含め女子組ももちろんだが、ポロリンもだ。それが道具屋の息子としてなのか、乙女心を持っているからなのかは分からない。
こりゃ時間かかるぞ。
「さすがに良い品揃えですね。ずっと見入ってしまいます」
「んまぁ! あちらのお皿なんてよろしいんじゃありませんこと!?」
「それだと普段使いしづらいなぁ。量と大きさ各種欲しい。あとコップ、カトラリーとか調理道具もね」
「調理道具もいっぱいだね! ボク作るの楽しみだな~」
「あ、もうポロリン料理担当に決まったのね」
「ピーゾン、これ買いたい」
「こんな大きなぬいぐるみはダメです。お小遣い溜めて買いなさい。とりあえずこっちの小さいやつにしておけば?」
「んー…………」
さすがに特大サイズの熊のぬいぐるみなんてパーティー資金じゃ買いませんよ。
自室用なんだから自分のお小遣いで買える範囲で買いなさい。
超迷ってるけどね。それ金貨何枚ってレベルでしょ。買ったらすっからかんでおやつ買えなくなるんだから諦めなさい。
他にもお風呂用品、掃除用品、装備のお手入れ用品、布類、タオル類、下着、室内着、寝間着、などなど買う物は非常に多い。
手あたり次第に買って、魔法の鞄にぶち込んでいく。
「おや、ピーゾンさんではありませんか」
そう言って現れたのはベルドットさん。商会長だね。
小太りの気の良さそうなおじさんだ。
「っ! そ、そちらは、ダンデ―――」
「あーあー、ベルドットさん、ここだと目立ちますんで!」
「そ、そうですな……」
と、一気に青ざめたベルドットさんに連れられ応接室へと向かう。
「改めましてダンデリーナ様、そしてサフィー様ですな? 商会長のベルドットと申します。この度は我が商会にご足労頂きまして……」
「ベルドット商会には王家も度々お世話になっております。お邪魔しております」
「ストライド家も色々とお願いしておりますわ! しかしながら傅くのは結構ですわ、ワタクシたちは冒険者として来ておりますので」
ベルドットさんが子犬のような目で私を見つめる。どゆこと? と。
「えっと、リーナとサフィーは【輝く礁域】に入りましたんで、私のお仲間です」
「な、なんと! 誠ですか!」
「だから王侯貴族ではなく一冒険者として接して下さい。あまり「ダンデリーナ王女!」と騒がれることがないようにしたいので」
「は、はぁ……」
「あと、この店の近所にパーティーホーム借りたんですよ。すぐ裏なんですけど。それで今日は引っ越しの色々な買い出しに来たんです」
「裏……ああ、あそこの邸宅ですか!? えっ、そこにダンデリーナ様とサフィー様が住まわれると!?」
えっ、いけないの? 何か曰く付きの物件とか?
……違うらしい。単純に王女がご近所さんっていうのに恐縮してるっぽい。
とりあえずいい加減に落ち着かせて話がしたい。
「買い出しついでにリバーシの件も聞きたかったんですけど、どんな感じです?」
「そうですな……。ええ、リバーシの方は順調です。大量生産も始まっており、じきに大衆向けに販売予定です。すでに一部貴族様や取引先の有力者に試作をくばっており、周知を済ませております。あとは店に並べるだけですな」
「おー」
話してからまだ十日くらいなんだけどね。さすがに早い。
リーナとサフィーが「リバーシ?」という感じだったので、ベルドットさんが気を利かせて売り出し前の貴族用を一つくれた。
おおっ、これは予想以上に素晴らしいね。
折り畳み式の盤で、畳むと板には装飾が施されている。マットはどうするのかと思ったら何かの皮っぽい。これは見るからに豪華なリバーシだね。
石もちゃんと白黒になってる。何で作って何で色付けしてるのか分からん。すごい。
これはホームで遊ぶのもいいかもしれないね。教えついでに。
「すごいですね。さすがベルドットさん、マリリンさんオススメで正解でした」
「アハハ、そう言って頂けると嬉しいですな。なに、これから売り出すのが本番です。手ごたえはすでにありますので広まるのも時間の問題でしょう」
「まだゲームのアイデアはあるので、何かあったら言って下さい」
「ありがとうございます。お礼と言っては何ですが、是非とも本日の引っ越し祝いをさせて下さい。当店で買われるのでしたら出来る限りお安く致します」
まじか! ……と思ったけど、これリバーシのお礼じゃなくてリーナとサフィーに良い顔する為でしょう?
まぁいいけどね。安くしてもらえるのなら利用させてもらいますとも。
じゃあネルトの特大ぬいぐるみも……いや、あれはダメだ。あれはネルトが自分の小遣いで買わないと意味がない。
と、そんな経緯があり、余計に買いだめすることにした。ここぞとばかりにね。
ベッド用のマットレスとか掛布団、毛布も高級品にしちゃったよ。この世界のマットレスとかスプリングがそもそもないから固いんだよね。その点、高級品はそこそこ弾力がある。
あまりに大量の買い物で魔法の鞄にも入らないから、ホームまで運んでもらう事になった。
あざーす。多分また来まーす。
家へと手分けして運び入れ、それぞれを棚や収納に並べていく。
いきなり物が増えたなー。でも多分使い出したらアレが足りない、コレが足りないとなるんだろう。引っ越しあるあるだし。
もうすぐ夕方なので、ここでリーナとサフィーは帰宅。
明日の朝に荷物を持ってくると言う。
私たちは夕飯は外食にして、今日は後片付けだけかな。
あ、とりあえずお風呂はマストですからね。今日から入りますよ。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




