54:毒使い、王侯貴族の扱いに戸惑う
「ワタクシ、ストライド公爵家が長子、サフィー・フォン・ストライドと申しますわ!」
「んまぁ! Dランクパーティーですの!? せめてBランクくらいでないとワタクシの護衛は務まりませんわよ!?」
「んまぁ! 十歳! ワタクシより年下ではありませんの! これではどちらが護衛なのか分かりませんわ!」
「んまぁ! んまぁ! んまぁ!」
いいねぇ、この金髪ドリル。
なんかもう全く怒る気になれないと言うか、これぞ私が想像していたお貴族様って感じでさ。
やっと出会えたレアな生物を見ているような。いや、向こうからしたら私たちが珍妙なんだろうけど。
「サフィー様、ピーゾン様たちはわざわざ護衛を受けて下さったのです。わたくし達はこれから戦いの場に赴く身。ご不安は分かりますがピーゾン様たちもプロの冒険者です。信頼いたしましょう」
「んまぁ、ダンデリーナ様! さすがは主席にして第七王女、なんとも生真面目なご意見ですわね! 貴女様は護衛に守られていればよろしいですわ! 今回の演習、一番の討伐数を挙げるのはワタクシでしてよ!」
「サフィー様、この度の演習は競い合うものではございません。わたくし達は同じ班員として一致団結し―――」
なんか王女様と公爵令嬢の戦いが始まった。
すげえ。私いま超貴重な体験してるわー。いい見世物見てるわー。
と、そんな事を考えている場合じゃない。さっさと出発しなければ。
結局ディオとマックスが「まあまあ」と宥めて私たちは九人で歩き始めた。
これだけの生徒数で魔物の討伐演習するとなると、近場の森がごった返して魔物の取り合いになる為、クラスごとに離れるそうだ。
王都の付近はDクラスやEクラスといった成績の悪い生徒たちが向かう。
私たちSクラスは一番遠く、だいたい街道を一時間ほど歩いた先から森に入る。
その中でも第1班は主席のリーナと次席のサフィーが居る為、一番遠いらしい。
サフィーさん次席なのか。さすが公爵令嬢。
「さっさと行きますわよ! ワタクシは一番の戦果を挙げなければならないのですから!」
リーナへの対抗心だろうか、サフィーは戦果に拘っている。
一番先頭をずんずん歩くサフィーのすぐ後ろに取り巻きのシャボンとトトゥリア。
その後ろにディオとマックス。最後尾にリーナと私たちが話しながら進む。
「じゃあ私たちは本当に護衛だけなのね。戦いはリーナたちに任せて大丈夫なの?」
「はい。わたくし達も戦闘訓練での模擬戦の他、王都のダンジョンでの演習も行っています。都外の魔物は初めてですが、戦えないことはないでしょう」
「六人が連携できれば、ね」
「サフィー様はいつもああしてわたくしを気にかけて下さっているのです。普段も集団訓練で組むことはございますし、今回も頼りにしております」
あ、あれー? これはあれか?
サフィーはリーナに対抗心を燃やしているけど、リーナはサフィーが「心配してくれている」「忠告してくれている」って思ってる感じ?
リーナが生真面目な思考回路で肩透かししている?
サフィーさん、報われないライバルポジション?
なんかちょっとサフィーを応援したくなってきたわ。
「ただわたくし達も拙いところがございます。ピーゾン様たちから見て間違いがあればアドバイスなど頂ければ幸いです」
「そっか、それは構わないんだけど……みんな固有職なんだよね? お互いの能力とか把握できてるの? と言うか私たちが能力の分からない固有職相手にアドバイスするってのも不安なんだけど」
「皆、職の名前は公表しておりません。お見せ出来ないスキルなどもそれぞれ持っているはずです。ただし最低限の戦い方は教え合っております。
例えばわたくしでしたら短剣での前衛。軽装で敏捷を活かした戦い方になります。ディオ様とマックス様も前衛。サフィー様は中衛からの遊撃、シャボン様とトトゥリア様は後衛です」
なるほど六人パーティーとすればバランスは良いね。そういう班分けにしてるのかな。
「斥候は居る?」
「サフィー様ですね。ですから先頭を行かれているのでしょう。しかし申し訳ありませんがどのようなスキルで索敵などを行っているかは……」
「了解。じゃあサフィーに聞いてみるよ」
リーナにそう言うと、後ろのポロリンとネルトに振り返る。
「ネルト、どんな感じ?」
「んー、200m先にゴブリン五体」
「了解、ネルトは私と前線に行こうか。ポロリンは殿で護衛頼むね」
「了解」「ん」かっくん
そして私とネルトは先頭を行くサフィーに並ぶ。
「んまぁ、どうしましたの? 護衛は後方で大人しく見守るものですわよ?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、サフィーさんはこの班の斥候役なんでしょ? ダンジョンとかで魔物見つけるのとかどうやってたの?」
「んまぁ! ダンデリーナ様ですわね! 本当にお喋りですこと! ……まぁよろしいですわ。職は明かせませんがワタクシの察知能力は優秀でしてよ! 貴女方、ダンジョンは何階まで行かれましたの?」
何階……オーフェンダンジョンはすぐに出たし、あとは山賊の住処だけどあそこも全一階だったんだよなぁ。
「一階だね」
「んまぁ! ワタクシ達の演習でも三階まで行きましたわよ!? 本当に護衛大丈夫ですの!?」
ダンジョン基準で見られるとつらいんですよねぇ。
斥候がパーティーに入るまで避けてたから。罠怖いし。
「ダンジョンでもワタクシの察知能力で罠も魔物も未然に防いでましたわ! 今回の演習でももちろん大活躍! 逸早く魔物を察知し、逸早く倒しますわ! そしてワタクシがナンバーワンになりますわ! もうダンデリーナ様に後塵を拝することはございません!」
取り巻き二人が「お~」と拍手している。
なんかもう負けが見えてる選挙候補者みたいでつらい。諦めちゃいなよ。とっくに試合終了だよ。
「なるほど。で、サフィーさん、前方に魔物居るのは分かる?」
「……えっ……ど、どこにもおりませんわよ? 察知も働かないですし、ワタクシ目も良いですがどこにも……」
「もう少し歩くとゴブリンが五体出て来るから注意しててね。だよね、ネルト」
「ん」かっくん
「ほ、本当ですの? 全然そんな感じが……」
ふむ、どうやら範囲は狭いらしい。私の『気配察知』と同じような感じかも。
『危険察知』とかそれ系のスキルかな。
それでも罠が発見できるだけ素晴らしいけどね。
「…………あっ! ほ、本当に居ましたわ! 皆さん! 前方にゴブリン五体! 戦闘準備ですわっ!」
「分かりました、サフィー様! 標準戦闘隊形に移行して下さい! そのまま近づき接敵します! サフィー様は周囲の警戒を!」
『はいっ!』
おー、どうなる事かと思ったけどちゃんとしてるなぁ。サフィーも戦闘となるとリーナに突っかかったりしないらしい。
本当は自分一人で片付けたいんだろうけどね。真面目に警戒している。
ネルトに索敵で負けたのがショックだったのかもしれない。
……まぁネルトのホークアイは反則だと思うよ。
戦闘は思いの外順調だった。固有職とは思えないオーソドックスな戦闘。
使ったスキル……というかアーツも唯一マックスのスラッシュくらい。他はまだ見せないのか、見せられないのか。しかしマックスが<剣術>スキルを最低Lv2は持ってるのを確認できた。Lv2でスラッシュ覚えるはずだからね。
「もうちょっと前衛の間隔を開けるように意識しないと、シャボンさんの風魔法とトトゥリアさんの弓矢の邪魔になっちゃうよ。前衛の位置取りはリーナが指示して、サフィーさんはそれに不備がないか一歩下がって見たほうが良いよ」
「そうですね。アドバイスありがとうございます」
「んまぁ! ワタクシに指示とは口が過ぎますわよ!」
と私もアドバイスしてみるけど、リーナとサフィーが両極端なんだよなぁ。
怪我されても困るから口出すけどね。
場合によっちゃ手も出すけどね。
それから森へと入る。
視界が悪くなるので六人は密集隊形。先頭は相変わらずサフィーだ。
私たちも森だとネルトのホークアイが使えないので、私の『気配察知』でウサミミをピコらせる。ネルトはグリッドで前方の空間を索敵。
「そ、そのお可愛らしいウサギと黒猫はどちらで買われましたの?」
どうもサフィーさんが気になるらしい。
「これ中央区のファンシーショップ・マリリンってお店でね。店主のマリリンさんが【上級魔装技師】でさ、性能いいし値段も安くしてもらったんだよ」
「じょ、【上級魔装技師】!? それ魔装具ですの!?」
「そうそう、私たち三人とも装備はほとんどソコだよ」
「ピーゾン様、そのマリリン様という【上級魔装技師】の方は……」
「えーと『四天商』とか『幻想魔装』とか言われてるらしいんだけど……」
「んまっ! まさか『幻想魔装』のゴンザレスですの!?」
「ゴンザレス様と言えば、王都最高の魔装技師です。なんとあの方の作品を装備されているとは……そうですか、あの方のお店が……」
……そんな有名人だったのかゴン……いや、マリリンさん。
まさか王族と公爵令嬢が驚くほどとは。
サフィーが「これは一度下見に……しかしあの恰好は……」などとブツブツ言っている。おい索敵しろよ。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




