06:毒使い、冒険者になる
馬車に乗る事三日目、大きな城壁が見えた。
あの運命の日から七日、オーフェンよ!私は帰って来た!帰って来たくなかったけど!
門に並ぶ人や馬車の列はさほどでもない。時間が良かったのか。
すぐに私たちの受付が回って来た。
手続き自体は冒険者の仮登録証で問題なし。
やっぱ身分証明もらってきて正解だった。
私の仮登録証を見た衛兵さんが「ど……ゲフンゲフン」と言ってたのが気掛かりだけど。ある意味職務に忠実な衛兵さんだと思う。
そして都市内部へと入ったところでポットさんとソウザさんとはお別れだ。
「どうもありがとうございました」
「気を付けろよ」
「何かあったら商業ギルド経由で伝言下さい。頑張ってくださいね」
「はいっ!」
大通りを進む馬車を見送りながら、周りの景色を見る。
相変わらず人が多いし、建物も高いのがズラッと並んでいる。
下を見れば全てが石畳。村と全然違う活気ある街並み。さすが都市だね。
これで私が単なる村娘なら驚いているところなんだけど、あいにくと転生者なもんで。
(中世ヨーロッパ……いやそれより古い感じかな?二階建てばっかだし)
そのくらいにしか思わない。
でも電気とかない代わりに魔道具っぽい街灯とか見ると感動する。
そんな感じでテクテク歩き、宿をとるか冒険者ギルドで登録を済ますかと悩む。
どっちもポットさんに場所は聞いたんだけど、宿はオススメを数軒聞いたからね。どこにしようかって感じで。
で、結局ギルドの方が近そうだったんで、先に本登録しちゃう事にしました。
都市の中心部にある宿屋より一回り大きい建物。
入口は大きく開かれ、扉なんてものはない。出入り自由です、どうぞどうぞって感じ。
とは言え、そこに出入りする人は鎧を着た人や屈強な人だったりするので十歳のか弱い少女としては若干入りづらい。尚職業(略)
こういうのってオドオドしてると逆に絡まれるパターンでしょ?私知ってる。
だから勝手知ったる我が庭です、って感じでスタスタと入る。
……だが物珍しいのには違いない。
ついつい目を色々と向けてしまうのだ。
入ってすぐには依頼ボードってやつだろう、いくつかの大きな板に何枚も紙が貼ってある。おそらくランクで板が変わるんだろうなー。
依頼票とか詳しく見たいところだけど後回し。
そこから右に目を向ければカウンターに受付嬢さんたちが数人並んでいる。
その前には冒険者の人たちも列を作っていた。
依頼ボードの裏側は酒場スペース。やっぱこんな感じなんだなーと想像通り。
さらに奥には裏庭に出る扉や、受付の横には二階に上がる階段なんかも見える。
そうしてチラチラ見てたわけだけど、どうも絡まれる様子はない。
さすがに少女一人をいじめるって事はないのか、それとも品行方正な冒険者が集まっているのか……。
後々聞いた話しによれば、この時期は『職決め』の直後だから十歳の少年少女が相次いで登録するものなのだそうだ。
別に私が珍しい存在ではなく、「また来たな」とか「俺らもあれくらいの年齢で来たなぁ」とかそういう目で見られるらしい。
神経使って損したわ。
何はともあれ、カウンターの右端に『登録窓口』と書いてあったのでそこへ行く。
さすがに『受注窓口』や『報告窓口』『買い取り窓口』のように人は並んでいない。
受付嬢のお姉さんは眼鏡をかけた三つ編みお姉さんだ。図書館に居そう。
「すいません、これ仮登録証なんですけど、本登録に来ました」
「はい、確認しますね」
柔らかい対応。お姉さんは私から仮登録証を受け取ると中身に目を通していく。
そして眉間に皺がよった。
「職について私どもは公表も詮索もしない決まりとなっています。しかし貴女の場合ですとこの場でご説明するのに不都合が出ると思います。どうぞ奥の部屋へ」
「あ、はい」
そう促されるまま、お姉さんの後に続き、受付奥の扉から個室に入った。
やはり普通の登録の対応とは違っちゃうんだね。
ローテーブルを挟んでソファーに座りお姉さんが説明を始める。
「まず、冒険者登録はこちらで問題なく出来ます。冒険者カードも発行されますが、そこに書かれているのは『名前』『冒険者ランク』そして『職』などです。誰かに見せる時には気を付けて下さい」
「オーフェンに入る時に衛兵さんに見せたんですけど、そういうのはしょうがないですよね?」
「ええ、職は国で管理するものです。衛兵は国の管轄ですし、冒険者ギルドは組織上世界に跨りますが、守秘義務は国によって管理されています。例えばギルド内で「私【毒使い】ですけどパーティー募集してまーす」とか声高々には言わない方が良いという事です」
「言いませんよ、さすがに……」
このお姉さん、真面目なのかお茶目なのか分からなくなってきた。
誰が言うかい!出来る限り公表したくないわ!
「それと固有職の冒険者は五年間、王都を拠点にしなければならないという義務が発生します。これは未知または希少な職を手元で監視しておきたいという国の意図も含まれます。神殿でも説明あったかと思いますが」
「はい。それでいつまでに王都に行って拠点登録すればいいんですかね?」
「なるべく早く。と言っても王都までの旅費の事もありますし、レベル1のまま急いで来いという事はありません。まずはオーフェンで力をつけ、蓄えを多少でもした上で行かれるのが良いでしょう。中には冒険者になったは良いが力を出せずお金を稼げず王都に行けなかったという例もあるそうですが」
「えっ、そういう場合はどうするんです?」
「国が動いて強制連行ですね」
「うわ……」
逮捕ってか捕獲って感じだね。野良ユニークゲットだぜ!ってなもんで。
私はなるべく早めに王都に行くことにしよう。
「最長でも半年と見ていて下さい。職によってはもっと早く動かれる恐れもあります。貴女の場合ですと……なるべく早めが良いかと」
「ですよね」
私の場合、なるべく監視しておきたいって言うか危険物指定みたいな職だからね。
その後は冒険者の基本的な知識やルールを教えて貰った。ほぼポットさんに聞いたとおりだ。
結果、私は最低ランクの『Fランク』スタートでギルドカードを発行してもらった。
固有職であっても優遇はされないらしい。
ま、当然だよね。未知の職が戦闘や冒険者活動に有用かどうかなんて分からないんだから。
とりあえず、カード発行手数料で銀貨三枚を払い終了。
依頼ボードとか眺めたいけどまた今度にしよう。
よし!これで念願の冒険者になったぞ!
……うそです。念願じゃありませんでした。
ドゥーデドデーン、ドゥードゥデドデーン




