46:毒使い、ネルトを鍛える
オークキングを始め数十体のオークやブラックウルフなどなど、全ての買い取り額は総計で金貨四〇枚(約四百万円)にもなった。
これはワイバーンを越える買い取り額だ。まぁワイバーンが一体なのに対して何十体も居たってのが大きい。買い取りは数だよ兄貴。
オークキングの肉は当然のように高額で、普通のオークにしても需要が多すぎる。美味いからね、仕方ないね。
そうしてホクホク顔の我ら【輝く礁域】。
さっそくマリリンさんのお店に突撃するか、パーティーホームに住んじゃうかと浮かれていたものの、結局は先送りにした。
現状、装備も住まいも不足はないし、だったら継戦能力を上げる為にポーション類や薬などの補充にあてたほうが良いのでは、となったのだ。
オーク殲滅戦での教訓はいろいろとある。
それは主に戦い方の反省点で三人で話し合いながら戦略を練る必要があった。
中でも一番の課題はやはり新戦力のネルト。
とりあえず何をするにしてもMPを必要とするので、MPポーションの補充が真っ先に上がったのだ。現状下級MPポーションで十分なのだが、念の為中級MPポーションも手に入れておく。
そしてパーティーに回復要員が居ないのも問題点なので、普通のポーションや解毒ポーションも確保。
ついでにオークキング戦で使ったスタミナ回復剤も手に入れる。
錬金術ギルドの受付のお姉さんが「こんなの買うの貴女たちくらいですよ」的な事を言っていたが、私としてはこんな便利なものがなぜ売れないのか分からない。在庫よろしく。
そんなわけでオーク戦の翌日。私たちは買い物を済ませると、いつもの南門すぐの森で訓練を始めた。今日は依頼とか抜きで検証と訓練メインです。
オーク戦で新たに手にしたスキル。ポロリンとネルトでそれぞれある。
まずはポロリンだけど<健康体>というスキルを手に入れた。
これは他の職でも取得可能なスキルらしく、資料室のスキル大全にも載っていた。
効果は防御と抵抗のステータスが1.2倍。おまけに病気や状態異常にかかりにくくなるらしい。かなり羨ましいスキルだ。私が欲しい、切実に。
それと<セクシートンファー術>のアーツ、ハートアタック。
これは未知のアーツだったが検証の結果『心臓部への突きでダメージ増加』っぽい。
どれくらいダメージが増えるのかは謎だが、ポロリン待望のトンファー攻撃スキルという事で喜んでいる。おい、そのトンファー握って喜ぶのやめなさい、はしたないですよ。
続いてネルト。
<生活魔法>で照明を覚えたがこれは割愛。普通に暗闇を照らす系の便利魔法だ。
続いて<空間魔法>のホークアイ。つまりは″鷹の目″だね。
「おお、すごい」
ネルトも表情豊か(無表情)に驚いている。
王都の街中でも試してもらい、森の中でも試してもらっている。
効果は『天井が開放されている時、自分を中心とした高度からの俯瞰視界が見える』というもの。制約が少しあるものの非常に便利だ。
「高度は変えられる? 視点は動かせる? 動かすことで消費魔力は?」
「んー」
「ピーゾンさん……検証モードだね……」
と検証した結果、部屋などでは使えない事が分かった。ダンジョンなども同じだろう。ネルトと高度の俯瞰視点の間に遮蔽物がない状態でなければならないと。
高度は多分150~200mくらいだと思う。ネルトを中心とした半径300mくらいを俯瞰できる。まぁ森だと使いどころが限られるんだけど。高度を落とすことは可能。それに従って当然、俯瞰視野も狭まる。
視点も自分中心から動かせない。前方だけを注視したいとかは出来なかった。
そして問題の新スキル<室内空調>だ。
つまりはエアコンである。宿の部屋でも試したが、確かにエアコンだった。
風呂・洗濯・掃除いらずの<生活魔法>、動かなくても物がとれる<念力>、今後転移の可能性を秘めた<空間魔法>、確かに【ニートの魔女】にふさわしいラインナップだろう。
そこへきて手に入れたエアコンこと<室内空調>。
私はかなり怪しんでいる。ホントにエアコンのためだけのスキルなのか、と。
だって地味でしょ。先に覚えた<空間魔法>や<念力>より地味でしょ。普通、後に覚えるスキルほど強力になっていくものなんじゃないかと思うわけですよ。
「ん? でも便利」
「地味って言われてもねぇ……」
「まぁ騙されたと思って検証に付き合いなさいよ」
それから<室内空調>の本格的な検証を行った。
結果としたはやはり私の目に狂いはなかった。
「おお」
「すごいよ! ネルトさん!」
「うんうん、やっぱこれは使えるね」
問題は燃費かな。<念力>と合わせてネルトが使えるように戦術を組みますか。
♦
検証の後には訓練も行った。
課題に上がったのはやはりネルト。
何をするにもMPが掛かり、MPが尽きれば何も出来なくなる。
だからせめて杖を使った自己防衛くらいは出来たほうがいいだろうと。
「ん。お荷物は嫌」
かなり真面目にネルトは答えた。
孤児院で食費を圧迫させていた過去とダブらせているのだろうか。
別に『魔法使い』のネルトと私やポロリンが守るのは当たり前なんだけど、まぁ戦闘力が上がって損することないから鍛えましょ。
そうして木剣を持った私と木トンファーを持ったポロリンが攻撃を仕掛け、ネルトが杖で捌くという特訓を行う。
練習用に購入していたものだ。木トンファーは普通の武器屋では売ってないので『燃竜屋』で白銀トンファーと一緒に買ったもの。
訓練場にカンカンカンと忙しなく音が鳴る。
「真正面から受けちゃダメだよ。相手が真剣だったらネルトの杖切られちゃうからね。弾くか逸らすのが基本だよ」
「んー難しい」
「ネルトは数秒耐えればいいんだよ。数秒あれば<念力>使う隙もできるし、私たちがフォローに入れる時間が稼げる。相手の攻撃をどうにかしようじゃなくて、少しでも時間を稼ごうってつもりでいこう」
「ん」
「大事なのは相手がどういう攻撃をしてくるのかちゃんと見ること、それを自分はどう動いて返せばいいのか理解すること」
「アハハ、ボクも同じこと言われたなぁ……大丈夫だよ、ネルトさん。すぐに慣れるから!」
「ん。頑張る」
杖での防御訓練の他にも模擬戦のようなものもやる。
私は木剣でネルトはスキル全部使用で。
私が言うのも何だけどこのパーティーは実戦経験が少ないのが弱みだからね。
「<念力>」
「甘いっ!」
「えっ!? ピーゾンさん<念力>避けたの!? 見えないのに!?」
「ネルト、視線と手の動きで、どこにどんな攻撃が来るのかバレバレだよ。魔物にだって頭良いヤツいるんだから躱されたら一気にピンチになっちゃうよ」
「んー」
「(ピーゾンさん以外躱せないと思うんだけど……)」
「視線は相手から外しちゃダメ。『手』の出所とか見ちゃダメだよ。あと自分の手の動きと<念力>の『手』の動きは別にして。振り下ろすように動かして実際は横から叩くみたいな」
「おお、ん」
「んじゃもう一回やりましょ」
ネルトの訓練だけじゃなく、私とポロリンの模擬戦も行う。
これはほぼ日課と言っていいだろう。最近はだいぶ私の速さに慣れて来た感がある。
オークキング戦でレベルが上がり私自身もステータスの上昇にアジャストさせる必要があるので助かってます。
この日課に、ネルトの訓練も加わった感じだ。みんなで特訓して強くなってる雰囲気がとても気持ち良い。
こうして数日間、日課の特訓と依頼をこなす。
四日後にはポロリンがDランクへの昇格条件を満たした。
試験官は私の時と同様にギルド職員のネロさんだった。
「参りました……」
「ふぅ、まったくこのパーティーは、ピーゾン以外もヤバイじゃ……ああ、ギャラリーが多すぎるな。とにかくポロリンも合格な。上で更新手続きやっとけよ」
「は、はいっ!」
ポロリンはネロさんに負けたけど昇格できるらしい。やっぱ必ずしも勝つ必要はないのか。
しかし、私の時以上にギャラリーが多い。
その九割以上が男である。
あれかな? ポロリンがいつの間にか<魅惑の視線>使ったのかな? それとも男が皆オークと同じ趣向なのかな?
ともかくこれで【輝く礁域】はDランク二人、Eランク一人の『Dランクパーティー』となったわけだ。
つまりCランクの依頼を受けることも可能。
王都近郊だけじゃなくて、何泊かの遠征するような依頼を受けてもいいかもしれない。
ちょっと三人で相談してみようかな。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




