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38:毒使い、黒猫を買う



 ネルトはとある小さな町の孤児だった。

 両親の事は知らない。孤児院のシスターが親代わりだった。

 孤児院が合わさった、よくある教会。数名のシスターの元には十名以上の孤児が居た。


 ネルトは幼少期から他人と話すのが苦手だった。

 行動力のある子供が多い孤児たちの中で、一歩外れた存在。無表情で不気味、時折幼すぎる行動をとる子供、そんな印象の子供だった。


 そのくせ人一倍食べる。

 ネルトはそれでも気を使って量を減らしていたつもりだったが、シスターたちからすれば「必要以上によく食べる子供」と見られていた。

 基本的に孤児たちに優しいシスターはそれでも、ネルトを他の子どもと同じように接した。分け隔てなく、それもまた個性の一つと。

 しかしどこかに侮蔑の目があったのかもしれない。ネルトはそれを鋭敏に感じた。


 彼女は教会裏からの抜け道で町の外に出ることが多くなった。たった一人、魔物の蔓延る森の中へ。

 魔物から隠れながら、ひたすらに食せるものを探す。

 草や木の実、茸に果物。たびたび腹痛に苛まれることがあったが、それを学習し食べられるもの、食べられないものを覚えていく。まるで野生少女である。

 そうしてその分、孤児院での食事量を減らしていた。


 十歳になり『職決めの儀』にて固有職(ユニークジョブ)と判明した。

 シスターたちは喜んだ。固有職(ユニークジョブ)というのは希少な(ジョブ)だ。一般的には喜ばれるものである。

 金に苦しむ孤児たちに対し、国に未来が約束されたのだからシスターたちの喜びも当然だろう。シスターたちが喜ぶのを見て、ネルトも喜んだ。ああ、喜ばしいことなのだと。


 そうしてすぐにでも王都に向かおうと決めた。

 孤児院に居れば居るだけ、孤児院にとっては負担となる。だから早くに立とうと。

 金はない。馬車などは使えない。

 でもさんざん森を歩き回った足がある。森に行けば食料もある。何日かかろうが王都へたどり着ける。そんな自信があった。


 ……まぁその自信も、拉致られるまでの話しだったが。





 そんな割と重めの話しを無表情でモフりながらされてもねぇ……。

 何と言うか、感情移入できないと言うか。「お、おう」としか言えないのよ。



 翌日、私たち三人は宿での朝食を普通にとり、いざ出発。

 まずはネルトの装備を整えに、マリリンさんのファンシーショップへと向かう。

 向かう途中にある屋台でネルトの朝食を買い足ししながら……。当然のように宿の朝食だけでは足りなかったらしい。

 昼食分も含めて余計に買うようにしよう。魔法の鞄があって良かった。



「ネルトさんって三人分くらい食べるんだね……」


「ん? もっといける」


「食べようと思えばってこと?」


「ん。食い溜めは得意」



 大量に食べて三日間絶食でも大丈夫なんだとか。便利な特技だ。

 しかし大量に食べずとも常人の三倍は食べると……やっぱ便利じゃないわ。


 ともかくこの娘にお金を預けておくと全て食事に消えそうなので、山賊から強奪して分割していたお金をパーティー資金として没収しました。

 もちろんネルトも了承の上でね。



「あのお金はパーティーで使うべき。私はお小遣いで十分」



 との事で、今現在のパーティー資金は金貨一三枚。

 ネルト用の背嚢やら水袋やらも欲しいし多少の余裕は欲しいので金貨十枚としてネルトの装備を調達しようと目論んでいる。

 まぁ私の魔法の鞄とかネルトの生活魔法があれば大抵のものはいらないんだけど、手ぶらでいたらさすがに目立ち過ぎるからね。えっ今さら? いやいやいや……。



 ファンシーショップ・マリリンは中央区の裏通り。ほどよく近い。

 さっそくとばかりにパステル調のお店に入る。



「あらぁ~お嬢ちゃんたちじゃない。また来てくれたの~?」


「こんちわ、マリリンさん」


「うふふ、もしかして新しいお友達? これまたかわいいわね~」



 初見のネルトはお店の雰囲気に「おお」と驚き、マリリンさんの風貌を見て「おお」と驚く。そしてモフモフコーナーを見ると「おお」と近づいた。



「もふもふ……もふもふ……」


「あらぁ、お嬢ちゃんはモフモフが好きなのね~。いい子ね~」


「ネルトは【魔法使い】なんですけど、何かオススメありますかね?」


「そうね~」



 マリリンさんには固有職(ユニークジョブ)だと言ってないので一般職で伝えておく。

 まぁ【魔女】も【魔法使い】も同じようなもんでしょ。……ただポロリンみたいに『ニート縛り』とかあったら困るんだが。

 ニートの装備って何だ? ジャージ? スウェット? そんなもんないしねぇ。



「予算は金貨十枚ね~……これなんてどうかしら?」


「おお」


「おおっ、モフモフローブ!」


「真っ黒ですね、このお店にしては珍しい……」



 マリリンさんが取り出したのは猫耳フードがついた真っ黒のローブ。もちろん私のウサウサ装備と同じくモフモフ。

 それと【魔法使い】用の杖。こちらは木製だけど先端が握られた猫の手の形をしている。

 ローブがファンシーショップに似つかわしくない黒色なのは材料の関係らしい。せめて黒猫にする事でファンシーさを維持したのだとか。



「ネコネコローブとネコネコロッド。付与は『MP回復増進』と『消費MP軽減』ね~。お値段が控えめだから効果も低めなのよ~ごめんね~」


「買います」


「ん」かっくん


「いやいや、魔装具のローブと杖がセットで金貨十枚って安すぎですよ!?」



 試しにネルトに着させてみたけど、装備はできるらしい。

 モフモフの黒猫だ。

 ポロリンのチャイナが金貨一五枚ってのもかなり安いはずなのだが、このネコネコセットは本当に安い。お店が潰れないか心配になるわ。



「大丈夫よ~副業の付与依頼がたくさんあるからね~。ホントは本業のデザイン一本でやっていきたいんだけど~」


「(副業の方が本業だと思うんですが……)」


「(上級魔装技師だから依頼は多いんだろうなぁ……)」


「それにあなた達が活躍してくれればきっとファンシー好きなコも増えるはずだわ~。言わば先行投資ってことね、うふふ~」



 そう言われると責任重大だなー。

 つまり私がファンシー界のファンションリーダー、この世界の「素材の色味を大事に」文化を変えていく存在になるのか!

 そうしてやがて国中にパステルカラーが流行りだす……だして欲しい。



―――――

名前:ネルト

職業:ニートの魔女Lv1

武器・ネコネコロッド(魔力+10、消費MP軽減)

防具・ネコネコローブ(防御+7、抵抗+5、MP回復増進)

―――――



 それから私たちは冒険者ギルドへと向かう。同じ中央区だからけっこう近い。

 目的は依頼を受けることじゃなく、ネルトの登録とパーティー申請だ。

 私たちは朝なのに空いている登録窓口に進んだ。

 記入した登録用紙を見て、受付のお姉さんが首をひねる。



「(ニートの魔女……ニート?)……分かりました。説明は個室で致しましょう。こちらへどうぞ」



 どうやら戦闘職の固有職(ユニークジョブ)だと判断されたらしい。

 良かった、良かった。

 私たちはお姉さんに続き、二階の応接室のような個室へと向かった。





 ピーゾンたちが二階に上がる様子をギルド内のホールから眺めていた二人組がいた。

 一人は三日前にピーゾンたちに絡んだ固有職(ユニークジョブ)限定クラン【唯一絶対(ザ・ワン)】のギャレオ。

 もう一人はいかにも前衛と言わんばかりの筋骨隆々の男。真っ赤なざんばら髪を後ろに回し、覇気のある笑みを浮かべている。



「ベルバトスさん、あいつらですよ。どうやら新しく仲間を見つけたみたいだ。新規登録で個室に行くってこたぁ、やっぱ間違いないでしょう」


「だな。三人も揃ってる固有職(ユニークジョブ)なんて珍しいもんだ。やつらをこっちの陣営に引き込めば少しは足し(・・)になるな」


「でもやつらクランには入らねえみてえな生意気言ってましたよ」


「だったら痛めつけて情報仕入れるだけだな。それだけで金になる」



 ニヤリと笑みを深くして、ベルバトスは「もしくは」と続けた。



「そのまま引き渡してもいいかもなぁ。その方が色々と美味い」


「ですね。あーあー、あの時大人しくクランに入ってりゃあ穏便に済んだのになぁ。ハハハッ」



 朝でまだ混んでいるギルド内。

 そんな二人の会話を聞く者はいなかった。




ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン

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