37:毒使い、ネルトの可能性に戦慄する
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名前:ネルト
職業:ニートの魔女Lv1
武器・なし
防具・布の服(防御+0)
HP:5
MP:10
攻撃:2
防御:4
魔力:8
抵抗:7
敏捷:4
器用:5
運 :9
スキル:生活魔法Lv1、空間魔法Lv1、念力Lv1
生活魔法=着火・給水・乾燥・洗浄
空間魔法=グリッド
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……これ、ヤバくないか?
「あ、生活魔法! やったねピーゾンさん! パーティーに一人居ると助かるよ!」
「うん……そうだね」
「ん? どうしたの、ピーゾンさん。そんな険しい顔して……」
「いや……おっさん、この<空間魔法>って……」
「おっさんじゃねーし。<空間魔法>ってのが未知の魔法属性なんだよ。これが『ニート』ってやつと関係するのか、どんな属性なのかも分からねえ。だから危険度が図れねえんだ」
まずはネルトに色々と聞いて、スキルの詳細を知ろう。
私的には驚きと興奮がある一方で、限りなく嫌な予感しかしないのだが……。
「ネルト、ちょっと教えて欲しいんだけどさ、まず<念力>ってどんなの?」
「んー、遠くのものが取れる」
「これも未知のスキルだな。確かめた限り『手の届かない所にあるものを動かせる』スキルらしい。武器くらいなら動かせるが、家具くらいだと無理だったな。それと視認してないと無理っぽい」
本人も管理局もそれくらいしか把握できてないって事か。
ただ私は怪しんでる。このスキルもヤバイと。
「じゃあ立てかけた私の魔剣を私の手元に持ってこれる?……なるほど。今どんなイメージしてた? 魔剣に動けって命令したの? それとも魔剣を操作する感じ? それとも自分で持つような感じ? 重さは感じる? 消費魔力は?」
「お前、聞き方が……管理局とか専属教師が調べるよりプロっぽいぞ」
「ピーゾンさん、ボクの時もああでしたよ、アハハ……」
なるほど。<念力>については大体分かった。
要は『ネルトが持てる・動かせると判断したもの』しか動かせず、それは『不可視の魔力の大きな手』で行われている。その手で魔剣を持ち上げ、私の所まで運んだわけだ。
これはネルトの『動かす』イメージが具現化したからだろう。『手で持って動かす』と。
だから見えない所にあるものや、ネルトが一人じゃ動かせないような家具は<念力>の対象外となる。イメージができないから。
……じゃあイメージできたら? 人が持てないような物を持てるイメージができてしまったら?
やっぱりこのスキルは、ただ『手の届かない所にあるものを動かせる』スキルではないと思う。おっさんも管理局も甘いと思うんだよなぁ。
「んじゃ次に<空間魔法>のグリッドだけど、今この場で使える? 使ったらどんな感じ?」
「んー……四角が出る」
「それは布みたいな平面? それとも箱みたいな立体?」
「箱」
「大きさは? その大きさ変えられる? その時の消費魔力は? 箱を動かせる? 複数の箱は出せる? 隣の部屋に出せる? その様子は?」
「ピーゾンさん……」
「おい、お前のパーティーリーダーだろ、なんとかしろ」
「無理ですよぉ、検証モードに入ってるし……」
「はぁ、グリッドって俺らが調べた限り、何の意味もない魔法だったんだよなぁ。ネルトが透明の箱を作ってそれで終わりっていう」
「そうなんですか? でもピーゾンさん、納得してないっぽいですね」
ふぅ、なるほど。大体分かった。
グリッドって『格子状の空間指定』だと思ってたけど違うらしい。正しくは『指定した格子空間の認識』だね。想像よりだいぶ上だ。
ネルトはグリッドを使う事で最大2m四方の格子空間が見えるらしい。それは透明の箱。
肝心なポイントは二つ。
一つは『透過する』という事。壁を無視して、その箱を移動できる。つまり『視認できない空間を指定できる』ということ。
もう一つは『その空間にあるものを認識できる』ということ。これはスゴイ。距離的制限はあるものの、認識外の空間を五感認識できる能力だってわけだ。隣の部屋の人がどんな風貌でどんな事をしているのか分かる。匂いや温度も分かる。ヤバイ。
ついでに言えば<念力>と併用できるんじゃないか。そうなると<念力>が『視界外の物も動かせる』となる。ますますヤバイ。
グリッドだけでもヤバイんだが、これ<空間魔法>だからね。今後覚えるであろう魔法がこれ以上にヤバイ気がしてしょうがない。
まぁ私の想像通りに行けばの話しで、仮にそうなったらパーティーメンバーである私たち的にはとても美味しいんだが。
とりあえずおっさんに相談しようか。
「……は? 何それ<念力>とグリッドってそんなんなのか!? 俺の感想とだいぶ違うんだが!?」
「私の予想も入ってるから実践検証してみての様子だけどね。ただ<念力>はともかく<空間魔法>はヤバイ。レベル1のグリッドでさえ本職の斥候顔負けの感知能力だよ。まぁ距離とか燃費とかの問題はあるけど」
「ああ、それがホントなら報告し直しだなぁ。……ただ危険度は変わらないか。お前みたいに殺すような能力じゃないし」
「いやいや、私以上に危険な可能性があるよ。私が思うに<空間魔法>って―――」
これ私に前世知識があるから<空間魔法>のイメージが出来るってだけなんだけど、この世界の人には想像できないだろうしなぁ。言いたくはないんだけど、言っておかないと本当に危険な事態になるからね。
少なくとも管理局のおっさんには把握しておいてもらわないと。
……『無限収納』と『転移』の可能性を。
これがもし発現してネルトが悪者に利用されたら国なんて終わるでしょ。
もしくはその能力が魔装具に付与されようものなら、誰でも『転移』出来てしまう。
「…………お前、何の物語読んだらそんな想像力豊かになんの?」
「茶化すんじゃないよ。私は真面目に言ってんの」
「はぁ……まぁ分かったよ、お前の言い分は。真偽はともかく確かにそう言われれば<空間魔法>だもんな。可能性もなくはない。レベルアップ次第だけどな」
「本当に分かってる? 私以上にネルトを守りなさいって事だよ? 監視・警戒は任せるからね」
「四六時中は無理だっての。あああー俺の仕事が増えるじゃねーかよー」
本当なら冒険者なんかにせず、それこそ管理局で籠の鳥にするのが一番安全なんだろうけどね。私もそれは嫌だし。
おっさんもそれは分かってるんだろうけど、なんだかんだで自由にさせてくれているんだろう。ま、その分おっさんの仕事は増えるんだろうけど……変質者だからいっか。
「じゃあネルト、改めて私たちとパーティー組んで冒険者になるってことでいいかな?」
「ん。よろしく」
「よろしくね、ネルトさん!」
「よし、じゃあ三人部屋を取り直して、少し遅くなったけど夕食はいっぱい食べますか」
「ん!」
「おお、歓迎会だね!」
そうしてネルトを正式に仲間に加えた私たちは、荷物を持って部屋を出た。
扉のところで振り向き
「おっさん、さっさと帰りなよ。二度と部屋に来るんじゃないわよ」
「おっさんじゃねーし、酷くね? 一緒に歓迎会しようだとか、仕事増やしてごめんねとか、またよろしくねオヤスミ的な―――
……パタン
―――こう、ほら……扱いがさぁ……」
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




