36:毒使い「職決めとは何だったのか」
「えっ、ネルトさんって戦闘職じゃないんじゃ……」
「その前にネルトは『職業専門学校』に行くんじゃなかったの?」
「あーそれなんだがなぁ……」
ネルトはモフってるので話し相手に出来ず、おっさんが説明するようだ。
あの後、ネルトは職管理局に引き渡され、そこの局員は進路を迷っていたネルトに改めて説明を行ったらしい。
翌日には学校の見学にも行き、どういった勉強をするのか、どういう生活になるのかといった詳しい説明がされた。
ネルトが入学した場合、固有職の特待生となるので、試験なしでSクラスが確定。入学金・授業料なし、制服支給、個人部屋付き、食堂で毎日三食無料となる。
おまけに自分の職とスキル関して、固有職担当の熟練講師が親身になって教えてくれる。自分一人では未知の職を調べるのは困難な為、知識豊富なプロを、ということだ。
まぁ国からすれば、そうして調べるのが第一の目的なのだろう。学校という環境で隔離しつつ調べたほうが効率が良いし。
ともかく貴族や金持ち商人しか入れないような学校に、その待遇で入るというのは贅沢な話しだ。私やポロリンのように『なるべく他人に知られたくない戦闘職』というのでなければ冒険者になろうとは思わないんじゃないだろうか。
……そうなると【唯一絶対】とかいうクランがそんなのばっかなのか、という疑問もあるが、ひとまず置いておく。
ネルトはなぜ入学せず、冒険者に?
「学食が少ない」
「「えっ」」
「学食が少ない。……もふもふ」
「あーと、要は毎食タダの食堂のメシが、量が少ないんだと。まぁネルトとしては、だが」
「「あー」」
ネルトよく食うもんねぇ……。あれだけあった山賊の食料がほぼなくなってたからなぁ。
で、追加で注文するとなると無料とはならず金がかかる。学生の身だと金を稼ぐことは困難。じゃあ学校入らない、という事らしい。金を稼げる冒険者に、と。
そこでアロークのおっさんに再度お声が掛かり、だったら顔も知ってる私たちと同行させて同時に担当しちゃえば楽じゃね? という事だ。
ただ私たちの都合ってもんがあるでしょ。
「じゃあやっぱりネルトさんは戦闘職だったって事ですか?」
「仮に戦闘職でも私たちのパーティーに入れたい職ってのがあるのよ。枠はあと四人だから勝手に埋められても困る。もちろんネルトは良い子ってのは分かってるし否はないんだけど」
私たちがパーティーメンバーに求めているのは『魔法職』『回復職』『斥候職』。ネルトがそのどれでもなかったら、残りの三枠はもうその役目に限られてしまう。
早々に枠を埋めるのもどうかと、出来るならネルトに三役のどれかであって欲しい。
「そうだな、ネルト、俺から話していいのかー?」
「ん。……もふもふ……おお」
ネルトは未だ飽きずにモフっている。
固有職の情報を他人から話させるとは……大丈夫なのか、この娘は。
「えーとだな、お前ら【魔女】って分かるか?」
「そりゃ知ってるわよ」
「えっ【魔女】なんですか、ネルトさん。でも【魔女】って固有職じゃ……」
【魔女】は【魔法使い】の上位派生職。固有職ではない一般職だ。
【魔法使い】の上位派生は色々と分かれるけど【大魔導士】とかに並ぶくらい高位で女性限定なのが【魔女】だ。職について調べた私じゃなくても知ってるような有名な職。
「いや、固有職の【魔女】も有名だろ? いわゆる【〇〇の魔女】ってやつ」
「ああ、御伽話のやつ」
「えっ、ネルトさんソレなんですか!? すごいじゃないですか!」
確かに固有職としての【魔女】、【〇〇の魔女】というのは有名ではある。ただそれはあくまで″御伽話″″英雄譚″の類だ。
私が知ってる話しの中では、【常闇の魔女】は昼間を暗闇に染め上げ、【轟炎の魔女】は火山を噴火させ、【大海の魔女】は海を割ったらしい。
どうせ脚色されてるんだろうけど、要は【〇〇の魔女】ってのはそんな御伽話になるくらい、出鱈目な魔法を使えたという事だ。
で、ネルトがその【〇〇の魔女】だって?
そうだとしたら私たちが欲していた『魔法職』に内定だ。
……いや、しかし
「ネルトは『戦闘できない』って言ってたよ?」
「ああ、それも間違いじゃねぇ。歴代の【〇〇の魔女】はどれも攻撃魔法に特化した固有職だった。だから管理局としても警戒していたんだが……どうやら攻撃魔法は使えないらしい」
「そうなの?」
「ああ、これは俺も以前の担当も確かめたし、ネルト本人も使えないと分かっている。だから『戦闘のできない』【〇〇の魔女】ってのは正しい」
なるほど、【〇〇の魔女】である以上、戦闘職だから冒険者になるのは可能だけど、肝心の攻撃魔法は使えないと。バッファーとかデバッファーかな? デバッファーだと私と役割かぶるんだが……。
「ただ今後どうなるかは分からねえ。レベルを上げて攻撃魔法スキルを覚えるかもしれねえし、覚えねえかもしれねえ。こっちとしては経過観察なんだが、パーティー組ませるならレベル上げに適した殲滅型パーティー……ま、お前らが妥当ってことだ」
「いや、私たち殲滅型じゃないんだけど」
「そ、そうですよ。ボク殲滅とか無理ですっ」
「ポロリンは違うとしてもピーゾンはそうだろうが。単独でワイバーン倒したりダンジョン制覇できる同年の固有職なんて居るわけねーし」
「うっ」
「だからお前らと一緒の方がネルトの成長的にもいいんじゃねーかというわけだ」
そうか、私は殲滅スタイルだったのか……。いやいや、私、平和で普通の冒険者目指してるし。ワイバーンに勝ったのたまたまだし。ダンジョンも生まれたてだったし。なんせスケルトンやゴーストに負けるからね! ただの新人冒険者ですよ!
とまぁ、それはともかく確かに私たちと一緒ならネルトも成長させやすいってのはそうだろうね。
ポロリンの<呼び込み><挑発>と、私の麻痺で安全に多く狩れる。
そればっかだと技術が成長しないからあんま使わないけど。
「まぁそれならパーティーに入れても大丈夫かな。ポロリンは?」
「ボクはネルトさんだったら歓迎だよ。知らない人じゃないしね」
「ん。ありがと」
「うん、それでネルトの職の詳細を聞きたいんだけど。ああ、私たちの事も教えるけどね。結局ネルトは【何の魔女】なの?」
「ん。私は―――
―――【ニートの魔女】」
…………ん?
…………え、ニート?
「ごめん、ネルト。……ニート? 【ニートの魔女】?」
「ん」かっくん
なんじゃそりゃあああ!!!
ニートって私が前世知識で知ってるあの『NEET』か!?
働きたくないでござるのアレか!?
『職決めの儀』で就いた職が【ニートの魔女】ですってか!?
矛盾してるじゃないかよおおおお!!!
「えっと、アロークさん、ニートって何ですか?」
「分からん。管理局でも過去の文献とか全部調べたが分からん。『ニート』ってもんが何を現すかが分からんから危険度も図りようがない。お手上げなんだよなー」
やっぱこの世界にない言葉だったんかい!
そりゃそうだ! 私も十年間聞いた事ないもん!
「……ちなみにネルト、働く気はある?」
「ん? 働かなきゃ食べられない」
「働かずに食べられるとしたら?」
「んー…………分からない」
ですよねー。聞いた私が馬鹿だったよ!
「もふもふ」
おお、モフれモフれ。好きなだけモフれ。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




