31:毒使い、トンファーを新調する
「やっぱ魔法の鞄は高いね」
「中古でもほとんど差がないしね」
目抜き通りを歩きながらポロリンと話す。
何店か道具屋を見てまわったが、魔法の鞄はギルド直営店と大差ない。むしろちょっとしたデザインで高くなってたり、付与士の差で高かったりしていた。
基本的に背嚢が多く、入口と同じサイズのものしか入れられない為、小さい袋状のものは少ない。むしろ商人用に″魔法の箱″みたいなものの方があった。
私としてはウェストポーチみたいなものが欲しいのだが、そうなると口が狭いので入れるものも限られる。おまけに容量も少ない。時間停止とか以ての外で存在しないんじゃないかと思う。
理想はワイバーンを瞬時に収納し、そのまま持ち帰るってヤツなんだけど、そんな都合の良いものはなさそうだ。
とりあえず魔法の鞄は保留という事で、私たちは南東区の大通りから一本入った通り沿いにある武術用武器専門店という所へやって来た。その名も『燃竜屋』。
炎を吐く竜の絵が描かれた扉をギィと開ける。
「こんちわー」
「ぃらっしゃいッ!」
カウンターの向こうで腕を組んでいたのは、黄色いカンフースーツを身に纏い、しゃくれ顎の目立つ……西洋顔の店主だった。なんか違う。金髪だし。
店内を見回すと、普通の武器屋ではお見掛けしない武器が並んでいる。どれも<武術>スキル用の武器なのだろうか。
パッと見、中国武術で使うような棍や棒、それっぽい投げナイフ、珍しいところだと三節棍とか釵なんかもある。
でも中国武術だったら剣とか刀、槍とかも使うと思うんだけど、そういうのはない。代わりに篭手というかグローブのようなものがある。
これが全部<武術>スキルで使える武器だとすると……羨ましいねぇ。武器適正なしの私からすれば。
「あ、あったよピーゾンさん!」
「おお、どれどれ」
「ファオッ! お嬢ちゃんッ! トンファーをお探しかいッ!?」
奇声を発するんじゃないよ、ブルースさん(推定)。
「あ、いや、ボクはお嬢ちゃんじゃ……」
「ファオッ! 確かに腰の獲物はトンファーだねッ! 数ある武器の中でトンファーを選ぶとはなかなか見どころがあるッ!」
「え、あ、はい……」
諦めたかポロリンよ。もう諦めていいと思うよ。私もいちいち訂正するの面倒なんだよ。
置かれていたトンファーも色々と種類がある。さすが専門店。
材質や長さも違うし、形状も円柱状のものや角柱状のもの、先端に鉄球のついたものもある。これ、選ぶの難しそうだな。
「お嬢ちゃんは攻撃派かなッ? 防御派かなッ? 手数は多いッ?」
どうやら使い方でオススメが変わるらしい。
ポロリンは防御主体で、攻撃時は連撃もするけど一撃の重さも欲しいんだよね。贅沢かな。
そんな風に話していたら、長めの円柱状になった。グリップも握りやすく加工されてて持ちやすそう。握ると長い方は肘から三分の一くらい出る感じ。
あとは材質か。鉄は卒業したいから、もっと良いやつだね。
「ならば鋼、黒鋼、白銀、白金、ミスリル……くらいがいい所かなッ! それ以上だとオーダーメイドだよッ!」
「ミスリルだとお値段は?」
金貨十枚越えらしい。それでも剣とかに比べると安いらしいんだけど、さすがにポロリンが躊躇した。結局、白銀のものにして、お値段金貨二枚です。
ポロリンは高いって騒いでたけど、パーティー資金からだからね。私が魔剣である以上、ポロリンの戦力強化は必須なんですよ。
「ホルダーはどうするッ? 腰に下げるか、ももにつけるタイプも―――」
「ももで」
「ピーゾンさん!?」
腰だとガンベルトみたいなやつでしょ? 今もトンファー専用じゃないけどそれっぽいの使ってるし、新しく買うならももバージョンでしょう。そっちのが可愛い。
ホルダーはおまけで付いてくるらしく、ありがたく頂戴する。
まぁホルダーはともかく、新しいトンファーにホクホク顔のポロリン。
うふふってトンファー握るのやめなさい。はしたないですよ。
そんな美少女を引き連れ、次の店に向かう。
♦
やってきました中央区の裏通り。お目当てのファンシー防具店。
私は最初からここに期待していたのだよ。
もうね、外観からヤバイ。窓から見えるカーテンはクリーム色と白、扉も同じようなクリーム色、入口の庇は水色と白のストライプ。
あるんじゃん! 会いたかったぜパステルカラー! この世界に存在しないかと思ってたよ!
看板には『ファンシーショップ マリリン』と書いてある。
意を決してカランカランと扉を開けた。
「うわぁ~~~!」
「す、すごいね……」
そこはメルヘンの国だった。置いてあるのはローブや服類なのだがどれもフワフワやフリフリ、モコモコ。色は白やパステルカラーばかり。私の前世のマイルームを思い出す。
そこにカウンターの奥から店主と思われる人が現れた。
「あ~ら、いらっしゃい」
「!?」
色黒で筋肉質なおっさん。笑うと白い歯がまぶしいが、それ以上に真っ白アフロがまぶしい。髪飾りだろうか丸まった羊の角が生えている。口元は真っ赤な口紅、着ているのはフリフリのチュニック。
……ずいぶんとインパクトのあるオネエだ。この人がマリリンだろうか。「!?」とビックリしたポロリンはその衝撃に動けないらしい。
しかし私はそれどころではない。この感動を抑えられない。
「オネエさん! この店すごいね! ナイスファンシー!」
「でしょう~? うふふ、お嬢ちゃんは見る目あるわね~」
オネエさんは頬に手を当てて嬉し気に笑う。
だがすぐに表情を曇らせた。
「でもそう言ってくれる娘がいないのよね~。女の子にオシャレは必須なのに全然お客さんが来ないのよ~」
「みんなファンシーの良さを分かってないよね」
「(防具にオシャレを求めてないんだと思うんだけど……)」
「そうなのよ~。五年間やっててお嬢ちゃんが初だわ~、そう言ってくれるの。たま~に入って来る娘もあたしが声かけるとなぜか逃げちゃうし……」
「(おじさんが怖いんだと思うよ……)」
なんと、この世界の『素材の色味を大事に』文化に疑問を持つ同志がいたとは……。
確かにファンシーなデザインとか色とか今まで全く見てないし、ましてや装備品なんて以ての外。王都でさえそんなにも需要がないとは思わなかったよ。
「まともなお客さんが来てくれて嬉しいわ~。サービスしちゃうわよ。お嬢ちゃんと坊やは軽装なのかしら~」
「!?」
「!? わ、分かるんですか、ボクが男だって!」
「ん~? 当然じゃない、あたしのセンサーが言ってるわ~。あたしと同じ匂いがするって」
さすがにオネエは格が違った。まさか一見でポロリンが男だと見抜くとは……。
隣のポロリンが「おじさんと同じ……」となぜか項垂れているけど無視しよう。おじさんとか言うんじゃありません。
それから私がローブや服系しか装備できない事を話し、どんなものがあるか見せてもらう。ワクワクが止まらない。
ポロリンはここで買うつもりがないらしく、私を見守るだけだ。すまんが時間をかけて選ばせてもらうよ。
「うふふ、それは『耐火』のローブよ~」
「えっ魔装具なんですか!?」
「ここのは全部魔装具よ~。あたしが付与したものだからね~」
「オネエさん【付与士】なの!?」
「いや、それにしたら安すぎますよ! エンチャント付きの防具なんてもっと高いはずです!」
「全然売れないからしょうがないのよ~。ちなみに私は【上級魔装技師】よ~」
思わず私もポロリンも唖然としてしまった。【付与士】より全然格上の上級派生職だ。そんな人が作ったものなら、そこらで売ってる魔装具よりメチャクチャ高価になるのが普通。なのに、そういった魔装具より安い!
オネエさんは「本業はあくまでデザイナーなんだけどね~」と言っているが、そのデザインのせいで売れないのだろう。時代の先端を一歩も二歩も進んでしまってるから。
つまりもうここで買うのが正解という事だ。一式全部そろえるくらいで考えたほうが良い。私だけじゃなくポロリンも買うべきだろう。
そう改めて店内を物色していると、一角のモコモコゾーンに目が留まった。
「な、なにこれ!」
それは衝撃の出会いだった。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




