03:毒使い、両親と相談する
「なにぃ!?い、い、家を出て行くだってぇ!?」
「どどどどうしちゃったの、ピーゾン!!」
家に帰ってきた時は遠出した娘を抱きしめて迎えてくれた両親だが、今はとても混乱している。
【料理人】の父・ソルダード、【村人】の母・ピエット。
こう言ってはなんだけど、うちの両親は一人娘の私を溺愛している。
過保護と言ってもいい。
そんな愛娘が家を出るなんて言えば、当然取り乱すだろう。
でももう決めたんだよ、ごめんよ。
「私だってどんな職に就いても食堂のお手伝いするつもりでいたんだよ?でも【毒使い】は無理だよ……。【毒使い】の働いている食堂とか誰も来なくなっちゃう……」
例えば食事をした人がお腹を壊したら真っ先に疑われるのは【毒使い】の私だ。実際の原因は別であっても毒を入れられたのでは?と少しでも思われたら終わり。
あとは自然と噂話が広がって店は潰れるだろう。
情報が限られているこの世界での噂話は恐るべき拡散速度を誇るのだ。
「い、いや!でも、黙っていればいいだろう!」
「そうよそうよ!」
「神殿と国にはバレてるんだし絶対そのうちバレるよ……。それに固有職は王都で管理されちゃうから、どの道、村を出なきゃいけないんだって」
「そ、そんな……!」
国民全体の職の把握は数と住まいとかを登録すれば終わりだけど、固有職はそうはいかないらしい。
固有職は世界に一人しか居ない職。
だから国も手厚く擁護するし、管理も徹底する。能力やスキルも分からないから野放しにも出来ない。という事で王都で暮らす事を強要されるわけだ。
道はいくつかある。
一番多いのが王都にある『国立職業専門学校』に入学する事。
固有職の場合、入学金・授業料全て無料で特別クラスに入る事が出来る。
貴族や金持ち商人など一部しか入れない学校に特別待遇での入学。固有職への特権だ。
ただしそれは国に飼い殺しにされるのと変わらないと私は思う。
確かに卒業後も国に仕えるエリートコースが確約される固有職だけど、未知の職に対する研究協力が義務化される。そんなのモルモットと同じでしょ。
おまけに【毒使い】とかいう暗殺者めいた職である以上、卒業後はホントに暗殺者として使われるかもしれない。暗部ルート一直線。
というわけで国に仕える系の進路は却下します。
そもそも学校に入ったら自由に里帰りも出来なさそうだしね。
となると王都に住みながら何かしら働かないといけないわけだ。
伝手もなし。そもそも王都に行ったこともなし。
そこで暮らすとなれば……
「やっぱ冒険者しかないかなぁ、と……」
「!! だ、だめだ冒険者なんて!魔物と戦うんだぞ!?」
「危険よ!冒険者なんて危険なことさせられないわ!考え直してピーゾン!」
うん。私だって出来れば魔物となんか戦いたくないんだよ。
そりゃ少しは憧れはあったけど、実際に十年間も過ごしていればその危険性なんて嫌ってほど耳に入るわけだし。
でもこの職、このステータス、このスキルで出来る事なんて限られているんだよね。
これで私が「人殺し上等!」な人なら迷わず闇ギルドとか行くんだけど。残念ながら人は殺したくない。前世の倫理観は薄れてるけど躊躇いは当然のようにある。
仮に伝手があっても普通のお店では働けないだろうし、そうなると独力で稼ぐしかない冒険者一択なんだよね、私の中では。
「それに冒険者なら拠点を王都にしとけば国内はある程度動きやすいし、村にも遊びに来やすいと思うんだよ。だから……」
「うぅっ……そんな……」
「うぅっ……ピーゾン……」
三人で抱き合ってしばらく泣いた。
私はこの世界に転生して初めて、本当の意味での『親の愛』というものを知った。
もちろん前世の両親にも感謝している。
ただ、産まれた時から意識があったせいで、何も喋れず、何も動けず、不安しかない毎日を支えてくれたのはお父さんとお母さんの愛情だった。
何もできない赤ん坊の私を世話してくれて、十年間も育ててくれた。本当に感謝しかない。
お父さんもお母さんも、私に最大の愛情を持って接してくれている。
私も両親の事が大好きだ。
だから一緒に暮らしたいと思ってたんだけど……。
うん、もう決めたんだ。
上京して恩返しする暮らしも、それはそれでイイじゃないか。
仕送りとかして、手紙とか書いて、時々里帰りして。
そんな暮らしも楽しそうじゃないか。
そう思う事にしたんだ。
……まぁ暗殺者めいた【毒使い】で魔物と戦う危険な冒険者なんだけど。
ささいな事です。
……ささいな事です。
ドゥーデドデーン、ドゥードゥデドデーン