25:毒使い、山賊の住処にて
敵にバレないよう、手首の紐を切り、猿轡を外し、足の紐も切る。
ゆっくりと袋から顔を出す。……どうやら敵は見えない位置にいるようだ。
ここは……洞窟か?
暗いから分かりづらいけど岩場にくりぬかれたような洞窟っぽい。
荷物置き場なのか、色々と乱雑に置かれている中で私は転がされていたらしい。
ふと隣を見ると、同じような麻袋が二つ……。
(ポロリン! ポロリンいる!?)
小声で話しかけると「んー」とジタバタしたのは私の隣の袋。
よしよし、居てくれて良かったよ。今助けてやるかんね。
私は「静かにしてて」と言いながら袋の口を開けると、涙目のポロリンが顔を出した。
その救出されたお姫様顔ヤメロ。私王子役はイヤだ。
(ありがとうピーゾンさん! 何がどうなったの?)
(私たちは拉致られて売られそうになってるらしいよ。敵は離れたところにいるから五月蠅くしないでね)
(う、うん)
(とりあえずこっちの人も助けるから)
私は音を出さないようにもう一つの袋へと近づき袋を開ける。
中から顔を出したのは黒髪パッツンの綺麗な顔した女の子。
その目に涙はない。
会話的に私たちより早くに拉致られたっぽいのに怖くなかったんだろうか。無表情なんだけど。
とりあえず静かにと言いながら猿轡を外した。
(ん……ありがと)
(私はピーゾン、こっちはポロリン。あなたも連れ去られたの?)
(ん)
首をカックンと前に倒す。口数少ないけど動きは大きい。
(ピーゾンさん、トンファーあった!)
(おっ、でかした。私の鉈は?)
(あったけどいるの?)
(いるよ!)
攻撃力ゼロだけど大事な鉈なんだよ! あってもなくても同じみたいに言うな!
ま、それはそうとトンファーがあったのは大きい。これでポロリンも戦えるしね。
どうやら奴ら……推定山賊は私たちの抱えてた荷物もまとめて持ってきた模様。
人と武器を同じ場所でまとめておくなんてゲーム以上に親切じゃないか。
洞窟にこの部屋くらいしかないのかもしれないけど。
さて、どうしよっか。
推定山賊を倒して逃げるしかないと思うんだけど、この場所が分からない。
山賊を倒せるかどうかも分からない。もっと言えば『麻痺』が効くかどうか、だね。効いちゃえばそれで終了だけどゴブリンみたいに100%効くって考えるのは危険だ。
(あなた、戦える?)
(んーん)
ブンブンと首を横に振る少女。黒髪パッツンロングで無表情だから怖いんだよ。日本人形っぽくて。
しかし戦えないかー。固有職だと思われて拉致られたけど実は戦闘職じゃなかったってパターンかな?
いやホントは十歳に満たないって可能性もある。
待て、今はそんな事どうでもいい。戦えないなら私とポロリンでどうにかするしかない。
(ちょっと探るからポロリン戦う準備だけしといて。静かにね)
(気を付けてね!)
(ん)
物置部屋と化している洞窟のくぼみから、少し顔を出して様子を伺う。
どうやらここが洞窟の一番奥らしい。少しは外の光が入っているのを見るに大した広さじゃないようだ。
話し声がするのは洞窟の入口。……二人か?
いや私たち二人を宿場町から拉致ったんならもっといるはずだ。二人の山賊団なんかありえない。
どうしよう。
仮に麻痺らせる事ができたとして、私に人間が攻撃できるのか……できそうだ。
麻痺が無理なら衰弱毒……殺せるのか? 分からん。
私以上にポロリンが人相手に殴れるとは思えない。毒状態にしても二人からの攻撃を避け続けられるとは思えない。必然、ポロリンの参戦が必須となる。
となると一か八かの麻痺頼み、もしくは隙を見て逃げるしかない。……ポロリンと少女を連れて? 無理があるだろう。
どうしよう。
そうして悩んでいると外の山賊たちに変化があった。
「おっ、おつかれー」
「どうだった?」
「ダメだな、さすがにあの宿場にゃもう居ねえ」
「街道を歩いてるのもな。やっぱあいつが異常だよ、ガキが一人で歩くとか」
「これで固有職じゃなかったら笑い者だぜ」
「タイムアップだな。三匹で終了だ」
「あとは引き上げ準備だな」
山賊が五人合流! 計七人!
いやもうこれはきついよ。<毒霧>で麻痺が100%効くのを神に祈るしかない。
て言うかあの娘は街道を一人で歩いてたのか! それで戦えないって? 自殺志願者かな? もうなんか助けなくていいような気がしてきた……。
「んじゃもう片付け準備はじめるか」
「うぃーっす」
「ガキどもが起きてるならもう一度睡眠薬嗅がせとけ。騒がれるとめんどうだ」
そう言いながら山賊たちはゾロゾロと洞窟の中に入って来た。
やばいやばいやばい! どうする私! やるなら先手必勝か!?
<毒霧>は怖い。でも<毒弾>で一人ずつやるのは無理だ。自爆ったらポロリン頼み。
徐々に近づく山賊。
私が見える位置に来るまであと少し。
心臓がバクバク言い出した。
「うわあっ!!!」
「な、何だ! うおおおっ!!」
「誰だ! なんだこの糸!」
……え? なんか山賊どもが騒ぎ出した。
ちらりと見れば、山賊が七人まとめて白い糸で拘束されていくのが分かる。
まるで糸が意思を持っているかのように、手足と口に巻き付いて行く。
訳が分からず、私は少し前に出た。
「おっ! 居たか! 遅くなって悪ぃな!」
私の姿を目にしてそう言ったのは、山賊たちの向こう側に居る人物。
無精ひげを生やした冴えない三〇台の男。指先からは山賊へと繋がれた幾本もの糸が出ているように見える。
見るからに変質者。
「おっさん!」
「おっさんじゃねーよ!」
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




