閑話4:モブAの心配事
俺はオーフェンの冒険者ギルドに所属しているCランク【スカウト】のモブエイだ。
最近のギルドは例の毒草鉈娘……ピーゾンだったか、あいつのせいでなにかと騒がしい。
ワイバーンを倒したことでオーフェンの冒険者の中では一躍有名人になった。
期待の新人現るってな。
同時に固有職じゃないかって話しになって、だからこそうかつに近づけねえ、聞きたいけど聞けねえって微妙な立ち位置になっちまった。
俺としてもそれは賛成だ。
固有職が国に保護される存在ってのはよく聞く話しだ。下手に近づいてこっちが目ぇ付けられたら堪らねえからな。
だから遠目で見守るだけにしとこうって暗黙の了解がギルド内にある。
ところが、だ。
ワイバーンだけで大騒ぎだったんだが、その二日後にはさらに驚かされる事態になった。
道具屋の看板娘、ポロリンを連れてギルドに来たやがった。
いやもちろんポロリンが男だってのは誰もが知ってる。なぜってポロリンはオーフェンの冒険者に知らない者は居ない有名人だからだ。
あの道具屋はオーフェンの冒険者ならよく使うし、そこで手伝いする子供も話題に上がってた。
とにかく可愛すぎる、と。
王国全土……世間的には国の第何王女様だとかが絶世の美少女と騒がれているらしいが、オーフェンのやつらはそんな事は言わない。
みんな本当の美少女を知っているからだ。「王女様? ポロリンより可愛いわけないだろ」そう口々にする。
そう皆が認めるほどに可愛い。
……だが男だ。そんな事は関係ないとばかりに皆口を揃える。可愛すぎる、と。
ここ数日は店に行っても手伝いに出てこないようで、心配する事もあった。
時期的には『職決め』のすぐ後で、ポロリンも十歳のはずだから、何か変な職にあたったのでは、と冒険者内では囁かれたものだ。
そんなポロリンが毒草鉈娘……ピーゾンと一緒に入って来ただけでも驚きだが、なんと冒険者になると言う。ピーゾンとパーティーを組むと言う。
「ポ、ポロリンちゃんが冒険者!?」
「戦闘職だったのか!」
「なぜあの鉈娘と!?」
そんな声が上がる。俺も同意見だが、ピーゾンとパーティー組むってことはポロリンも固有職なのかもしれねぇ。固有職は固有職同士で組むのが多いって聞いたことあるしな。
王都には固有職で集まったクランもあると聞く。
だからこそよく知らない職に就いちまったポロリンが店の手伝いにも出れなかったのかもしれない。
しかし、固有職ってなると王都に行かなきゃいけないはずだ。
オーフェンを出て行っちまうのか……少し悲しくもある。
が、そんなセンチな気分をぶち壊すかのように、ピーゾンとポロリンのコンビは新人ばなれした活躍をみせた。
毎日毎日、達成される討伐依頼。採取はいつもの毒草の他に普通の薬草も持ち込まれるようになった。道具屋のポロリンのおかげだろう。
南門のゴブリンに飽きたのか北門の牙ネズミやワイルドコッコも倒して来る。それも結構な数だ。
結果、登録から七日目にしてポロリンはEランクに昇格。
ピーゾンが五日だったからインパクトは薄いんだが、普通、十歳で『職決め』を受けて戦闘職に就いたやつだって、頑張っても一月はかかる。
街の手伝い系の依頼や、ギルドの戦闘訓練を受けて初めて街外の依頼を受けるもんだ。
そうでなきゃ死ぬし、ギルド側や俺らみたいな冒険者の先達が止める役割がある。
それがどういうわけだか登録してすぐに街外で討伐依頼だ。
固有職ってのはそんなにすぐ戦えるもんなのか? だからギルドも野放しにしたのか?
分からねえが、とにかく二人ともあっという間にEランクに上がったのは間違いねえ。
まあ戦闘初心者だったはずのポロリンが強くなったことを嬉しく思おう。
冒険者って仕事は危険だからな。これで死なれたら寝覚めが悪い。
少しでも強くなってくれたらその分危険は減るんだ。頑張って欲しいと先達っぽく思う。
……そんな事を思ってたんだけどな。
いや、北門から少し離れたところで、二人して模擬戦してたんだよ。
ピーゾンがポロリンに稽古をつけてるっつーか、鍛えてるっつーか。
ポロリンが何か鉄の棒と、ピーゾンが木剣。
その動きが尋常じゃねぇ。
<体術>か<武術>でもとったのか、ポロリンは戦闘初心者とは思えない動きで、流れるような継ぎ目のない攻撃を仕掛ける。
スキルを得たばかりの十歳には無理だ。というかうちのパーティーの【拳士】や【剣士】と比べても遜色ない。普通に戦えそうな気がする。
そのポロリンの連続攻撃をピーゾンはことごとく回避し、カウンター気味に木剣を打ちつけている。これはもう異常。回避系のスキルだけじゃ無理。敏捷値をアップさせるスキルも併用した上で、尚且つそれに慣れる為の経験が必要なはずだ。
なにが恐ろしいって、それを簡単そうに行いながら普通にポロリンにアドバイスしている事だ。余裕ってのか? 俺ポロリンと同じように至近距離で戦ったら目で追える自信ないんだが。
そのアドバイスっつーか、訓練指導っつーか……とても新人冒険者とは思えない。
常に戦いの場に身を置いたベテラン傭兵とか、老兵の騎士団長とか、そんな教え方なんだよ。
「そこは半歩さがって腰を少し落とす。そうそう、そうすれば左腕回しやすいでしょ。で、回したら右は出しにくいから一回下がったほうがいいね」
よく分かんねーよ! なんだその細かい指導!
もうお前ギルドの戦闘訓練で教官でもやれよ!
偉大なる教官か、お前は!
……ともかく俺が心配するまでもなかった。
あいつら勝手に強くなるわ。いや、もう俺たちより強いのかもしれんが。
王都に行っても活躍するんだろうな。俺は流れて来るだろうこぼれ話を楽しみにしてるよ。




