17:毒使い、相談にのる
「ただいまーシェラちゃん」
「あっおかえりです、お姉さん!」
「これお土産ね、今日も三羽」
「ありがとうです! あ、あの、それで相談が……」
いきなりだねぇ。待ち構えてたのかな?
シェラちゃんはキョロキョロして周りに人が居ないのを確認すると小声で話した。
「あのー、お姉さんは固有職なんです?」
「!?」
「間違ってたらごめんなさいです。でも昨日、国の役人さんが来てましたし、ワイバーンを倒したのもお姉さんって話しですし……」
「えっ! ワイバーンの事知ってるの!?」
「食堂に来た冒険者さんが話してたです。鉈もった女の子って言ってたからお姉さんしか……」
おう……。ワイバーンに襲われた私の救援をギルドで叫んだそうだからソレか。で、そのワイバーンを持ってきたから私が倒したってバレてるんだな。
今日のギルドが妙にザワついてたのはそのせいか。
「お姉さん、冒険者になってまだ新人さんのはずなのに、ワイバーンを倒したり役人さんがもう訪ねてきたり……多分固有職なのかなぁって……」
「えー、あー、出来れば内緒にしといて欲しいんだけど一応固有職だよ」
「やっぱり! 良かったです!」
急に笑顔いっぱいになった。
固有職で良いわけないんだけど。私的には。
「あの、相談って言うのは私のお友達の事なんです」
「ふむ」
「そのお友達も今年『職決め』を受けたのです。で、固有職だったらしいんです」
「うわぁ」
「でもその日から部屋に閉じこもって出てこないです。私も部屋に行って固有職だって聞き出したです」
よほどアレな職だったんだろうなぁ。
私も【毒使い】で一日頭真っ白だったし。普通の十歳だったらもっと立ち直るのに時間かかっただろう。
「お姉さんはワイバーンを倒すほどの実力者です。固有職を使いこなせないと倒せるはずないです。だからそのお友達にアドバイスして欲しいです」
「いや、私も固有職に就いたばっかだから新人だよ? 別に実力者じゃないし」
「そんなことないです!……それに閉じこもったままはダメです。せっかく固有職になれたのに、このままじゃ宝の持ち腐れです……」
あー、世間的には固有職=選ばれし者ってイメージなのか。
夢を壊すようで悪いが、嬉しくない固有職だってあるんだよ?
【村人】のほうが素晴らしく思える固有職だってあるんだよ?
でもまぁその子の気持ちも分かるし、シェラちゃんの気持ちも分かる。
アドバイスってのも何だけど私が相談に乗るくらいはいいかな。
了承の意を示すと、シェラちゃんは満面の笑みになった。
そのまま二人でシェラちゃんのお友達の家に行くことにした。
♦
「ここです。こんにちはー」
「えっ、ここって……いつもの道具屋じゃん」
「あらいらっしゃいシェラちゃん。おや、あんたは……」
今日も抗麻痺薬買ったばっかなんだよね。どうもまた来ました。
シェラちゃんの紹介で一緒に来た経緯を話す。私が固有職とかは言わず、その子の相談を受けにと。
「あら、そうなの。悪いわねぇ、あの子職に就いてからずっとあんな調子で……同年で冒険者になったあんたなら話しも聞くかもしれないね。すまないけど仲良くしてやってくれないかい」
おばちゃんはいつものサバサバ感を残しつつも、少し表情は暗くなった。
やっぱ子供がいつまでも閉じこもってるのを、ずっと気にかけてはいたんだろう。
私はシェラちゃんに続き、店の奥の住居スペースへ。
二階に上がり、その子の部屋の前に立つ。
コンコン
「ポロリン、私ですよー。開けて下さい」
ポロリン!? その子はポロリンって名前なのか!
いかん、他人の名前で吹き出すのはマナー違反だ! 笑うな私!
少し間があって部屋の扉を開け、顔を出したその子。
シェラちゃんを迎えたはずが知らない私が居たもんでビックリしたようだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
私は衝撃を受けていたのだ。
(か、かわいいっ!!!)
間違いなく今まで見た女の子の中で一番かわいい!
薄いピンクの髪は耳が隠れるショートボブ、長いまつ毛で目はパッチリ。
色白の透き通るような肌、華奢な身体、こっちを見るオドオドした表情。
とりあえず言えるのは……
(おばちゃんの要素どこにあんだよ!)
実の子か!? 違いすぎるよ! 成長したらおばちゃんになるのか! ある意味将来有望だね!
そんなことを思っている間にシェラちゃんは私の事を説明し、オドオドしながらも部屋に招いてくれた。
すまんね興奮しちまって、ポロリン、お邪魔するよ、ポロリン。
「あの、それで、貴女も固有職なんですか?」
「ピーゾンでいいよ。うん、私も今年の『職決め』で固有職になったよ」
「そうなんですか……あ、ボクはポロリンって言います」
ボクっ娘!?
こいつまだ戦闘力が上がるってのか!
やべーな。やべーやつだ。萌え殺される。
「えっと……ポロリンも固有職なんでしょ? シェラちゃんから聞いたよ」
「ごめんですポロリン。お姉さんは今年冒険者になったばかりで大活躍してるです。だからポロリンの力になると思って……」
「あ、うん、いいよ。ボクも誰かに相談しなきゃなって思ってきたところだったから。こっちこそ心配かけてごめんね」
なるほど、立ち上がる直前だったのか。
悩み続けても仕方ないもんね。
「えっと、それでポロリンは『職業専門学校』行くの?」
「……それも悩んでるんです。ボクは出来れば自分の職を他人に知られたくない。学校に行くと他の生徒とか先生とかにどうしても知られちゃうんじゃないかって……」
「だよねー、私も同じだよ。私も変な職だったから知られたくないし、学校に行くと卒業しても国で研究対象になりそうでさ。だから私は冒険者にしたの」
「ですよね! ボクもそうなるんじゃないかって心配で……!」
なんか意気投合してきた。
やっぱ同じ悩みを持つ者同士、悩むポイントも同じなんだね。
「でも王都には行かないとダメでしょ? 行かなかったら強制連行されるらしいよ?」
「ええっ!? そうなんですか!?」
「うん、ギルドの職員さんが言うには遅くとも半年以内には王都で生活できる環境じゃないと、強制連行だって。それが学校なのか研究対象なのかは知らないけど」
「うわぁぁぁ……」
頭を抱えるポロリン。
学校も嫌、連行も嫌だったら、もう自立しないとダメなんだよね。
十歳に厳しい選択させたくないけど実際時間がないんだよ。
「ついでに言うとポロリンの職がどんなのか知らないけど、国にとって危険とか有意義とか研究したい対象だったら、半年もせずに役人が来るよ。ちなみに私はもう昨日来たよ」
「ええっ!? もう!?」
「うん、まぁ私の場合はホントにアレな職だからね。極端に早く動いたっぽい。ポロリンのとこにはまだ来てないでしょ? それだけで私よりマシな職ってことだよ」
「うん……」
なんか言ってて悲しくなってきたぞ?
が、事実! ポロリンが閉じこもるほど変な職でも私以上に危険性のある職じゃないでしょう。
私はちらりとシェラちゃんを見る。シェラちゃんは心配そうにポロリンを見ていた。
「シェラちゃん、固有職の情報って国で管理されるからやたら言い触らしちゃダメなんだよ。これからポロリンと少し踏み込んだ話しするから、私とポロリンの秘密を知ることになっちゃう」
「あ……そうなんですか……」
「私はシェラちゃんが黙っててくれるなら、このまま話しても良いよ? でももし聞きたくなかったら部屋を出たほうがいい」
「ボ、ボクもシェラちゃんなら大丈夫だよ。むしろ黙ってて心苦しかったし……」
「ポロリン……。うん! お姉さん、私絶対誰にも言わないです! 約束です!」
シェラちゃんは残って話しを聞くらしい。
ポロリンの将来がかかってるから気掛かりなんだろう。友達思いだねぇ。
……ま、私的にはあんまり聞かれたくないんだけど。出てけとも言えないし。
「分かった。じゃあまず私の事を話そう。参考になるか分かんないけど、それからポロリンの今後について一緒に考えよう」
「あ、ありがとうございます」
♦
「ど、【毒使い】……」
「暗殺者みたいです……」
うっさいわ。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




