13:毒使い、何かと出会う
「おお、いらっしゃい!また解毒ポーションかい?」
そう言って迎えたのは道具屋のおばちゃん。
二回しか来てないはずなのに、なぜか覚えられている……。
「そりゃ見るからに新人冒険者なのにあんだけ解毒ポーション買うんだ。珍しいってこったよ。ハッハッハ!」
豪快だねぇ。恰幅が良いからより豪快に見えるよ。
新人が解毒ポーション買わないってのもおばちゃんから聞いたんだよね。毒草採取するからって言ったら葉や茎を切らないようにって教えてくれた。おかげさまで毒草採取で毒った事はない。自らの毒で毒った事はある。悲しい……。
「えっと、買いたいのは体力とか疲労を回復させるようなものがあればなぁと。あと解体用のナイフ」
ワイバーンと戦っての反省点は、やはり持久力のなさと疲労してからの判断力の低下。お金も入ったし安全性のためにも、もしあるなら欲しい。
それと持っている採取用のナイフだとワイバーンの死体でも上手く切れなかった。これは解体場で試させてもらった。だからちゃんとした解体用のが欲しいんだよね。
「ふむ、体力回復だとこのポーションだね」
「……私の持ってるポーション?」
「お嬢ちゃんが買ったのは初級ポーション。これは下級ポーションだよ。下級からはある程度の傷を癒し、HP回復の上に体力回復もつくのさ」
なんと!ポーション万能だな!
でも考えてみれば初級でも切り傷治ったりするもんね。筋肉や心肺の疲労が治ってもおかしくないのか。さすがファンタジーの錬金薬。
「へぇ~、ちなみに体力だけを回復させるってのは?」
「うちには置いてないねぇ。錬金術の基礎にはあるらしいから錬金術師にもらうのは可能だと思うけどね、需要がないから作らないし卸さないんだよ」
疲れたら休めばいい、って話しらしい。まぁその通りなんだけどさ。
私には超需要あるんですけどね。
「気になるんなら錬金術ギルドに行ってみたらどうだい? ギルドでも販売はやってるからもしかしたら売ってるかもしれないよ」
「おお、んじゃ後で行ってみます」
とりあえず念の為、下級ポーションを二つと解体用ナイフを買った。一番いいやつってお願いしたら採取用に比べてだいぶデカイ。
ナイフって言うかダガーだね。これで攻撃したい。出来ないけど。
新人だろうに何を解体するんだい?って言われたけど笑って誤魔化した。将来を見据えてですと。
お値段は下級ポーションが銀貨三枚(三千円)、ナイフが銀貨三十枚(三万円)。
初級ポーションが銀貨一枚だったから確かに高い。ナイフも結構な値段だ。まぁ富豪となった私には痛くもないがね、ふふん。
「あぁ、あと、錬金素材とかで使う魔物の目とか入れるのあります?」
「そんな依頼はもっと上にならないと出てこないはずなんだが……まぁこういったケースとか袋、それと素材保存液ってのが別売りで浸す感じだね」
「へぇ~。袋に目玉入れて保存液に浸からせるんですか」
「そうそう。そうすりゃ劣化しにくいらしい。保存液のランクによるけど、これでも一日で腐る内臓が十日くらいは大丈夫だね」
「おお! じゃあその袋と保存液も下さい」
ケースだとかさばるから袋タイプにした。口の留め具で完全に密閉できるらしい。
袋が大銅貨八枚(八百円)、素材保存液が500mlペットボトルくらいの大きさで銀貨三枚(三千円)。これでも下の方のランクらしい。
背嚢も整理しなきゃなーと考えながら道具屋を出て、教えて貰った錬金術ギルドへ。
ギルドってくらいだから大通り沿いには違いないんだけど、冒険者ギルドとは全然違うね。こじんまりしてて扉も閉まってる。大きめの普通の家とか宿屋っぽい。
ギイィ……と怪しげな扉を開けると、広めの薬専門の道具屋さんといった感じだ。
全体的に暗く、壁一面に薬が陳列されている。
お客さんも数人くらいで混んでない。いいねぇ、雰囲気があって。
カウンターには特に『〇〇受付』みたいな表記はなく、三人の職員っぽい人が並んでいる。
私はそのうちの一人に声をかけた。
「いらっしゃいませ。登録ですか?」
「いや買いたいんですけど、体力とかスタミナだけ回復するようなものってありますか?」
「えーっと、傷の癒しやHP回復はなしで、体力のみという事ですか?」
「はい、ありますか?」
「えー在庫は……ああ、ありますね、五個だけ。これがスタミナ回復剤です」
そう出されたのは錠剤だった。ポーションですらないのか!
しかし聞けば私の求めているものがこれらしい。体力回復・疲労回復のみ。
これに病気への対処やポーションのような傷治しの効果が入ると、それはいわゆる『薬』という扱いになるらしい。スタミナ回復剤はその一歩手前なのだとか。
前世で言う医薬部外品みたいなものなのかもしれない。
とりあえず五個全部買いです。一番取り出しやすいポケットに入れておきましょう。
お値段なんと五個で銅貨五十枚(五百円)!安い!えっ?安すぎるでしょ!?
しかし本当に錬金の基礎で出来て、需要がないらしい。
これを常備するくらいならポーションなり『薬』なり常備すると。
まぁ言いたい事も分かるけどね。あ、私また来ると思います。在庫ヨロシク。
錬金術ギルドを出た私は、いいものを買えたとルンルン気分で宿へ戻った。
「あ、おかえりです! お姉さん!」
「ただいまシェラちゃん、これお土産ねー」
「おお! ウサギが三羽も! ありがとうです! 宿代、微妙にお安くします!」
「微妙かい、ちゃんと計算よろしく」
この娘は八歳だと思っちゃいけない。
まじで商売人だからね、油断できないんだよ。
まぁこれで夕食にまたウサギ料理が出ることでしょう。楽しみだ。
そして私は二階に上がり、いつもの自分の部屋へ。
ガチャリと鍵を開け、扉を開ける。
ギィ……
「よお、おかえりー」
……パタン
…………は?
なんか知らない男が居たんだけど!? ここ私の部屋だよね!? 鍵開けたもんね!?
誰!? あの超くつろいでた無精ひげのおっさんは誰!?
いや分かる! 分かることがある! 間違いない!
「シェラちゃああああん! 不審者ああああ!!!」
そう叫ぶ私の後ろで、私の部屋の扉が開かれる。
顔を出したのは当然その不審者だ。
「いやいや! 待て待て!」
「きゃあああ!!!」
「ちょっと落ち着けって! なあ!」
「だだだだ誰ですかっ! あなたはっ! お姉さんから離れるですっ!」
「シェラちゃああああん!!!」
廊下にへたり込んだ私。颯爽と駆け付ける八歳児。
その八歳児にすがりつく私。頭を抱える不審者。
お父さん、お母さん、街って怖いところです。
ドゥーデドゥデーン、ドゥードゥデドデーン




