10:毒使い、Eランクになる
あれから私はゴブリンの右耳をはぎとり、死体には適当に土をかけ、すぐにオーフェンの街へと戻った。
冒険者ギルドに行って依頼ボードを見れば、ゴブリン討伐は常設依頼として貼り出されていた。つまり、いちいち受注手続きをせずとも報告だけすればいいって事ね。
と、いうことで『報告窓口』でゴブリン討伐の報告をする。
依頼内容としてはゴブリン五体分の右耳で銀貨三枚。約三千円と非常に安い。
新人冒険者が命をかけて戦い、なんとか五体倒しても一日の宿分くらいにしかならない。
こりゃランクが上げられない固有職が強制連行されると言うのも頷ける話しだ。
まぁだから街内のお手伝い系の依頼とか、薬草採取系がFランク依頼に多いんだろうけどね。
今回、私は六体倒したんだけど、五体単位で清算されて持ち越しとかできないらしい。一体分の耳を持ち続けるのも腐りそうなんで、六体分提出の五体分のみ清算という形にした。処分して下さいと。
そんなこんなで一度宿に戻り固いベッドにダイブする。
戻って来た時にシェラちゃんに「もう!?」って顔されたけどしょうがないよね。出て行ってから帰ってくるまでが早すぎるもんね。
何はともあれ、身体を休め、今一度冷静に先ほどの戦闘・スキル考察を振り返る。
・スキル面
<毒感知>は半径10m以内の『毒』を感知できる。決まった『毒』のみ?感知できない『毒』もある?以後戦闘中に<毒弾>を当てた相手にも使う予定。
<毒弾>は野球ボール大の毒液を剛速球で放つ魔法?相手は『状態:衰弱毒』になり十秒毎に10固定ダメージ(被験者・私)。時間経過で解けるのか不明。当てた敵が『毒』になる確率も不明。
また、帰り道での検証結果、木や水は『毒』が効かないらしい。<毒弾>を当てて<毒感知>を使ったが検出されなかった。おそらく生物限定。瓶などに毒液の保存も不可。生物に接触しないと消える。
<毒精製>は帰り道で使っても何も起こらなかった。おそらく<毒精製>で作られた衰弱毒を<毒弾>で撃っているという扱いかもしれない。つまり<毒精製>のレベルが上がり、別の『毒』が精製可能となった場合、<毒弾>の効果も変わるのかもしれない。
・戦闘面
まずポーションホルダーの入手が急務。背嚢に入れっぱなしだと全く使えない。腰に下げるタイプのものを探す。
『クリハン』での疑似戦闘経験はかなり活かせる。少なくとも頭では分かるし目でも追える。身体はぎこちないながらも身に着けた回避技術は使えた。しかし少女の身体と片手に鉈というスタイルによりバランスがだいぶ違う。要修正。
当然だがゲームと現実世界では細かいところで相違点が多すぎる。体力の問題もあるし汗が目に入る場面もあった。地面の小石が邪魔に感じる場面もあった。服の衣擦れやブーツの履き心地、ステータスによる動き方の違いなど、気を付ける所・アジャストが必要な所が多い。
そして最後にやはり戦闘で鉈は使えない。相手の攻撃を捌くくらいしか使えない、と言うか捌いた所で破損する可能性が高い。現状は回避行動時のバランサー的な意味合いが強い。
とりあえずこんな所だろうか。
まずは衰弱毒についてより詳しく知る事と、身体の動きを慣れさせる所からかな。
ま、今日はもう戦いたくないけどね。
ポーションホルダーだけ買いに行こう。そんで寝よう。
♦
それから五日間が過ぎた。
今日もいつものように朝一番から動き出す。
「おはよーございます、お姉さん」
「おはよーシェラちゃん、行ってくるね」
「おみやげのウサギ肉、期待してます!」
「あー、まぁ見かけたらね」
受付に座るシェラちゃんに声をかけ、宿を出る。
まずは冒険者ギルドだね。
朝一のギルドはいつも混んでる。少しは慣れて来たけど、やはり十歳少女としては人混みは辛いのだ。背が足りない。視界が狭い。
で、とりあえずEランクの依頼ボードに目を通す。
あ、そうそうEランクに昇格しました。
昇格条件は『討伐依頼五件を含む、Fランク依頼の二〇件達成』という事で、昨日昇格した。
オーフェンの周辺は、常設依頼のゴブリンや角ウサギ、スライムとかが出る。少し街から離れればもっと強い魔物がいるらしいけど街の近くならFランクでも狩れる魔物ばかりだ。
それと毒草の採取依頼もFランク。薬草採取もあるんだけど、私の場合、毒草のほうが見つけやすいしね。<毒感知>様様です。
そんなわけで、毎日毒草を採取し、ゴブリンと角ウサギを狩りまくった結果、無事昇格できたとさ。
まぁスキルの考察と、身体の慣らしが主な目的で、結果としてそこそこの数を倒してしまったというだけなんだけどね。
お金も稼ぎたいし丁度良かったですよ。
レベルも上がってるよ。
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名前:ピーゾン
職業:毒使いLv4(+2)
装備:武器・鉈(攻撃+0)
防具・布の服(防御+2)
皮のブーツ(敏捷+1)
布の外套(防御+1)
HP:37(+11)
MP:42(+11)
攻撃:20(+5)
防御:4(+1)(+3=7)
魔力:20(+7)
抵抗:8(+3)
敏捷:50(+13)(+1=51)
器用:27(+5)
運 :8(+3)
スキル:毒精製Lv1(衰弱毒)、毒弾Lv1、毒感知Lv2(+1)
―――――
めでたく防御が1上がりました!まだ【無職】の時の方が多いんだけど!
やっぱある程度ランダムっぽいんだよね。テーブルが決まってて確率で変動するみたいな。
<毒感知>も上がったけど感知範囲が半径20mくらいになっただけのような気がする。感知できる毒物が増えたのかは分からない。要検証です。
「うーん、Eランクはウルフ、ワイルドコッコ、キャタピラー、スケルトン、コボルト……見た事ないやつばっかだなぁ。そもそもFランクの牙ネズミとか青トンボとかも見た事ないし」
街から離れないと居ないのか、もしくはダンジョンに居るのかな?
あ、私Eランクになったからダンジョン入れるのか!……いや、まだ慌てる時間じゃない。武器なしでソロでダンジョン攻略とか死ぬでしょ、普通に考えて。とりあえず街の周りで地道に鍛えよう。
「おはようございます、ピーゾンさん。あらEランクになったのにFランクの『毒草十本採取』と『角ウサギ三体討伐』でいいんですか?」
「同じランクの上下一つずつまで大丈夫なんですよね」
「ええ、ピーゾンさんですとD~Fランクまでが可能です。ただEランクの方がFランクの依頼を成功させても昇格評価はされませんが」
Dランクへの昇格条件は『Eランク依頼の一〇〇件達成』。いくらFランクの依頼数を稼いだところでDランクには上がれないという事だ。
ちなみにDランクの依頼を一つこなすと、Eランク二件分と見なされるらしい。
私は「大丈夫です、問題ない」と答え受理してもらった。
ある程度お金を溜めて王都に向かうつもりだし、そこからせめて防具とか揃えて、死ぬ危険性を少しでも下げた状態で、ちゃんと″冒険者″したいのだ。
今はお金を貯めるのと身体を鍛える・慣らすので精一杯です。
ただでさえポーションと解毒ポーションを完備する絶対安全スタイルでいるんだからね!私知ってるんだよ!私以外のFランク新人少年少女は解毒ポーションなんか買わないって!そりゃそうだよね!毒持ちの敵となんて戦わないだろうし!毒草じゃなくて薬草採取するだろうし!私、常に十本キープしてるんですけど!?
まぁそれはともかくギルドを出た私は一路街外へ。毎日通っている慣れた道だ。
私がいつも使ってるのは南門。我が故郷ファストン村から来る方角。
こっちの方はそれこそゴブリンとか角ウサギとかしか出ないし、毒草もちらほらある。
現状の私にはうってつけなのだ。もう少ししたら別の方角も行ってみたいんだけどね。
南門から出て東側にすぐ見える森へ入る。かなり近い。
オーフェンの南門からファストン村方面へと続く道は平原に敷かれていて、そこだとあまり魔物は出ないらしい。
やっぱ森とかの方が出やすい。と、私のたった五日間の経験則だ。
「げえっ!スライム!」
森に入って最初に遭遇したのは木の根元に蠢く半透明のゼリーっぽいやつ。
ちなみに私の天敵である。
スライムは毒が効かないのだ。<毒弾>を撃ちこんでも全く反応なし。普通の魔法であればダメージが通るはずなんだけど、私の毒は全然効かない。
だからスルーします。別にこいつ襲って来るわけじゃないし。近づいたり攻撃したりしなければ問題ない。万一攻撃されても逃げるのは容易いのだ。
そんなこんなで<毒感知>で毒草を探しながら、時々見つけたゴブリンや角ウサギを相手に回避練習という名の毒殺を繰り返す。
背嚢に入れて来た麻袋に、討伐証明用のゴブリンの耳。そしておみやげ用で血抜きした角ウサギを三羽ほど入れると結構な量になる。
ちなみに、やろうと思えばウサギの解体とか出来ます。食堂のお手伝いしてたからね。料理自体はお手伝い出来なかったけど、肉や皮を捌くのはやってたのですよ、ふふん。
「肉はこんなもんでいっかな。後は回避練習だけでいいね」
ウサギの討伐証明は三体分以上提出しても意味ないからね。常設依頼じゃないし。依頼受けていればお金貰えたけど。せいぜい解体して毛皮の買い取りをお願いするくらいだ。だったら宿でおみやげついでに解体してもらったほうが楽だしね。
それからしばらく回避練習を行う。
色々なシチュエーションで練習しようと、あえて足元が悪い森の中や、河川敷の小石の上など、ゴブリンをおびき寄せて練習する。
勘を取り戻し、今の身体にアジャストさせる。ゲームと現実の違いを身体に覚えさせる。
持久力の鍛錬にもなると思う。実際体力ついてきたって実感あるし。
そんなこんなで河川敷の青空の下、いい運動をしていたわけだが……
「グギャアアア!!!」
突如聞こえた魔物の咆哮に私は驚き、その声の出所―――空を見上げた。
聞いた事のない声に私は警戒を増し、その姿を見る。
頭上約30m。それは青っぽい身体をした大きな鳥だった。
……いや、鳥か?
体表を覆っているのは羽毛ではない。……鱗?
まるでプテラノドンのようなフォルム。鳥のような爬虫類のような魔物。体長5mほど、翼を広げた横幅は10m近いのではなかろうか。
そんな魔物が空から私を見つめ近づいてきたのだった。
―――それは劣化とは言え竜種に分類されるもの
「ワイバーン……!?」
ドゥーデドデーン、ドゥードゥデドデーン




