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#56 ジーナのお願い

 精霊さんとダンジョンに行った帰り、ギルドでジーナさんが俺を待っていた。


「クロモリをとめてもらえないだろうか」


 ジーナさんは真剣な顔で、そう切り出す。

 なんでもクロモリのダンジョンを降りるペースがやばいらしい。

 数々のルーキーを導いてきたジーナさんでも見たことがない速度で進んでいるとか。


「彼女のペースは異常だ。2週間たらずですでに8階。明日には9階にいくだろう。きちんとしたパーティも組まずにこれは自殺行為だ」


 なんでも階段を見つけると、ガシガシ下に降りてしまうそうだ。

 早すぎるペースに、速度を落とすよう、ジーナがいくら言ってもクロモリさんは聞かないらしい。

 全く手綱のとれない事態に、俺に助けを求めたようだった。

 しかし、俺に言われても正直手に余る。


「やっぱり、そうなっちゃいましたか……。俺も注意したんですがねぇ」


 俺が恐れていた事態は早くも現実のこととなっていた。

 きっとゲーム感覚で進んでしまっているのだろう。

 止める手立ては正直あまり思いつかない。


「サポートするパーティメンバーを集めてはどうでしょう?」


「クロモリは人と組みたがらないんだ。効率が下がることもそうだが人見知りが激しくてな。私も一緒にやれるようになるまで苦労した」


「この際、パーティを組まない護衛だけを集めては? それなら効率も落ちないはずです。人見知りなのはわかりますが、四の五の言ってられないでしょう」


「……そうだな、なるべく早く集めてみよう。とはいえ、今はどこもゴタゴタで人手不足だ。せいぜい1人見つかるかどうかだな。なにか他に打てる手はないだろうか?」


 他にか。難しいことを言ってくれる。


「彼女は、痛い思いをするまで止まらないと思います。そうですね、あえて怪我を負わせてみては?場合によっては、もうダンジョンに潜らなくなるかもしれませんが」


 クロモリさんはやや極端な節がある。

 怪我の具合によっては、トラウマになり、ダンジョンに完全に拒否反応を示すようになってしまうかもしれない。

 しかし、それでも死んでしまうよりは遥かにマシだろう。


「怪我か……。それも仕方がないかもしれないな。正直、クロモリには才能がある。その芽を摘んでしまうようなことは気が引けるが、そうも言っていられない状況だしな」


 話に聞くと、クロモリさんはギリギリのバランスでダンジョンを突き進んでいるらしかった。

 ジーナの目には、いつバランスが崩れてもおかしくない状態だという。

 ダンジョンでは、ちょっとの失敗が死につながる。

 クロモリさんはゲームのつもりかもしれないが、ここは現実だ。

 死んだらそこで終わり。取り返しがつかない。


「ジミチ、私と一緒にクロモリとパーティを組んでもらえないだろうか。本当にギリギリの状況なんだ。サポートできる人員は一人でも多いほうがいい」


「あ~、やっぱりそうなりますか」


 ここまでの流れ、なんとなく予想はできた。


「でも俺、役立たずだと思いますよ。2階までしか行ったことないし、足引っ張るだけになるので、辞めたほうがいいかと」


「いざという時の保険になれば、とりあえずは立っているだけもいいんだ。頑張って、きみのサポートを見つけてくるから頼めないかな」


 8Fは正直怖い。

 が、クロモリさんが心配なことも事実だった。

 護衛という保険がつくなら、考えなくもない。

 俺は本当に護衛が見つかるならという条件をつけて、クロモリさんに話を通すことにした。



  *



「ジミチさん、一緒に行ってくれるんですか!」


「ジーナに相談されたんだ。自分一人だとクロモリを守り切れないかもって」


「やったぁ、ボスにいきましょ、ボスに。私と一緒にボスデビューです。ほんとはしばらく9階に籠ろうかなって思ってたんですけど、ジミチさんいるならきっと大丈夫ですね」


「え〝」


「私、9Fで稼ぐつもりで飛ばしてきたんですけど、10F突破できるなら、もっと先に進んだほうが全然いいですしね」


 ジーナを見ると固まっていた。

 気を利かせた結果、完全に裏目に出てしまっている。

 

「い、いや、俺もいきなりボスは無理だよ。9Fもやれるかどうか怪しいし。まずは楽な階から様子見させてもらえない、かな」


「じゃあ、今から6階はどうですか?ジミチさん、今日バイト休みですよね」


「え、ジ、ジーナが空いてないんじゃないかな。無理するのはよくないよ」


 俺は必死に「空いてないよな!」と言う視線をジーナに向ける。


「あぁ、私がこの後予定がある。明日にしよう」


 ジーナはもちろん、察してくれた。

 うんうん頷きながら今日のスケジュールは埋まっていることにしてくれる。


「じゃあ、明日の午前中は6階で午後から9階ならいいですか?」


 クロモリは俺たち2人のやりとりを見ながら、にんまりとそういった。

 あれ、手玉にとられてる?

 無茶な要求の後に本命を通すって交渉術なかったっけ?


「あぁ、午前中の様子次第では、午後は9階にいってもいいよ。ただ無理はしないからな」


「やったぁ、絶対ですよ!逃げたら承知しませんからね」


 クロモリさんは俺が逃げると思っているのだろうか。

 確かに俺は、場合によっては恥も外聞もなく逃げる人間だ。

 しかし、彼女の前でそこは見せたことはないはず……

 あれ、見抜かれてる?


「じゃあ、明日朝8時に待合室に集合でお願いしますね!」



  *



「あー、やば、ミスったなぁ」


 深夜。俺はベットの上で今日のことを反省していた。

 途中から完全にクロモリさんのペースだった。

 段取りも流れも上手くなかったし、なによりすごく行きたくない。

 いきなり2階から6階だ。

 間を飛ばしすぎだろう。


「約束したけど逃げてしまおうかなぁ」


 後できっと怒られることだろう。

 でも、怒られるだけですむなら、アリな気がする。

 クロモリさんは、俺が加わらなかったら9階にしばらく留まるつもりだった。

 今回の件は、俺が入ることで完全に悪化している。

 考え直してみると、行くメリットはないように思われた。


「よし、逃げよう」


 今なら意表をつけるはず。

 深夜のうちに、外の宿に泊まってしまおう。

 俺は、前言を完全に撤回し、そそくさと準備を整える。

 しかし、1階に降りた俺を待っていたのは……


「あれぇ、ジミチさん、どこにお出かけですか? まさか、逃げませんよね?」


 待ち構えていたクロモリさんだった。

 ……ナンデイルノ?。

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