表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

act6 何かがあって何もない場所

 act6 何かがあって何もない場所


挿絵(By みてみん)


 山の中の道は、かろうじてアスファルトを残していた。

 雑草が生い茂り、昼間の日差しにかえって荒廃を際だだせている。

 往時の看板らしき残骸、朽ち果てた木造の建物。雑木林も空気の流れが悪いのか、ドンヨリとしていた。

 悪路を車で進むと、木造の集落が篠竹におおわれ朽ちていた。曇り濁った窓ガラスに塗装の禿げた板壁の家、瓦屋根も傾き、中にも草や蔦が生い茂っている。家屋の建築様式は昭和な感じだ。

「先輩方曰く、これでも平成はじめの頃は人がいたそうです。」

 低速で車を乗り入れる。村落らしき場所に到達、商店の跡らしき看板、タバコ屋らしきなにか。集会場らしき平屋の建物は雨戸が閉めきられている。ゴミやがらくたも散見され、その有り様から不法投棄が最近もあったように見受けられた。

「落ちていたものがゴミだった可能性は?」

「帽子の後に、スマホを拾いました。まだ電源は十分でしたが電波がたっていない、自分ので確かめましたが立ちますので機種によるかと。ロックはかかっていませんでした。カメラ機能も使えたのでファイルを見ると、男女数人の集合写真やその他諸々があって多分、彼等のでしょうね。それも警察には渡してあります。おっと見えてきた。」

 更に道を進むと木々を分ける細い道が粗方土になり、竹林の先に現実的な車体が見えた。

 パトカーとKEEP OUTのテープと、数人の警察の人間である。

 ※※

 私は車の中で休憩だ。警察の人とおっちゃんと岡田、鈴木さんで頑張ってくれと休憩に入る。

 岡田の話を要約すると、七人が動画配信のネタの為に廃墟探索に来た。だが、ネタなのか苛めなのか二人を置き去りにして五人が車で去ってしまう。残された二人は何とか撮影して帰ろうとした。すると、奥の廃墟に行こうとしたら、何か飛び出して二人を追いかけてくる。

 仕込まれたネタだと思って撮影したら、石を投げられた。更に地面に引き倒されると踏みつけられた。

 やりすぎだろうと止めさせようとしたが、途中から気がついた。相手が仲間じゃない。

 岡田曰く、錯乱の為か相手が誰か、どんな外見か証言がメチャクチャ。

 そして、こんな山奥で暴力を振るわれて無事に帰れるわけがないと気がついた。連絡手段も皆車の中だ。

 で、彼らは追いたてられて資材置き場まで来た。この辺りに来たのは始めてじゃなかった。点在する人家よりも上に来たのは、選択肢がなかっただけのようだ。

 問題は、点々と落ちていた荷物だ。

 彼ら二人の物かと思ったが、違ったのだ。

 そして、財布や結構大切な個人情報を示すものが、この廃村の奥の方までばら蒔かれていた。

 今、私が休んでいる位置で、その夜も車を止めると岡田を車両に残して先輩二人は辺りを少し探した。

 何かあるだろうが、深入りするほどでもない。後は警察に任せるのが正しい。

 と、ここで再びイレギュラー。

 車の岡田に先輩、立花から連絡が入る。

 村落の奥に人が倒れているから、救急車を呼ぶようにと。

 彼らのトランシーバーは、そんなに範囲が広い訳じゃない。岡田は無線連絡をいれると車の回りをライトで確認した。

 馬鹿が潜んでいるかもしれないと。

 怖い話だ。

 こんな山奥で暴漢に襲われたら、行方不明で終わるぞ。

 水を飲んでバリバリ栄養補助食品を食べながら、ため息をつく。

 そして、その倒れた人間を救助したら、ついでに腐った死体を見つけたのだ。

 問題は多数ある。

 発見されたのは件の動画を録りに来た七人の内の一人。

 女性で殴打されて重症、意識不明だ。

 所在がわかったのがこれで三人。そう、残り四人の所在が不明だ。

 車は、この村を通り抜けた先の藪に突っ込んでいた。

 腐った死体の中には混じっていない。

 現場を荒らさないように先輩方は踏み込まずに目視で確認。

 廃屋の裏にある淀んだ池に、腐乱死体があったそうだが手前にフレッシュなのがひとつあった。

 バイタル反応を一応見るべく二人は近寄ったが、見るからに死体だ。その死体の側にセカンドバックの中身がぶちまけられていた。

 なるべく触らないように覗きこむと..。

 できすぎだと思う。

 だが、フレッシュなのが誰だか、これで判明した。

 フレッシュなのと表現したのは岡田だ。

 では、どこで岡田は怪我をしたのか。

 到着した救急車と再び出動した警察を案内した時だ。

 村落の道が一部陥没していて落ちたのだ。暴漢と対峙したのかと思ったぞ。

 これは普通に犯罪、連続殺人の可能性もある。もしくは集団自殺か?

 ともかく事故ではなさそうだ。

 被害者の一人がA氏だからといって、戸田が関わるとか無いよ。

 むしろこれに結びつける何があるんだ?

 山狩りを次の日から行った。捜索範囲を変えながら行っているが、未だに見つかっていない。なので公表と共に大規模で広範囲な捜索に切り替わる。まぁ、今日中にもか。

 ただし、この七人の事件を発表するか、腐乱死体が見つかった事を発表するのかは知らない。それは捜査する警察の判断だ。

 まったく嫌な世の中だ。

 等とぼやいていると、岡田が戻ってきた。

 岡田は、森、立花ペアより中には踏み込んでいない。おっちゃんと警察の意見交換の側から離れた鈴木さんは、本社に電話すべく電波の良い場所まで、道を戻っていた。

 岡田は休憩する私の隣に来ると、何気ない風に辺りを見回した。

「で、何で俺がマイナーな動画配信チャンネルをたまたま見ていたか気になりません?」

 黙って水を飲む私を見下ろしながら、爽やかそうな笑顔で続けた。

「見てください」

 スマホを差し出されて、動画共有サイトを見る。登録されている番組を開き概要までスワイプすると、私はどんよりした。

 奴等の地元だ。

 例の、つまり地元枠の、戸田や牧野らの。

「勘弁しろよ、何だよ、どんな地域性なんだよ。住んでる場所の水でも悪いのかよ」

 警察はすぐに繋がりを見つけるだろう。

「あの事件やら地域性を見るのに、色々あさったら戸田の後輩がこいつららしくて。面識もありそうな感じ、学校裏サイトでも結構な話題で」

「岡田よ、知らなきゃ平和だって事もあるんだよ」

「実害がなければね、梅さん。」

「偶然だ」

「すごい確率ですよね」

「何でも結びつけるのはイカン」

「でも、おかしい」

 岡田は車の屋根に片手を置くと、口許を押さえて囁いた。

「奴らのビデオカメラが見つかってないんす。逃げてた二人は落としたらしくて、警察が探してます。そして車にのってた奴らと奴らのカメラも見つかってない。それで、おもったんすが」

「ダメだ。」

「まだ、何も言ってないんすが?」

「もし、警察が捜査してなにもでなかった後だとしても、犯人が、もしくは原因が分かるまでは何もするんじゃない。いいか?なにもするな。災いに自分から入り込むな。何もなくたって、穴にはまって転けることもある」

 傷を指差して言うと、岡田は苦笑いした。

「お前は大人だが、まだまだ若くて将来がある人間だ。下らない奴らの下らない話になど興味を持つな。まだ、女の尻でも追いかけてたほうがいいぐらいだ」

 すると私の言葉を茶化すことなく、岡田は頷いた。珍しいこともある。

「戸田が俺を笑いに来たのは、単に牧野と仲良くしているように見えたからだけ、だとします。

 そうだったとして、じゃあ伝わったら、あの女のロジックからすれば、どんな結論になると思います?」

 陽射しが陰るような陰鬱な予感に、私は岡田を見上げた。

 黙る私に、岡田はヘラっと笑った。

「俺はけっこう酷い人間です。」

 唐突だな。

「育ちも悪くて、素行も悪かった。

 そんな具合で大概の事は耐えられるし平気なんすよね。

 だから、梅さんの心配は無駄です」

 おお、そうか。いらん、世話か。

「違います、心配してくれて嬉しいんですよ。

 誰かに心配されるなんて、贅沢な事ですから。

 で、そんなお人好しの梅さんに、お願いです」

 私はお人好しではない。

「自分を優先してください。俺のことじゃないですよ。

 今日から、嫌ですと言える人になってください。」

「言ってるぞ」

「なら、ここにいるのは何故でしょう?」

「成り行きだ、お前が」

「そう、俺がお願いして梅さんはプリンを持ってきた。

 後輩だから、難儀してる顔見知りだから。」

「悪いか」

「悪くないですよ、どんどん俺には優しくしてください。

 でもね、お人好しの梅さん。

 人間は利己的で残酷で汚いんですよ。

 梅さんこそ、自分を大事にしてくださいよ。

 今回だって、本気で断れば良かったんですよ。

 俺は、来てくれて嬉しいけど。」

 そこで岡田は、うーんと唸った。

「梅さんが、俺に気があって優しくしてくれるなら心配じゃないんすよ。生臭い感情を向けられるのは慣れてますし。

 でも、違う。

 変な話ですけど、多分、俺の今感じてるこの感覚と、クズどものセンサーに引っ掛かる何かは同じなんですよ。」

「この会話の意味の方がわからん、お前、話をすり替えるなよ。事件に関わるなって話だろ。

 まぁ、お前に気があるとか、そう言う見方もあるよな。現実はそんな要素は皆無でも。そんな女子力とパワーがあったら、もっと人生楽しかろうよ。事件現場で栄養補助食品かじってねーわ」

「嫌だなぁ、梅さんが俺を大好きな分には問題なしっすよ。ついでに付き合っちゃいます?ぐおっ、腹は殴らんでください。ヒビってるんですって」

「てめぇ、セクハラは許さねぇぞ」

「まぁ、梅さんは俺が大好き、俺も梅さんが大好き。クリアでフラットに、先輩と後輩として、顔見知りとして。でも、この関係はあんがい難しいんすよ。俺じゃなかったら、けっこう誤解しますよ。まぁ、誤解じゃなくてもいぃ、イデデ、殴らないでー。

 梅さんは他人に合わせるのが上手です。悪く言えば八方美人。

 これね、ストーカーとか頭の緩んだ奴は大好きなんです。

 特別に感じるんです。

 戸田は同類です。ストーカーって、別に男と女の間だけじゃない。何だかね、俺の知る範囲だけでも、梅さんの回りの奴等はおかしいのが揃ってますよ。気がついてます?」

「目の前に一人いるな」

「梅さん、住所割れてるから、まぁ、セキュリティは万全だけど。当事者が自覚ないしなぁ。ともかく、嫌なことは嫌と拒否る。アイツらとは距離をとる。そんで俺と梅さんは仲良し、共同戦線、OK?」

 意味がわからん。

「わからなくても、覚えておいてください。俺は概ね味方です」

「概ねかよ」

「やだなぁ、梅さんたら。俺は本気になると蛇みたいって女によく言われるんすよぉ」

「それ普通にキモチワルイぞ」

「今日一番のご褒美でしゅ」

 ※※

 そして、肝心の労災申請の為の現場確認をするべく、しぶしぶ車を降りた。

挿絵(By みてみん)

 アスファルトに雑草が生えた村道は一見すると穴等ないように見える。だが、明かりひとつない夜に雑草を踏み分けたと思ったら穴。怖い。

 岡田が指し示した穴は、縦に1メートル以上あり横に曲がって続いている。子供なんぞ落ちたらどうなるか。

「落ちた俺より救急隊の人が絶叫したっすよ。突然、消えたーって」

「未熟者め、フィールドワークの基本だろう。雑草や藪は飛び越えるんじゃない」

「梅さんだってインドア派じゃないっすか、俺は鍛えてますから」

 落ちた時の姿図が落書きみたいだ。調査書の図解では、岡田はマッチ棒に手足の生えた姿で穴に突き刺さっていた。

 前衛的な図解だ。私が眉間にシワを寄せていると鳥越のおっちゃんと警察の人が来た。鈴木さんは付き添いありで撮影できる場所をカメラにおさめている。

「西原さんは、岡田の補助指導員です。本社研修宿泊施設の管理長でもあります。本日は労災書類作成の為に来てもらっています。こちら警察の」

 機動捜査隊とか鑑識とか、そういった初動捜査の人達の後に来た怖い人である。つまり殺人課の人だ。

 にっこりニコニコしたもの柔らかな雰囲気の人である。目付きだけは鋭くて、緊張して挨拶をかわす。

 現場の手前、岡田が落下した地点までで良かった。と内心思っていると、数枚の写真を見せられた。誰か見覚えのある顔は?と、簡易なフォトアルバムのような冊子を渡される。

 男女のバストショットだ。

 死体とかではない、良かった良かった。

 と、流し見る。

 誰にも見覚えはなかった。

 なんとなくホッとする。

 その日、緊張したのはその時だけだった。

 現場の村落は、最初の捜査は済んでいたが、鑑識の人も未だに出入りしている。邪魔にならないように、素早く提出用の写真と記述をまとめると車に戻る。戻りながら、辺りを見回した。

「どうしました?」

「いや、撮影したかった廃墟って何処なのかと」

「行ってみます?」

「いやいや、行方不明者や死体が出てんだぞ」

 とか、会話してたら鳥越のおっちゃんと鈴木さんが帰り道に回って見てこうか?と、アホな事を言い出した。

 山狩りで最初に警察が改めているので、特に何もないらしい。

 私は断固NOと主張した。

 冗談だったらしくいきり立つ私をなだめると、分社に向かうことにした。警備会社は子会社化しているので、本部の分社の事である。

「あの写真、何なんですか?」

 隣に座ってるおっちゃんに聞くと、あの中に事件と関連のある人物の写真を混ぜてあるそうな。簡易版首実検だそうな。

「殆どが関係ないか、合成。そして、本命が数枚。あの中に、行方不明のと推定死体の身元の人間が混ざってる」

「私の場合、証言の能力に問題ありじゃ?」

「それも込みで判断記録するからね。視力が悪ければ、視力が幾つか記録するし、疾病があればそれもね。さて、西原ちゃん。さっきの写真は何枚あったでしょう?」

「十七枚です」

「男と女の数は?」

「男が十一に女が六枚です」

「五十代以上の男性と女性は?」

「男性が二人、女性が一人」

「はい、合格。岡田くんよ、疾病ありでも十分だと思わんか?」

「なんですか?」

「どうせ俺はバカっすよ」

「私も先に見せてもらってね、職業柄顔を覚えるのが仕事だから頭に入れるようにしている。これ訓練できるんだけどね。警察官や警備の人間は、けっこう必要な能力な訳よ。ところが、このゴリラはね、人の顔を覚えるのが苦手なのよ。西原ちゃん、うちの部署に来る?デスクワークもあるよ。代わりにこの子、他に回すから」

「やだ、梅さんたら。また、ナンパされてる。NOですよノー。今日からビシッと」

「違うだろう、お前、ちゃんと仕事しろって話だろうが。こいつ、警備部で所属、決まりなんですか?」

「まぁ、特殊の方で少しシゴイてみるかね、お前の先輩、ほら相馬がいるから。嬉しいだろ?」

 おっちゃんの言葉に岡田が真面目な顔になった。

 急に無口になると項垂れて石になる。

「誰です、それ?」

 声を小さくしておっちゃんに聞くと、笑顔で教えてくれた。

 岡田は大学では柔道だったが、本来は空手をずっとやっていたらしい。んで、その空手でもちょっとキツイ方向の流派でグレてた頃に世話になった人物が相馬と言う人らしい。

 ゴリラよりゴジラの方が強いだろ?

 つまりゴジラみたいな人らしい。

「ざまぁ」

「それはご褒美じゃないです」

 その違いがわからん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ