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act4 暗黒面は知りたくない

 act4 暗黒面は知りたくない


 ばけつぷりんだ。

 平仮名は間違いではない。そういう商品名なのだ。

 可愛いカップがカラフルなバケツになっている、クリームとカラメルたっぷりのミニプリンだ。

 バケツだけどミニプリン。

 それを捧げ持っている岡田は元気そうだ。

 ※※

 警備には様々な部門がある。

 私は営繕清掃などのサービス部門だったので、詳しくはない。

 まぁ、大まかに交通整理などの派遣と、建物関係、巡回警備と特殊警備部があるくらいの把握だ。間違ってるかもしれん。言い訳になるけど、普通はそうじゃない?

 大本は同じでも系列会社全部の詳細な組織図まで把握はしてない。特に我が社は手広い。系列会社や子会社も結構な数だ。

 現金護送とか色んな仕事や種類があるんだろうけど、興味というか関係ないから知らん。

 特に特殊は警護、護衛関係のため人員等社内公開されていないことも多い。

 岡田は今回、施設常駐警備と巡回警邏のお仕事の見学だった。

 あくまでも、研修の見学だ。怪我すんなよ。

 そんな岡田が何故警備部なのか。

 本人いわく、家人がどうやら警察関係らしく、元々、目をつけられていたから当然の人事らしい。

 下川はあれで語学が堪能らしく、本部営業なのも納得らしい。海外事業部じゃ無いのは悪い先輩の引っ張りだろうけど。

 ばけつぷりん、の2個目に手を出す岡田は元気そうだ。

 包帯は左腕、顔面は擦り傷だ。

 念の為、伊豆の病院に留め置かれているが、頭も無事だし肋骨のヒビも固定しているので、無理しなければ痛くないそうだ。

 そして、わざわざ伊豆までプリンを配達したのは、根岸からの連絡があったからだ。

 その根岸は無事である。

 普通に研修を終えて伊豆から戻った。

 土産に伊豆の宿屋の宿泊券を携えて。

 私にそれを差し出すと言った。

「30分一本勝負、メガ海鮮丼を完食するとホテル宿泊券と練り物セットがもらえます。私はメガでしたが、西原さんならギガがいけるかと、ぜひ記録を打ち立て横綱に」

 番付があるらしい。

 完食するとギガは宿泊券と伊豆の名産品セットに、有名小料理屋の船盛ご招待と一年ぶんの干物だそうだ。行かねばなるまい。

 一年分の干物と交換で交渉が成立すると、私は宿泊券を受け取った。根岸さん家は兄弟がいるのでエンゲル係数が高い。なので宿泊券より食い物なのだ。

 もちろん失敗した時は、道の駅で魚介類を直送すると約束した。

 この時、根岸さんは例の話は一言もしなかった。

 理由を聞くと、前情報無しで岡田に話を聞いてくれとの事だった。何があったのだろう?

 そして、今回は意を決してドライブ旅行を決めた。一泊二日の強行軍だ。

 渋滞込みで片道四時間弱。高速のってもあまり変わらん。

 まぁ、イケルイケルとちょうど施設の閉館日を利用して出掛けることにした。

 日帰りでも良いのだが、体調を見て一泊して帰る感じに予定を組んだ。お昼は海鮮丼だ、予約の電話もバッチリだ。

 と、ここまでは良かった。

 有給無いので何とか調整して~とか考えていたら、どこから聞き付けたのか人事部から同行したいと打診があった。

 遊びなんすが?と、返答したら、何か仕事にしてくれるらしい。

 もう、この時点でわかった。

 ただの事故じゃねぇ。

 やめて、私のライフはゼロよ。

 とか、最初はふざけていたが、更に警備部の偉い人が車を出してくれて、あっちの宿泊も手配してくれるとか言い出した。

 私は海鮮丼チャレンジに行くんで、岡田はついでなんです。

 と、正直に言ったら。

 警備部の偉い人が、更に同行者の分の海鮮丼を追加でお店に予約しやがった。

 体裁は、岡田の見舞いとか現地調査とかではなく、私の海鮮丼チャレンジツアーで、労組の組合イベントの下見。

 これ、アカンやつや。

 最後のあがきに、宿泊券が~とごねたら、四泊の予定で宿泊は会社の保養所開けるからタダにするってさ。宿泊券は期限長いからとっとけだって。

挿絵(By みてみん)

 そして黒いワンボックスに、乗せられて伊豆に来たのさ。

 お迎えは、労組の鈴木という実直そうな男性と、警備部監査長の鳥越さんという怖い感じのおじさんだ。

 二人は外見を裏切る明るい人達で、どんよりとしている私に愛想よく話し掛け続けた。多分、ごり押しの無理設定はわかっているのだろう。

 そりゃわかるが、私は関係ないんだよ。

 海鮮丼チャレンジに…。

 まぁ朝出て昼に着いて、チャレンジしましたとも。

 初対面の気まずい雰囲気の中で、いつも通り食べましたとも。

 横綱の札に名前を書きましたとも。

 賞品は家に宅配してくれるってさ。

 同行の二人にはウケマシタトモ..。

 そうして、私は病院に先に来た。

 鈴木さんと鳥越のおっちゃんは、伊豆支社に行き用事を済ませてから病院に来る。私はプリンを届けたら、彼らが来る前に宿泊施設にトンズラ予定。

 中規模の薄暗い雰囲気の病室で向かい合う。

 会社の反応が隠蔽方向で動いているとした場合、それは事件性があるので警察に通報した場合も考えられる。

 事故ではなく事件だ。

 で、何があった?

 私の言葉に岡田は、プリンから顔をあげた。

「何があったか、わからんのが正直なところかなぁ。事実は単純なんだけど、それ以外が消化できないんすよ」

「単純?」

「出来事だけを並べれば、すげぇ単純。

 深夜巡回警邏に同行して、不法侵入者と遭遇。ちょっとばかりしくじって転けた。ので、この通り労災で治療中」

「犯人は?」

「盗癖のあるチンピラですかね」

「普通じゃないか、まぁ侵入者とかは普通じゃねぇけど」

「ただねぇ、チンピラってもガキで、盗みに入ったところを我々が確保したって言う…うーん、それは表向きで」

「監査と労組の二人が来る前に説明終わるか?」

 岡田はスプーンを噛むと唸った。

「お化けも霊も見なかったんすが、妙なモノと死体を発見したんす」

 たぶんあるだろう箝口令を軽々しく破り、ペラペラとしゃべる。

「んで、まぁ当日、それほどの難易度じゃない巡回に同行したのが最初で」

 サイドテーブルのスマホを見せてくれた。同期と写っている。

「ちょっとプロっぽいっしょ」

 ゴリラ岡田は装備を身に付けると初心者マークには、全く見えない。なんで警察とか自衛隊にいないのか不思議である。まぁ、本人いわく、属性が違うそうだ、なんのこっちゃ。

 講習、安全対策実習、装具訓練、その他、色々の基礎講習は事前に終わっている。伊豆はあくまでも現場研修だ。

 巡回警邏の注意点と安全対策の確認、つまり警備員自身の安全を保つべき行動の練習である。ほんとに怪我すんなよ。

「個人別荘とか企業施設とか建物がある地域を回る迄は、何事もなかったんすが。

 その保養地っぽい場所の近くに廃村みたいな場所があるんすがね。その外れにある資材置き場が、うちのセキュリティーエリアで。

 プレハブの二階建てが敷地にあって周囲が鉄柵になってるんですよ。」

「そこでトラブルか?」

「伊豆に残されてんのは、そこじゃなくて、その廃村で見つけちまったせいです。一緒に回ってた先輩方は地元ですからね。俺は怪我したし、広めちゃならんし」

「私に漏洩してんぞ」

「たぶん、この後に警察と会社の人間が来るから、それで一応退院かと、今晩には梅さんと合流で明日から、報告書の為に会社の人と事実確認に回ることになると」

「まさかお前、会社に私を指名したのか?隠れ蓑にちょうど良いとか…」

 ゴリラがわざとらしく身をくねらせた。

「プリンおいちかったでふ」

「キメェんだよ、私もひまじゃねぇんだよ。ついでに知らねぇ人間と長時間ドライブとかなんの拷問だよ。なんだよ心配してたんだぞ、こら」

「わぁ、ありがとうございますーでも、ちょうど良いじゃないですか、ただで温泉三昧ですよ。それにアノ話とも無関係じゃない」

「どこにつながる要素が?」

「死体がね」

 死体がたくさんあったんですよ。見分けがつかないくらいの腐敗したのが。

 でも、その中に身元のわかるのが一つだけあった。

 誰だとおもいます?と、岡田は笑った。

 私が知っていて、アノ話と繋がるとなれば、候補は少ない。

「今後、事件が表沙汰になったら、牧野と戸田に梅さんから、俺は中立無関係って伝えてほしいっす。」

 まさか?

「なんで外に?刑務所じゃ」

「初犯で執行猶予つき、対象に接近禁止令が出てたけど。警察にご厄介になったのがアノ事件だけ、普段は大変素行がよろしかった。まぁ外には漏れてなかったわけで」

 岡田はゆっくりとベットから足をおろして立ち上がった。

 病室着は笑える位丈が短かった。

「根岸は分社ビルから頑として動かなかったらしいっす。飲み食いに誘われても。正解ですわ」

 伸びをして怪我に響いたのか岡田は呻きながら、個室のように使っている大部屋で体を動かす。

「大丈夫か?」

「梅さんも、明日から一緒に回りましょ。」

「やだよ」

「どうせ今夜合流して監査の人間が説明しますよ」

「ぜってぇやだっ」

「そんで守秘義務同意書とか書かされるっす」

「帰る」

「これがねぇアノ事件に繋がってなけりゃ、こんな面倒くさい話にならんのですよぉ」

 ぽんっ、とデカイ手が肩に置かれた。

「根岸と同じく俺の中立性を保証してください。いわば梅さんは、魔除けなんです」

 馬鹿らしい言葉に眉をひそめる。するとゴリラが、案外、真剣な事に気が付いた。

「平和な国で産まれた身として、さすがに腐乱死体は精神にくるっす。まぁ、それだけなら俺も見栄をはれるんすが」

 薄暗い病室で、大きな男が身震いをした。

「頭のオカシイ輩はマジ怖いっすね..」

 続けた言葉に、私は顔をしかめた。

「見舞いと称して入院直後に、戸田が来たんす。そんで俺を見て笑いやがった。あり得ない、マジで絶句ですよ」

「何で笑ってたんだ?」

「え?そりゃ俺が怪我してざまぁ」

「戸田は死体が誰だか、まだ知らないんだろ?」

「知らないはずですよ、警察が入る事件ですから」

 今度は岡田が顔をしかめた。

「戸田が気持ち悪いっす。」

「今まで、戸田との接触は?」

「意識的に避けてましたから、相手も解るでしょうねぇ。見舞いの時、ゲラゲラ笑いながら。牧野の方につくなら、もっと面白いことになるとか抜かすし」

「戸田は何でお前の見舞いに?」

「それは…」

「死体の身元どころかニュースにもまだなってない話だ。お前がなにかしたわけじゃない。お前がケガをしただけだろ」

 ここで、岡田も思い当たったようだ。

 戸田は見舞いに来た。情報漏洩?

 まぁ、不用意に誰かが漏らしたか?

 それでも変だろ。

 岡田を笑いに?

 なんで?

 岡田は死体と因縁があるから結びつけたが、単に同期が怪我したから見舞いに来た。

 ほら、おかしくない。

 おかしくないが、おかしい。

 岡田はオカシイと、思った。

「何か、お前、話してないことあるだろ?」

 なにせ、死体は彼女の幼馴染みのA氏だ。

 好きな相手が死んでいた。

 知らないから笑った?

 知っていて笑った?

 私を呼んだ岡田は、単に発見者として逆恨みされたくないと言うだけの理由だろう。だが、問題はそこじゃない。

「お前、無意識に戸田が知ってる前提で話してるな。お前、戸田が何かしたと、思ったんだろ?例えば…」

 私の指摘に、岡田は呻いた。

「助けて梅さん」

「ヤダ」

 ※※

 会社の保有する宿泊施設は、少し山の中の鬱蒼とした木々の間にある。通常のホテルとは違い、愛想のない三階建てのビルである。

 築30年はたってるだろう、学校みたいな雰囲気だ。

 ただし、ちょっと陰気だが空気はさわやかで、近くを流れる小さな川も水が綺麗だ。既に暑い季節だし、そこそこ保養地らしさがある。長居はしたくないが。

 大浴場もあるけど個室の風呂も温泉が引かれているので、部屋で風呂に入る。

 お薬のんで体温が正常な事を確認してから、さっと入ってぱっと出る。

 温泉三昧と岡田は言ったが、体温と血圧の調整を薬に頼っているので、楽しむ迄には至らない。

 まぁ、温泉は温泉だ。気持ちいい事にかわりなし。

 個室の窓からは急流と暗い木立に山。

 食事は愛想のない食券で食堂で食べる。

 今日は後から来る鈴木さんと鳥越のおっちゃん、それに医者の許可がでれば岡田が合流だ。その時に一緒に食べるようだ。

 ここも利用時だけ開けて普段は管理人だけらしい。

 茶請けの饅頭を齧りながら、考える。

 なんで私はここにいるんだ?

 全くもって事件とは関係がない。

 関係者と仕事で繋がっているだけである。

 海鮮丼チャレンジがちゃっかり組合のパンフレットに載ると言うのも、二次被害である。

 鈴木さんが写真を撮りまくっていた。番付プレートと店主の笑顔も激写してた。鈴木さんと私だけなら組合活動でいけそうだが。そうなると出張にならん。まぁ、結局、それはついでで、本命は鳥越さんの煙幕なのだ。

 実際、岡田からさっき聞いた話だけでも重大事件だ。

 複数の腐乱死体が出て、そのひとつが件のストーカー。

 そして発見したのが被害者の勤める系列会社の人間。

 発見時、関係者の一人である戸田も伊豆にいた。

 警備部監査の人間が来るのは、道理だ。

 そして多分だが、根岸は今回の研修で例の嫌な匂いセンサーが反応した。

 彼女の言葉を素直に信じれば。

 まぁ、死人云々抜きに、巻き添えはごめんだと考える何かがあった。もしくは知った。

 さて、そこで何故彼女は岡田に話したのか?

 岡田と根岸は付き合ってる訳ではない。そこはどストレートに聞いた。

 二人ともあり得ないと全否定。

 特に根岸は心底嫌だって、オマエナニシタンダヨ。

 大食い仲間だけではないだろう、後考えられるのは派閥繋がりか。

 そして岡田の話は戸田に対する悪印象に尽きた。

 私に悪印象を持たせたいだけではない。

 私に同意を求めているだけではない。と思う。

 岡田は今一本心がわからない男だが、存外言葉にしていることに嘘は無いような気がする。

 根拠ないなぁ、でも、そう私は判断してる。

 お茶を飲んで、夕食は遅くなるのかなぁ等とぼやく。

 私が甘いのか、戸田、牧野、岡田、下川、根岸等の新人に対して悪印象が持てないのだ。

 他人事という認識なのが、原因だろう。

 戸田は元気の良い子で、我が強い。

 牧野は芯の強い勤勉な子で、少し鈍感。

 岡田は、実は真面目だ。ただし頑固。

 下川は、気配りの心配性。

 根岸は、現実的でシニカル。

 長所短所ともに彼らには未来があり、私には何ら暗い面が見えない。

 暗黒面が見えるフォースが足りない。つまり、彼らをまだまだ知らないからだ。

 そこで問題は、知りたいか?という根本的な話になる。

 遠慮させていただきます。と、走って逃げたら回り込まれた感じがするのは間違いではないだろう。

挿絵(By みてみん)

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