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act2 聞きたいことは別にある

 act2 聞きたい事は別にある


 ランチをとり、ウダウダと珈琲を飲み、新聞を読む。

 同じことをしているのは、父親ぐらいの年齢の方々である。

 主婦や女性客は見当たらない。商業施設から少し離れたビジネス街に近いからか、もっと海沿いのお洒落なお店が人気なのか。長居の客はオッサンが八割だ。

 置かれた数種類の新聞をそれぞれ読み回し、一通り目を通してから出ていく。

 私は何か新しいデザートを頼むかな、と考えていた。

 でっかいのいいな、でっかくて甘くてカロリー高いのだな。

挿絵(By みてみん)

「ちぃーす、梅さん。席空いてます?下川ー梅さん発見、梅さん見っけたぞー」

 おまいは、小学生かっ!

 暑苦しい壁が目の前にできた。

「何、セットで動いてんの?」

 真剣にメニューを見ている岡田を放置して、水を飲んでいる下川に聞く。

 色黒で筋肉な下川は、見た目によらず丁寧な奴だ。

 すいませんと、謝ってから苦笑いをしている。

「福井さんの方から、今中さんの方へ移れって言われまして。岡田とセットでサービス部門へ移動です。」

 意訳すれば、婿養子の社長が戦いに勝って、創業者一族を併合。社長派閥から創業者一族の権利に食い込む先兵ってとこか。もしかすると、この二人の親も新株主の場合もありうる。

 面倒だから二人でセット。どこでもこの対応を見るに、あながち間違いでもなさそう?

 まぁまぁリストラなければ、どうでもいいのだが。

「休日で本社出勤とは、お疲れさん」

「梅さん、このカツカレーどう?」

「西原先輩な、施設長でもいいぞ、それは旨かった。大盛りの更に上でちょうどいいぞ。激辛な、激辛」

「自分はクラブサンドでいいかな、もう、何か食べた気分だわ」

 私もフルーツモリモリのチョコレートパフェを頼んだ。

「サービスって何でも屋の方の?」

「急成長ですからね」

「おもろいっすよ、ゴミ屋敷の清掃とか」

 日常生活に密着したサービスを提供する部門だ。

「墓掃除とかまでやるんですね」

「電球一個から取り替えに行くんだもんね、専門の業者もうちにはあるんだから、仕事になるのかと思ったっすが。マジで忙しくてびっくり」

「そりゃ家事代行業、介護サービス、看護、営繕清掃やらと家の会社はやってるけど。法律的な範囲があって、そのどれにも頼むほどではない仕事、隙間の仕事はあるんだよ。資格業務になると逆に縛りがあるからね」

 新人らしく現場研修かららしい。

 今日はその研修のレポートを提出し、ついでに必要な資格試験の手続きをしに来たのだ。

 本当は営業とか他の部署に行きたいとか、色々不満はあれども彼らは頑張っているようだ。えらいえらい。

「梅さんは、あの宿泊所の主になったんですね」

「人事の方の配慮」

「調子はいいんでしょ?」

 遠慮の無い相方に下川が脇腹を小突く。

 それを見て、いずれ偉い役職に就きそうな二人にイイヨと手を振った。

「安定してる、薬は手放せないけどな」

 それに岡田は気を使ったのか、コネ情報なのかこんな事を言った。

「梅さんが思うより、あん時のはナイスアシストってやつだったんですよ。何もしてないとか、思ってるでしょうけどね。」

「どういうこと?」

「それ、俺も聞きたい」

 岡田の説明を要約すると、地方社員で指導資格のある女性、更にあまり年上じゃなくて、本社の人間と仕事上の面識だけの人間。更に、騒ぎを知らない

 又は絶対関わっていない人物ってのが重要だった。

 存在が重要だった。

 まぁ、そこまでは私の予想とほとんど同じだろうか。

「牧野って子が仕事を辞めてくれるのが一番だが、それは納得の上って条件だ。法律上クビは無理。落ち度がない。では、穏便に済ませるにはどうしたらいいか?企業カウンセラーと弁護士のアドバイスは、刺激しない事。そして時間をかけて曖昧にする事。企業として何か対策を目に見える形で打ち出すこと」

 それは戸田ちゃんにも言えた。

「ところが戸田と牧野は同じ研修が組まれた。教育担当の誰がやったのか、部長は胃薬を変えたんじゃないかな」

 そして牧野さんが、私なら要求が正しく伝わるだろうと考えた。多分、誰が大丈夫かわからなかった。

 会社としては本来、この悪意増し増しのカリキュラムは、即応するべき問題だった。なのに、そのまま実施。私が変更かけて、初めて組み合わせの不味さが伝わった。つまり、誰かが小細工したか。なにそれ、何か別のカイシャの話ですか。

「何で同じ会社に就職するのか」

 下川の当然の呟きに、岡田は嫌そうに口を曲げた。

「気持ち悪い話だ。牧野のストーカーをストークしてるのが戸田だ。女でも気持ちワリイ」

「そうなの可愛い女の子でも?」

「ヤダ梅さんたら、ただし、イケメンに限るってやつですか?」

「梅さんじゃねぇ。まぁ、イケメンでも変質者は嫌だ。..なんだよ」

「変質者、そうですよね。ストーカーとかカタカナにするより変質者の方がしっくりするなぁ」

「バカにすんなや」

「梅さんは、会社の意向を無意識に遂行した訳です。騒ぎは起きましたが、牧野も戸田も訴訟にせずに終わった」

「いや、なんにもしてないし居ただけだし」

「つまりナイスアシストで、辞令か」

 下川の言葉に岡田がニヤニヤした。

「あの二人はカウンセラーと指導役二人体制が今年一杯続きます。問題は指導役が外れた後です。俺はサービス部門に残るけど下川は本社営業部長の下だ。おめでとう」

「そんなのわからんだろうが」

「そして牧野は海外部門で戸田は総務だ。二人とも本社だ。おめでとう」

「どこ情報?」

 それに岡田はデカイ体をくねらせて言った。

「梅さんのチョコパフェ少しくだちゃい」

「シネ」

「..岡田は拗らせてんなぁ」

挿絵(By みてみん)

 下川が珈琲を飲みながら呆れている。

「サービス部門も月に何度かは本部で会議だろ」

 パフェを岡田に渡すと、下川に聞いた。

「牧野さんと円滑にコミュニケーションをとれる人間がいなかったのかな。私なんぞ、ほんとにたいした接触も繋がりもないぞ」

「それでも、会話して彼女の方から働きかけがあった。まぁ、理由はあります」

 それに遠慮なく食べかけのパフェに手をつけながら岡田がニヤリとした。

 ゴツいゴリラがパフェを食べて笑っている。ビジュアルが痛い。

「彼女の情報を流していた人間がいるっす。外部マスコミも含めて。彼女も弁護士に相談済み。自己退職しないのもそのせいっすね」

 闇が深い。

 **

 それから雑談して食事を終えると、一緒に店を出た。

 何も人生を複雑にする必要は無いのに、生きてるだけでいいのにねぇ。と、考えていると、岡田はいつものふざけた調子で言った。

「あぁ、ちょっと面白いものあるんで、データ送っていいですか。社用じゃない方で。最近のオススメっす」

 アドレスを登録すると、可愛いウサギのスタンプが来た。

 似合わない。

 美味しいお店、プラスアルファ。

 そのまま店の前で別れて、私は添付されている美味しい食べ物屋リストを眺める。

 広範囲のB級グルメだ。

 そして、動画が一つ。

 開いて、すぐに止めた。

 ヤバい、誰から手にいれた?

 壁際でへばっていたから、この撮影者は岡田ではない。

 思い出せない、女子のテーブルの後ろ、誰が?

 盗撮か偶然か、楽しそうな新卒女子のテーブルが写っている。

 あの晩の、問題のテーブルが。

 なんだこれは?

 すぐに返信すると、笑い顔のウサギ。

(オトモダチにモライマチタ、キャハ)

 何でいつもわざとらしい幼児言葉なんだ岡田よ。

 宿舎に戻りつつ再生をする。

 可愛らしい笑顔、無表情で視線をそらす顔、テーブルの上のカード。

 スマホで撮影しているのか、手振れで視点が定まらない。

 上下に揺れている。

 テーブルの向こう、私がちらっと写った。そして、部屋から出ていく。

 手振れの動きでテーブル、誰かの顔、テーブル、と視点が動く。

「ばかな」

(編集したのか?)

 送ると、即、返信が来た。

(まさか)

(思考誘導すんな。他に見た奴は、撮影者は?)

(匿名希望っす)

(知り合いなら、元絵を消させろ、お前もだ。)

(どーしてっすか)

 私は通話に切り替えたいのを我慢して、返信した。

(お前は、これが面白いと思ったから、私に送った。

 私が、これをイタズラとしても、不必要に大袈裟に受け取っても、お前は面白いと思ったんだ。だがな、私は面白くないぞ。付け加えるなら。怖くもない。お前も怖がらないだろ)

(分かります?)

(何を指しての恐怖だ?)

(まぁオカルト的だったらいーなーと)

(ホラー映画は好きか?)

 私の答えに、岡田は首をかしげるウサギをスタンプ。

 少し、それを見て落ち着く。

 私も少し動揺していた。いかんなぁ。

(映画で描かれる恐怖の対象は、国や地域、人種、宗教、歴史によって違ってくる。

 お前が言っている事とは違うが、お前の年代では主に外国映画と学校図書の影響が見受けられるんだ。

 さて、これをオカルト的にとらえて面白がるには、私は歳をとりすぎている。ジェネレーションギャップというやつだ。更にいうなら、説教含みの反応とかシラケるだろ。)

(シラケるねぇ)

(お前、外国産ホラー映画って攻撃的とか思わね?

 霊が殴りかかるは斧振り回すは、悪魔が襲いかかってくるわ。

 これも最近の日本映画に取り入れられつつあって、やけに活動的な霊が登場するようになった。霊と怪物が混ざってる感じだな。)

(つまり、フィクション)

(心霊をなぜ怖がる?

 死者を怖がるのは、己の死を思うからだ。

 霊がストークするのは映画の中だけだ。

 現実に手を伸ばすことは無い。

 見えたなら己を疑え。

 そして、己が正気を疑えないからといって、それを現実だと言うのは暴論だ。

 何かをするのは人間様だ。

 生きてる人間が、糞みたいな事をするんだ。

 死んだ人間が何かすると思うのなら、死んだ人間の衣を借りた生きた人間が原因だ。

 夢も希望もない答えですまんがな。)

(梅さんは、霊を信じない派っすね)

(こんなもん送ってくるお前は幽霊か?)

(確かに)

(見せたくなるのもわかるがな)

(オカルト的なら笑えるんすがねぇ)

 邪悪なのは人間だ。

 画面がテーブルを映す度に、プランシェットの位地が変わっていた。

 誰の手も、それには乗っていなかった。

 **

 戻ってから、きちんと施錠して二階に上がる。エレベーターもあるが、基本休日は停止している。なので中央の階段をかけあがる。広い建物に独り暮らしとか怖いと思うでしょ。実は夕方、深夜、明け方と三回警備保障から確認の人が来る。

 そして、夜9時以降は通路とエントランス、会社で利用している管理室とか受付のセンサーが入る。センサーが反応したら警備が駆けつけるわけだ。

 だから、9時から朝の7時までは宿泊棟の中を動き回ることができない。ただし、私の部屋は北側角で非常階段に出られる。外出する場合は自分の部屋から直接出られるようになっており、警備センサーとは独立した電子ロックの扉がある。もともとマンションだ。自分の部屋ですべて完結するわけで、外出だけ面倒なパスワード管理とカードが必要なだけである。それも、夜は寝なきゃならぬ病人だ。コンビニに酒を買い出しに行く訳もない。

 玄関の扉を施錠してしまえば、後は警備が見てくれるわけで普通のアパートに比べたら、安心感が上だ。

 特に不便は感じないし、怖さもない。

 これは私に限る感想だ。

 普通は住みたくないし。

 家賃は安い、賃貸見つかんないからヤダっていったら、光熱費以外がほとんどタダに…。

 理由は、不便だからだ。

 部屋に頻繁に人が出入りするような場合は、先に私へ連絡しないと建物に入れない。正面は閉鎖、そして、非常階段は一番下駐車場に続く部分は鉄扉でうち鍵がある。扉の鍵は二つあり、そのうち鍵は私が持ってる上に、部屋の扉は電子ロックのいわば三重鍵である。

 まずは、来客は突然の訪問をする場合、施設が閉じていたら、先ずは私に連絡が通じないと部屋までたどり着けない。コンシェルジュ付きマンションとは違って、不便設計だ。

 夜は寝ますのボッチじゃなければ、頭がおかしくなるかもしれない。

 本来の施設管理者の宿泊施設の出入りも、まぁ不便だが施設エントランスにはモニターがあるのです。

 モニターに来客用のボタン押して喋ればいいわけで、3階の角部屋で、非常階段が我が家の出入口になると、ねぇ。


 閑話休題。

 人気の無い階段を上がり、談話室を開ける。マスターキーその他は、自分の部屋の鍵もまとめて持ち歩いている。

 それを差し込んで灯りをつける。目当てのものは、ホワイトボードの下に置かれていた。

 遊具の段ボール。

 漁るも、あれがない。

 オカルトは抜きに考えれば、持ち帰ったヤツがいる。

 対立を煽り、どちらかか両方を陥れようとしているのか?

 お知らせ音が静かな室内に響く。目をやればアホな顔をしたウサギ。

(今度、チャレンジしましょう)

挿絵(By みてみん)

 時間制限ありの大食いチャレンジのポスターの写メだ。

 いや、そーじゃねぇ。

 突っ込み待ちなのか、何を考えているのか。

 今回の新人組が厄介なのは間違いない。

 もっと年の近い指導役、もしくはチームを組まされていないのは色々あったんだろう。

 白川さん曰く、一昨年の会長が亡くなってからの社内の権力闘争もある。現社長は合併した企業の出身で、こちらの創業者の孫と結婚して取締役になった。創業者の会長が亡くなって、その奥さんが会長になった途端、愛人を引き込んで子会社設立。

 よーわからんが、社長と愛人が勝った。会長は顧問になって、経営にタッチしてなかった会長の子供と株主の親族は、持ち株を減らして発言力が低下した。存在感ゼロの社長の奥さんは、何してんのかわからんが、愛人が美容系の新会社作って、大きな顔して経営している。そして、新入社員は合併した企業のコネがあるヤツか新たな株主の息のかかった胡散臭いヤツが混ざっている。

 と、言う噂だ。

 まぁ噂としておく。心の安寧の為に。

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