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「力を欲する者よ……」

うん、完璧に「クトゥルフ」しました。



 異世界、と我々は簡単に表現するが。


 そこは異世界なのである。つい自らの常識で考えるが、もしそこが常識を遥かに……いや、完全に超越した世界だとしたら、



 ……そこに到達した我々は、果たしてその環境を理解し把握する事が可能なのか。





✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ……私と和子さんの魔力を引き換えにして、その存在はほんの僅かで有るが此方側の世界に顕現しました。



 ……異質? いやそんな生易しい代物ではない。私はその存在を感知した瞬間、激しく嘔吐した。


 何故か? それは奴が私の微弱な魔力を媒体にして顕れた結果、体内を巡る魔力が一瞬で涸渇し、身体を維持させる機能すら急激に低下したから……だと思う。


 手を繋いでいた和子さんも、全身を痙攣させながら白眼を剥き、激しく歯を打ち鳴らしながら泡を吹いている。だが、まだ意識は有るようで……ほんの少しだけ安心した。



 【…… 小 さ き モ ノ …… 何 故 に 我 を 求 め る ……】


 脳に直接入力される単語は、間延びしていながら……しかし、一瞬で理解出来た。どうやら、いきなり魂を抜くようなワイルドな反応をする輩では無いようで内心ホッとする。


 「……げっ、げほ……ま、魔力と引き換えに……ち、力を……」


 えづきながら答える私に、その存在はしかし、ほんの少しだけ優しさを滲ませつつ答えてくれた。




 【…… 止 め て お け …… 過 ぎ た る 力 は 身 を 滅 す る の み と 知 れ ……】



 意外にも理性的である。しかし、此方も命懸け(こうなるなんて一切聞いていなかった)だし、次の機会が果たして有るのかも判らない状況なのだから、当然ながら食い下がるのである。


 「……使い道の無い能力は、持たぬと同じです……わ、私は……使いたいからこそ、欲するの……」


 【…… 矮 小 な る 我 が 卷 属 の 末 端 よ …… な ら ば …… 示 す が よ い ……】


 そう意思表示すると、私に向かって何かがやって来る。それは……見たことは無いが、僅かながら見知った者に……少しだけ似ていた。


 それは頭に在る翼を羽ばたかせながら、筒状の身体を撓ませつつゆっくりと近付いて来た。


 頭部を一周する大量の小さな眼が、私の姿を捉えると同時に長い節腕を伸ばし

、先端から灰色の触腕を剥き出しにして、私と和子さんに近付ける。




 ビリッ、とした衝撃を感じた瞬間、私と和子さんは魂を抜き取られ……ずに、身体を柔らかくてしなやかな膜に包まれると、フワリと浮き上がり力強い飛翔を感じながらあっと言う間も無いまま、星間宇宙に放り出されていた。


 (……空気は?……ああ、大丈夫みたい……ですね)


 一瞬たじろいたものの、どうやら比護の元に移動させられているようで、心は凍ったまま、星が流れて糸になり、やがて大きな三角の暗闇に入る。






 「……久しくヒトと言葉を交わす。非礼が有れば速やかに正す故、忌憚無く発言していいぞ?」


 そこには調度品に囲まれた室内で、私と和子さんを一人のオールバック紳士が出迎えてくれた。……あれ? この人、誰?




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「あ、初めまして。私は音川長月と申します。彼女は……和子さんです」


 礼儀正しく頭を下げて挨拶しようとするけれど、私の頭は微動だにしない。まぁ、仕方無いだろう。そもそも、相手が見た目オールバック紳士だったとしても、中身もオールバック紳士かは……判らないのだから。


 「勘の良さは誉めてあげよう。今の君は実際には其処に居ない。精神のみで星間宇宙を渡り、このセラエノの保管庫にやって来たのだからね」


 彼はそう言うと、傍らに置かれたキャビネットから盃を取り、琥珀色に近い液体を満たすと私に向かって差し出す。


 「これは……まぁ、サービスだ。飲んで落ち着いたら少しだけ話をしよう」

 「……頂きます。わぁ……つ、強いお酒で……す」


 その液体が仮想の肉体を巡ると、今まで全く感知出来なかった身体が再構成され、やがて立ち上がる事が出来た。


 「それにしても、こんな状況に在っても冷静沈着だね。普通なら取り乱すか発狂しても可笑しくないんだがね?」

 「……それは、貴方が私達に歩み寄ってくださったから、敵意は無い、そう思ったからです」


 オールバック紳士は少しだけ驚いた風で、顎に手を宛ながら暫く考えて、やがてニコリと笑い、


 「……何故に、私に敵意が無い、そう判断したのかな?」

 「それは単純に【異なる存在がわざわざ自分達と同じ次元に歩み寄ってくれるなら敵意は無い】、そう思ったからです。動物と仲良くなりたいなら、膝を折り、同じ目線で問い掛ければ、言葉は通じなくても気持ちが伝わるものですから」


 そう告げると、彼は愉快そうに微笑みながら、


 「うむ、それも一理在るね。確かに……そうだな。君の思考はなかなか面白い。同じ次元に、か……」


 そう呟くと、キャビネットの脇に置かれた椅子に腰掛けてから、私に新しい盃を手を伸ばして差し出しつつ、


 「そちらの友人にも与えてあげると良い。サービスだから、安心して結構だ。」


 オールバック紳士は膝を組み、手を膝頭に載せながら和子さんが実体化する様を眺めつつ、やがて姿勢を変えてから、


 「……自己紹介が遅れたね。私は……まぁ、【名付け難き者】と認識して構わない。ただ、例え全く違う名前を思い付いたにせよ、決して口にしては成らない。それが唯一無二の謁見のルールだ。」


 そうキッパリと言うと、しかし即座に態度は柔らかく軟化させながら、


 「……しかし、若い君達が此処に運ばれて来たのを知った時は、かなり驚いたよ。何せセラエノの保管庫を訪れるのは、世捨て人か思考を巡らせ過ぎて逸脱した者ばかりだからね。まともに会話出来る、しかも若い女性が二人も、とは……世界にまた、新しい風が吹くのかな?」


 何処か楽しげにそう話しながら、彼はキャビネットから小さな円盤みたいな物を取り出すと、キラキラした鎖を付けながら、


 「これは……まぁ、勇気在る君達に贈る記念品……みたいなモノかな? 但し、現実世界には持ち帰れないから、そのつもりで……ね?」


 二つ指先に提げ持ち、片方を私の首に、そしてもう片方は意識を取り戻して周囲を眺める和子さんの首に、そっと掛けてくれながら、


 「さて……此れにて謁見の時間は終了だ。質問は受け付けないが、もし聴きたければ呟いても構わない。答えるかは……気分次第だが。」

 「……貴方にとって、【魔法少女】とは……何なんですか?」


 そう呟く私に、彼は瞳を細く狭めつつ、やがて光彩を大きく広げてから、


 「……ふむ。それは答えられないが……まぁ、敵ではないな。だが……手先として扱えるような代物でもない。正義風情の面倒な連中を引き連れて現れなければ……だが。」


 やや厳しい表情でそう告げると、右手を上げて保管庫の貴賓室を折り畳むように収束させて、暗闇に私と和子さん、そしてオールバック紳士の三人だけが宙に浮きながら、漂い……やがて、来た時と同じように現れた何かが、又同じように私と和子さんを包み込み、飛翔する為に頭部の皮膜を翼に変えて、ゆっくりと……やがて、超常的な速度に達し……星の瞬く世界へと羽ばたき出す。






 【……面白いお嬢さん達、又会う事は無いだろう……だが、君達が訪れた事は、セラエノの保管庫に記録しておくとしよう。】


 羽ばたきが認識を超え、大きな振動がやがて仮の肉体を霧散させた時……彼の思念だけが伝達し、そして私は又、意識を失った。











✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……ゃん!! 長月ちゃん!!」


 身体を揺さぶられながら、幾度も名前を呼ばれていた事に気付くと、いつの間にか私は、あの塔の天辺に和子さんの隣にぺたんと座っていた。


 「……あ、和子さん……私は……?」

 「よかった……ずーっと意識を失ったまま座っていたから、どうかしちゃったのかと心配してたんだよ!?」


 涙を浮かべながら告げる和子さんに言われて、私は何かを思い出そうとしたが……記憶は途切れて何も思い出せなかった。



 「……でも凄いよ!! 今までの格好は、その……こ、個性的で悪くなかったけど、長月ちゃん見違えちゃったよ!!」


 和子さんの言葉に我が身を見ると……そう、その姿は……正しくサナギから蝶に生まれ変わったかのようです。


 長く棚引く襟元は四方に柔らかく広がり、肩に付いた花弁のようなフリルはまるで雪のように白く。


 肩は淡いレースに縁取られた短い袖と、繋がるようにリボンを介して長い手袋は薄く、そして光り輝く麗糸で編まれたかのよう。


 そして……最も眼を引くのは……そう!


 「……フェルデナントさん、すっかり見違えましたよ?」



 私の大切な……象のフェルデナント。彼は私の襟元から鳩尾までを覆うように被服と一体になり、その優しい眼は変わらずしっかりと力強く開き、長く立派な牙と鼻、そして大きく広がる耳も精巧に再現されて……私と一体になっていた。


 「フェルデナントさん、これからも……宜しくお願いしますよ?」

 「ぱおおおおおおおぉーんッ!!!」


 彼の咆哮は夜明けの空に響き渡り、近くの団地の住人が何事かと慌てて窓から顔を覗かせてしまい……軽い罪悪感に(さいな)まれましたが……ただ、一つだけ、気になる事が……。


 フェルデナントの額に、見慣れないブローチのような……六芒星が付いてますが……これ、何なんでしょう?







書いていて久々に筆が動きましたよ、ホント。勝手に場面が展開し、二人が会話しました。次回こそ音川さんが戦うか!?

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