「部屋とスイーツと私」
ヨシオさんと離れ離れの私は、妹の和子の部屋に泊まる事にしました。
「ただいま~」
「おじゃま~」
私と妹の和子は二人で彼女のアパートに帰り、押し入れからお泊まり時の為に置いておいたパジャマや下着(流石に借りるつもりはない!)を【お姉ちゃん用】と書かれた段ボールから取り出したり、ついでにお布団を出したり……
「ねー、そーいうのは私がやるから、お姉ちゃんはシャワー浴びてくれば?」
「え~? 無理言って泊めさせて貰うんだもん、当然じゃない?」
私の言葉にム~、と唸りながら和子は仕方なさそうに、
「そーかなぁ~……まぁ、お姉ちゃんがそう言うならいいんだけど……」
渋々納得……みたいな顔でプリンとチーズケーキを冷蔵庫に入れてから、
「それなら私が先にシャワー使うわ。飲み足りなかったら冷蔵庫の発泡酒なら飲んでいいからね? ……でも大黒天ビールはダメだからね?」
「それって前振り~? あ! 大黒天のスタウトじゃん!! これ飲みたかったにゃははははははははははぁ!! ダメ~っ!! やめて止めます飲みませんからぁ~ッ!!」
「うりゃうりゃうりゃ~! 二十八のクセに生意気な身体しやがって!! ズルいぞ全くぅ!!」
和子のくすぐりに耐えかねて獲物のビールを落としそうになりながら、ヒーヒー言わされちゃいながら布団に逃げ込んで頭から掛け布団を被り、【鉄壁の防御】態勢を維持すると、流石の和子も諦めてシャワーを浴びにバスルームの脱衣場に消えていったみたい。
……そーかなぁ……でも二十八才って、確かに微妙な年なんだよね。若い訳では勿論無いけれど、かといって頭の中は昔と全然変わらないし……あ、少し変わったのはブラサイズが一つ大きくなった事かな? ……うふ、これはきっと、アレよね? 【妻としての責務】を果たしてきた結果よね~? アハハ~♪ 一緒にちょっとだけお腹も出てきちゃったけど、ヨシオさんは全然気にしないみたいだし!!
……はぁ……ヨシオさん何してるかな、今頃……
……少しだけ、寂しいな……
……やっぱり、和子のとこに泊まる事にして正解だったかも……
……プリン、美味しいかな……
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音川 長月。
自分でも「どっちが苗字でどっちが名前か判り難い」名前だと思うけれど、私は好きである。
小さな頃からずっと背が高く、ついたあだ名が《なつキリン》だった。そのせいか、高校生までクラスメートと付き合うのが苦手だった。
志望校を県内の農業高校に決めた時、元々仲の良くなかった父親との関係が悪化し、学校近くの叔母の家に間借りし通学した結果……三年間全く顔を合わせなかった。私より素直な姉を溺愛していた父親は、私から見ても苦手だった。
《なつキリン》と呼ばれていたせいか、小さい頃は動物園に行ってもついつい似た者同士の大型獣類の展示場前に行き、飽きる事なく眺めていた。
そんな日々の中で、一頭のアフリカゾウと出会った。名前は「フェルデナント」。アフリカゾウにドイツ語は如何かと思ったが、彼に良く似合っていた。
高齢のフェルデナントは展示場で活発に動く事はなかったが、私は彼の世話がしたいと思い、卒業後の就職先を定めて今までより一層実習に励み、念願の飼育員として件の動物園に勤める事が決まった……だが、快調な歩みはそこまでだった。
「大型哺乳類は新人が担当するには荷が重過ぎる。キャリアを積んでからでも遅くはない」と上司に説得されて、【小型霊長類】担当となった。
それは、今思えば職場の先輩諸氏の思い遣りだったのだが……何故なら、フェルデナントの余命は、限られていたのだ。就職が決まった頃には衰弱が始まり、立ち上がる事も自力では困難なフェルデナント。彼の傍にもし、私がいたら……感情に押し流されて仕事にならなかっただろう。
そんな悲しみの日々が続いていたある日、退園前の夜間の見回りをしていた私は……
【 心 配 な ぁ あ あ い ぃ ~ さ ああ ああ あ~っ!!!】
……ミュージカル・ライオンキングっぽい変な格好をした奴に出会った。
ご丁寧にライオン舎の屋根の上に乗り、それっぽい感じでポージングしていたのだが、よく通報しなかったものだ。当時の私はそれだけ意識が混濁していたのだろう。
茶色い全身タイツ(以下略)は、作り物のたてがみを振りながら、私が【魔法少女】になれる素質があり、いずれ魔法少女として選出された時には【願いを一つ叶えられる代わりに、一定期間を魔法少女として活動する】義務が発生するらしい。
そう教えてくれた茶色い全身タイツ野郎の名前は聞かなかった。どうせ大した事はなかろう。
……そう、その時、私は契約したのだ。余命僅かのフェルデナントと共に、魔法少女として活動する為に……
【……では、聖なる名前を決めてもらおうッ!!】
見た目のショボさに負けない程度のハイテンションが痛い奴に言われ、私は自らの名前を《なちゅらる☆エレファント》に決めた。誰が何と言おうとそれ一択なのだから仕方がない。
それから五年、フェルデナントが星になった後……私は魔法少女になった。
「……フェルデナントさん、そろそろ【限界突破】したいですね。」
「ぱおおおおぉ~ん!!」
私は元気に答えるフェルデナントと共に、自らのコスチューム(ステージに応じて変化するらしい)を見る。いくら羞恥に疎い私でも、この飾り気の無い格好には抵抗が有る。茶色い全身タイツ野郎……バカだ、アイツは絶対に。
「……よし、始めましょう。」
「ぱおおおおぉ~ん!!」
自らに蓄え続けて来た魔力を放出させるべく、教わった通りに体内の魔力を循環させて……内なる扉に手を掛ける。
……もし、成功すれば……
……もう少しだけ、ましな格好になる筈である。
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「おかえりなさぁ~いっ!! ……さ、寂しかったよぅ~っ!!」
「うわっ!? か、カズミさん抱き着かないぶっ!!」
……抱き着きたくなるわよ、ホント……ずーっと、待ってたんだよ?
……こうして、離れ離れだったヨシオさんと、やっと再会出来た私は……いや、まぁ……ねぇ? 夫婦なんだし……判るでしょ? もぅ……。
次回はコメディになるよう頑張ります! そして【長月 おと】様、名前を使用する許可を有り難う御座いました!!