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098 灰色グマを狩り続けよう


「こっちで良いの?」

 森の東は、帝国へ至る街道からだいぶ離れているんだよね。イベントの発生場所なら、街道の西になるように思えるんだけど。


「森の東。それも尾根に続く荒れ地が目的地だ。森の中ともなると、私達の展開も制限されるからね。案外、運営も考えてるのかもしれないな」

「街道の封鎖は、巨大な灰色グマを通さないための措置らしいの。騎士団の騎士が大勢詰めているわ」


 ちょっと過大な措置なんじゃないかな?

 町から街道を封鎖している箇所まで歩くと1日は掛かるらしい。たぶん、そこが国境になるんだろう。

 シグの話しでは、森を東に回り込む形になるから到着は早くても明日の昼過ぎになりそうだ。だとしたら、封鎖線まで歩いて2日以上の距離になる。

 帝国は、かなりの心配性が集まっているんじゃないかな?


 森の手前の野営で、シグ達と焚き火を囲んでいる。

 疲れたのか、タマモちゃんは私の後ろで既に夢の中だ。


「明日は朝が早いぞ。モモは早起きが苦手だったが、だいじょうぶなのか?」

「タマモちゃんが起こしてくれるよ。でも、目的地には昼頃に着けるんでしょうね?」

「地図の通りならな。まあ、あまり遅くなるようなら討伐は翌日になるだろう」

「できれば、早いところ倒したいよね。帝国は目と鼻の先なんだもの」


 レナの言葉にシグ達が頷いている。

 魔王討伐を目標に、この世界を楽しんでいる以上、足止めはおもしろくないということなんだろう。

 だけど、ここでイベントが発生したとなれば、帝国で遭遇する魔獣はかなりレベルが高いんじゃないかな。


 会話が途絶えたところで、焚き火の傍で横になる。

 寝返りを打っても、焚き火に入らないように距離を取るのは何時ものことだ。


 翌日。あちこちで朝食作りが始まる中、タマモちゃんに起こされた。

 良い匂いがするから、嬉しくなる。


「モモにしては早いな。朝食はできてるぞ。そして、モモが最後だ」

 笑みを浮かべたシグが教えてくれた。

 タマモちゃんまで、皆と一緒に笑いをこらえている。

 

 プルプルと震える手でスープの入ったカップをタマモちゃんが渡してくれたけど、おかしいならちゃんと笑った方が良いと思うよ。


「既に出発したパーティもいるようだ。私達は早い方かな? モモの朝食が終われば出発するよ」

「統一行動を取らなくても良いの?」

「取り巻きの灰色グマを見付けたところで、私達が集まるのを待ってくれるさ。そういう意味では偵察隊とも言えそうだ」


 先ずはイベントの発生する場所を確定しようということかな?

 大勢の冒険者が一緒だから、2手に分かれてイベントに挑むことになっても、最後の確認はしておきたいところなんだろうな。


 私が朝食を終えるころには、タマモちゃんまで身支度を整えていた。急いで装備を確認して立ち上がると、シグ達と一緒に森の縁伝いに東へと歩き始める。


 今日は、出発時間がまちまちだから細長い列になっている。

 見てるとアリの行列そのものなんだけど、それだけ参加者も多いということなんだろう。

 今日の昼過ぎには、町の方も門を固く締めて見張り台に人を配置するはずだ。

 シグ達でイベントボスを倒せれば良いのだけど、取り巻きの灰色グマを引き連れて暴走なんてしたらとんでもないことになりそうだ。

 シロウさんは真面目そうだから、門の詰め所に張り付いているのかもしれないな。


「こうしてみると、散策に良さそうな森だと思うね」

「結構、獣がいたよ。肉食樹も東の森にいたんだから、油断はしないように!」


 意外とロマンチストな面もシグにはあるんだよね。将来の旦那様はどんな人になるんだろう? その場で見られないのが唯一の悩みだ。

 まだレムリアの世界が続いているようなら、一度見せてもらいたいな。


「怪物はモモ達が退治したんだろう?」

 シグが後ろの私に振り返りながら問いかけてきた。


「退治はしたんだけど、果たして1匹かどうかは分からないの。西の王国までそんな旅をしてきたけど、目立つものだけを摘まんだ気がするのよ」

「じっと潜むものは分からないということか……」


 一応【探索】で探ったんだけど、絶対ということは無さそうだ。全てを見通せるようなスキルではかえってゲームバランスを崩してしまいかねない。


「あまり動かなければ、それなりに安全かもしれないけど……」

「遭遇したら事故、って奴か? それはそれで問題がありそうだ」


 笑みを浮かべてるんだから困った友人達だ。その時には逃げるんじゃなくて襲い掛かるってことかな?

 この世界に住んではいるけど、運営さんの管轄外の魔獣だということは忘れないでほしいな。


 2度ほど短い休息を取って、しばらく進むと森が尽きた。

 いよいよなのかな?


「偵察部隊があそこにいるぞ。どうやら場所を見付けたみたいだ」

「始めるのは昼食後になりそうね。皆が集合するまで、もうしばらく掛かりそうだけど」


 後ろを見ると、遠くまで冒険者が列を作っている。

 小さな焚き火を作り始めたパーティもいるけど、お日様は真上を少し通り過ぎたところだ。

 昼下がりの決闘になるんじゃないかな?


「ここでモモ達とは別行動になるな」

「取り巻きは何とかするから、ボスを必ず倒してよ」

「任せとけって。レナ達の魔法も強力だし、リーゼだって神官職なのに【水魔法】が使えるからね」


 うんうんとリーゼが頷いている。【水魔法】は癒し系の魔法なんだけど、唯一【氷の槍】という鋭くとがった氷柱を相手にぶつける魔法がある。

 それなりにレベルが上がっているからねぇ。いつの間にか守られるだけの存在から卒業できたみたい。


 昼食を終えると、シグ達と別れて取り巻き戦に挑む冒険者達のところに向かった。

 槍の先にバンダナの旗をはためかせているのがリーダーの赤い月のようだ。

 既に旗を中心に大勢の冒険者達が集まっている。

 リーダーはルーデスさんだけど、私達に座るように言って、1人だけ槍を持って立っている。

 

「どうやら全員みたいだな。北東に1km先でイベントボスである大き灰色グマが十数頭の灰色グマの取り巻きと共にいるようだ。

 イベントボスを倒すのは攻略組の筆頭連中だから、何とか倒してくれるに違いない。俺達は攻略組に群がる取り巻きを相手にするんだが……。たぶん、1頭倒せば1頭が現れるはずだ。イベントボスを倒さぬ限り出てくるから面倒な話だ。

 だが、逆に考えれば俺達の経験値がそれだけ上がり続けることになる。なるべく1頭を1パーティで倒すようにしてくれ。休憩は自由だが、短く頼むぞ。それだけ他の冒険者の負荷が強くなるんだからな」


 心構えとしては適切な教えだね。

 その後は左右にパーティを分けることになったのだが、私達、左手の担当パーティは3パーティだ。


「シグ殿が買っているということは、それなりの強さなんだろう。ケント、頼んだぞ」


 そんなことを言うもんだから、他の連中が首を傾げているんだよね。

 とりあえず「任せて!」と答えたけれど……。私と同じ呼吸で「任せろ!」と言った人物に目を向けた。

 長剣にチェインメイル、シグと同じような重戦士のようだ。数人の仲間を連れている。構成は、同じような出で立ちが2人に、私と同じレンジャー1人。残り2人は魔導士というパーティだ。

 バランスが良いから、きっとシグ達を追い抜こうと頑張っているに違いない。


 ケントさんは若い男性だ。VRMMOでは肉体年齢をあまりいじる人はいないから、容貌を見る限りにおいて大学生という感じかな?

 そんなケントさんの率いるパーティは『シュバルツシルト』というらしい。『シュバルツ』でも良いと言ってたけど、どんな意味なんだろうね?


 私達は、ボスに挑むパーティの左手に移動する。

 ボスに挑む冒険者を襲うであろう取り巻きを側面から狩るのが目的だ。上手く行けばシグ達に取り巻きの灰色グマが近づくのを阻止できるかもしれないけど、こればっかりはやってみないと分からない。


「上位職にする?」

「周囲が、まだ上位職になってないんだから、最初はこのままで行きましょう。シグ達が苦労するまでは周りに合わせた方が良いんんじゃないかな?」

「だったら、これで一撃する!」


 収納していた『一球入魂』を取り出して振り回しているから、周囲のお姉さん達が大きな口を開けてるみたい。

 私は、最初は弓で良いだろう。

 矢も補充しておいたから、15本が矢筒に入っている。弓を右手に持って、最初の矢を矢筒から取り出した。


「準備はしておいてくれよ! そろそろ始まるぞ」

 ケントさんが抜き身の長剣を背中に背負って立ち上がる。顔は正面を見ているようだが、目は右手の様子を眺めているに違いない。


 皆の視線は、ケントさんを通り越して私達の獲物である灰色グマの群れに向かっている。手に各自の得意の得物を持ち、静かにその時を待っているようだ。


「行くぞ!」

 甲高い声はシグのものだ。

 続いて「「「オウ!」」」と山に木霊するほどの声を私達が上げる。

 我先に灰色グマに向かって駆けだした。

 駆けながら矢をつがえて大きく弓を引く。

 最初の矢を放つと、群れから少し離れて回り込みながら矢を放ち続けた。

 

 たちまち矢が尽きる。

 素早く弓をしまい込んで片手剣を引き抜いた。

 これからは、一撃離脱で相手を襲う。

 ネコ族の上位種族でもあるケットシーの私はAGI(素早さ)の数値がレムリア世界の種族の中ではトップレベルだ。

 ちょっと非力ではあるけど、私の役目はプレイヤーのお手伝いだからね。なるべく動きを止めるように灰色グマの4肢を狙って片手剣を振るう。


「やあ!」

 タマモちゃんも頑張ってるみたいだ。

 次々と灰色グマが狩られているけど、狩られた数だけ荒れ地の奥からやって来る。

 さて、シグ達の戦いが終わるまでにどれだけ狩れるかな?

 ちょっと笑みを浮かべながら次の獲物に向かってジャンプした。


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