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095 灰色グマと灰色オオカミ


「警邏からの情報によれば、警邏達の知らない魔物が出現したということになるのかな?」

「そうなります。警邏さん達は運営サイドの人達ですから少し気になりますよね」


 私よりも少し年上の4人組の男女は大学生なのかな?

 リーダーらしき男性の質問に、とりあえず答えたけど、真相は誤魔化しておこう。


「キメラを構成する動物は少なくとも知らない奴じゃない。まだこの世界で出会っていないものも多いけど、そんな獣もいるってことになる」

「そうだな。それにしてもトラかぁ……。西には向かいたくないぞ」


 他のゲームで何かあったのかな?トラ単体なら、レベル15で相手にできると思うんだけど。


「今回のイベントボスを倒せば、上級職に就く連中も出て来るんじゃないか? 帝国には上級職で行きたいところだな」


 誰かの話しに、焚き火を囲む連中が頷いている。

 そろそろ初期の職業では上手く対処できなくなっているのかな? 連携をきちんと取れば、初期職業でも結構進めるんだけどね。


 翌朝、私が目を覚ました時にセーフティエリアにいたのは、私達のパーティだけだった。

「相変わらずだね」とレナにいわれながら朝食を受け取る私を、ケーナとタマモちゃんがジッと見てるんだよね。何も言わないけど、呆れてるんだろうな。


「昨夜の連中は朝早くに出掛けて行った。モモの食事が終わったところで北に向かえば良いな」

「うん。それで良いんじゃないかな。でも私達は余り獣を見掛けなかったんだよね」

「狩り尽くされるわけじゃないだろうし、もう1つの狩人はモモ達が倒したんだろう?」


 それはそうなんだけど、狩場に住む獣の数は一定ということなんだろうか?

 あんなキメラがいたから、他の獣を食べつくしていたということになるのかな。


 食事が終わったところで、シグとケーナが先頭に立って歩いていく。と言っても、真っ先に歩いているのはシグで、その後ろをケーナとタマモちゃんが並んで歩き、私達は3人で世間話をしながらだからのんびりしたものだ。

 レナとリーゼが世間話風に学校生活の様子を話してくれる。

 ひょっとして、私が本物だと知っているのかな?

 でもパーソナルデータでは私はNPCになっているし、彼女達も私の葬儀に参加してくれたから、私の存在をどのように思っているのか本音を語ってほしいところだ。


「クラスはそんな感じで纏まってるの。秋の文化祭が近づいているのが問題ね。牽引役のシグがクラブで参加ということで、纏める人材がいないのよ」

「そうなんだ……。でも、男性達もいるんでしょう?」

「無理無理、かえって邪魔をしないか心配になってしまう」


 レナの言葉は辛辣だね。そんなことじゃお相手が見つからないぞ。ずっと夢見てたことは知ってるんだからね。


「止まって!」

 ケーナの声に私達はその場に棒立ちになってしまったけど、すぐに身を屈めた。

 タマモちゃんが近づいてきて様子を教えてくれる。

 どうやら、最初の獲物を見付けたらしい。


「灰色グマが3頭なの。シグお姉さんがどうしようかと悩んでる」

「それなら私が誘い出したところを、襲えば良いんじゃないかな。人形を使えば灰色グマ程度ならガチで勝負できそうだし」


 タモちゃんがうんうんと頷くと、「お姉さんに伝えてくる!」と戻って行った。

 シグもお姉さんと呼ばれて嬉しいに違いない。さて、準備だけでもしておくか。と言ってもキュブレムをバッグから取り出すだけなんだけどね。


「使えるの?」

「それを試してみるつもり。ラグランジュ王国の騎士団はこれを使うらしいから、かなりの性能だと思ってるんだけどね」

「弟がオークションで手に入れたプラモに似てるね。ちょっと写真を撮っても良いでしょう?」


 私が執りだした人形を、リーゼが両手の指で四角を作って何枚か写真に取り込んでいる。

 直ぐに指を躍らせているから、弟さんにメールで画像を贈ったのかな?

 となると、すぐにも弟さんから返信が来そうだけど。


 そんなことをしている私達のところにシグ達が戻ってきた。

 小さな円陣を作ったところでシグの作戦が告げられる。


「モモが人形を使うんなら、私とケーナで背後を襲う。リーゼ達は側面から攻撃してくれ。タマモちゃんが前に立ってくれるそうだから、怪我をさせないようにしてくれよ」


 私は囮役ね。了解した。

 タマモちゃんも後ろにお姉さんが2人いるなら安心だろうし、多分いなくとも問題はないに違いない。とはいえ、心の問題もあるんだから力強いというところかな。


「それじゃあ、始めるぞ。最初はモモからだからな」

「だいじょうぶ。大きな騒ぎにしてあげるから」


 人形を持って素早く右手に移動を始めた。

 現在はレンジャー職だけどレベル16もあるからね。森の中の移動なら素早く行える。

 200mほど離れたところで、人形を立たせると『動け!』と念じる。

 途端に人形が大きくなり、私の体が人形の中に吸い込まれていく。

 

 バーニイさん達の人形は、背中に乗るか、近くで指示をするんだけど、この人形は違うみたい。

 私と人形が一体になる感じだ。

 視点もかなり高くなったし、体がちゃんと動くんだろうか?


 でも、最初の役目は囮だから、少しぐらい動きが鈍っていても問題はない。前方に歩こうとしたら、足も動かさずに森の中を滑るように動いていく。

 滑走してるんだろう。かなり速い動きなんだけど森の木々にぶつかることなく進んでいる。私の思い通りに動くということかな? さすがに小枝は避けることができないから折っていくんだけどね。


 小枝を折りながら進んできた私に3頭が気付いたようだ。立ち上がって大きな口を開いて威嚇している。

 なるべく距離を取って、3頭を散らさないようにするのが役目なんだけど、中々面倒だ。

 ともすれば、3頭が私を囲むように動いてくる。


 その時、1頭の腹に火炎弾が炸裂した。間を置かずに炸裂箇所に氷の槍が突き立つ。

 雄叫びを上げて、シグとケーナが突っ込んでくると、灰色グマが標的に悩んでいる。

 そのちょっとした間をシグ達が無駄にするわけはない。

 ケーナが手負いの灰色グマに斬りこみ、シグは他の灰色グマに長剣を突き差した。

 

 残った1頭がケーナの頭に腕を振り下ろそうとした時、お尻の何かが飛んで行き、灰色グマの片腕を粉砕する。

 リーゼ達の魔法攻撃が片腕を失った灰色グマに集中して、最後はタマモちゃんの一球入魂で頭を粉砕されて狩りが終わった。


 人形から出ると、シグ達の下に向かう。

 まだ肩で息をしているけど、これぐらいのクマで息を上げてるんじゃイベントボス相手に苦労するんじゃないかな?


「肉と毛皮の回収だ。それと、モモ。あの武器は何なんだ? いきなり灰色グマの腕が吹き飛んだぞ」

「私も良く分からない。ダメ! という思いがあれを動かしたのかもしれない。人形の鎧のお尻に4つ仕込まれてるカラクリがあるのよ。それを使えばちょっと強力な【火炎弾】攻撃ができるみたい」


「それにしても威力があるわね。あの人形、足を動かさずに動いてたけど、まるで滑空している見たね。たぶん武装もそれだけじゃないんでしょう? たまに手伝ってね」


 レナは使えるものは親でも使う主義だからねぇ。あまり関わらないようにしておこう。

 とはいえ、取りあえずは3頭を狩ったことになる。

 夕暮れまでに、もう2、3回の狩りをしておきたいところだ。


 再び森を北上する。

 結構深い森だけど、夕暮れ前には抜けられるだろう。

 昼も取らずに、軽い休息だけにして先を急ぐ。

 そろそろ、休息を取ろうとしてた時だ。前方から騒がしい音が聞こえてきた。


「ありゃ、狩りじゃないな。どちらかというと駆られてるんじゃないのか?」

「助けに行く?」

「もちろんだ。だが、状況確認が先になるな」


 ちらりとシグが私に視線を送って来た。小さく頷いてその場から右手に移動していく。

 森なら獣が主役なんだろうけど、レンジャーだって森に特化したようなところがあるからね。

 物音を立てずに、何やら騒がしく騒いでいるプレイヤーに近付いて様子を見て見る。


 どうやら、森で灰色オオカミの群れと遭遇してしまったらしい。大きな幹を後ろに5人の男女が灰色狼の群れに囲まれていた。

 騒がしかったのは、5人の男女が互いに大声で励まし合っているからなんだけど、あれではねぇ……。声が途絶えた途端に襲われそうだ。


「助けるの?」

「もちろん。シグ達に伝えてくれないかな? 私はシグ達の攻撃と同時にここから矢を射るよ」


 突然後ろから聞こえてきた声は、タマモちゃんだった。

 心配してやってきたんだろうけど、伝言を頼むのに丁度良い。

 さて、灰色オオカミは20匹を超えてるけど、シグ達はどんな介入をするんだろう?


 辺りを見渡して、手ごろな枝を見付けるとその上に立って状況を見守る。距離はおよそ50m程度。周囲の枝ぶりを見たところで弓と矢筒を取り出して、最初の1矢を手にシグ達の参戦を待つことにした。


 灰色オオカミの群れの左手からシグ達が走って来た。相変わらずシグが斬り込み役をやっている。その後方から左右にケーナとモモちゃんが付いて来るから、シグの後方に回り込まれることは無いだろう。

 少し遅れてレナ達が走って来る。

 援軍の到来に、男女達が安心したのか一歩足を前に出した時だった。

 灰色オオカミの群れが一斉に動き出した。

 私も2回ジャンプをして、10mほど先にある枝に体を移したところで矢を放つ。

 灰色オオカミまでの距離は30mほどだ。数本の矢を放ったところで、右手に場所を変える。

 逃げ始めた灰色オオカミを狙って矢を放つ続けると、2本矢を残したところで、狩りは終わったようだ。

 槍を持った男性が、まだ動いている灰色オオカミに止めを刺している。

 枝から飛び降りて、シグ達のところに歩きながら矢を回収していった。

 


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