表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/153

092 キュブレムは戦闘用


 VRMMOは自由度が高いことが売りの1つなんだけど、最終目標が世界の平和というのはかなり曖昧な結末だと思ってしまう。

 だけど、プレイヤーが全て冒険者になるとは限らないからねぇ。花作りをする人もいるだろうし、モフモフな獣に取り囲まれて満足する人達だっているはずだ。

 それを考えると、プレイヤー個々に目標が異なることになってしまう。一律に魔王を倒せとは言えないのかもしれない。

 それで、世界の平和になるんだろうね。

 

 そういえば、私達の目標だって曖昧なんだよね。

 イザナギさんは手伝ってほしいということだけど、それは『レムリアで暮らす皆を守ってほしい』とのことだった。

 軽く引き受けてしまったけど、その時はPK犯を捕まえれば良いぐらいに思ってたんだよね。

 でも、それだけじゃないように思えてくる。

 今回の事件もPK犯に近いものだけど、元をただせば別の世界からの干渉に違いない。VRMMO同士の戦いが始まるのだろうか?

 騎士団の人達が現役の自衛隊の人達らしいけど、単に訓練の一環と考えるのも問題なんじゃないかな?


「お姉ちゃん、どうかしたの?」

「ん? ちょっとね。こんなことがこれからもおきるのかな、と考えてたの」

「やってきたら、また同じことをすれば良いんだよ。その内に向こうも諦めるんじゃないかな」


 タマモちゃんの言葉に思わず笑ってしまった。

 何度でも同じことをする……、それっていじめっ子対策の1つじゃないかな?

 とことん無視するか、それともその都度拒否するか……、案外PK対策と似たところがあるのかもしれないな。


「そうだね。またやっつけちゃおう。警邏の人達とも知り合いになれたし、色々と助けて貰えそうだもの」

「ハヤタお兄ちゃんに釣りを教えて貰うの!」


 元気な声で教えてくれたけど、トランバーのハヤタさんとそんな約束をしてたみたい。

 となれば、このイベントが終わったなら、早々にトランバーに向かおう。

「私も釣りは出来るんだよ!」と言いながらタマモちゃんの頭を撫でてあげる。


 まだまだ、夜明けには時間があるから仮想スクリーンを開いてキュブレムの使い方を確認することにした。

 タマモちゃんはいつの間にか私に寄りかかって小さな寝息を立てている。

 周囲に敵対する獣がいないからなんだろう。辺りからは虫の音が聞こえてくるくらいだからね。


 キュブレムを動かすのは『人形使い』であれば簡単なことらしい。

 そんな職業があるのかと最初に聞いた時には驚いたんだけど、人形使いは職業ではなく『スキル』の一種らしい。

 職業はレムリア世界できちんとした構成がなされているから、ラグランジュ王国を作った財団としてもそれを踏襲せざるをえなかったと言うことかな?

 上位変化を伴わないスキルだから、レムリア世界で運用できたということになるのだろう。

 そのスキルの取得は……。

 強く念じれば良いですって!

 かなり不安になって来た。そんなことでスキルが取得できるなら、誰でも人形使いに成れるんじゃないかな?


 とりあえず……。

『動け、動け……、動いて頂戴!』


 キュブレムを取り出して両手で握ると、強く問いかけるように念じてみた。

 心の中で、『動け!』と念じることしばし……、突然、私の手の中から人形が飛び出して空中に浮かんでいる。

 脈動するような光が人形の中から放っているようにも見えるんだけど、これって動いたということなのかな?


 慌てて、仮想スクリーンを開くとパーソナルデータのスキル欄を確認した。

【索敵】、【監視】、【身体能力向上】……、最後に【人形使い】の文字が浮かんでいる。

 でも、【人形使い】の文字の前に【★】が付いてるのが気になるよね。他のスキルにはそんな表示が無いもの。


 相変わらず目の前に浮んでいるキュブレムをそのままにして、仮想スクリーンのキュブレムの取説を読むことにした。


「指示すれば勝手にバッグから飛び出すのね。戻すときも同じで良いみたい。【キュブレム】+【指示】ということだから……、『キュブレム、バック!』」


 目の前のキュブレムが消えた。

 バッグを開くと、ちゃんとキュブレムが入っている。

 ここまではできた。

 次に戦闘なんだけど……。


「中に入るの? 基本は鎧と同じだと書いてあるけど、これは一度練習が必要なんだろうね」


 バーニイさん達は離れたところで動かしていたけど、それだと人形にあらかじめ設定された動きに限定されてしまうらしい。

 そこで、人形の中に入ってその動きを人形に拡大させる方式を考えたようだ。

 確かに試作機と言えるだろう。

 もう一度やってきなさいとナナイさんが言っていたのは、そのデータを確認したいためでもあるようだ。


 中に人が入るから、人形を大きくすることができるみたい。でも、姿そのものは変わらずに大きくなるということは……、4頭身は変らないということになる。

 地上を時速60kmで滑走し、短時間なら空も飛べる。でも3秒以内というから大きくジャンプできるぐらいかな。

 武装は、ほとんど腕全体をカバーする装甲板の中に片手剣が収納されているようだ。柄を伸ばせるらしいから、薙刀モドキになるのかな?

 それ以外に、ボルトと呼ぶ簡易ドローンを4機搭載している。

 簡易ドローンと言っても、光学的な目標追尾ができるし、光属性魔法の1つである【光線】(レイガン)を放てるらしい。高出力レーザーを3回放てるだけでも優れものだ。偵察用ドローンには何故か武器を搭載してないんだよね。


「これって、完全に戦闘用じゃないの?」

 思わず、声に出してしまったのは仕方のないことだろう。

 最後に、燃料として魔石が必要であることが書かれていた。低級魔石1個での稼働時間はおよそ3時間。中級なら24時間で、上位魔石であれば100時間は動くらしい。

 現在手に入るのは低級魔石だから、数個確保しておけば十分だろう。

 移動性能が高いから、タマモちゃんと2手に分かれて追い打ちすることもできそうだ。

 しばらくは使いそうもないけど、練習ぐらいはしておいた方が良いだろね。

 基本はちょっと大きなニンジャモドキになるのかな?


 何事もなく朝が訪れる。

 周囲の明るさでタマモちゃんが目を覚ました。寝てしまったことを恥じているのかちょっと苦笑いをしてるところが、まだまだ幼いと感じてしまう。


「お茶を沸かしてくれないかな? その間に、スープを作るから」


 今日は、森の中を南に移動するのだ。途中で昼食が取れそうにもないから、朝食はたっぷりと取っておかないとね。


 朝食を終えると、シロウさんとタマモちゃんが先になって森を進む。

 途中、何度も立ち止まり方角を確かめているのは深い森ならではのことだ。真っ直ぐに進んでいるようでも、幹や木の根に邪魔されて、度々進む方向を変えてるからね。真っ直ぐ進んでいるつもりでも同じ場所をぐるぐるということだってあり得るんじゃないかな。


「この辺りで、真ん中になるな。ちょっと休憩するよ」

「空がまるで見えないわ。シロウ、方向は正しいんでしょうね?」

「ちゃんとコンパスを見て進んでるさ。最短距離で進んでいるよ」


 森のうっそうとした木々で空はまるで見えない。木漏れ日がたまに地面を照らすけど、その木漏れ日のおかげで背丈のある下草が育っている。草というよりもシダの仲間かもしれないけど、タマモちゃんの腰より高いぐらいだ。

 ちょこちょことシダを避けてタマモちゃんが進んでいたから、ジュンコさんが見かねて、シロウさんにタマモちゃんの前を歩くように言いつけてたんだよね。


「今のところ、野ウサギみたいな獣しか見なかったよ」

「やはり、あの2体で終わりなんでしょうね? これで森の東の入域禁止も解除できそうよ」


 タマモちゃんの言葉に頷きながらジュンコさんが言葉を繋ぐ。


「そういうことになるだろうね。やはりあのキメラがPK犯と考えた方が良さそうだ」

「でも、あまり獣がいないなら開放する意味が無さそうですけど?」

「昼ならね。夜は違う。たぶん森の南側に近い場所で狩りをするんじゃないかな」


 狩りは夜になるってことか……。当然森の中は危険地帯になるから、森の周辺部で獣を狩るということになりそうだ。

 河原にセーフティ・エリアがあったのは、そんな狩りをするためだったのだろう。


 休憩を終えて再び森の中を歩き出す。

 木々を渡る小鳥たちのさえずりが聞こえるのは、やはり周囲に大型の獣がいないためなんだろう。

 

 やがて前方が明るくなってきた。

 森の木々も少しずつ、幹の間隔を開いているように見える。

 10分も経たない内に、私達は明るい陽光の降り注ぐ荒れ地に足を踏み入れた。


「どうやら抜けたね。少し離れたところで食事をしよう。まだ3時も過ぎてないから、夕食は町で食べられるぞ」


 森に近ければ、それなりに危険ではある。

 500mほど離れた場所で、焚き火を作り簡単な食事を作る。


「これで、私達はお役御免ですね」

「そうなるけど、夕食ぐらいは一緒にしたいな」

「改まった席は嫌ですよ。普段の食事であれば、御馳走になります」


 ラグランジュで私はセレブになれないと実感したからね。

 賑やかな食堂でお腹一杯が一番じゃないかな? ふと、タマモちゃんに顔を向けたらうんうんと頷いている。やはり私と一緒だと思う笑みが浮かんでくる。


「それなら、『銀の斧』で良いんじゃない? 私達は一度警邏事務所に戻るから、待っててくれないかな」

「待ってるというより、その宿に泊まってるんです。友人達と相部屋なんですけどね。イベントが近いということで宿が足りないみたいです」


「それは運営側にも抗議してるから、すぐに町のエリアが拡大されると思うな。現在の町の大きさは、本来のラディス町の三分の二というところだ。全てが解放されるか分からないけど、少なくとも宿が2、3つは増えるはずだよ」


 それでも足りないんじゃないかな?

 イベント目当てに続々とプレイヤー達が集まってくるはずだ。

 あまり不便をかけたりしたら、レムリアというゲームを見限る者達だっているかもしれない。できれば、町の近くの村を解凍すべきだと思うんだけど。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ