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090 肉食樹が現れた


 火属性魔法の最上級なんだろうか? 確か最上級ともなれば攻撃魔法は広域化を伴うはずなんだけどねぇ。

 タマモちゃんの放った【火炎弾】は大きくて威力もとんでもない代物だったけど、広域化には至っていない。

 火属性魔法には、いろんな種類の魔法があるのかもしれないと思っておこう。

 私が使える【火遁】は、魔導士の魔法攻撃力を越えることはないだろう。

 強いていれば、タマモちゃんの使う魔法を知っていた方が良いのかもしれないけど、あまり変わった魔法をプレイヤーに披露するのも考えものだ。


「やったのか!」

「まだ動いてますよ。とはいえ、ほとんど末期状態ですから、出来れば戦士にとどめをお願いしたいところです」

「少しは経験値が得られるかな。……お~い! とどめを刺してくれ。頭を落とせば何とかなるんじゃないか?」


 戦士2人がびくりと体を震わせていたけど、小さく頷いてゆっくりとキメラに近付いていく。

 腰がかなり引けてるように見える戦士達が、数回長剣を振るってキメラの首を落とすことができた。

 それでも安心できないと、シロウさんが胴体の心臓位置を槍で深々とえぐっている。

 

「経験値は得られたか?」

「1200も増えてます。かなり美味しい獲物ですけど、倒せたのは……」

「まぁ、こっちにも色々と訳ありでね。あまり詮索しないでくれると助かる」


 冒険者達が、仲間と顔を見合わせながら頷いてくれた。

 警邏さん達だけなら問題はないかもしれないけど、タマモちゃんのあの姿を見せてしまったからねぇ。

 枢機卿止まりにできれば良かったんだけど、やはりこの世界で変化したキメラは強力な怪物ということになる。


 河原で焚き火を作って、お茶を頂きながらキメラの様子を見守っていただが、やはり経験値を得られた以上、キメラは死んだということなんだろうね。

 最初は呆然とした表情でお茶を飲んでいた冒険者達だったけど、次第にキメラを倒せたという自覚を持ってきたようだ。

 冗談を仲間内で言い合うようになったけど、たまに私とタマモちゃんに気が付いて静かになるんだよね。


「冒険者ですよね。上級職なんでしょうけど、レベルは?」

 神官姿のお姉さんが問いかけてきたから、思わずシロウさんに顔を向けてしまった。


「ここだけの話として教えてあげたら? 友人も知ってるんだろうしね。そうそう、掲示板への記載は止めて欲しいな。まぁ、書いたとしても直ぐに削除されちゃうと思うけどね」


「知られたくないということですか?」

 シロウさんの話しに興味を持ったのだろう。戦士の1人が確認してくる。


「ある程度は隠したい。警邏の僕達にもこの2人の正体がよく分からないんだ。分かっているのはNPCの冒険者で、僕達に協力してくれる存在ということぐらいかな?」

「自由度の高いゲーム世界なんですから、私達のような存在もいるんでしょうね。あっちこっち巡りながら冒険者のお手伝いをしてるんです」


「今回は運営の不手際みたいなものだ。一応、倒しはしてるけどあれ1体と断言できないのが問題だな」

「それはいろいろと都合が悪いですよ。近々のイベントに向けて皆がレベル上げに取り組んでますからね」

「知ってるさ。僕達が森の東で野宿してたのは、そのための調査だからね。だけど、キメラは想定してなかったなぁ」


 そもそも私達はPK犯を探してたんだからね。あのキメラも怪しいけど、断定できないところが辛い。


 そのまま焚き火を使って軽い昼食を作る。

 冒険者達は町に戻るらしいから、私達は再び川の東を探索することになるのだろう。


「いざとなればタマモちゃんに頼るのもなぁ……」

「あれほど、任せとけと言ってたじゃない?」


 冒険者を見送るシロウさんの呟きに、ジュンコさんが言葉を繋げる。

 嫌味に聞こえないのは、そんな話ができる仲ってことだよね。やはりこの世界で仕事をするのは結婚資金を貯めるために違いない。

 

「そろそろ私達も対岸に渡りますか? 出来れば夕暮れまでに、東の端に出たいところです」

「横切るのは時間が足りなさそうだ。北東に向かって、明日は森を南に向かおう」


 なるべく広く探索したいところだけどね。ある程度森の深部を探索しておけば、少しは安心できるだろう。PK犯が今朝方のキメラということも考えられる。


 シロウさん達はバッタに乗って川を跳び越え、私達は上位職に姿を変えて川を跳び越える。

 跳び越えた先で、再びレンジャーと獣魔使いの姿に戻り、シロウさん達と森の中に分け入った。


「タマモちゃんのあの姿って、九尾のキツネなんでしょう?」

「そんな感じですね。この間は薙刀で相手を叩き斬ってましたけど、今回は大型の【火炎弾】でした」

「あのゴーレムをどこかで見たことがあるんだけど……」

 

 ジュンコさんが首を傾げて考えている。

 後ろを振り向いたシロウさんが笑っているのは、あのゴーレムがアニメに登場した姿を知っているに違いない。

 お爺ちゃんによればかなり古い作品らしいんだけど、ひょっとしてシロウさんはオタクという種族なんだろうか?

 

黒鉄くろがねというくらいですから鋼鉄製なんでしょうけど、ブロッコ村のイベントで私も初めて見たんです」

「確か……、住民保護が目的のイベントだったんでしょう? こっちでも興味深々で見てたんだけど、NPC協力者がいたとは聞いてたけど、村人では無くてモモちゃん達だったのね」


 村の外の戦いは中継されていなかったようだ。

 案外、私達に注目が映ることを嫌ったのかもしれないな。

 小さな声でジュンコさんと話をしながら歩いていると、前方を歩く2人の足が止まった。その場で腰を落とし始めたから、私達も腰をかがめてタマモちゃん達に近付いていく。


「何かいたの?」

「あれ! ちょっと大きい」

「トレドスなんだろうが、あれほど大きいのは初めてだな」


 タマモちゃんが腕を伸ばした先には、太さ1m近い枯れ木が立っていた。

 単なる枯れ木でないことは、根本付近からウネウネと動いている触手状の根と幹の上部に取って付けたような大きな花が開いているので直ぐに分かる。

 仮想スクリーンで『魔物』、『植物』、『肉食』と選択すれば、直ぐにトレドスの画像と注意書きが読めるぐらいに一般的ではあるのだが……。


「魔物でしょうけど、トレドの2倍は背丈がありますよ」

「だろう? だから、ここで観察してるんだ。あれも例の影響なんだろうけど、そうなるとトレドスの注意書きで対処するのも問題がありそうだ」


 トレドスのような植物魔物は熱に弱い。触手は樹液をポンプのように圧力を加減することで動かしているようなのだが、その樹液は可燃性で良く燃える。

 【火炎弾】を使えば、触手が千切れて直ぐに樹液に引火するから、初心者魔導士でも1人で倒せる魔物なんだけど……、50mほど先にいるトレンドスも同じように倒せるのだろうか?


「トレンドスの足は遅いということなんだが、あの触手の太さを見るとそうも言えないな」

「タマモちゃんの腕位はありそうですね。そうなると【火炎弾】で引き千切れるかどうかも怪しいところです。それと虫の羽音に似た音が聞こえますね」

「黒鉄でホールドする? 【火炎弾】ぐらいでは傷も付かない」


 羽音の原因も気にはなるけど、先ずはあの魔物だよね。タマモちゃんの提案に、私達は顔を見合わせると、直ぐに互いに頷いた。魔物であれば倒しておいた方が良いだろうし、他の冒険者が黒鉄のようなしもべを持っているとは考えられないもの。


「タマモちゃんの作戦で行くか!」

「黒鉄がトレドスをホールドしたところを、私とジュンコさんが【火炎弾】で攻撃! で良いんですね?」


 シロウさんの役目が無いけど、ここは我慢して周辺の監視をしてもらおう。

 タマモちゃんが立ち上がって直ぐ側に黒鉄を出現させる。ポンポンと黒鉄の肩足を叩いたら、黒鉄が大きく腕を広げてトレドス目がけて歩いて行った。


「それじゃあ、私は側面から攻撃します!」


 一瞬でニンジャに姿を変えると、森の木の枝を伝ってトレドスの側面に移動する。

 木の枝の上に立って、先ずは成り行きを見守ることにした。

 黒鉄の接近をトレドスはどうやって知ったのだろう? 目はどこにも無いんだよね。

 両者の距離が5mほどに近付くと、地面が割れていくつもの触手が現れ黒鉄にぐるぐる巻き付き始めた。

 黒鉄の力はかなりなものだ。触手をちぎってトレドスに近付き、がっしりと幹を押さえつける。

 黒鉄を引き離そうと触手が蠢いているけど、やはり黒鉄の力強さは他の追従を許さないように見える。

 そんな両者が炎に包まれた。ジュンコさんの攻撃が始まったのかな?

 さえ私も……、と枝から飛び降りようとした時だ。

 大きな違和感にゾクリと背中が冷える。

 思わず崩れた態勢を幹に手を添えて、何とか落ちることを免れた。

 トレドスが燃え上がらない……。【火炎弾】が効いてないのかな?

 次々と【火炎弾】が着弾するけど、燃えるのは火炎弾が炸裂した時だけだった。


 弱点が変わってる?

 とはいえ、元々はトレドスが変化したものに違いない。他に弱点が移行したということなんだろうけど……。

 もう一度注意深くトレドスを眺める。

 ふと、小さな変化に気が付いた。

 トレドスの幹自体の位置はまるで変っていないのだが、ラフレシアのような花の位置が変わっていた。元々は少し左側にあった花なんだけど、今は黒鉄の正面にある。

 あの花で、周囲を見てるんだろうか?

 最初に気が付いた羽音が強くなったようにも思える。

 

 ひょっとして、トレドスは超音波を出してあの花をアンテナのように使って相手の位置を掴んでいるのだろうか?

 なら、混乱させることもできるんじゃないかな?


 枝から飛び降り、地面で大きく跳ねる。

 上空で忍刀を抜くと、ラフレシアの根元に刀を振り下ろした。

 落下の速度も加わっているし、忍刀が業物であったこともあるのだろう。大きな花が地面にドサリと音を立てて落下した。


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