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009 第二陣がやってきた


 朝から続々とプレイヤーが歓迎の広場に現れる。

 今日1日で、トラペット町に1万人がやって来るらしい。また騒がしい日々がしばらくこの広場で続くに違いない。

 今回のプレイヤー達は、掲示板でトラペット町の様子を研究したんだろう。足早に広場から去っていく。

 それでも、やはり初心者はいるみたいで、きょろきょろと不安げな視線で周囲を見ている。そんなプレイヤーをパーティに入れようとしているプレイヤーと警邏の間で、何度か小さなトラブルがあったみたいだ。

 それでも警邏の働きを知ったみたいだから、『警告』だけで済んでいるように見える。


「あのう……」

「ん、私?」

 

 小さな女の子2人が、私の前に立っていた。

 2人連れだから、変な連中に声を掛けられなかったのかな?


「私達、従魔使いになりたいんです。でも、どうしたら良いかわからなくて……」


 思わず、2人に笑みを浮かべてしまった。

 どう見ても、リアルでは小学生に違いない。家ではペットを飼えないから、せめてこの世界で、ということに違いない。


「お姉さんに2人の個別キャラクターを見せて貰って良いかしら?」


 私の言葉に2人が顔を見合わせていたけど、大きく頷いて仮想スクリーンを私の前に出してくれた。

 

 職種は神官と魔法使いになっている。種族は2人ともエルフになっているから、従魔使いになる上での問題はない。問題となるの初期ボーナスをどのように割り振ったかになるんだけど……。

 これまた、おもしろい値になってる。

 STR(攻撃力)=4(7)

 VIT(体力) =4(7)

 AGI(素早さ)=5(7)

 INT(知力) =7(9)

 括弧内の数字がボーナスを振り分けた数字だ。

 スキルは『鑑定』、『探索』に『回復魔法』を持っている。もう1人は『回復魔法』の代りに『火属性魔法』を取っている。

 このまま戦ってもおもしろそうなんだけど……。


「これならだいじょうぶよ。でも、2人とも槍を持ってるよね。その槍を売り払ってムチを買いなさい。ムチを何度か使うことで『調教』のスキルを持つことができるの。そうね……、L3に上がる頃には持てると思うわ。

 その後は、ムチで倒した相手が仲間になることもあるのよ。倒しても仲間になるかどうかは分からないけど、他の方法では仲間に出来ないみたい」

「ムチで戦うんですね。分かりました。ありがとうございます!」


 私に頭を下げて直ぐに駆けだそうとした2人組を慌てて止める。


「ちょっと待ちなさい! 直ぐに外に行きたいのは分かるけど、門から遠くに行ってはダメよ。『探索』を使えばスライムの居場所が分かるから、しばらくはスライムを相手にした方がいいよ」

「ちゃんとお兄ちゃんに教えて貰ってるからだいじょうぶだよ。それじゃあ、お姉さん。またねぇ~」


 行っちゃった! 

 後で様子を見に行こう。南に向かったのは間違いなさそうだからね。

 でも、この辺りで仲間に出来る獣や魔物となれば……、スライムかな? 出来れば、野ウサギ辺りを仲間にさせてあげたいな。


「この間はありがとうございました」

 

 若い男女の組み合わせ。私に見せつけに来たわけではないんだよね。

 首を傾けて考えてる私を見て、2人が笑みを浮かべている。やはり、1人者を馬鹿にしてきた2人ということなのかしら?


「PKの被害にあった時にはお見苦しいところをお見せしてしまいました。警邏の事務所で無くした経験値と奪われたお金を返して頂ききました」

「あっ、あの時の!」

「私達も油断してました。あの時の縁で、もう1組のパーティに入らせてもらったんです」


 確か3人だったから、今度は5人になるんだね。1人を周囲の見張りにすることもできるだろうから、良い選択ということになるんだろうな。


「L6ぐらいかな? そうなると、イノシシが狙えますね」

「同じような話をギルドでも聞きました。良い値が付いて経験値も高そうですから、これから向かうところなんです。それじゃあ、また」


 一緒の女性が何度も振り返って手を振ってくれた。私をNPCと知っていてもお礼が言えるんだから、町の人とも上手くやっていけるに違いない。

 そんなプレイヤーばかりだと良いんだけどねぇ……。


 いつものように、昼過ぎまで歓迎の広場で時間を潰し、午後は解放された閉鎖区画の様子を見に出かけることにした。

 トラペットの町は3段階に開放されるらしい。最初は歓迎の広場から南の2区画。今日から北東の区画が解放され、10日後には北西の区画が解放される予定だ。

 NPC5万人にプレイヤーが30万人になるんだから、これはちょっとした地方都市と言ってよいのかもしれない。

 それを考えると、そろそろ他の町との街道の封鎖を解きたいところだよねぇ。


 町の北東に向かう通りを進んでいくと、大きな教会があった。花屋の食堂で聞こえた鐘の音はこの教会から聞こえてきたんだろうな。

 閉鎖区画と言っても、一部の機能は働いていたみたいだ。


「「今日は」」


 教会前の広場の掃除をしていた女性神官に近づいたら、向こうから挨拶してくれた。ほとんど同時に私も頭を下げて挨拶を返す。


「良いお天気ですね。異人さん方はすでに到着しているのでしょう?」

「はい。続々とやってきてます。この辺りの宿屋も今夜は賑わいそうですよ」


「それは何よりです。ところで、東の山道はまだ通れないんでしょうか? 東の港町から大神官様がおいでになると連絡があったのですが?」

「まだみたいですよ。でも冒険者達が育っていますから近々に通れるんじゃないでしょうか?」


 私の答えに笑みを浮かべた神官に別れを告げて先を急ぐ。この先は騎士団の駐屯地になってるらしいんだけど、どんな人達なんだろう。


 前方から馬の駆けるひずめの音が聞こえてきた。甲高いいななきも聞こえてきたから練習場があるのかな?

 少し足を速めていくと、丸太で区切られた柵が見えてきた。こんな施設が町の中にあったんだ……。


「おや、娘さんは冒険者なのかい?」


 思わず声の主を探してきょろきょろしていると、柵に寄りかかってパイプをくうぇている騎士さんがいた。


「はい。北東の区画が開かれたと聞いたもので……」

「ということは、プレイヤー達が大勢やって来たということだね。あまり争わないようにしとくれよ。それと、万が一の時には手伝ってくれ」

「了解です。それにしても馬は速いんですねぇ」

「ははは、まだまだあれぐらいでは魔獣の相手は出来んだろう。あまりあってはならないことだが、その為にこそ我等がいるのだからね」


 使命感に燃えてる感じがするな。きっと部下の騎士達も立派な人達に違いない。

 数頭が並んで目の前を走る抜ける。馬の尻尾が真直ぐに伸びているのがなんかおもしろいな。

 しばらく練習場を駆ける騎士の姿を眺めて過ごすことになった。


 だいぶ日が傾いてきたので、町を取り巻く石垣沿いに東門から外に出て様子をながめる。

 町の石垣から2kmほどの区間で大勢のプレイヤーがスライムを追い掛けたり、薬草を採取しているのが見える。

 先に来た連中は、そのさらに外側で狩りをしているのだろう。簡単な狩は初心者に委ねるだけの器量が備わったかな。

 シグや妹はどの辺りで狩りをしてるんだろう?

                 ・

                 ・

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<< とある場所 >>


「主任! ちょっとこれを見てください」

「なんだなんだ? あっちこっちの修正で皆忙しいんだぞ! 状況監視は自動化されてるはずだ。警報さえ出てないじゃないか」


 日本国の技術の粋を集めたと言っても過言ではない、新たなVRMMO『レムリア』。

 その世界は1千万を超えるNPCとプレイヤーによって作られている。

 構想は10年ほど前からあったらしいが、あまりの大きな世界観に技術が追従できなかったらしい。

 なんてったって、電脳世界にもう1つの日本をつくるようなものだ。この管理センターだって、同業者だけでなく政府の方からも出向者が来ているぐらいだからな。

 もっとも、政府のお役人はこの管理センターとは別室に籠っている。国内外からのハッキングに備えているらしいけど、日本以外にこんなVRMMOを作れるとは思えないんだよなぁ。

 暇なら、こっちを手伝ってほしいぐらいだ。


「変なんですよ。ベータテストを兼ねてトラペット町に最初のプレイヤーを送り込みましたよね」

「ちゃんと、楽しんでるじゃねぇか! 特に問題はないと思うぞ。警邏の連中もしっかり役目をこなしてるからな。この状況で何を変だと言ってるんだ?」


 思わず怒鳴り声をあげたから、周りの連中が「ひっ!」と声をあげているし、俺の前の青年は体を小さくして震えている。

 別に取って食うわけじゃないんだからそんなに怯えなくとも良いと思うんだが、俺の顔は強面だからなんだろうか?


「NPCが1人多いんですよ……。どうにか、特定したんですけど」


 青年が両手を躍らせると、仮想スクリーンが俺の前に現れて、ネコ族の女の子の姿が現れた。

 白猫かな? まだ成人に達してないプレイヤーが自分の理想に合わせて作ったような容姿だが、顔は美人というよりもかわいいという気持ちが先に出てしまうな。


「かわいい。どこにいるの?」

 

 早速、かわいもの好きなお局様達が集まって来たぞ。

 素早く青年に視線を向けると、小さく頷いてくれたから、これでこの子の位置情報が画像から削除された。


「NPCの統括は、『TOKYO』だったはずだ。最初のNPC配置リストから抜け落ちてたんじゃないのか? 後は、『ヤマト』に『ゼニガタ』も怪しいな。NPCとしてエージェントを潜ませたのかもしれん」

「一応、『TOKYO』の方には確認しました。向こうのミスではなさそうです。となると……」

「政府の連中の考えてることは俺達には分からんからなあ。あまり突いても良いことは無いだろう。動きをこちらでトレースすることも問題がありそうだから、警邏の連中に上手くやるように俺から伝えておくよ」


 それにしても、モモというのか……。

 やはり、『ゼニガタ』当たりが怪しいな。サイコパスという連中は、リアル世界では事件が起こる前までは余り表面化しないらしい。サイコパスの心の動きをこの『レムリア』で掴もうというのだろうか……。

 待てよ。そんなことが可能だとすれば、医学界の研究とも関係がありそうだ。統合大学のスパコン『京』への情報収集に特化したNPCかもしれん。

 たまにどんなことをしているのかを見るのもおもしろそうだ。

 無粋な姿でもないし、俺達を癒してくれる存在になるかも知れんな。


 自分の持ち場に歩きながらふと後ろを振り返ると、数人の女性に囲まれた青年の姿が見えた。

 さっきの女の子の現在地を教えるよう強要されているようだけど、さて何分で落ちるだろう。

 閲覧制限を速めに作って周知させた方が良さそうだな。


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