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086 ラディス町の警邏事務所


「そんな訳で、北東の森には冒険者達が近づかないんだ。良い狩場なんだけどね」


 食事をしながら、PKの噂話をシグが教えてくれた。

 シグ達はNPCではなく、NPCを装ったプレイヤーだと思っているらしい。そんなことなら、ギルドで話をするのは問題だろう。食堂の個室で話す内容だね。


「大きなイベントとなれば、プレイヤー達の注目度も上がるからなぁ。参加したいがために無理な経験値稼ぎをする連中もいるんだけど、PKをしてまで上げるのは問題だね」

「前回のPK騒ぎもイベント前だったよね。同じ連中なのかもしれない」


 リーゼ達の話は、トランバー周辺で起こったPKのことだろう。私達も探したんだけど、鳴りを潜めてしまった。

 目的を達成したからPKから足を洗ったんだろうか? だけど一度味を占めると再び始めそうな気もする。

 それに、もう1つの可能性の方が高いんじゃないかな?

 さすがにこの場で話すわけにはいかないけどね。


「シグ達は北で狩りをするの?」

「そうなるな。北の獣は灰色クマだ。もう少しでレベルを上げられる。イベントにはまだ間があるけど、早めにレベルは上げておきたい。……そんな顔をするな。出掛けるのは北西の林だからな」


 私の顔色を見て、シグが慌てて言葉を付け足した。

 ケーナを預けてるんだから、無理はしないでほしいな。だけど、ケーナは私がいないことを良いことにやりたい放題してるんじゃないだろうか?

 ちらりと、ケーナに視線を向けると、たちまち顔を伏せてしまった。


「大丈夫よ。私達がいるんだから。シグの手綱はしっかりと握ってるし、ケーナちゃんはいつも中間位置で頑張って貰ってるわ」


 ケーナを中衛として育ててるんだ。サムライだからねぇ。装備は軽めのものしか身に着けられないけど、その分身軽に動けるし、刀の一撃は長剣を越えるのだが……。


「ケーナは刀のスキルを身に着けたの?」

「ん? え~とね。【斬撃】を手に入れたよ。【二刀流】が欲しいから、両手に刀を持ってるの」


 ケーナの話しに頷いてるタマモちゃんだけど、理解してるのかな?

 中衛なら【居合】が一番だと思うんだけど、【斬撃】も中々だと思う。伸ばしていけば【一刀両断】なんて言う物騒なスキルを手に入れられるんじゃないかな?

 【二刀流】はレベル20で上位職を選べる時に手に入るはずだ。


「モモよりも使えるな。やはり中衛も攻撃力が大事だってことだな」

 

 シグの言葉はいつものことだからスルーしておこう。

 私は素早さが大事だと思ってるんだけどね。


「それで、……何とかなりそうなのか?」

「ここだけの話だけど、例のアップデートの修正時に大規模なハッキングが起きてるの。西の王国では村1つがなくなったぐらいよ。沈静化はしてるんだけど、私は潜ったと思ってるの」


 私の言葉に4人が顔を見合わせている。

 噂話ぐらいには知っているのかもしれないね。警邏さん達だって、リアル世界ではいろんな人達と付き合いがあるだろうし……。守秘義務はあるんだろうけど、超えてはいけない一線は極めて曖昧らしい。


「村1つ……。さすがにそこまでのことが起きてるとは思わなかったな。それで、現在は危険はないんだな?」

「イベントに合わせて浮かんでくるんじゃないかな? 北東の森で確かめてみるよ」

「一回りしてくれれば安心できるな。だけど、私達はしばらく近づかないつもりだ」


 思わず笑みを浮かべてしまう。

 シグは慎重派だからね。とはいえ、義侠心があるのが心配の種だ。

 自分達では近づくことはなくとも、他のパーティが危険な目に会っているとなれば長剣を担いで駆けつけるに違いない。

 やはり、明日から北東の森を調べておいた方が良さそうだね。


 翌朝。朝食を1階の食堂でシグ達と一緒に取る。

 一緒に宿を出ると、シグ達を見送った後で警邏事務所に向かうことにした。

 ダンさんが警邏組織に私達のことを知らせてくれたんだけど、果たしてこの町での扱いはどうなるのだろう?

 話が分かる人達だと良いんだけれどね。


「ここだよね?」


 冒険者ギルドのあった十字路から南に進んだ先にあると教えてくれたんだけど、警邏事務所の看板を出した建物はギルドよりも立派な石作りだった。

 3段の階段を上ったところに、鉄で補強された扉がある。

 扉の前に立ち止まって、タマモちゃんに視線を向けた時、タマモちゃんの言葉が先ほどの言葉だ。


「とりあえず入ってみようか? 状況が分かれば良いんだけど、ダメなら私とタマモちゃんで頑張らないとね」


 うんうんとタマモちゃんが頷いている。

 立派な建物に住んでいる人物が、必ずしも立派な人とは限らない。それは組織にも言えることだと、お父さんが言っていた。


 トントンとノックして扉を開く。


「お早うございます。ちょっと教えていただきたいんですが」

「おや? お嬢さん達2人なのかい。こっちに来て話を聞かせて欲しいな」


 広いホールの中にいくつかテーブルセットが置いてある。

 事務所が丸見えではなく、カウンターのある位置には壁があった。

 私達に声を掛けてきたのは、何組かの警邏さん達が座っていたテーブルに1つからだ。若い男性が手招きしている。

 一緒にいたお姉さんが椅子を用意してくれてるみたいだから、ここは従った方が良さそうだ。


「警邏事務所にやって来る冒険者は久し振りだね。とはいっても数日前に2件ほどPKの被害報告があったんだが、お嬢さん達はどこで襲われたのかな?」


 私達がテーブルに座って頭を下げると、若い男性が私達に問いかけてきた。

 PK被害者だと勘違いしてるみたいだけど、やはりPKの被害がある程度あるってことなんだろう。


「PK被害者ではありません。どちらかというと……」

「PKKが仕事の1つなの」


 私が言い淀んでいると、タマモちゃんが元気に答えてくれた。

 途端に周囲の雰囲気が和んできた。小さな笑い声まで聞こえてくる。


「そりゃ凄いな。それで、PK犯の潜んでいるところを聞きに来たんだね?」


 その通りなんだけど、私達の前の2人は笑みを浮かべているんだよね。

 お茶を運んできたお姉さんは、タマモちゃんに「たいへんなお仕事ねぇ」なんて言っているし……。


「僕達の人員不足もあるから、お手伝いは大歓迎だ。とはいえ、PK犯は強いんだよ。お嬢さん達のレベルはどれぐらいかな?」


 やんわりと拒否してる感じがしないでもない。

 とはいえ、少女達2人の来訪を追い払うことにでもなれば、掲示板がさぞかし賑わうことになるんだろう。

 友好的な態度はどの辺りまでが本音なのだろう?


 タマモちゃんと私のギルドカードを2人の前に置く。

 直ぐに、2人の顔から笑みが消えた。私達が単なる冒険者とは異なることに気が付いたようだ。


「本当なの?」

「ギルドカードは偽造できない。レムリア世界で作っているわけじゃないからね。だとしたら、小さいお嬢ちゃんの言葉はまさにその通りなんだろう」


「おいおい、どうしたんだ? リアル世界で付き合おうなんて考えてるんじゃないだろうな?」


 2人の雰囲気が急に変わったのを不審に思った警邏さんの1人が、彼等の後ろからカードを覗き込んだ。


「何だと! 所長を呼んで来い」


 後ろのテーブルにいた警邏さんに怒鳴り声を上げている。

 そんな大それた話じゃないんだけどね。


 ちょっとした騒動になってしまったけど、いつの間にか2階の応接室で所長から状況説明を受ける羽目になってしまった。

 出来れば現場に精通した警邏さんの方が良かったんだけど……。


「……ということで、ラディス町周辺で発生したPKは、アップデート修正後の4件です。もっとも、最初のPKは犯人が同定出来ております。初犯であることを考慮して対応しましたが、残り3件については全く手掛かりさえ出てきません」


 場所は町の北東部にある森の中だ。

 冒険者は狩人だと言ってたけど、所長は冒険者だと思っているのだろう。私も普段のこの姿はレンジャー、狩人だからねぇ。


「やはり、例の件によるものでしょうか?」

「分かりません。でも西の王国も苦労しているようです。しばらく、この町を拠点に調べてみるつもりです」


「そこで、こちらからのお願いです。2人私達の仲間を同行させてください。レベル16ですから少し心許ないところはありますが、将来を期待している者達です」

「責任は持ち兼ねます。できれば定期的な情報交換をお願いしたかったんですが……」

「それなら、なおの事。下で既に待機しているはずです」


 タマモちゃんが頷いているから、了承しておこう。

 一応、言葉質は取ったから、後の責任は所長の負わせることはできる。

 だけど、GTOは2人乗りなんだよね。素早くフィールドを移動できるんだろうか?


 応接室を出て1階に戻ると、階段のところに旅支度を整えた男女が私達を待っていた。

 驚いたことに、最初に私達に声を掛けてくれた2人だった。

 

「僕達に白羽の矢が立ってしまった。足手まといかもしれないけど、よろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。PKはある意味情報戦ですからね。警邏事務所との連絡は密に願います」


 私の言葉に2人が頷いている。

 数人の同僚に手を振った2人が先になって警邏事務所から出て行った。

 私達も直ぐに後を追うことになったのだが、通りを南に進んでいるところを見ると、そこに移動手段となる馬が置いてあるのだろう。


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