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083 ラディス町へ行こう


 トラペットで3泊したところで、私達はベジート王国に向かうことにした。

 ケーナからの便りでは順調にレベルを上げているらしい。シグは面倒見が良いからね。安心して妹を託せる。


「この辺りで、【転移】する?」

「ピナト町は、イベントのあった村の手前の町だよね」

「ベジート王国の冒険者ギルドは、あの町が最後だったでしょう? シグ達はその先に行ってるから、追い掛けなくちゃならないの」


 それぐらいは問題ないと、タマモちゃんがにこりと笑みを浮かべた。

 何と言ってもGTOがあるからね。

 2日もあれば確実に再会できるだろう。


 人混みを避けて北東地区にある教会の公園に足を運んでの【転移】だ。

 たまに【転移】してくる冒険者達もいるんだけど、スタート地点に戻るような【転移】をする者はそれほどいない。

 おかげで教会隣の公園は静かな公園として密かな人気も出てきてるみたいだ。


「誰もいないみたい。それじゃあ、私の手を握ってね。3……、2……、1……【転移】!」


 別に数を数える必要もないんだけど、こんな場合には様式美というものも必要なんじゃないかな?

 私達の周りで光が踊り、周囲の景色が消えていく。ひかりの乱舞が収まると、目の前には先ほどまでいた公園とは違った景色が広がっている。

 広葉樹から針葉樹に公園の木々が変化しているから、ここは北の王国に間違いない。


「さっきまでは晴れてたのに……」

「かなり遠くに来たんだから、同じ天気にはならないみたいね。でも寒くはないでしょう?」


 【転移】先も公園だから、ベンチがある。

 2人で座って、地図を広げた。仮想スクリーンで地図を見るのも良いんだけど、やはり折り目が破れそうな地図を広げて目的地を確認する方が冒険者らしい。


「ブロッコ村がイベントのあった村だから、北の森を抜けてさらに北上するのね」

「ラディス町はここだね。間に村が2つもある!」


 ブロッコ村の手前にあるピナトの町が現在地点だ。北に向かう街道を北上して2つ目の村から西へ向かえばラディス町となるんだけど、産業なんてあるのかな?

 帝国への足掛かりにも見えなくはないけど、冒険者のための町とも考えにくい。

 さらに北西にある町なら、国境防衛用の拠点と分かるんだけど……。

 

「行ってみれば分かるでしょう。それじゃあ、町の外に出てGTOで北上するよ」

「お姉ちゃん達、強くなったかな?」


 どうだろう? 少なくともレベル16くらいにはなってると思うんだけどね。運営さんが、街道を封鎖させている魔獣のレベルを上げたから冒険者達はいい迷惑になっているはずだ。

 レベルを1つ上げるには、それまで得た経験値近くの数値を新たに得る必要があるんだから、早々レベルを上げることはできないはずなんだけど……。

 ん? 待てよ。ひょっとしたらPKを考える連中もでないとは限らないんじゃないかな。

 やはり急いで向かった方が良さそうだ。


 ピナトの町を出て直ぐにGTOをタマモちゃんが呼び出した。

 甲羅に乗って一路街道沿いに北上を始める。


「この間の村の先に会った森の北に出るよ。村の南にはレベルの高い獣がいなかったもの」

「あの森って大きくはなかったのかしら? ちょっと待ってね」


 ブロッコ村から森を抜ける道がある。

 焚き木取りだけの目的とは思えないから、行商人が行き来する抜け道なのかな? 小さな村がプレイヤーの増加に伴って次々に解凍されているみたいだから、地図に無い村はかなり多いに違いない。


「道があるぐらいだから、案外森の奥行きは無かったのかもしれないね。タマモちゃんのコース取りでOKよ」


 万が一、魔獣に遭遇したとしてもGTOのスピードに付いてこられるとは思えないし、衝突したなら勝つのはGTOだろう。

 

 前方左手に見えてきた森の東をかすめるように北上すると、昼前には森がなくなり北の大山脈に続く荒涼とした荒れ地が現れた。

 あの時の魔物はあの山脈を越えてきたのだろうか? それとも山脈のあちこちに魔族の支配する土地に続く洞穴でもあるのだろうか……。


「狩りをしているよ!」


 タマモちゃんが教えてくれた方向に顔を向けると、遠くでいくつかのパーティが共同で獲物を狩っている姿が見えた。

 生憎と距離が離れているから何を狩っているのか分からないけど、こんな場所にまで冒険者は侵出しているんだね。


 昼を過ぎたところでGTOから下りて、昼食を取る。

 小さな焚き火を作って、メルダさんが持たせてくれたサンドイッチを頂くことになった。


「見通しは良いけど、獣があまり見えないよ」

「でも気配はあるから、隠れてるんだろうね」


 草丈が短く、灌木の繁みもあまりない。北の大山脈に向かってなだらかな傾斜地を形作っている地形だから、獣達もそんな環境に合わせて姿を変えているのだろう。


「シグ達の手伝いは苦労しそうだけど、何を狩っているのか聞いてないの?」

「土鹿みたい。小さい鹿と言ってた」


 丁度昼食を終えたところだったから、お茶を飲みながら土鹿を仮想スクリーンに表示してみる。

 まだ狩っていないから詳細な情報は無いけれど、概要は見れるんだよね。

 大きさは野犬ぐらいで、茶色の毛皮は明暗が複雑な模様になっている。これならこの地形で上手く隠れることができるだろう。

 1匹15デジットの高額は、この毛皮が貴族達に人気があるからなんだろうね。

 でも、草食獣の狩りではそれほどレベルを上がられないんじゃないかな?

 シグ達がレベル上げに狩っている獣は、何なんだろう?


 日が傾き始めたので、野宿場所を探す。

 巨大クマ相手のイベントが控えているから村や町は冒険者達で溢れているはずだ。

 シグ達と一緒なら相部屋をお願いできそうだけど、合流は明日になりそうだ。適当に場所を探し始めると、街道の西に煙が上がっているのが見えてきた。

 セーフティ・エリアを持った休憩所があるんだろうか?


 煙の出所はやはり休憩所のようだ。

 近場までやってきたところでGTOから下りて、歩いて休憩所に入ることにした。


「今日は! 私達も利用させてください」

「どうぞどうぞ。天下の街道の休憩所ですからね。誰が使うのも自由の筈です」


 焚き火に招いてくれた。男女4人のパーティは大学生達かな? アバターの容姿は余りいじらないのがこの世界の習わしだからね。

 

「姉妹なのかい? この辺りは少しレベルが高いけど」

「大丈夫ですよ。この先に知り合いがいるんで会いに行こうと思ってるんです」


 戦士風のイケメン男性2人は私と状況を話してるんだけど、魔導士風のお姉さん達はタマモちゃんを御菓子で誘っているみたいだ。


「でも後発組なんだろう? 少し背伸びをし過ぎてないかなぁ」

「実はNPCの冒険者なんです」

「「何だって!」」


 かなり驚いている。

 NPCは町や村で暮らしている人達だからねぇ。


「ちょっと待ってくれ。確かNPCは町や村に固定されているんじゃないか? 冒険者もいてもおかしくはないが、住んでる町の周辺に限られているはずだ」

「ほとんどのNPCがそうなんでしょうけど、このレムリア世界では私達のようにプレイヤーの人達と変わらずに行動している冒険者もいるんですよ。でも、大きなイベントに直接かかわることはできませんけどね」


「となると、レベル上げも自分達で行うことになるのかな?」

「それは固定値なんです。でも周囲の状況に応じてある程度は変えられます。現在はレベル16ですね」


 イケメン2人が興味深々に私の話を聞いている。

 いつの間にか、女性達もタマモちゃんから私の会話に耳を傾けているから、タマモちゃんは小さな鍋を取り出して夕食の準備を始めたようだ。


「へぇ……。そういう話なんだ。確かにVRMMOにはPKが付きものなんだけど、レムリアでそんな話を聞いてなかったからなぁ」

「友人にも教えてあげなくちゃね。このゲームは安心できるって!」


 ある程度自由にレムリアを冒険しているのがPK監視だと伝えると、納得してくれたようだ。

 それだけではないんだけど、ある程度レベルの上がった冒険者相手なら、この話で納得してくれるんだよね。

 初心者なら、冒険者のお手伝いで納得してくれるんだけど、さすがにこのパーティ相手ではお手伝いというのも気が引けてしまう。


「それなら、あの噂も本当なんじゃない? ラディス町でPKがあったみたいなの」

「高レベルの冒険者ばかりだぞ。PK相手を返り討ちにできそうだ。俺なら、ピナト辺りで冒険者を狙うけどなぁ……」


 やはり起こってたか……。

 問題は、イベントに備えてレベル上げを狙う冒険者なのか、それとも侵入者の洗脳を受けたNPCなのかということだ。

 何回か起きたなら警邏さん達が動くはずだから、ラディス町に着いたなら先ずは警邏事務所に向かった方が良さそうだ。


「へぇ……、綺麗な指輪をしてるのね?」

「これですか? そういえばまだ装備品が充実してなかったんですよね。これは戦闘用の装備ではないんです。どちらかというと、防犯ベルのようなものですね。使えば、使用した場所が警邏さんの事務所で分かるんです」

「PK犯の特定を行うってことね。ということは、モモちゃん達は警邏さんのお手伝いともいえるのね」


 それなら安心だと仲間内で話してるけど、この指輪をあまり使ってないんじゃないかな?

 どちらかというと、その場で殲滅して事後報告という感じではあるんだけどね。


「とはいっても、レンジャーと魔獣使いなんだろう? あまり無理をしないでPK犯を見付けたなら直ぐに警邏を呼ぶんだよ。PK犯って奴は結構実力だけはあるらしいからな」

「ありがとうございます。その考えではいるんですけど、PKとPVPが分かり難いんですよね。この間のアップグレードと修正でますます混乱しているんです」


「確かに……。だけど、良いこともあるぞ。NPC相手に生意気なことを言う奴がいなくなったからね。町に行ってもNPCと話をするのも楽になってる」

「そうそう、全く同じ感じだよね。町でもそうだったけど、モモちゃん達がNPCだったとは私達も気が付かなかったわ」


 NPCとの距離が近くなったということなのかな?

 となると、NPCによるPKならば早いところ、根を断っておいた方が良さそうだ。


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