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082 イベントに連動した動き


 トラペットの町に戻ると、歓迎の広場で三日月狼と別れる。次に彼等に会うのはいつになるのかな? 

 

「花屋の食堂に行くんでしょう?」

「一晩泊めて貰って、北の王国に行きましょう。シグ達の足が止まってるみたいだし」


 周囲の魔獣が強くなっての足止めなら問題はないけど、侵入者騒ぎがあった後だから少し気になるんだよね。


「ケーナお姉ちゃんが、クマが強いって言ってたよ」

「クマねぇ……。たぶん大きいんだろうね」


 大通りを歩きながら、タマモちゃんと話をする。

 まだ夕暮れには間があるけど、通りを歩く冒険者の姿が多いようにも思える。レベルが上がっても、トラペットをリアル世界との出入場所にするプレイヤーが多いということなんだろう。

 私も、トラペットに戸籍があるようなものだから、それと同じことなのかな?


 大通りから路地に入り、少し歩いていくと花屋の食堂の看板が店先に出ていた。

 足を止めてタマモちゃんに顔を向けると、私の顔を見上げている。

 別に覚悟を必要とすることもないんだけど、出掛けてから日数が経っているからねぇ。ちょっと気構えてしまう。


「「今日は!」」

 扉を開けると同時に挨拶すると、カウンター奥の調理場からメリダさんが笑みを浮かべて私達に頷いてくれた。


「帰って来たんだね。そろそろ客が来そうだから手伝ってくれないかい?」

「良いですよ」

「これ、お土産なの!」


 タマモちゃんがイノシシ肉のブロックを取り出している。

 イノシシ肉なら焼肉にも使えるから、今日の客は少し贅沢な食事を味わえるかもしれない。


「イノシシ肉かい? 済まないねぇ」


 数kgはありそうなブロック肉だから明日も使えそうだ。スープにも入るんじゃないかな?

 そんなことで、切り分けた肉を串に刺して焼く役目を仰せつかってしまった。タマモちゃんはテーブルやカウンターを布巾で拭いている。

 いつもは、ライムちゃんと一緒にやってたんだけど、ライムちゃんの姿が見えないな。


「ライムちゃんは?」

「あの子はお使いに行ってるよ。野菜が足りなかったからね」


 それなら直ぐに戻ってくるはずだ。

 しばらくすると、数人連れの職人さん達がやって来た。いつもの席に座ったところで、いつものようにワインを注文してくる。

 これが延々と続くんだろうな。NPCの暮らしはそれほど変化があるわけではない。たまにプレイヤーが弟子に加わるんだけどね。


「おや? モモちゃん達が帰ってたんだ。西に向かうと言ってたが?」

「ちゃんと赤い街道が無くなる町まで行ってきましたよ。西にはあちこちと【転移】で移動できます」

「そうなると、向こうの名物料理をお土産に欲しいところだが、上手い料理には出会ったかのう?」

「やはり花屋の食堂が一番ですね。でも、食材は色々とありそうですから、その内に運んできますね」


 そんな話で盛り上がるんだから、やはりここは良い場所だと思ってしまう。

 職人さん達は、食材の話をしながらワインを飲み始めた。

 ちょっとした刺激が欲しいのかもしれないな。トランバーでヤドカニでも狩ってこようかしら……。


2時間ほど食堂が賑わうと、後はワインを飲む職人さんだけになる。ワインのボトルを渡しておけば勝手に飲んでくれるから、その間に私達の食事が始まるのだ。


「すると今度は北に向かうのかい?」

「帝国への足掛かりは東西共に確保しときたいですから」

「異人さん達も、かなり遠くまで行ったようだねぇ。この町にも大勢の異人さんがいるんだから、早く帰っておいでよ」


 メルダさんの言葉に、ライムちゃんもタマモちゃんに向かって頷いている。

 嬉しそうにタマモちゃんも頷いてるから、やはりこの町が私達の故郷なんだろう。


「そういえば、西隣の王国では町の人を狙う盗賊が現れたようです。この町にも現れないとも限りませんから注意してください」

「それで、警邏さん達が夜回りをしてるんだね。この間から急に始めたんで驚いてたんだよ」

「捕り手のおじさん達も、そうよ。急にこんな路地まで見回るようになったもの」


 ブラス王国の闇にも根を下ろしたんだろうか? 

 PKを傘下に入れるようならかなり問題になるんだけど、今のところは表面に現れることは無いようだ。


「直ぐに北に向かうわけじゃないんだろう? ゆっくり体を休めてから出掛けるんだね」

「3日ほど御厄介になります。友人達の足が止まってるようですから、様子を見ながら帝国の東の玄関口を見てきます」

「大陸南岸の王国の噂は色々と聞くんだけど、帝国の噂は聞かないねぇ。やはり街道を魔物が封鎖してるのかもしれないよ」


 メルダさんの言葉に、小さく頷いた。

 たぶんそれが真相なんだろう。これもプレイヤーイベントの1つに違いない。

 だとしたら、それを攻略できる冒険者達が集まるまでは、街道が閉ざされたままのはずだ。


「一応、私達も冒険者ですからね。無理をしない範囲で状況を見てきます」

「タマモちゃんも一緒なんだから、無理だけは禁物だよ」


 メリダさんの言葉に頷いてはみたものの、私よりタマモちゃんの方が過激なんじゃないかな?


 翌日は、午前中一杯歓迎の広場で冒険者達の相談に応えて、午後は東の街道近くで野ウサギを狩る。

 夕食の具材に必要な分だけで狩るだけだから、初心者ハンターの迷惑にはならないだろう。

 生産職のプレイヤーもたまに狩りをするようだ。それなりにレベルは上がっているから、安心して見てられる。

 何よりも、狩りの危険性を知っているのだろう。決して3本杉から外に出ることはない。


「ビートンの町にいるみたい。巨大クマを倒せなくて高レベルのハンターが集まるのを待ってるみたいだよ」

「西も同じようだな。あっちはフェンリルということらしい」


 タマモちゃんがケーナのメールを読み上げたから、一緒にテーブルでお茶を飲んでいたダンさんが裏事情を教えてくれた。


「一応の目安はレベル17以上の冒険者が100人ということらしいわ。この間のイベントの目安はレベル13だったでしょう? レベルを4つ上げるのに苦労してるみたいね」

「相手は単体なんでしょうか?」

「いや、眷属を従えているはずだ。レベルは2つ、3つは下がってるはずだけどね」


 イベント参加の最低条件がレベル15では、早々プレイヤーが集まらないだろうね。

 眷属を倒すことぐらいは手伝っても良いんじゃないかな?


「行くのかい?」

「友人が参加するみたいですから、それに北のベジート王国の【転移】箇所も押さえておきたいところです」


「そうだろうね。それと、ここだけの話だけど……」


 アップデートの修正時に侵入してきたのは『アルカディア』、『バビロン』それに『アマゾン』の3つの世界からだった。

 私達のいるレムリア大陸には『アルカディア』が侵入してきたのだが、『バビロン』は魔族の住む大陸に、『アマゾン』はまだ渡ることができない東の大陸に侵入してきたらしい。


「侵入経路は閉ざしたから、侵入者自体はレムリア世界から姿を消している。だけど、その影響が分からないんだ。表面上は変化はないと診断されても、プレイヤーがレムリア大陸以外に移動することになると心配になってしまうんだよな」

「トランバーから渡し舟が出るんですか?」


「帝国へプレイヤーが足を踏み入れると、フラグが立つんだ。モモちゃん達が手伝いに向かうと、それが速まるだろう? 魔族の大陸はともかくとして東の大陸についてはもう少し調査を行いたいんだよね」


 とはいえ、あんまり長く足止めされたなら、プレイヤー達からの苦情も出て来るんじゃないかな?

 引き延ばしても、1か月というところだろう。

 ひょっとして、シグ達が相手にする巨大クマのレベルは当初はもっと低かったんじゃない?


「巨大クマのレベルは……」

「そうなんだ。ゲーム仕様ではレベル16だったんだが、東の大陸の調査に時間が掛かってしまってねぇ」

「1つ上げたぐらいでは、人数で押し切られそうだから2つ上げたの。その影響で、帝国に用意していた獣や魔獣達のレベルも見直したみたい」


 ゲームバランス的に問題はないんだろうか?

 あまり急激なレベル変動はプレイヤー達の負担に繋がるんじゃないかな。


「見直したと言っても、小さなイベントに関わる部分だけよ。大きく変えたらそれこそ大変よ」

「お気持ちは分かりますけど……」


 ということは、帝国にシグ達と一緒に足を延ばすのではなく、東の大陸へ向かった方が良いということになりそうだ。

「内緒だよ」と言って、ダンさんが渡してくれた東の大陸の地図には王国が1つだけ描かれていた。

 いくら協力者と言っても、大陸全体の地図は渡して貰えないんだろうね。それでも港町と王都にいくつかの町が描かれているから、上陸当初にはかなり役立つに違いない。


「ベジート王国のイベントが済んだら、大至急トランバーに向かってくれ。一応、ハヤタには連絡しとくから連絡船に乗船できないということにはならないはずだ」

「東の大陸の適正レベルはどれぐらいなんでしょう?」

「最低でもレベル6は欲しい。港町を離れるならレベル10は必要になるだろうね」


 どんな魔獣がいるんだろう?

 港町周辺はトランバーの町と同じような獲物がいるのだろう。でも、少し離れると急に強い魔獣が現れるということだから、案外帝国へ向かわずに東の大陸に向かう冒険者も多いんじゃないかな?


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