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081 クレセント・ウルフの目指す先は


「1匹倒すと、経験値が3得られても、この肉の売値は2匹で1デジットですか……」

「一応毒ヘビだから、たまに噛まれて死に戻りもあるの。野ウサギの突進を避けられるなら、経験値稼ぎには丁度良んだけどね」


 お茶を飲みながら、狩りの話をするのも冒険者ならではのことだ。

 指導している冒険者達のパーティは『三日月狼』ということだ。「日本語読みでなく、『クレセント・ウルフ』と読んでほしいとお願いされてしまった。

 日本語読みでも良い感じに思えるんだけど、そこは彼らのこだわりがあるのだろう。

 私達のパーティ名が『クレーター』だと言ったら、首を傾げているんだよね。この世界に、穴を開けるほどの存在になりたいとのことだと話したら、頷いてくれた。

 パーティの名前はいろんなものがあるけど、『なんで、そういう名前なの?』と思わず訳を聞きたくなる名前もあるんだよねぇ。


「でも、これなら2日でレベルを上げられるわ。レベルを上げるのはそれまでと同じぐらいの経験値を得ないといけないのよ」

「確かに俺達には都合が良い狩りだ。だけど宿代には程遠い感じだな」


「それは、私達で補填してあげる。明日にでもイノシシを狩ってくれば十分でしょう。この辺りにはいないから、少し東に向うことになるんだけどね」

「東にはオオカミも出る。オオカミの前に野犬を狩ることになる」


 アオダイショウの次になりそうだ。

 経験値を積めばレベルが上がる。と同時に基本となるステータスが上昇するのだ。ボーナス的に入る1~2のステータスポイントでさらに自分達の職業をカスタマイズかもできるのだ。さすがに棒振りはしないだろう。


「レベル4で野犬とオオカミ、レベル5でイノシシが基本でしょうね。明日にはレベル4になるでしょうから、野犬、オオカミの素早さにも追従できるんじゃないかな」

「本格的な狩りはレベル5からということですか……。となれば、ヘビ退治を頑張らないといけないぞ」


 三日月狼達がやる気を出している。

 まだまだ数を狩らないといけないんだけどねぇ。

 

 夕暮れが近づいたところで、セーフティ・エリアで野宿の準備を始めた。

 セーフティ・エリアは岩がゴロゴロしている中にある上部が平たい大岩だ。まるで上部が切り取られたかのように平らになっている。広さは教室ぐらいあるんじゃないかな?

 中央に焚き火用の丸い石組があるから、そこに焚き火を作って鍋をかけた。

 三日月狼の持つ鍋が大きいので、私達の分も一緒に料理してもらう。


「都合12匹だ。明日もこの調子で15匹以上狩れたら、レベルを上げられそうだぞ」

「確かに経験値稼ぎの典型的な獲物だな。足りなければ途中で何匹か野ウサギを狩れば確実だ」


 彼らにとっては少し簡単すぎたかな?

 だけど、野犬を狙うとオオカミと出会う可能性だってあるんだからね。ここは手堅くが良いんじゃないかな。


 夕食を取りながら、あちこちの狩りの様子を話す。

 特に彼らの興味を引いたのはトランバー周辺の狩りだった。


「ヤドカニとヤドカリは打撃武器が良いのか……。となれば、両手斧の出番だ」

「鉄砲魚は物騒ね。私達も盾を持つべきなのかしら?」

「内陸では、野ウサギや、イノシシも狩れるんですね? やはり、東に行こうよ。西は同じような冒険者が一杯だぞ」


 それほどでもないんだけどねぇ。冒険者は歓迎の広場のある町からレベルを上げるごとに遠ざかっていく。

 レベルが10を越えようとしたところで、他の王国へと向かっているんだよね。


「おもしろさから言えば、トランバーでしょうね。西に向かって他国を巡るのも有りなんでしょうけど、冒険者達の目指す場所は一緒なんです」

「北の大帝国でしょう? 魔族と戦う大帝国という触れ込みですよね。ネットや掲示板で話題になってます」


 冒険者達の情報源ということなんだろう。ネットは見られないけど、掲示板ぐらいは見られるかな? 後で眺めてみよう。


「だけど、俺達はもう1つの道を目指そうと思ってるんです。海の向こうの大陸……。今のところ航路が開通していないらしいんですが、その内に何とかなるでしょうからね」


 三日月狼のリーダーが呟いた。

 トランバーの大型船はまだ修理中なんだろうか? あれからだいぶ時間が過ぎているから、そろそろ修理が終わっても良いんじゃないかな?

 ん? ひょっとしたら、何らかのイベントに合わせてあるのかもしれない。


「それも良いかもしれませんね。東のトランバーで私もその話を聞いたことがあります。猟師さん達の船は港を出入りしてるんです。未だに修理が終わらないなら、何らかの理由があるんでしょうね」

「イベントでしょうね。条件としては帝国への冒険者の到達辺りではないかと睨んでるんです」


 やはり同じ考えのようだ。

 となると、シグ達の様子が気になる。


「タマモちゃん。ケーナ達はどの辺りにいるの?」

「この前のメールだと、イベントのあった村から2つ移動しただけみたい。今はラディス町にいるよ」


 地図を広げてタマモちゃんが教えてくれた町を探すと、帝国領に至るまでには2つほど小さな村があった。

 直前で足止めされているみたい。やはり獣や魔物の強さが増しているのだろう。


「帝国領に入るルートは3つあるんですが、攻略組は直前で足止めされてるみたいですね。西のラグランジュ王国とファルベン王国からは他国を経由しないでは行けるみたいなんですけど、こちらも難儀しているのかもしれません」


 私の話を聞いた彼らが、少し嬉しそうな表情を見せる。

 

「運営さんの親心かもしれませんね。私達のような後発組も攻略に参加できそうです」

「睨んだ通りってことか? そうなるとトランバー周辺で狩りをして待つことになるぞ!」

「のんびり行きましょう。急いでも良いことはないでしょうし、海を渡る最初の冒険者になれば、私達も攻略組の1つになれそうよ」


 なるほどねぇ……。いろんなルートの攻略組ができるということなんだろう。となると、ラグランジュから西にあるという大陸にも冒険者達が渡っていくのだろう。

 一気にレムリア世界が広がりそうだ。


「明日から気合を入れて狩をするぞ! 1匹で経験値が3つ入るんだからな」

「そうね。頑張りましょう!」


 1か月も過ぎれば、名の知られる冒険者になるかもしれない。

 明日の狩りに備えて、今夜は早く休もう。


 翌日は、朝から狩りをする。

 昼近くになったところで既に10匹を超えている。昨日と合わせれば25匹は倒したんじゃないかな?

 昼食後に数匹狩ればレベルを上げることも可能だろう。


「それじゃあ、頼んだよ。無理はしないでね」

「1匹だけだから心配ないよ。行ってくるね!」


 タマモちゃんがGTOを出現させると、その甲羅に乗って東に向って走り去っていく。

 三日月狼の連中が、唖然とした表情で小さくなっていく姿を見ているのが印象的だ。


「魔獣使いということですか……。あんな魔獣を乗りこなせるんですね」

「魔獣ということではないんです。それに本来なら倒した後で仲間にすることになりますから自分のレベルを超える魔獣を最初から使うことはできませんよ」


「だけど、とんでもない機動力だ。あれなら王国を自由に移動できそうだ」

「移動だけなら、馬車や馬もあります。町を結ぶ定期馬車なら冒険者が護衛を請け負ってますから安心して移動できます。商人さん達が利用してますよ」


 一日1便だけど、利用者は多いようだ。低レベルで次の町に向かってしまうことが無いように注意だけはしてたんだけどね。

 生産職なら、大きな問題にはならないけど冒険者だと獲物のレベルが上がってしまって手に負えなくなってしまう。

 

 昼食までに、さらにアオダイショウを3匹狩ったところで、セーフティ・エリアで昼食の準備を始めた。

 

「何かやって来るぞ! 凄いスピードだ」

「タマモちゃんが帰って来たみたいですね。今日は町に帰りますからお土産を狩ってきたんです」

「1人で行かせたのか? 東は危険だと?」

「タマモちゃんなら1人で熊も倒せます。トラペット周辺ならタマモちゃん1人でも十分に狩りが出来ますよ」


 最初は土ぼこりだけだったんだけど、やがてGTOが見えてきた。

 問題ないとは分かっていても、無事な姿を見てホッとしてしまう。セーフティ・エリア近くでGTOから下りると、GTOが光と共に帰っていく。タマモちゃんは岩の上にピョンと飛び乗って来た。


「2匹狩ってきたよ。これでお土産になるよね」

「ありがとう。1匹をお姉さんに渡してくれない。皮は2匹分ね。私達は1匹分のお肉で十分よ」


 タマモちゃんが神官のお姉さんのところに行って、獲物を渡している。

 両者のバッグの中身を仮想スクリーン越しに入れ替えるという作業なんだけど、『トレード』とも言われているんだよね。場合によってはデジットの受け渡しもできるようで、冒険者達の取引は『トレード』作業で行われているようだ。


「ええ! これって? 狩れるの?」

「どうしたんだ? お嬢ちゃんの獲物に驚くことなのか」

「だって、イノシシなのよ! これだけで宿屋に泊まってもお釣りがくるわ」


 三日月狼の人達の視線が私達に集まる。

 

「アオダイショウは経験値は得られるんですけど、報酬があまりないんです。新たなルートを開拓する投資にしては少ないですけど受け取ってくれませんか?」

「投資ですか……。単なる施しでは受け取れませんが、それなら頑張って帰すことができそうです。ありがたく頂きます」


 精々1泊の代金に過ぎない。それでも彼らにとっては嬉しいに違いない。

 新たなルートを開拓しようとする彼らに、私達ができることはこれぐらいだろう。


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